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ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~  作者: SIS


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第三十四話 偶像少女



 実験が成功して意気揚々とホームに引き返してきた私。


 ハンガーに身を預けた機体から降りると、さっそく機体の状態をチェックする。


「うーん。脚部にけっこうダメージが入ってるな、関節の強化は必須と。武器に関しては……軽量型のマシンガンもいいんだけど、空中から射撃する事を考えたらもっと反動が小さくて、精度がある武器の方がいいか? カービンライフルとかないかな。あとは翼をどうするか……背中のプラズマジェットエンジンを武器に転用できるようにするか……うーむ」


 考える事はたくさんある。


 その全てを一度に解決する事は出来ないので、とりあえず複雑な応用は一端棚上げ。推進器と武器を兼用できるようになれば色々と面白そうだが、そういう事はとりあえず飛行能力を安定させてからにしよう。


 それに現状だとロケットブースターで飛び立ってから、あとは落下速度を落としながら緩やかに滑空……早い話が恰好つけて落ちているだけなので、射撃武器が充実しているエネミーからは良い的というのもある。空中である程度機動する為にはやはり翼が必要で、かつ、戦闘機動を取るならバランサーの強化も必要だろう。


 サブエネルギーには困らないし、吸入ファン以外にもそういったものを消費する装備をつけるか? 着陸時の衝撃を斥力場防壁で軽減するとか。


 言い感じにアイディアが次々に沸いてくる。考えがまとまらない。


「と、とにかく、脚部関節の強化と、翼の追加、バランサーの強化。とりあえずはこんなもんかな」


 ぱっぱとカスタマイズ画面を操作して、とりあえずの形にする。


 がこん、がこんとロボットアームが作業開始するのを見て、私はうんうん、と満足気にその仕事を見守った。


「さて。ちょっと早いが、今日はもう終わりにするかな……?」


 機体が建造中は特にする事がない。


 ギルドに入っていればギルドメンバーとお喋りしたり、課金プレイヤーなら予備機で稼ぎにいったりするのだろうが、生憎有料ハンガーを購入していない私は他にする事がない。


 外をうろついているのは全長5m以上のメタルインセクトだから、徒歩でお散歩というのも自殺行為だ。まあ、未知のエリアを歩いて探索するのもありかもしれないが……。


 そんな事を考えながら、かといって即座にログインボタンを押すでもなく、ぽやぽやとホームを歩き回る私。いや、作り込んであるゲームって、意味もなく歩き回ったりしたくなるじゃないか。


「……ん?」


 と。


 そこでふと、私は物陰に見慣れぬ赤い三角のアイコンが浮いている事に気が付いた。


 この前までこんなのあったっけ?


 不思議に思って近づいた私は、それが所謂会話アイコンであり、物陰に誰かが倒れている事に気が付いて心底たまげた。


「だ、大丈夫ですか!?」


『う、ううん……』


 慌ててかけよって相手の状態を確認する。呼びかけに返事があった事でほっと息を吐いた私は、遅れてこれが仮想現実のゲーム内であった事を思い出した。動揺するにも程がある、このゲームの中で他のアバターに接触した事がなかったとはいえ、まさか本物の人間と勘違いするとは。


「しかし……」


 なんていうか、見れば見る程よく出来たアバターである。


 性別は女性。身長は165cmぐらいだろうか。十代後半から二十代前半と思われる、まだ幼げな顔つきの金髪美少女。ピチピチの黒い競泳水着みたいなボディースーツの上から、モスグリーンのやぼったいズボンと前を開いたジャンバーを羽織り、手には指だしグローブ。腰回りは膨らんだポシェットが装備されていて全体的なシルエットはこんもりしているが、スタイルそのものは非人間的なまでにシュッときゅっとしている。胸も大きい。


 どこからどう見ても、プレイヤーのアバターそのものである。となると、見た目は女の子だけど中身は私みたいなおっさんだったりするのだろうか。……心配して損した、とまでは言わないが、なんだか急に焦ったのがアホらしくなってくる。


「あれ? でも……」


 アンテナの立っていないステータスモニターを確認して首をかしげていると、倒れていた少女が身じろぎした。ぎょっとして身を引く私の目の前で、もぞもぞと少女が起き上がる。


 開かれた彼女の目は、ルビーのような赤色だった。


『あれ、私……?』


「えと……だいじょうぶですか? 貴方は、ここに、倒れていましたよ」


『え……と……?』


 なんだかぼんやりした様子で、乱れた髪を直してこっちに向き直る少女。その仕草はやたらと様になっていて、エモーションとしても妙なリアリティがあった。


 そこでふと気が付く。


 ウィンドウに、少女の名前らしきものが表示されている。これは……《Idoll:テレサ》?


