File.50 終わり。これから。
【拓:避難場所】
「よし!!後ちょっとだ!!持ち堪えろよ!!」
暴走人間から逃げてきた患者と医療関係者。
医師と協力して拓は患者達を助けていた。
「……俺たちはこのまま……死ぬのか?」
「死なねぇよ!!自衛隊の人達が…………なんだあれ……」
自衛隊の人達も唖然としていた。
暴走人間が突如動きを止めて、その場に倒れていく。
その後ろで引いていた糸がぷつんと切れたように。
こんな大勢に、かつ一斉に起きたのだ。
つまり……
「死んだ……のか?」
拓はその場で立ち尽くすのみ。
長い、長い持久戦が今。
……終わった。
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【東京湾】
(………………はっ!!)
海の中で一瞬だけ意識を失った潜一。
生きてる。仮に死んだのならこんなに苦しいのはごめんだ。
(冥本は……!?)
もしかして逃げられた!?
ならまずい、船は────────
(まだある。つまり……死んで沈んだか?)
そうして地上に上がろうとしながら辺りを見ると…………“一人”だけ水中に浮かんでいた。
(……冥本!!)
気絶。
もしくは死亡。
どっちでもいい、持っていこう。
極限の苦しさを我慢しながら、気絶した冥本を地上へと押し上げた。
「はぁ……はぁ……あ゛ぁ゛ぁぁ……ゴホッ!!ゴホッ!!」
体が重い。
この冥本を抱えていくのはかなり疲れた。
スマホも死んだ。
近くに公衆電話もない。
仲間とどう合流すればいいか考えた時、冥本の体からピシッ!という音が鳴った。
「……あ?」
卵から雛が生まれるように。
そうして“冥本だった殻”を破って出てきたのは────
「紅羽……さん?」
紛うことなき、柊紅羽の姿だった。
美しい色白の肌でモデルのような体型。
助けられない、死んだはずと思っていたのだが。
冥本が『吸収』したのは“生きた”紅羽。
生きたまま『吸収』されると、仮死状態的な感じになるのか?
「…………!!」
呼吸がどんどん荒くなっていく。
助けられる?どうやったら助けられるのか。
頭の中で様々な考えが浮かぶ。
「……やるしかねぇ」
暴走人間は何故か動いていない。
冥本からの支配から外れたのだろう。
今はもう動かない屍だ。
邪魔は入らない。
「心肺蘇生するしかねぇ……!!」
万が一に賭ける。
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【湊と制圧群】
[暴走人間は沈黙。テレビ局にいた奴らも確保した。作戦完了]
指揮官がそう告げると、ボロボロになった湊は頷く。
まさかテロに加わった一般人が銃を持っていたとは。
盾となって四回くらい死んだ。
「潜一さんとどうやって連絡をつければ……?」
[探してもらおう]
指揮官はサイバー犯罪対策課に電話。
主に指揮官の硬い男の声しか聞こえなかったが、電話越しでは、潜一の後輩である櫻井の「え!?先輩が!?」や、的場の「なんだって!?」という声が聞こえてきた。
[……特定にもう少し時間がかかるな。だが、冥本はお台場に移動したらしい。俺たちは外に出て移動の準備をするぞ]
「潜一さん……」
状況的に冥本は死んだ。
それについては間違いないのだが…………
『聞こえますか!?先輩はお台場の暁ふ頭公園にいます!!』
お台場に特定できていたからこそ出来たスピード特定。
最後まで彼らには助けられた。
[分かった]
そうして彼らは車を貸してもらい、そこへと向かう。
移動すること約数十分。
まだ何かあるかもしれないと警戒して、湊が前に出て捜索。
[もしかしたら冥本の罠かもしれない。警戒しろ]
他の隊員に指示をして、警戒を一切絶やさない。
そんな指揮官以外の隊員達は喋ってる所を全く見たことがないが、そこには確かに人がいることを感じる。
「潜一さん!!」
湊が辺りを見渡した時、倒れている人と、近くに座って呆然としている人間が見えた。
走って近づいたことにより、倒れていた人間が────誰か分かった。
「紅羽さん……?」
完全に倒れている。
そこには生きている感じはしない。
「潜一さん。どうすれば……!」
「……冥本は溺死させた。なら奴に『吸収』された紅羽さんも例外じゃない」
彼の目には光が一切感じられない。
完全に諦めていたのに、いざ紅羽が目の鼻の先にいると……“自分が殺した”と実感してしまう。
[…………救急車を用意しろ]
指揮官が彼女の首に触れる。
フルフェイスのせいで彼の目は見えないが、そこには確かな“熱”を感じた。
「……もう何をやっても…………」
かなり疲れた目をした潜一は諦めの一言を口にする。
[やるしかないだろ!!!]
