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灰の傭兵と光の園~人型兵器が、泥と血と油の中で唸る。装甲が砕け、信念だけが削れていく~  作者: 青羽 イオ
第三章 番号ではなく、名前で

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第15話 前編 抑止線、崩壊

 白帯外縁の高台、砕けた縁石の陰にリュウのレイヴン・アイが身を伏せている。少し離れた場所ではポチのブレイン・モールが腹ばいに近い姿勢で伏せていた。

 橋脚手前の路面でアキヒトはヒロのヴァルケンストームと並び正面からの射線を受けていた。


 その先の道路上でヘルマーチの黒緑のRFが2機、橋脚に向けて途切れなく射撃を続けていた。


〈リュウ〉『B3、こちらから狙撃は届く。ただし先頭機と後続機の両方に射線を押さえられてる。砲身を上げた瞬間に先頭に抜かれる』


〈ポチ〉『ドローンで牽制継続。この位置より前に出すと白帯外縁がガラ空きになる』


〈ヒロ〉『了解。リュウ、ポチはそのまま外を抑えろ。B3はこっちで受ける』


 グレイランス戦術室ブリッジの回線が割り込んだ。


〈ブリッジ〉『ヘルマーチ後続機、砲種変更。狙いは橋の中央。白帯の真下を撃ち抜くつもりだ。B3、射線を切れ!』


〈ラインガード〉『B3小隊、白帯区画Cの外側に出ろ! 白の真横で盾列を敷く。避難列、止まらないで進め——』


 言葉が整いすぎている。息も足音も周囲の音も混じらない。遠い場所の声だとアキヒトは耳だけで分かった。


「走らないで!」


 白帯の上で誘導員が声を張り上げた。


 スケルトンが2機、導光ラインの外側へ飛び出し白い線を挟むように橋の中央付近まで身体を滑らせる。


 頭上の白帯で避難民の列が波のように揺れた。立ち止まろうとする者と後ろから押される者。子どもの肩を抱き寄せる腕が白い線を踏み越えないように必死に押し返す。


 避難列の先頭で誰かが灰に足を取られて膝をつき後ろから来た影が重なる。


 アキヒトの耳に金属同士がぶつかる乾いた音が届いた。先頭機のさらに後ろで後続の黒緑機がランチャーを撃つ。


 1発目の衝撃は音より先に地面を通して足裏にのしかかってきた。頭上の高架がうなり橋脚ごとコンクリートがきしんだ。


〈ノルン〉『B3区画路面:振動値上昇。内部コンクリートに亀裂進行を検知』


〈ラインガード〉『ハンドレール右側、沈み込んでる! 上の列、足元注意!』


 今度の声は割れていた。叫ぶ合間に息が入りすぐそばの金属音が一緒に飛び込んでくる。


 (逃げろ……早く橋から離れろ)


 頭の中でその言葉だけが何度も浮かぶ。走ったところで全員が間に合う距離じゃない。どちらにしても助けられない人間が出る——その事実だけはもう動かなかった。


 導光ラインは何事もなかったように点滅を続けていた。


「走らないで! 落ち着いて! 押さないで、前の人について橋の端まで下がって!」


 無線の向こうで誘導員の声が悲鳴に変わる。HUDの隅の映像ではスケルトンが足を踏ん張り傾きかけた杭灯ごと白帯側へ支えようとしていた。


 その背中に2発目が来た。


 低く嫌な音だった。乾いた破裂音ではない。湿ったものを押し潰すような重く濁った衝撃。ストレイ・カスタムの足裏から橋脚を伝って鈍い振動が這い上がり全身に響いた。頭上の橋がぐっと沈んだ気配がした。


〈ノルン〉『B3区画路面:振動限界値超過。構造安定率、急速低下中』


 HUDのサブモニタの中で白帯の導光ラインが目に見えて歪み始めた。縁を照らす杭灯の一本がわずかに内側へ傾く。その足元のハンドレールも白線ごとゆるく沈んでいく。


 現実の視界では橋脚の根元のコンクリートが粉を吹き細かな破片が灰原へぱらぱらと降り始めていた。橋脚を伝って揺れが来る。黒緑の足首が半歩だけ沈み荷重が前脚に移る。


 (止まるな。踏みとどまっていいのは——死ぬ時だけだ)


 昔の声が骨の奥でかすかに鳴る。


 (踏み込む。だが今は突破するためじゃない)


 自分の声がその上から割り込んだ。かつては敵列をこじ開けるために前へ出ろと叩き込まれた脚だ。今その一歩を白帯の前で相手の足を止めるために使う。


 目の前のヘルマーチ先頭機はあの頃の訓練どおりに動いている。沈み込みを殺さず二度目の踏み込みで砲口をぶらさずに距離を詰めようとしていた。


〈アキヒト〉『……このままやらせたら橋ごと落ちる』


〈ヒロ〉『分かってる。先頭はここで止めろ。抜けられたらまた撃たれる』


 言葉を最後まで聞く前にアキヒトは前へ出た。


 (撃たせない)


 左腕を突き出し外付けパイルバンカーの先端を黒緑機の胸部装甲中央に押し当てる。


 トリガーを引いた瞬間LSL越しに左腕の内部で溜め込まれていた圧力が一気に抜ける感覚が走る。


 返ってきたのはよく知った手応えだった。硬い装甲が割れその奥の骨格フレームを押し砕く鈍い衝撃が腕を通して伝わってくる。


 そのさらに奥で異質な抵抗が続いた。金属でも樹脂でもない輪郭のぼやけた柔らかな何かがパイルの進行を受け止めている。


 それが何かを考えるより早く背筋が冷えるような嫌な感覚だけが静かに残った。


 パイルの先端がコクピットを貫き止まる。黒緑の機体から力が抜け砲口がわずかに空を向いたかと思うとそのまま膝を折って沈んでいった。


 圧を逃がしきれなかった油圧シリンダが軋み左腕内の警告灯が視界の隅で明滅する。アキヒトは歯を食いしばりゆっくりとパイルを引き抜いた。


 装甲の裂け目から束になったケーブルのようなものがつられて引き出される。途中で千切れた断面から潤滑油とも血液ともつかない黒い液体が染み出しパイルの軸を伝って腕部ユニットを汚していった。


 LSL越しにその重さだけが妙に鮮明に伝わる。


 跳ね返った負荷が固定金具を痛め接合部が順に悲鳴を上げる。次の揺れで外付けパイルバンカー・ユニットは左腕から外れ灰でくすんだ路面へ転がり落ちた。先端には千切れたケーブルの断片と黒く濁った液体がまだ絡みついている。

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