第四十六話 不穏な噂
「うそーん……」
ホームに戻ってきた後、私は呆然としたまま動けないでいた。
良いアイディアだと思ったのだが。まさかの結果である。
恐らく工業地帯の一角を吹き飛ばすほどの爆発になるとは微塵も思いもしなかった。言い訳をすれば、それまで散々メタルインセクトの攻撃で配管が破壊されるのを見ていたので、あの程度どうという事はないと思ったのだ。
「って、それよりテレサさんは……」
守ると決意したはずの彼女の姿を探す。
薄暗いホームには、私以外の人影は見当たらない。
まさか……。
「AIのNPCは……復活、しない……?」
愕然とする。
あり得ない話ではない。彼女らは買い切りのコンテンツだが、有償アイテムだって使ったら終わりなんてのはよくある話だ。経験値カードとかがそうである。
AIサポーターは死亡するまでの有効期間で、それはつまり、彼女らはこの世界においてはたった一度の命で……それを、私の軽率さで失わせてしまった……?
「あ……ああ……」
罪悪感を覚えてその場に跪く。
相手がAI、数字の羅列に過ぎないとしても、人間の姿をしていればそうも割り切れない。まるでペットのハムスターを、自分の怠惰で殺してしまったようなずしりとした罪の意識が胃の淵に落ちる。
こんな事なら、連れていくんじゃなかった……。
そう思った時の事だ。
ホームの壁に並ぶ用途不明の無数の機材、そのうちの一つがガシュウ、と音を立てて駆動した。
何事かと見上げる私の目の前で蒸気を吹き出しながら装置が開閉し、そして。
『ふぅうー……ビックリしました』
「テレサ!?」
ぼやきながら出てくるのは、金髪赤目のロングヘア美少女。テレサ。
私は慌てて彼女に駆け寄って無事を喜んだ。
「よかった、てっきり……! 無事、じゃないけど……とにかくよかった……!」
『ふふ、もう、おおげさですよショウさん。こうして貴方も再生されているんですから、私だって大丈夫ですよ』
何てことのないように笑うテレサ。心配したのは君がAIだからだ、と言えずにとりあえず笑って誤魔化す。
「あはは……ごめんごめん」
『いいえ。それにしても凄い大爆発ですね。明らかに、プラズマ誘導管の暴発とかそういうレベルじゃなかったといいますか』
「そうだね……メタルインセクトの攻撃で破壊された配管からは、中身が噴き出したりする程度だったし。前にプラズマビームの核融合炉を爆発させた事があるけど、あそこまでの大爆発じゃなかったと思う」
私の言葉にまあ、と目を丸くするテレサ。
『そんな危ない事をしたんですか!?』
「不可抗力だよ不可抗力。ボス戦で最大出力のプラズマビーム撃ち込んだあと、反撃で引き千切られてね……」
実際は自爆覚悟でオーバードライブしたのだが、まあそこは黙っておく。
幸い、彼女は細やかなニュアンスに含む意味合いには気が付かなかったようで、その場で顎に手を当ててうーんと考え込み始めた。
『謎ですね……。もしかして、プラズマとフォトン粒子で何か反応が起きたのでしょうか? そういう現象はあまり聞いた事がありませんが、この惑星上では私の知るそれとは少し違う挙動が起きているようですし。前例がありますしね』
ビームの事なら、まあシステムのバグか何かだと思うけど。
まあ、この世界の登場人物になりきってるAIにそれを言うのもヤボだよね。
とにかく、テレサが無事ならそれでよかった。
時計を確認すればそろそろ良い時間だ。消し飛んだ機体の修理の事もあるし、今日はこのあたりで撤退しよう。
「それじゃ、私はこのあたりで落ちるよ。またね」
『あ、はい。分かりました、ゆっくりお休みください!』
オプション画面を開いてログアウト処置を行う。暗転する視界の中で、最後まで手を小さく振ってテレサが見送ってくれていた。