どこかムキになったように返した指揮官。
拳を強く握り、救急の用意を進めていく。
「……!!」
救急担当のN5がいない状態でも、一般人よりかは知識がある。
指揮官は潜一と湊と共に医療を、残った二人はAEDを探しにいった。
[涼風は人工呼吸をしろ。潜一と俺で心肺蘇生だ]
三人はひたすらに蘇生を試みた、何度も何度も。
諦めることなく、ひたすらに。
[AEDだ。離れろ]
そうして電気が通ったら、もう一回。
港区ではかなりの被害を受けた。
……救急車なんてくるのだろうか。
「紅羽さん!!僕ですよ!!目を覚まして下さい!!」
湊も呼吸するのに精一杯。
もう限界だが、それを超えてまでも紅羽を救おうと尽力している。
制圧群の彼らも、焦りか呼吸が短く早くなっていく。
「戻ってこいよ。こんな所で死ぬ奴じゃないだろ……紅羽さん!!」
最初。
この人についていったのは、惚れたからだと思った。
でも違う。
あんな目に遭ってまでも進もうとする人間に……強く惹かれたのは事実。
(みんな……アンタに助けられて、アンタについていった。それはきっと……一人にしたら何するか分からない怖さもあったんだよな。アンタには)
潜一も拓も他の警察達も、どこか空白さを感じる紅羽の様子にぼんやりとだが気づいていた。
「紅羽さん……拓さんを救った時、泣いてたよな。その前に、どこかぼんやりしてたのはきっと……“目的がなくなった”からだよな」
「……え?」
湊の動きが一瞬だけ止まる。
潜一は動きを止めずにひたすら話しかけ続けた。
そうしないと、彼女が戻ってこない気がしたからだ。
「もし生きて戻れても、アンタは何かするんだろうなぁ……でも、人は目的なくても生きていけるし、生きる“意義”なんて、その内見つかる」
潜一はそのまま続ける。
「だから────戻ってきて下さい!!アンタには……大切な家族がまだいるんだろ!?」
湊の涙がポロポロと溢れた。
薄々……というよりはっきりと感じる、諦めの感情。
制圧群達も黙ってやっているが、どこか悔しさが滲み出ていた。
「戻ってこいよ……アンタにはまだ死んでほしくないんだよ……!」
助けてもらったから。
警察を辞めて、底辺にいるようなところから救い上げてくれた人。
「「紅羽さん!!」」
潜一と湊はただ叫ぶ。
どこかまだ暗闇にいる彼女に、光をさすように。
二人が彼女の手を強く握ったとき────
「!!」
彼女が強く握り返してくれた。
「……紅羽さん?」
「………………ん…………」
[心拍が……再開した]
驚いたように零した指揮官。
紅羽の生命力。
その力強さに。
「紅羽さん!!そのまま寝るなよ!!戻ってこい!!」
「……せん……いち…?…みな……と?」
あまり呂律が回っていないようだ。
ゆっくりと目を開いて、どこか疲れたように手を握り返す。
「…………!!」
「私は……何を……ここは……どこだ?」
なんでお台場に?
……と言いたげな紅羽。
「潜一さんが、冥本の支配から助けてくれたんですよ!」
湊が嬉しそうにそう語ると、紅羽は潜一の方を見る。
「……そうなのか……足を引っ張って……すまな────ん?」
潜一は紅羽の唇に指を置いて、今まで言いたいことを呟く。
それは本心で……直してほしい事でもあった。
「こういう時。ありがとうの方が良いですよ?紅羽さん」
口癖……という訳ではないが、彼女にはそういう傾向があったのだ。
「………………」
「スミマセンはナシですよ?」
ニヤッと笑う潜一。
今はその笑顔が憎たらしくは感じない。
ゆっくりと……彼女は呟いた。
「……ありがとう。潜一、湊」
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……こうして今回のテロは終結。
今回のテロでは多くの人間が理不尽に殺され、弄ばれた。
[…………撤退の準備だ]
指揮官は濡れていないはずのフルフェイスを指で拭き取り、他メンバーに指揮を下す。
静かに、そしてクールに去ろうとしたが指揮官は潜一達の方へと振り向き────
[達潜一!!]
