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灰の傭兵と光の園~人型兵器が、泥と血と油の中で唸る。装甲が砕け、信念だけが削れていく~  作者: 青羽 イオ
第一章 白帯を歩く子どもたち

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第3話 後編 二重の空、灰の翅

 退く流れに逆らって、群れの外縁から装甲厚の巨体が前へ出た。背後には、まだ数十の蜘蛛型が地を這っている。


〈アキヒト〉『VOLK-2、面を削れ。薄く開いたところへ95mmを投げろ。VOLK-3は跳躍だけ追え』


〈ゴーシュ〉『了解。95mm残り8。先にガトリングで押し返す』


 ブルロアーが腰を落とし、140mmガトリングを抱え込む。回転が立ち上がる低い唸りの直後、重い火線が群れの中腹を横に削った。密度の芯だけを外して薄くする撃ち方だ。


 群れが一瞬だけ薄くなる。


 その隙間へ、右肩の95mmショルダーランチャーが上を向いた。短い発射音。榴弾が灰霧を割り、奥で連続して弾ける。破片が脚関節の腱を断ち、支えを失った巨体が前のめりに倒れた。倒れた個体に後続がぶつかり、塊が崩れる。


〈リュウ〉『前列の生き残り、順番に落としていく。噴出孔を優先する』


 センサー表示の赤が減っていく。その瞬間、HUDに警告が割り込んだ。


〈ノルン〉『跳躍個体。白帯到達まで残り3秒』


 アキヒトの視線がフロントモニタの隅へ跳ぶ。


 白帯の縮小映像。杭灯の点滅。避難列の真上へ、跳躍個体の影が落ちかけていた。


 白帯側のラインガードの弾線が脚を叩く。遅れて火花が散り、巨体の軌道が崩れる。落ちる。そうなるはずだった。


 だが灰の流れが折り返し、落下のタイミングがずれた。巨体が一瞬止まったように見え、次の瞬間に落ちる。


〈ノルン〉『白帯到達まで1.2秒』


 間に合わない――


 白い道の上、子どもたちの列が続く。先頭には引率らしい若い女が一人、何度も振り返って列を数えている。その真上へ黒い影が落ちていく。


 届くな。


 言葉にする前に、アキヒトは表示だけを追った。


 白い光の手前で脚が折れ、地面へ叩きつけられた。巻き上がった灰が白帯の縁をなぞるように流れる。


 列の最後尾の子どもが足を止め、小さな顔を横へ向けた。視線の先、腕を伸ばせば届く距離に折れた脚が地面に突き刺さっていた。


〈ノルン〉『白帯到達回避。着地地点。白帯外縁より2.4メートル』


 2.4メートル。次が同じとは限らない。


〈アキヒト〉『パージ。押し切る』


 指先の入力で左腕のシールドがラッチを外し、重い板が滑り落ちる。守りを捨てた分、機動力で押し切るしかない。


 シールドが地面に触れる直前、背部左側のマイクロミサイル・ポッドが起立した。


 発射音が短く重なる。小型ミサイルが灰霧へ飛び出し、一定距離で子弾に分かれて扇状に広がる。


 群れの先頭列の足もとで小さな爆発が連鎖した。脚だけを狙った弾頭が関節の腱を断ち、支えを失った巨体が次々と前のめりに倒れていく。


〈ノルン〉『マイクロミサイル残弾ゼロ。補給まで使用不可』


 ゼロ。遠距離の切り札は尽きた。ライフルの予備マガジンはあと2本。残るのは近接だけだ。


 だが倒れた個体の上へ後続が雪崩れ込み、自分たちの重さで脚を折り、甲殻を砕き合いながら塊が崩れていく。センサーの赤がいくつもまとめて消えた。


 アキヒトは背部ライフルを引き抜き、近くに残った1体へブレードを押し込み、動きを断つ。立ち上がる前に、跳ぶ前に、白帯へ向ける脚を残さない。


〈ノルン〉『敵集団。残存数推定12。白帯到達前の全滅見込み95%』


 95%。確定ではない。


 最後の数体が脚をもがれ、地表を引きずられながら倒れていく。アキヒトは踏み込みを止めず、倒れきらない個体の関節へ刃を入れ、支えを奪った。


〈ノルン〉『敵集団。残存数ゼロ。主電7%。これ以上の戦闘継続は非推奨』


 報告が落ちる。緊急度が一段下がり、次の手順に移れる。


 *


〈ラインガード〉『白帯への侵入なし。列は維持中。避難列の歩調は維持せよ』


 背後の回線から報告が入る。アキヒトは送話キーに触れたまま、モニタ表示を切り替えた。


 戦闘映像が縮小され、画面の一角に白帯の様子が映る。杭灯とパルスラインの点滅は一本に戻り、灰の流れも前へ揃いはじめていた。


 真ん中には見慣れない服の子どもたち。外側を大人が挟み込むように歩く。先頭には若い女が一人、列を振り返って指先で数えている。


「はち、きゅう、じゅう。よし、全員いるね」


 震えのない声で確認し、前を向いて歩き出す。子どもたちは隣の手を握り、白い道の上に並んでいた。


 列の中に一人だけ、手を繋がずに歩く子どもがいる。両腕を胸の前で抱え、誰の手も取らず、前だけを見ている。その横では、別の子どもが隣の手を両手で握り、離さないように歩いていた。


 アキヒトはモニタ越しに列を追い、数値へ戻す。


 主電7%。冷却余裕78%。マイクロミサイル残弾ゼロ。予備マガジン2本。


 ぎりぎりだった。あと1分長引けば弾が尽きていた。跳躍個体が2.4メートル内側に落ちていれば、白帯を越えられていた。運の要素は否定できない。だが現場では、それも含めて結果でしかない。


〈アキヒト〉『周囲を20分巡視する。異常がなければ帰投だ』


〈ノルン〉『現状の主電と冷却では、20分の巡視は推奨範囲外』


〈アキヒト〉『分かってる。それでも20分だ』


 操縦桿をわずかに倒し、ストレイ・カスタムの脚を灰の上へ踏み出す。


 白い道はまだ光っている。その外側を歩き続ける。


 コクピットの中に苦味が残っていた。舌に張り付いて消えない。


 

――次回、

第二章 守る者たち

第4話「避難艦、今夜だけ町」へ続く


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