 ……《Idoll》?


 確かそれはこのゲームにおける目玉要素の一つだったはずだ。生成AIではなく企業独自開発の学習型AIを用いた、対話型サポートシステム。ゲーム的にはサポーターになり、プレイヤーの集団行動や組織運営を手助けしてくれる他、細かいカスタマイズの補助もしてくれるのだという。


 ただ、入手にはそれなりの課金を行うか、特別な条件を満たす必要があったはず。


 私はそのどちらも満たしていないはずだけど……。


 バグかエラーか。運営に何か勘違いされてアカウント凍結とかされなければいいんだけど、と戦々恐々する私をよそに、少女……テレサは周囲を見渡し、不思議そうにしながら立ち上がった。


 と、その体が突然ふらつく。


「大丈夫? 無理しない方が……」


『あ、ありがとうございます。なんだか体に力が入らなくて……』


 間近で覗き込む彼女の顔は、非人間的なまでに整っていて、なるほど、確かにこれは人間ではないな、と納得させられるものがあった。


 いわゆる美少女顔は、理屈で考えれば目が大きすぎて異形ですらあるはずなのに、こうして立体モデルのそれを見ても違和感は感じない。聞いた話だが、こういった美少女顔は猫の顔に要素が似ているのだそうだ。


 人間の心を古来から掴んで離さない愛らしい動物と、人間が可愛らしいと思う要素を抽出・抽象化した空想の存在が同じ要素を備えているというのは、なるほど、ある意味で奇妙な必然というものを感じざるを得ない。


 つまり美少女は美猫。


 そう考えれば何もおかしなことはない。


 私が相手がゲームのNPCだと分かっていて人間にそうするように語り掛けてしまうのも仕方ない事なのだ。人間だって通じてないとわかっていながら猫に話しかける訳だし?


『そ、その……私、何も思い出せなくて。ここはどこなんですか? 貴方は誰?』


 おっと。つまりそういう設定のNPCか。


 イコンが人類のデータを保存している拠点プラントという事を考えると、彼女は何らかの事故で不完全な状態で再生されてしまった人間、という感じなのだろう。


 私は手短にこのゲームの設定と、少女・テレサの状況、そして私が外で冒険している事について説明した。


 その内容に、大きな真っ赤な目が見開かれる。


『ええっ。そんな危険な事を、貴方一人で?』


 一人……いやまあ、確かにそうだな。もっぱらオフラインだし。でもそれはゲームのプレイスタイルであって、別に私がぼっちという訳ではないぞ? 何もかんも部屋の物件が悪いんだ。


「ま、まあ、そうなるね」


『そうですか……。そんな大変な事、貴方だけに押し付けられません! 私にも手伝わせてください!』


 手伝うって……え、もしかしてNPCとして機体に乗ってついてきてくれるの?


 ちょっと期待した私の視界の中に、会話に割り込むように無機質なメッセージが浮かび上がった。


《Idollはプレイヤーを様々な形で支援してくれます。テレサはオフライン専用のIdollです。複座式の機体を用意すれば、サブパイロットとして戦闘を支援してくれます》


 へえ……。なるほど。そういう感じなのか。


『これからよろしくお願いします!』


 まじまじと見返す私に、テレサはそう言ってにっこりと可愛らしく微笑んだのだった。








 まあ運営に確認とれるまではお触り厳禁だけどね!


 ええと、運営への連絡メッセージはこれか。


「こころあたりのないIdollがホームに出現しています、何かしらのバグでしょうか、と……」


 早ければ明日ぐらいには連絡が来るかな?


 それじゃあ、おやすみ~。




◆◆



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