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メタモルファルは寄り添う  作者: 甲斐 雫
第1章 犬型メタモルファルは未成犬

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12 半年間の遠距離恋愛?

 9月に入って夏休みも終わり、ユニバース学院も通常の活動が始まった。

 レーエフの中枢でもある学院は二期制で、前期は9月末で終わり10月から後期になって講義も全て変わる。学生たちは夏休みが終わると、9月末の試験準備で大忙しとなるのだ。


 三吾やエルオリーセも、質問にやってくる学生たちの対応で多忙になっていた。

 特に三吾の方は、今まで無かったくらいの数の学生たちを相手にしている。特に女子学生の数が増えていた。

 前期の授業が始まった頃は『寝起きの猪』とあだ名されていた沖代教授が、日を追うごとにまともな見かけになってゆき、夏休みが開けたら日焼けも相まってカッコいい教師にガラッと変わっていたのだから当然の事だったのかもしれない。


 学生たちの質問に真摯に向き合えば、当然時間は取られる。

 三吾とエルオリーセは、学院内で会って話をすることは勿論、休日さえもなかなか時間を割くことができなかった。

 学生たちの相手以外にも、三吾は試験問題の作成と言う仕事があった。

 エルオリーセの方は、試験ではなくレポート提出と言う形式にし提出期限を前倒しにしていたので9月いっぱいはそれらに眼を通して評価をするという仕事に忙殺されていた。


 10月になれば、エルオリーセは半年間レーエフを離れる。

 それが今までの彼女の、年間スケジュールだった。


 ユニバース学院の教授として、前期はノルマの講義を行う。

 後期は大陸各地の研究施設などから入る依頼で、様々な生態調査のチームに入る。各地を転々とする半年間は、行き先の事情などもあってなかなか連絡が取れないのが普通だった。

 そんな生活であったが、今までの彼女にとっては何も問題は無かった。

 何処に行くにも、アルバが必ず傍にいたのだから。


 エルオリーセのそんな予定は、三吾も当然知っていた。

 夏休みをニオブ島で一緒に過ごし、互いの距離がより近くなっていたこの時期に、半年も離れる事は寂しいし不安でもある。

 だからこそ、せめて9月は一緒にいて話す時間を沢山取りたかったのだが、事情が許さなかったのだ。



 それでも何とか9月末の休日に、2人は会うことが出来た。

 一緒に採集に行くような時間は取れなかったので、街中でお茶を飲みながらのひと時だ。

「いつレーエフを発つの?」

「10月3日の便が取れました。昼前の飛行船で、北のフレぜに向かいます」


 レーエフの北に連なる山脈は険しく、一番便利な交通手段は飛行船になる。

 ユニバース学院の技術で製造され運航される飛行船は、まだ数が少なく運行本数も少ない。また運賃も相当に高いが、今回はその費用も依頼先が負担してくれることになっていた。


「エレメ王国の学術院の調査隊が、テーブル山脈に入るのでそれに同行します。真冬になる前に、動植物を色々調べたり採集したりするんです」

「そうか・・・その後は?」

「西のトロン市で1つ依頼があって、そこから大陸を反時計回りに移動して、全部で5つの調査を引き受けているんです。東のクトロ公国での仕事が最後ですけど、全部終わるのが3月になってしまって・・・」

 半年もの長い期間彼と会えないのは、エルオリーセも寂しいと思っているのだ。

「ごめんなさい・・・今年の契約はもう去年に結んでしまっているので」

「うん、解ってる・・・」


 2人が出会う前に契約したことなのだから、仕方が無いと解ってはいる。

「出来るだけ手紙を出しますけど、郵便事情が悪い土地にも行くので・・・」

「うん、ありがとう。でも無理はしなくていいから。身体には充分気を付けて、行ってらっしゃい」

 出発当日は講義も始まっていて、見送りにはいかれない。

 三吾は、そう言って送り出すことしか出来なかった。



 それからひと月の時間が流れた。

 忙しい時期は終わった筈だと、ゲンは女房のルビーが経営する居酒屋『笑うブチハイエナ亭』に三吾を呼び出した。

「エルオリーセとアルバがいないと、寂しいんじゃないか?」

 ひとしきり酒を酌み交わし、ゲンはざっくばらんに問いかけた。

 エルオリーセだけではなくアルバも付け加えたのは、その方が三吾も気軽に答えらえるだろうと思ったからだ。

「まぁな。一昨日手紙が来たが、こっちに届くまでにひと月くらいかかるようだ」

 彼女は北の都市フレゼに着いてすぐ、手紙を書いてくれていた。


 無事に着いたこと、この手紙が届くのは月末になるだろうという事、次はトロン市に移動したら連絡するという事が書いてあった。


 彼女の手紙を見せて貰ったゲンは、正直な感想を口にする。

「何だかあまり、恋人同士の手紙って感じじゃないな」

 幼馴染のはっきりした指摘に、三吾は溜息をつくしかない。

「恋人・・・か・・・どうなんだろうな」


 ニオブ島での時間は2人の距離を縮めたといって良いかもしれないが、それでも手を繋いだところまでで、好きだとさえ言っていない。


「はぁ⁉・・・お前、何やってたんだよ」

 夜に2人だけで一緒にいたり、彼女をステイ先に送ったりしていて、手を繋ぐところまでしか関係が進んでいないのはどういう事なんだ、とゲンは呆れる。

「何・・・と言われても・・・」

「俺はてっきり、ちゃんと告白してそういう関係になってると思ってたぜ。少なくともキスくらいはしてるはずだってな」


 そこまで言って、ゲンは昔の事を思いだした。

「お前、まさか昔の事をまだ引きずってるのか?あの女のコト」

「・・・・・思い出したくも無いんだけどな」


 ゲンと三吾はレーエフで育った幼馴染で、ユニバース学院の卒業生でもあった。

 入学してすぐの頃、女子学生の1人が三吾に言い寄った。後で知ったことだが、彼がオキシロ商会の息子の1人で裕福だと思ったかららしい。

 当時から晩熟で女の子と遊ぶことなど無かった三吾に、その女子学生は教室内で突然キスをしかけてきた。それから1週間、彼女はあの手この手で濃厚なアプローチをし、彼の心を動かそうとした。

 そして1週間後、彼を手酷く振って罵倒したのだ。

「キスも下手だし、気の利いたセリフも言えないし、お金はあるくせにケチだし、もう最低!」

 それ以来、陰口を叩かれ噂にもなり、周囲の彼に対する評価にも影響を与えた。


「酷い目にあったからなぁ」

 ゲンも色々と助けてくれたが、三吾は女性という者がすっかり解らなくなった。


「・・・エルオリーセを抱きしめたいとか、キスしたいとか・・・思わない訳じゃなかった。でも・・・僕にとって女性は、理解できない対象のままなんだ。つい、歯止めがかかってしまう。手を繋ぐのもやっとだったんだ」

 つまり彼は、未だに女性に対して晩熟なままなのだ。

 経験不足という部分も大きいだろうと思う。

 こうなったら、幼馴染として一肌脱いでやろうとゲンは決意した。


「昔のルビーの狩人仲間で、今は娼館をやってる女が居るんだ。そんな商売をしてても、口が堅くて信頼も置けるってアイツも言ってたから、お膳立てを整えてやる。一通りの事を、勉強してこい」

 理解できない不可解な女性という存在の、一部でもいいから学んで来い。

「女性心理とかも教えてもらえるように言っておいてやる。人生経験だと思って、俺に言うとおりにしろ!」

 そしてゲンは後日、二の足を踏む三吾を引っ張って行き、彼だけを娼館に放り込んだのだった。


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