第五十一話 超・重工業合体
まさかまさかの展開である。
眼前で合体を果たし多脚の重砲撃戦型ロボに姿を変えたボスエネミー。
大ピンチ、大ピンチではあるのだが、私は感動と興奮を抑えられなかった。
「こ、これって、まさかプレイヤーにも出来るのか……?!」
考察が正しければ、眼前の相手はプレイヤーも使えるメガフレームと同規格。それはつまり、こっちだって同じことが出来るかもしれない、という事だ。
いや出来る。このゲームの自由度の高さを考えればあり得る話だ。
勿論、一機につきメガフレームは一つ、という制限を考えれば複数のプレイヤーが必要なのでオフラインでは試しようもないが、いやしかし。
頭の中に無数のアイディアが閃いては消えていく。
合体する事の合理性? そんなのは後で考えるんだよ!!
「うへへへ……おっといけない、今はボス戦の最中だ」
意識を戦いに集中させる。見ればボスは合体演出も終わり、HPバーがあらためて表示されて動き出すところだった。
上半身となった砲撃ロボ、その左腕の代わりに取り付けられているミサイルランチャーが立て続けに弾頭を発射する。大中小それぞれサイズが違うミサイルの弾幕が、フィールドに爆発を撒き散らす。
その中を、地響きを立ててボスが突進してくる。質量が増した事で動きが鈍くなったかと思いきや、スラスター推力を得た事でその突進はこれまでよりも早く、そして重い。
「わっとお!」
反撃なんぞ考えてる暇はない。爆発を避けて大回りに突進を回避した直後、ボスが地面に凄まじい火花を散らしながらドリフトターン。180度回転したボスの機関砲が、こちらを狙っているのが見て取れた。
「やっべ」
バランスをとれる自信が無かったので控えていた全力疾走を解禁。最高速で走り抜ける後ろを、追うように曳光弾の線がフィールドを薙ぎ払う。打ちっぱなしのコンクリートの床や壁に、次々と弾痕が穿たれた。
これは厄介だ。
ただの突進に、独立して動く上半身の攻撃が加わっていて隙がない。幸いなのは突進時はスラスターを併用する関係で、回避中のこっちを狙ってくる事はない、という点か。それをやられたら完全に勝ち目がなかった。
が、かといって、これは。
「どっちにしろ反撃の隙が……!」
地響きを立てて迫りくる巨爪をギリギリの所で回避する。こんなのいつまでも続けていられないぞ。どうにかして反撃の隙を見出さないと。
再び撒き散らされるミサイルランチャーの爆発。軌道を見切ってその間に機体を潜り込ませながら、私は荷電粒子砲を手に取った。
……チャンスがないなら、作るまでだ。
荷電粒子砲の特性。広範囲に荷電粒子を撒き散らす関係で、範囲内のものを無差別に破壊する……それを生かして、相手の攻撃を相殺してカウンターするしかない。
だがミサイルは距離がある時に撃ってくるからタイミングとしてはあまりよくない。
狙うなら、突進後の機関砲の反撃。
「……流石に無理があるか?」
敵の機関砲の弾種は分からないが、装甲兵器に対して運用するのを考えているなら、弾頭は恐らくタングステンか劣化ウラン弾。ゲームだから資源の希少性とか関係ないだろうし。果たして、そんな弾丸を荷電粒子砲は打ち消す事が出来るのか?
「ま、駄目元でやるしかないね。他に手もないし……ま、やってみよういってみよう!」
引き金を引いてチャージを開始しながら、地響きを立てて突進してくるボスの正面に立つ。スラスターで加速を得ながら突き進んでくるその巨体、その動きを見切って……その側面に滑り込む。
攻撃を回避されたのを察知して、ボスが地面に爪を立ててドリフトターンを開始する。本来であれば無防備な瞬間だが、その隙を埋めるように独立した上半身がスラスター噴射を停止、旋回してこちらに機関砲を向けている。互いに至近距離、回避は不可能。
チャージは十分。トリガーを離すと同時に、銃口から紫に光り輝くビームがぶわ、と拡散しながら広がるビーム粒子を放射する。
それと同時に、相手の機関砲が発砲し激しい閃光を放ったのが見えた。
人間の処理能力ではそれ以上の事はわからない。白く明滅するモニター、果たしてどっちが勝ったのか。
「いき……てるっ!!」
画面がブラックアウトしない、機体の操作がまだ続いている。
私はオーバーヒートした荷電粒子砲をサブマシンガンに持ち替え、その引き金を引いた。
放たれるマシンガンの弾頭が、ボスの上半身を滅多打ちにする。ガリガリと削れるHPバー。マガジンが弾切れになると同時に、ボスが周囲薙ぎ払いのモーションに入ったのを見て慌てて後退する。
安全な距離まで下がって、鋼鉄のミキサーのように回転するボスを尻目にステータスを確認する。
ダメージは無し。
視線をボスに戻す。ギャリギャリ、と爪を立てて回転を停止させるボス、その上半身は大きなダメージを受けてその機能を損壊しているように見えた。
右腕の代わりに取り付けられた機関砲は、砲身が破裂したように十字に裂けて煙を吹いている。他にも、マシンガンの弾痕がいくつか。穴が穿たれた装甲は、真っ赤に赤熱してその強度が低下しているように見えた。
それだけではなく、堆積装甲を纏い直した筈の下半身も、黒い堆積物の大半が剥がされ、さらに真っ赤に赤熱していた。その影響で、ブスブスと機体全体が熱を持って煤けているのが見える。
『グギギギィ!』
再び突進してくるボス。だが、スラスターによる推力補助がなく、その動きは非常に鈍い。余裕を持って回避し、サブマシンガンを撃ち込む。
反撃は無し。
ボスの上半身は破損した機関砲をギィ、ギィと動かすだけで、何もしてこない。
これは……。
「カウンターの一撃で機関砲が破壊されて……ついでに、なんかオーバーヒートしてる?」
思った以上にこちらの一撃がダメージを与えているようだ。しかし、なんでだ?
