第五十四話 龍飛
首を傾げるテレサを置いて、カスタマイズ画面のコンソールに向き合う。
まずは課金ハンガーの購入を行う。プリペイドは購入して、すでに反映済みだ。
購入ボタンを決定すると、ガラガラ、と音を立ててホームに新しいハンガーがせり上がってきた。
「ハンガー一つ、一か月で大体300円か。まあ、妥当な値段なのかな……」
『ショウさん、この新しいハンガーが私のなんですか?! わあい、嬉しい! ありがとう!』
「お、おぅ……」
よほどうれしいのか、弾けるような笑顔を向けてくるテレサにちょっと首を惹く。
なんていうか、ほんとにCG班は良い仕事をしている。この笑顔でねだられたらホイホイ課金してしまうプレイヤーもいるのではないだろうか?
しかし課金装備が課金アイテムをねだってくる……これ、考えようによっては何かしらの法に触れるのでは……いや、やめておこう。深く考えるとドツボにはまりそうだ。
「をほん。んでもって、機体のカスタマイズを、と」
とりあえず予定していたカスタマイズ案は破棄。
新たに一から機体を組みなおす、それも二機。
私が乗る機体は、メガフレーム・胴体を採用。てっきり、胴体だけがずんぐりむっくり、不細工な形になるかと思ったが……案外、バランスの取れた見た目だ。胴体が前に突出するか、バックパックが背後に突出するか、パーツ接続の位置である程度シルエットのバランスを整えられるようになっているようだ。ただ、サイズ相応に重いので、脚部は自然と重装型になる。
調べた感じだと、メガフレームの中で唯一、胴体だけは割と使われている方らしい。耐久性が高いのと、ペイロードが通常胴体の倍近いのでジェネレーターやスラスター、補助装備に余裕があり、大重量をスラスター推力で誤魔化す事で高機動型重量機体みたいなのが仕上がるらしい。必要最低限の火力を持ち、あとは機動力と装甲に割り振るという最前線のスタンダードにもマッチしている訳だ。まあ、基本重量が重い分、挙動には癖があるらしいが……。
しかし私が目指しているのはそういう普通の、ありきたりな機体ではない。よって脚部は積載量最優先でキャタピラを採用。それによって確保した猶予に、複数の高出力ジェネレーターと大型プラズマビーム砲を搭載する。
今回のプラズマビーム砲は、全長7m近くある超大型の代物だ。設定によると、思い切ってサイズを度外視する事で、安定性や威力を高次元でまとめたものらしい。恐らく、これのデータを反映して、今度は逆に可能な限り小型化したのがプラズマピストル、という事なのだろう。小型化する前に、一度大きいもので安全性を確保したモデルを試作してみるのは、現実の機械製造でもままある事だ。基本的に機械は小型な方がいいのである。
そんなもんを搭載すると、キャタピラなのもあって殆ど戦車そのものである。いっそキャノン砲として固定装備させたいが、ギミックを考えるとそうもいかないか……いや、そうでもないか?
