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ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~  作者: SIS


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第七十九話 おいでませお嬢様





『私もう何も見ません……』


「う、うん……基地についたら教えるね……」


『嘘です。何も信じられません。もうここに一生引きこもってます……』


 後ろの補助席で縮こまって、見え猿のポーズをとってテレサは徹底抗戦の構えだ。


 あーあー、すっかりいじけちゃった。


「ほんとに悪かったって……」


 私は平謝りしながら、ちらり、とモニターから見える移動要塞の残骸に目を向けた。


 崩れ落ちた移動要塞は、なんていうか辛うじて元の原型が見て取れるだけあって、見様によっては朽ちた巨大生物の亡骸に見えなくもない。大分片付けが進んでいるが、そのため配管やらフレームやらが露になっており、さらにこの短期間で錆び始めて赤く色づいてきたのもあって猶更それっぽい。


 その周囲に、砂色のサソリ型が大量にびっしり張り付いてツマツマしているのは、成程、そういうのが嫌いではない私でも遠目に見ると一瞬ぞわっとする光景ではある。苦手な人間にとってはもはや視覚テロにも等しい映像だろう。


 ほんとにごめんね。


 私は出来るだけサソリ達を刺激しないよう、遠回りに高台をスラスターで駆けのぼると、建設が完了していた前線基地に向かう。


 オーダー通り、前線基地は分厚い耐爆コンクリートの防壁でぐるりと囲まれている。その上には無数の迎撃機銃が配備されており、正面には大きなゲートがある。近づいていくとこちらを認識したのか、ガコガコ……と音を立ててゲートのシャッターが下りて、中に入れるようになった。


『認識番号ヲ確認シマシタ。オ帰リナサイ』


「あ、ども」


 ご丁寧に電子音声のメッセージ付きである。反射的に頭を下げつつ、私は機体にゲートをくぐらせた。


 背後でガコガコガコ、とシャッターが閉じていく。


 さて。設計通りならこのゲートに入った正面に……お、あったあった。


 壁に囲まれた敷地内には、それに比べると小ぢんまりとした基地中枢、その隣に立つ真っ黒な四角い建築物、そんでもって巨大なリング状の構造体がある。建物は所謂豆腐建築で、表面もつるりとしてディティールに乏しいのに対して、リング状構造物は配線がむき出しだったりでやたらとゴテゴテっとしている。


 黒い建築物は格納庫だ。ハンガーが剥き出しだとあれなので、とりあえず周囲を壁で覆っただけの簡素なもの。


 そしてリング状構造物は超大型ビーム発振設備である。迎撃装置の一種であるが、壁の外に出しておくと普通に砂や風で壊れそうなのでこうして壁の内側に配備した。一応、いざ、という時にはシャッターを開放してゲートからぶっ放せるが、どちらかというと実験設備のつもりである。


 ガショガショと格納庫まで歩いていき、ハンガーユニットに機体を預ける。ガチン、と機体が固定されると、コクピットの開閉ボタンに手を伸ばした。


「ほら。いつまでもいじけてないで、おいで」


『は、はい……』


 振り返って手を伸ばすと、しぶしぶ、といった感じながらもテレサが手を伸ばしてきた。その手を握り返し、コクピットから降りる。


 キャットウォークの端末を操作すると、作業用アームが伸びてきて機体の修復を始めた。大きな損傷は受けてないし、これで十分だろう。


「ほら、基地の中を案内するよ。といっても大したものはないんだけど」


『お願いします』


 物珍しいのかきょろきょろするテレサを引き連れて、格納庫から出る。掘っ立て小屋の基地中枢に向かう傍ら、彼女は早速ビーム発振設備に興味を惹かれているようだ。


『これ……なんです? もしかして大型のビーム発振装置ですか!?』


「正解。面白そうだから建築してみた。どう、なんかに使えそう?」


『色々助かります! ホーム内では実験にも限界があって……これでビーム兵器の欠点を克服する為の実証試験とかが捗りますよ! えへへ、実は色々考えてた事がありまして……』


 そして始まるマシンガントーク。


 材質やら融点やら何やら、専門用語らしきものをペラペラペラと喋りはじめるテレサ。いや正直早口でそんな事をつらつらと述べられても私にはさっぱりだ。だけどまあ、楽しそうだからいいか。