さっき、下半身だけと戦った時はそんな事にならなかったのに、どうして今度は。
違いがあるといったら……。
「……影響激化スキル?」
これしか考えられない。
影響激化……言葉通りに受け取るなら、ビームが周囲に与える影響を強化するスキルだろうか。質量を持つ高熱源を発射するビームは、周囲に与える影響もまた大きい。荷電粒子砲は言うに及ばず、フォトンビームは軌道上にある物質を貫通していくし、プラズマビームはその高熱で周囲の物体を加熱、炎上させる。
その性質を強化するとしたら……。
「それで、攻撃範囲内の弾丸を消し飛ばして、ついでにボスの堆積装甲も引っぺがした? いや、引っぺがすだけじゃなくて高熱を与えて……炎上状態にしている?」
となると、あのボスの精細を欠いた動きはオーバーヒート状態に近い?
困惑しつつも、チャンスを逃さずサブマシンガンを叩き込む。あきらかに防御力の下がっているボスの装甲を拳銃弾が突き破り、そのHPバーを減らしていく。
そういえば、さっきからロックオンが外れない。ロックを阻害していた、巻き上げられた重金属粒子。あれも荷電粒子砲の巻き添えで消滅したのか?
時間が経てばまた纏い直すのだろうけど……こっちの荷電粒子砲の冷却の方が先に終わる。
「考えてみれば……アニメやゲームでも、当たってもいないのに巻き込まれて消し飛ぶ敵とか、ビームの演出じゃお約束だよな。そういう事なのか?」
ある意味では間接的に攻撃力そのものも跳ね上がっているともいえる。
推測を試すべく、冷却の終わった荷電粒子砲を手に今度はこちらからボスに突っ込む。反応したボスが前肢を振り上げてこちらを叩き潰そうとするが、その動きはもたもたしていて回避は用意だ。タイミングをずらして前肢を回避し、振り下ろされたそれを足場にして跳躍、ボスの上を取る。
眼下にはこちらを見上げるボスの上半身。その周囲にはまだ堆積装甲が残っている。それをできるだけ巻き込むタイミングで、トリガーを離す。
発射された荷電粒子のシャワーが、ボスに頭上から降り注いだ。
そのまま通り過ぎるように着地し、戦果を確認する。
やっぱりだ。
残っていた堆積装甲の大半が吹き飛ばされ、ボスの体がほぼ完全に露になっている。それだけでなく、銀色の装甲には真っ赤に燃える炭の破片みたいなものが纏わりついていて、ボスをアチアチに加熱している。
ダメージそのものよりも、許容量を超えた高熱にボスがぐぎぎ、と鈍い動きで振り返る。そのHPバーは、とうとう炎上のスリップダメージで減り始めていた。
「なるほど。変に追加装甲とか増加装甲で防御力を上げているような相手に、ビームはメタになるのか」
ダメージそのものが低いのはまあバグかなんかだとしても、それを踏まえてもなお極端な装備負荷だったが……そういう事なら話が変わってくる。
考えてみれば、重装甲がビームみたいな攻撃に弱いのってこう、大体のロボ系作品だとお約束だったな。
それにしても影響激化スキルおそるべし。多分、今だと重金属霧で威力を大きく減少させられていたビームカービンも、問題なく運用できるんじゃないか?
というかビーム兵器を運用する上で必須スキルじゃないのだろうか。そういう、使い勝手が激変する重要スキルがそこそこ使いこまないと入手できないのはゲームあるあるだけども。
「悪いね。恨むならそのあたりのバランス調整を怠った運営を恨んでくれ」
完全に装甲の剥がれてしまったボスに、サブマシンガンの引き金を引く。本来ならもう少し先で手に入る武器だけあって、火力的には申し分ない。
2マガジンほど撃ち切った所で、ついにボスのHPバーが底をついた。
バーが消滅し、ガクン、とその場で膝をつくボス。
ちょっと間を置いて、その巨体は内部から膨れ上がる炎に呑まれ、爆発で膨らみ木っ端みじんに吹き飛んだのだった。
がらん、ゴロン、とその巨大な脚がこちらの足元にまで転がってくる。付け根から千切れて大破したそれは、見ている前でパリーンとポリゴン片に砕け散って消滅した。