「……?」
[その“頭脳”に感謝する]
最後まで彼らの顔も名前もわからなかったが、そこには一人の人間がいた。
違法の部隊。
対能力制圧群。
彼らの処遇がどうなるか、それは誰にも分からない。
そうして彼らはどこかへと消えていく。
────ここまでだ。紅羽さんもルシアも救えなかった。足手まといなんだ。
「…………」
誰かに褒められるためにやった訳ではないが、どこか充足したようにも、潜一は感じた。
「ひとまず……色々報告しないとな」
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【一ヶ月後:柊家】
今度こそ誰にも邪魔されない場所で、紅羽と拓は再会した。
その涙と嬉しさは本当なのだと、今の彼女はちゃんと理解しているだろうか。
そんな事がありつつ、今日は潜一はお世話になった柊家を去る日。
「潜一。もう行くのか?」
「はい。お世話になりました」
まさか紅羽と拓が、再び酒屋を営業。
“亡き両親の思いをちゃんと継ぐ”と、拓は言っていた。
これからも人生は続いていくのだから。
諦めるのはもったいない。
────
【湊】
彼女は今、ある友達の家にこっそりと行っていた。
芳沢と左馬の協力で、世間の疑いをある程度晴らせたとは言え、不安は残る。
『物喰い関係者と思われていた涼風湊は、警察に協力していたという情報が────』
この事がニュースで流れていた時、自身の目を疑ったものだ。
世間では、物喰いが死んだということは公開されていない。
第二・第三の物喰いを作らないために、強大なテロ組織はいたほうがいい……と、左馬は言っていた。
一番驚いたのは紅羽に記者の知り合いがいたこと。
“武田”という男。
彼に情報を預けたら、今こうして湊は白昼堂々と外に出ている訳だ。
(本当に……色々あったなぁ……)
女学校では“王子様”なんて言われていた湊でも、今は相当気が抜けた顔をしていると自分でも分かる。
疲れた。
死んで蘇る戦いも、全部。
そうしてその家に辿り着いた湊は、ゆっくりとチャイムを鳴らす。
綺麗な一軒家だ。
一人暮らしのアパート住まいの湊にはあまりにも眩しい。
「えぇ!?」
女の子の声。
インターホンのマイクからそう聞こえた。
彼女は勢いよく扉を開け、“彼女”こと咲が湊を驚いた表情で凝視する。
「湊さん!?」
「やぁ。元気……かな?」
「やっぱり……今までニュースでやってたことは全部……?」
「うん。嘘だよ……って言っても信じてもらえるかは分からないケド」
咲から見た湊は、彼女が学校からいなくなるよりも更に筋肉質になっているように感じた。
「クッキー。食べにきたよ?」
「……!!はい……!私この日までずっと練習してきたんです!!」
「あはは……ありがとう」
これから彼女は、世間と……社会と戦い続けるだろう。
でも大丈夫。
彼女には心強い味方がいるのだから。
どこにでもあるありふれた家の一つに、湊は消えた。
────
【晴菜・楓】
堺達、特異対策課の墓。
迅と千景の墓周りには行ってきた二人。
後は堺のみ。
「………………」
本当に頼れる先輩だったと思った時、墓には一人の女性が、堺の墓の前で…………先客がいた。
「あの!」
そうして墓前ですれ違う時、晴菜が思わず呼び止めた。
「もしかして堺さんの……」
「え?あ、はい。元恋人です」
少し前まで泣いていたのだろう。
彼女の目は少しだけ腫れていた。
「あなた達は……?」
「同じ部署に所属していた晴菜と……」
「上司の楓です」
落ち着いたように話す二人に、思わず尻込みしてしまう元恋人。
「危険な目に遭わせたくないから、別れよう。彼はそう言っていました」
「……!でも堺さんは────」
「分かってますよ。あの時は思わず“バカやろー!”……なんて叫んじゃいましたけど、今は違います」
昔を思い出すような目をする彼女。
どこか嬉しそうで懐かしそうな様子だ。
「あの人のやりたい事が出来たのなら、それが私にとっても本望です」
これからも頑張って下さい。
彼女はゆったりとした言葉を呟き、どこかへと行ってしまった。
そうして堺の供養が終わった後、楓は口を開く。
「晴菜。これからどうするんだ?」
「私は……もう少しここに尽くしたら、教官を目指そうと思います」
「教官?いいな、それ」
楓は青空を見て、大きく息を吐いた。
これからの不満や、過去を吐き出すように。
「楓さんは?」
「私は芳沢さんの後を継ぐ。上層部となり、これからも国を守っていくわ」
「良いですね。私も教官になったら優秀な人をどんどん配置していきますよ!」
墓の前で、夢を語り合う。