カスタマイズ画面でぐりぐりビーム砲を回転させて、最終的に胴体右側面に巨大ビーム砲をドッキングさせる。腕は……あとの事を考えると、胴体前側のジョイントに、と。
あとは、ロケットブースターをいくつも胴体側面に装備して……よし。完成だ。
そうして出来上がった機体は、なんともアンバランスな代物である。メガフレーム胴体の、背後側のジョイントにキャタピラ、そして腕の代わりに巨大ビーム砲。んで頭と腕は前側のジョイントにつけてるから、奇妙な前傾姿勢のように見える。これ単体だとかっこよくはないが、まあ、特定用途に特化した感じは出るかな。
んで、もう一機に手をつける。
こちらは、メガフレーム・二脚。なんかもうそれだけで機体が完成してそうな、ものすごく厳つい二本足だ。これに普通の機体の胴体をつけるとなんかこう、バランスが無茶苦茶悪いな……。
ちなみにこっちはそんなに多用されていない。積載量も機動力もある強力なパーツに見えるんだが、必要エネルギーが膨大で通常サイズの胴体だとかなりジェネレーターを無理する必要がある。それに機動力が高いといってもそれは地上戦のみの話で、スラスターを用いた三次元戦闘が出来なければ話にならない最前線のガチバトルでは、デカくて目立つ上に地上を走る事しか出来ないメガフレーム脚部は空中から滅多打ちという訳だ。
多分、元々メガフレーム胴体との併用が前提なのに、プレイヤー側は一個しか使えない制限があるせいでこうなっているんだろう。仮に胴体との併用が出来たら、最前線にはこいつらばっかになるだろうから、それはそれでいいんだが。
んでこれに関しては元々考えていた設計を流用する。ただし、胴体のジョイントは開けておく必要があるので、股間パーツの前面部に胴体パーツの背中をくっつける。なんか巨大な脚に括り付けられている子供みたいなシュールな構図になったが、これはこれで仕方ない。んで、バランスをとる為に大きなバランサーを後ろに尻尾みたいにつけて、んで武装だ。
こちらも、新しく解放された大型フォトンビーム砲を搭載。開放型バレルを採用したモデルで、密閉してない分熱量が溜まりにくく放射できるエネルギー量も大幅に増大したのだが、不安定な開放型バレルのため強力な収束磁場を形成する必要があり、結果として消費エネルギーが凄い事になっている。
とてもじゃないが、もともと脚部にエネルギーを吸われるメガフレーム脚部に搭載できる代物ではない。
でもつけちゃう。
こっちは、可動式のアームに繋がったガンマウントを介して装着。これに関しては射角が広くなるとかのメリットがあるんだけど、今回はまた別の狙いがある。それについてはまたあとでね。
取り付けた途端、《エネルギーが不足しているため発射できません》と警告がでるが、出撃できるならそれでよい。
あとは一応マシンガンを両手に持たせておく。
これでよし。
地上を凄い勢いで走りそうな機体が出来た。外見上の特徴である巨大ビーム砲が完全にただのかっこいい重しになっているが、まあ、それはそれ、だ。
「準備完了。建造するか」
そしてここで秘密兵器登場。
普通、建造開始したらそれなりの時間が必要なのだが、ここにそれをスキップできる課金チケットがある。ハンガーを購入した時にオマケでついてきた。
こういうのが、地味に運営の最大の収入源になってたりするんだよなー。一枚一枚は安いし何かのついでに貰えるけど、多用するようになると地味に大きな出費になる。それが分かってるので普段は手を出してないんだが、今回はせっかくだから使っちゃう。でないと、カスタマイズしただけで今日のプレイが終わっちゃうしな。
高速チケットを使用すると、演出もいつもと違う。
普段であれば作業用アームが伸びてきてガチャガチャやり始めるのだが、今回は上からでっかい3Dプリンターみたいな装置が降りてきて、ウィイイン、と機体を3Dプリントし始めた。なるほど、確かにこれなら爆速で終わるね。
技術レベル高いなー。
超高速の組み立て過程を眺めていると、隣で黙って見守っていたテレサが、ついに我慢できなくなったという感じで語り掛けてきた。
『あの、これでいいんですか?』
「ん?」
『その、二機目のほう、このままだと武器が一個使えませんよ? 一機目も汎用性があるとはとても……』
ああ、その事か。
「問題ない、ちゃんと考えがある。上手くいくかは分からないけど」
『??』
「あ、それと機体が組み上がったら、テレサさんにもちょっと手伝ってほしいんだ。具体的には、ごにょごにょ」
私が今回試そうと思っている事を伝えると、テレサさんは目を丸くしてびっくりした。
『え…………正気ですか???』
「その反応はひどくない?」
でも上手くいったら絶対に楽しいはず。
そんなこんなで話している間に、高速チケットの御蔭で機体建造は完了していた。さっそくコクピットに乗り込む。
「さあ、出撃だー!」