 しかし、色々考えてくれてはいるのか。プレイヤーのサポート用AIという役割を考えると、具体的に要望を伝えておいた方が彼女もやりやすいだろう。


 私はふと、先ほどハンドビームで戦っていた時に感じた事と、これまでの戦闘経験からぼんやりと考えていた事を彼女に伝えてみた。


『……ビームの直接的な威力だけではなく、地形利用、ですか』


「そうそう。メタルインセクトにはダメージがあまり通らないけど、地形には理論値通りの威力が出てるでしょ? それをうまく利用できないかなって」


 具体例を出すと、工業地帯で戦った合体ボス“デス・フィアー”は本来、再生可能な堆積装甲を持つかなりの強敵だったはずだ。が、荷電粒子砲の過剰な対物破壊力がその堆積装甲を根こそぎフッ飛ばしてしまうどころか、超高熱でマグマ化した装甲で本体が熱ダメージを受ける羽目になってしまった。


 昔好きだったアニメでも、こっちの攻撃が一切通じない無敵装甲を持った敵に対して、超高熱量攻撃で足場をマグマ化させて沈める事で無力化したなんてシーンもある。


 そんな感じで、間接的に敵に大ダメージを与える方法はないか? という訳だ。


 私のアイディアを聞いたテレサは、ふんふん、と興味深そうな反応を返してくる。


「どう?」


『……面白いアイディアです! 色々実験してみますね!』


「よろしく頼む。っと、ほい。ここが前線基地の中枢です。いらっしゃい」


 プレハブ小屋の扉を潜ると、基地というよりどこかの工事現場の事務所みたいな空間が広がっていた。


 ファイルを修めた棚もなく、伽藍とした部屋にはぽつんと机とパソコンが置かれている。


 私はパイプ椅子を引いて、恭しくテレサに頭を下げた。


「どうぞ、お嬢様。お座りください」


『……ふふふ、これはどうもご丁寧に』


 椅子に腰かけたテレサを、今度は横からぱたぱたと仰ぐ私。


「お嬢様、風加減はよろしいでしょうか?」


『ふふ、苦しゅうない苦しゅうない』


 アホみたいな茶番劇だが、どうやらテレサの機嫌は治ったようである。……AIのご機嫌を取る人間、というのがなんかこうSF的にサイバーパンクでディストピアの香りがするが、まあ細かい事は気にしないでおこう。


 私も椅子を持ってきて、彼女の横に腰かける。


「まあ、こんな感じ。まだ資源の投入とか足りてないし、そもそも色々機能開放にはアイテムが必要みたいで。まだ全然、というのが正直なところ。修理機能があるから、拠点としてはなんとか使えるけどね」


『……みたいですね。イコンとの行き来も出来ないみたいなので、私がここから移動するには機体を用意して自分の足で歩くしかないようです』


「ま、しばらくは複座で行動しよう。思ったよりもメガアーム機体、バランスがいいし」


 これまでの機体は割と一発芸の芸人みたいな機体だったが、見た目とは裏腹にメガアーム機体はバランスに優れており、状況適応力が高い。何より防御力と機動力のバランスが取れているので、生存性が高いのが一番良い。依然のように敵に囲まれてもある程度耐える事ができるので、テレサをコクピットに乗せて連れ歩く事への抵抗が薄く済む。


 いや、反省してるんだよ。前にイチかバチかの賭けが大爆発になって彼女ごと消し飛んだの。


 復活してくるといっても心臓に悪い。


「まあ、テレサさんがよければ、だけど」


『とんでもない! 大歓迎です!! これからもよろしくお願いしますね!!』


「お、おう……」


 隣からペカーと輝くような笑みを向けられて私はちょっと口籠った。


 あれかな、サポート用として組まれたAIだから、プレイヤーのサポートするのが生きがい、存在意義、みたいなメンタリティなのかなやっぱり。AIに感情とかメンタルとかあるのかわからんけど、人工無能の生成プログラムでも人間に駄目だしされまくると委縮して生成物に影響がある、という話もあったらしいし、まあそういうもんなんだろう。


 人間だって自分で思う程高尚な精神構造してる訳じゃないしね。


「さて、と」


 時計を確認すると、そろそろ良い時間か。


 今日はこの辺りにして、続きはまた明日にしよう。


「それじゃ、私はちょっと休憩する事にするよ」


『はい、わかりました。ごゆっくりお休みください』


 笑顔のテレサに見送られて、ゲームをログアウトする。


 さて、明日は次のエリアに向かうかな……。



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