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ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~  作者: SIS


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第八十六話 硬いは強い


 あらわれたのは、この地下空間のボスらしき巨大メタルインセクト。


 なかなかに独特なデザインをしているが、まず目につくのはその大きさだ。


『大きいですね……!』


 テレサの言葉通り、姿を現したシオマネキ型メタルインセクトは相当なサイズだった。甲羅だけでも全高20m以上、全幅30m以上。湖を渡る道路の半分以上が奴の体で埋まっている。そこから左右に広がる節足で道はふさがり、残ねんながらコイツを倒さないと先には勧めなさそうだ。そして右腕には、その甲羅と同じぐらいの大きさを誇る巨大な鋏。反対側には小さな腕があり、先端にはなにやらマシンガンらしきものが装備されている。


 蟹のような飛び出した目はなく、甲羅の上部にあるドームセンサーのような球体に刻まれたスロットの向こうで、ギラリ、とセンサーが輝いた。


 環境音の身だったBGMがノリノリのメタルサウンドに切り替わり、HPバーが出現する。


「先手必勝!」


 まずは小手調べにマシンガンを叩き込む。大口径の、それなりにグレードが高いはずの機関銃の弾幕はしかし、相手の甲殻にチュンチュン音を立てて弾かれた。ダメージが通っている気がしない。


『駄目です、あの分厚い装甲にはマシンガンは効きません!』


「だったら、ビームで……」


 グレネードランチャーの狙いをつけるが、そこにテレサからの静止が飛んでくる。


『今は駄目です! 空気中の湿度が高すぎます! また敵メタルインセクトの装甲に多量の水分が残留しているため、効果も半減すると考えられます!』


「ち……っ!」


 さっき、水中から派手に飛び出してきたせいか。


 細かい粒子ほど、ちょっとした湿気でダマになりやすい。それに相手の甲殻が潤っていると、水が熱量を吸ってしまって十分なダメージにならないというのは頷ける話だ。マイクロ波で蒸し焼きにするんだったら問題ないんだがなあ。


「だったら、まず環境を変える!」


 大きく指を開いて指ビームを振り回す。拡散するビームが湿った空気を薙ぎ払い、ボスの甲殻をひっかくように焼け跡を刻んだ。


 重装甲であってもビームを防ぐ事は適わない、がダメージ計算がカウントストップしたせいで、やはりHPバーは殆ど削れない。だが代わりに、網目状に焼け跡を刻まれたボスの体から、ジュウウ、と水の蒸発する音が聞こえてくる。


 これで周辺の空気やボスの体は乾燥したはずだ。あとはビームの冷却をまって、コンボ攻撃をきめればいい。


 それまで、コッチが生き延びられれば、の話だが。


「!」


 不意に体を横向きにしたボスが、見た目からは想像もできないフットワークで駆け寄ってくる。蟹だけに横歩きは早い。


 咄嗟にスラスターでさらに後退しようと操縦桿を握るが、ボスがその巨体に隠すようにデカイ鋏を振りかぶっているのを見て判断を変更。


 下がるのではなく、前にでる。


 すれ違うようにボスと交差して、その側面に。直後、振り下ろされた鋏が道路を強かに打ち据えた。


 強固な橋げたはその衝撃にも耐えたが、振動で足元がぐらつく。


 それよりも、今見えたリーチの長さ。攻撃直前で体を反転させ、大きく腕を伸ばして鋏を叩きつけるそのリーチは、スラスターで下がっていたら確実に巻き込まれていた。どうやらコイツ、自分の体の大きさを理解した上でそれを利用するぐらいの賢さがあるらしい。


 重たそうに鋏を持ち上げてこちらに再び向き直るボス。


 最初と立場が反転した位置取りだ。今なら、背後の街に駆け込む事もできそうだが……。


「ゲートは開けられるか?」


『駄目です、こちらのアクセスを拒絶しています。どうやら目の前のメタルインセクトが、ゲートの開閉システムをハッキングしているようです』


「つまりコイツを倒さないと駄目って事だな。まあお約束だ」


 とりあえず、そういう事らしい。


 メガアームを白兵戦モードに変形させつつ、相手の出方を伺う。


 それに対し、シオマネキは今度は小さい方の腕からマシンガンを放ってきた。


 道路に弾痕を刻みながら、こちらを追う様に弾幕が迫ってくる。ひらり、とスラスターで回避しながら、今度は逆にこっちから相手に向かっていく。


「鉄拳制裁! 食らえ!」


 スラスターの加速を乗せつつ、一瞬だけ斥力場装甲を展開。不可視の防壁を拳に重ねて、シオマネキの分厚い装甲のど真ん中に叩き込む。


 操縦桿に返ってくる重たい手応え。眼前では、振りぬいた拳が見えない壁にぶつかって停止しているような奇妙な光景が繰り広げられているが、その壁はこちらが展開したものだ。


 耳をつんざく異音と共にシオマネキの甲殻から火花が散り、その表面の塗装が凄い勢いで禿げて金属の下地を剥き出しにする。


 いけるか……?!