“私たちがやっていくから心配しないで”
……という意味もあったかもしれない。
ある程度話した後、晴菜も楓と共に歩き出した。
公安の人間としてまだやる事はたくさんある。
そうして二人は、人混みの中に消えた。
────
【和泉】
芳沢の墓の前。
アメリカで研究を進めていた和泉は帰国した。
「前に柊紅羽を診た時、ある種の“空虚さ”を感じた。何かに縛られているような……そんな感じに」
タバコを咥えて、煙を吐く。
その一連の流れが妙に手慣れていた。
「お前もその一人だ。芳沢」
何度火をつけて吸っても、心の奥底は満たされない。
「驚いただろ。俺実はタバコが好きなんだ」
禁煙の為に飴を舐めていたが、今日という今日はいいだろう。……とかなりの数を吸っていた。
特に供養などする事なく、和泉はもう一つのタバコの箱を墓の前に置き、どこかへ去ろうとした時────
「あ!」
「あ?」
一人の少年が和泉を見ていた。
「和泉博士!!」
「う〜ん?……あ!!あの時のガキか?」
和泉に生きる意味を説いてきた、変わった子供。
まさかの再会だ。
「どうして墓の前でタバコを?」
「こいつにもタバコの美味さを教えていたんだよ」
「副流煙じゃおいしさなんて伝わらないんじゃ…………?」
「かもな」
嘲るように笑うと、少年はどこかへ行こうとする和泉を止める。
「面白い話、また聞かせて下さい!!」
「……………………」
そうして暫く考えた後、時計を見て和泉は呟く。
「いいぞ。暇だからな」
そうしてタバコを吸うのをやめて、少年についていく和泉。
生きる意義を考え続けてきた和泉も、その答えはいつでも曖昧だった。
きっと、それ以上の考えが浮かばないことが分かっていても、考えることをやめない。
「若いから意義を見つけられない事も、歳をとったから見つけられるわけでもない。誰もがそれを知る権利があり、見つける権利がある」
「…………?」
「だが心配する事はない。必ず見つかるさ」
なるほど〜と互いに意見をぶつけ合いながら、二人の博士はどこかの街へと消えた。
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【潜一と紅羽】
「そうか……みんな頑張っているんだな」
「そうですよ」
どこか軽く返した潜一。
その目には悩みなどなかった。
「潜一は?これからどうするんだ?」
「警察に戻ります」
「はぁ!?」
「あの人たちには俺の力が必要不可欠なんでね」
彼の冗談は、いつも本当なのか本当じゃないのか分からない。
本当にそう思わせてくれるから。
「そうか。元気でな」
「はい。紅羽さんも家族と仲良く」
そうして頭を下げた潜一は、どこかへと行こうとした時。紅羽の頭には今まで共闘してきた人間の顔が浮かんだ。
「潜一!!」
本当にそうだったかは分からない。
でも、そんな気がした。
ゆっくりと紅羽へと振り向く潜一。
彼女はあまり見せた事のない笑顔を向けて、大声で叫ぶ。
「本当に……本当に…………ありがとう……!!」
そんな紅羽の顔は、
今までで一番、
美しかった。
少しだけ考えたポーズをした潜一は、こう返した。
「どういたしまして!!!」
潜一も、屈託ない笑みで返した。
大きく手を振り、今度こそ彼は警視庁へと向かう。
これからも障壁となるものはあるだろう。
それでも…………彼の歩みは止まらない。
「紅羽〜?こっち手伝え!!」
元気の良い拓の声。
急いで紅羽は酒屋へと走る。
「今行く!!」
彼女の復讐も、目的も……全て終わった。
人生は、それでもこれから。
彼女達はまだ────始まったばかりの人生なのだから。
Fin.
【ここから先は長い後書き】
と言う事で、ここまで読んでくれた方へ……
本当にありがとうございました!!!
二作目を完結させるというのは嬉しいものです。
誤字修正に関してはゆっくりやっていきます。
前作は約130話という長い冒険でしたが、今作は「ここはこうでここはこう」を徹底したのが幸いして50話で終わらす事が出来ました。
実はFile.1の前、酒鬼の第一話の作風イメージは前作のような異能力系バトルを想定していたのですが、考えが変わり今のような作風になりました。
ネガティブな話、一話との整合性をとる為に少しだけ四苦八苦したところもありましたがいい思い出です。
そして!!これから何をするかなんて一ミリを決まっていません!!
なんかのエッセイに再チャレンジしようかな?
取り敢えず!!
以上です。
ここまで読んでくれた方ありがとうございました。
感想など送ってくれると嬉しいです。
またどこかで会いましょう