「さってと、ちょっと水飲んで寝るかあ……っととぉ!?」
尚。
ずっとゲーム中で竹馬感覚で機体を乗り回していたせいですっかり平衡感覚がズレてしまい。ソファから立ち上がったあとずっこけてあわやテーブルに激突、という事になりかけた。
熱中しすぎるのも問題である。
翌日。
仕事が終わって帰ってきた私は、珍しく友人の方から連絡を受けて通信端末に耳を傾けていた。
どうやら腹に据えかねる事があったようで、彼にしては珍しく愚痴愚痴が続く。
「なんか、そりゃまあ、大変だったな」
『そうなんだよー。俺みたいな弱小ギルドにとっちゃかなり頭が痛い話でさあ』
話によればどうやら、オンラインで辻斬りにあったらしい。
PVPを推奨するオンラインゲームではよくある話だ。
特にビルドロボオンラインでは特にPKのペナルティもないため、道行く一般プレイヤーや弱そうな機体に襲い掛かる手合いが居るのはむしろ当然の事。
私も、昔やってたゲームで「勝てば官軍負ければ賊軍」とか掲げてるPKに執拗に襲撃されて困り果てた事がある。
一方でシステム的にペナルティがないからといって無罪放免という訳ではない。ある程度の自治が行われてるオンラインゲームでは自浄作用が働く。特に自分達の縄張りを荒らされたギルドなどは犯人を許さないだろう。ゲーム内経済をプレイヤーの活動に依存しているタイトルの場合は特にだ。
大体の場合、徹底的にリスポン狩りされて、ゲームから退出する事になる。そしてそういう手合いは忍耐もなければそもそもタイトルに関心も薄いため、さっさと別のゲームに移るケースが多い。そうやって、ゲーム内の秩序は保たれている。
私が迷惑かけられてた奴もギルドに狩りだされたしね。
だがどうやら、今回は少し毛色が違うようだ。
『どうにも徒党を組んで組織的に中立プレイヤーを襲撃してるみたいで、昨日一日でもかなりの被害が出てる。ホームから出られなくなったプレイヤーもいる始末だ。一応、大手の企業ギルドに喧嘩を売るほど無謀じゃないみたいだけど……』
「ギルドは駆逐に動かないのか? 規模の大きい辻斬りギルドなんて問題だろ」
『今の所は静観を決め込んでる。直接被害が出てないからねえ。中立プレイヤーも、企業の勢力下に身を寄せる動きがあるみたいだ』
なるほどねえ。
人が集まると、色々とお政治みたいな事になるのは仕方ないとはいえ、ゲームなのに色々とドロドロしてるなあ。
まあしかし、それならオフラインで遊んでいて助かったというべきか。
ビームピカピカしてる私の機体はさぞ目立つだろうからな。
「ま、話は分かった。気をつけてな」
『気を付けてどうにかなるもんじゃないけどねー』
私と話して溜飲が下がったのか、電話はそれで終わった。
通信を終えると、私は早速ゲームを起動する。通話で時間を喰ったから、今日はちょっと遊べる時間は短くなるかな?
ログインしてホームに顔を出すと、さっそくテレサがテコテコと走り寄って来た。
『お帰りなさい、おはようございます!』
「ああ、うん。おはよう」
実際はこんばんわ、だが、彼女からしたら分からないよな。
『今日はどうされるんですか?』
「ええと、ちょっと荷電粒子砲の武器を試してみる。ついでに、昨日の大爆発があった場所の調査に」
これまでの所、いいとこなしの荷電粒子砲だが、あの手持ちサイズになった奴はちょっと気になっている。元々単純威力なら頭一つ抜けていたのだ、期待してもいいだろう。
と、そこで私はテレサが何やらもじもじしているのに気が付く。
私の視線を見て取ったのか、彼女は顔を赤くしながら要求を言い放った。
『わ、私もついていっていいでしょうか?』
「駄目」
駄目に決まってんでしょうが昨日の今日よ?