『駄目です、ショウさん、退避して!』


「ちっ!」


 警告に、反発を生かして後方にバックステップ。直後、上から振り下ろされた巨大な鋏が、こちらの立っていた場所を押しつぶした。振り下ろされた鋏をゆっくりと持ち上げる向こうに浮かぶシオマネキのセンサーは、先ほどまでと違い警告色のように真っ赤に光っている。


 HPバーを確認すると、わりかし削れているのが見えた。そうか、分厚い装甲があっても、物理的衝撃はそれだけでは防げない。斥力場との干渉で内部にダメージが入ったか?


 車を下手に頑丈にすると、交通事故の時の被害が大きくなるみたいなアレだ。


「斥力場ナックルは有効そうだな」


『でもそれは、あちらも認識しているみたいですよ。メタルインセクトがこんなに賢いなんて』


「だな」


 じり、と前に踏み出そうとした瞬間、牽制のようにマシンガンが飛んでくる。それを跳躍して回避し、接近する素振りを見せると、ぐわ、と鋏を振り上げて威嚇してくる。突撃を断念して交代すると、それをマシンガンの弾幕が追い立ててくる。左右に機体を振りながらそれを回避し、マシンガンと通常グレネードで反撃。


 それらは分厚い装甲に弾かれて火花と炎を散らすだけに終わる。こちらの攻撃を容易く防いだシオマネキは、その場からあまり動かずにマシンガンでこちらをけん制し、それを受けて再び回避行動に移る。


 状況は膠着状況だ。ただ、こっちは逃げ道をシオマネキに防がれている形になる。


 なるほど。シオマネキは彼我の戦力さを理解し、万が一がある近接戦を避けて、攻撃が通じない遠距離戦を維持するつもりか。自分は射撃が通らないから、こうしてマシンガンで攻めていればそのうち干上がるのはこちらの方と、時間は自分の味方だと、そういうつもりか。


 まあ、間違ってはいない。


 こちらに、まだ見せてない札があると予測できないあたりは、所詮虫、という事だが。


 そう。時間が味方なのはこちらも同じだ。


『ショウさん、ビームの冷却完了しました!』


「よろしい。それではしかけるとしよう」


 グレネードランチャーの弾頭を金属触媒弾に変更。


 シオマネキのマシンガンが途絶えた間隙をぬって行動を起こす。


 向けられるランチャーの砲身に、しかしシオマネキは目立った動きを見せない。それはもう見た、という事か?


「それじゃあショータイムだ、せいぜい驚いてくれ」


 ぽぽん、と3発のグレネードをボスの頭上に投擲。それらは空中で破裂すると、ざあ、と煌めく金属の粉塵を周囲に散布した。キラキラ光る粒子が、ボスとその周囲を覆い尽くす。


 ダメージも何もない攻撃に、シオマネキは反応しない。


 そこに、私は指ビームの砲口を向けた。これもまた、効かないとしっているシオマネキは、緩く鋏を盾にガードするだけだ。


 これがチェックメイトだと知らずに。


「喰らいな!!」


 放たれる、十指からなるビームの掃射。ピンク色の閃光が、扇状に広がりながらシオマネキの巨体を包み込む。


 途端……ビームを受けた粒子の結界が、灼熱に燃え上がった。


 まるでオーブンレンジの中のように、効果範囲が真っ赤に赤熱して燃え上がる。


 道路のアスファルトは忽ち沸騰してボコボコと泡立ち、林立する外灯は融けて頭を地に臥せる。何もかもがぐずぐずになって燃え崩れる中で、シオマネキもまた、炎に包まれていた。


 全身を包む濃緑色の塗装が燃え上がり、金属の地肌が露になって、それもまら忽ちのうちに赤熱化して輪郭が崩れていく。駆動系が熱暴走を起こして、多脚がくたりと地に伏せて、ガシャアン、と巨大な鋏が道路に投げ出された。マシンガンの弾薬が誘爆したのか、ボン、と小さな腕が弾け飛ぶ。


 頭部のセンサーも、断末魔のように明滅する。そのHPバーが、たちまちのうちに削れていき……そこに、さらにマシンガンの連射でダメ押し。


 平常時であるならば容易く銃弾を跳ね返すはずの頑丈な装甲。しかし真っ赤に赤熱化した今その耐久力は損なわれており、まるで段ボール紙に穴をあけるようにボスボスと銃弾が貫通する。


 胴体の中央部に1マガジン叩き込まれ、蜂の巣のようになった装甲がぼろりと崩れた。その奥には、破壊され罅割れた、動力炉らしきもの……。


「やっべ」


 やりすぎた。すぐさまスラスターで後退し、斥力場を展開して防壁にする。


 直後。


 動力炉を破壊されたシオマネキが全身から光を放ち、爆発。


「うおっ」


『きゃあ!?』


 吹き寄せる爆風から、斥力場防壁を最大出力で展開して身を守る。


 数秒後、途絶えた爆風に顔を上げると、もはやシオマネキの巨体はどこにもなく、道路のど真ん中に大きな穴がその存在の名残を示すばかりであった。




《“ラージキャンサー”を撃破しました》




「ふぅ……なんとかなったか」


『やりましたね!』


「ああ。テレサさんの用意してくれた触媒のおかげだな!」


 振り返って、後部座席の彼女とハイタッチ。勝利の余韻を分かち合っていると、背後から何かの動作音。


 振り返ると、さっきまで硬く閉ざされていた都市へのゲートが、ゆっくりと開かれていくところだった。


 さて。


 蛇が出るか鬼が出るか。


 この街の中に残されているのは、何かな?




◆◆


 

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