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灰の傭兵と光の園~人型兵器が、泥と血と油の中で唸る。装甲が砕け、信念だけが削れていく~  作者: 青羽 イオ
第三章 番号ではなく、名前で

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第13話 後編 白帯B3:危険度 高

外の撃ち合いが、少しずつ音を変えた。


 さっきまで続いていたカルディアとグラウバッハの砲声は、同じ辺りを行ったり来たりする撃ち合いの音だった。今は違う。火花が遠くの一点に寄りそこを軸に灰煙が渦を巻いている。


〈ノルン〉『新規反応複数。方位015、距離2,000メートル、速度200km/h。動きが企業傭兵の型と違う』


 ノルンの表示が一瞬だけ暗転し新しいアイコンが地図上に並んだ。

 アキヒトは視界左上のウィンドウを拡大する。灰色の背景に、濃い赤の三角が3つ、遅れてもう2つ重なった。


〈ブリッジ〉『識別コード、不明RF群』


 ジルの声が、少しだけ低くなる。


 外の景色が、変わっていく。


 カルディア側の紺色装甲が横一線に散った。


 代わって、グラウバッハの砂色機体の列の向こうから──

 黒に近い濃緑の機影が、姿を現す。


 肩と膝には、鋭く走る赤い斜線。胸部装甲の中央には、片翼を折ったような紋章が刻まれていた。


〈ラインガード〉『識別。ヘルマーチだ。なんでここに……』


 橋の上で、誘導員の声がかすかに上ずった。

 アキヒトは舌の奥が勝手に苦くなるのを感じる。


 ヘルマーチの機体が、カルディアとグラウバッハのあいだへ割り込んだ。

 普通なら撃ち合いの線が乱れて、いったん距離を取るところだ。だがカルディアもグラウバッハも、ほとんど反応できていない。


 肩をかすめる被弾を無視し、黒に近い濃緑のRF群は砲火の中を突破して高架へまっすぐ詰めてくる。


〈ブリッジ〉『ヘルマーチ確認。企業案件ではない。白帯への接近を阻止する。VOLK、ラインガード、優先対象をヘルマーチに切り替え』


〈ヒロ〉『こちらVOLK-6、了解した。外でやり合ってる連中は放っておけ。白に近づくやつだけ、確実に仕留める』


 ヒロの機体がわずかに前へ出る。

 ヴァルケンストームのトンファが白帯と並行に持ち上がり、その内側に白い線を挟み込むように構えられた。


 ヘルマーチの先頭機が、灰原の浅い窪地の手前でぴたりと動きを止めた。地雷を踏み抜いたかと錯覚するほどの急停止だ。

 膝のサーボが沈みきるより先に、上体だけがねじれ、砲口が橋を正確に捉える。


 (……止まりが軽すぎる)


 アキヒトは眉を顰めた。

 あの速度から急停止すれば、普通のRFならフレームごと前にあおられ、首か腰のサーボがわずかに遅れて反応するはずだ。だが相手機は、慣性を無視するかのように上体の揺れを抑え込み、風に押された程度の微かな振れしか見せない。


〈ノルン〉『ヘルマーチ識別信号を持つ未知RF群。反応の遅れ方が不自然。操縦の動きが、人の感覚と合わない』


 HUDの隅で、ノルンの解析文字列が冷たく流れる。


 さらに続く、黒に近い濃緑のヘルマーチ機が、カルディアの列の背後から割り込んだ。

 前の機体の肩をつかみ、その装甲ごとグラウバッハ側へ押し出す。紺色のカルディア機がよろめき、砂色の砲列とのあいだに細い射線の筋ができた。


 ヘルマーチ機は、その線にぴたりと身を重ねる。カルディア機を壁代わりにしながら、その隙間を減速なしで滑り、砲火の筋をこじ開けて高架へじりじりと距離を詰めていく。

 どこから撃たれても振り向かない。ただ白帯と高架だけを見据え影ごと押し出されるように前へ進み続けた。


〈ラインガード〉『おい、白を見てるぞ。あいつら、白を──』


 声が途切れた、その瞬間。

 2機目のヘルマーチが砂色機の脚を蹴り砕き、倒れた機体の脇腹に脚を「置く」。沈みこんだ足首が一度うなり、そのまま残骸を踏み台にして跳んだ。


 低く鋭い飛翔で、灰原の窪地を一息に越える。着地の瞬間、足首がもう一度かすかに沈み、そこから前滑りへと引き出される。衝撃は白い霧に吸い込まれ、機体はぶれることなく、そのまま前へ転がされていった。


 アキヒトは握った操縦桿に力を入れる。

 あの沈み方と、すぐあとに来る引き出し方を、知っている。


 脚が路面に「置かれた」瞬間に一度沈み、LSLが荷重を前への滑りに変える。

 減速に入る前、腰がもう一度、前へ引き出される。


 減衰が薄い。

 脊髄を素通りした信号が、そのまま骨ごと機体を蹴り出してくる感覚──純正のLSLじゃない。


 接地から前への滑走、減速に入るまで。全部が1つの塊になった、あの突っ込み方だ。


 視界の端で、ストレイ・カスタムの姿勢マーカーが震える。

 相手機と、同じリズムで。


 ――知っている。

 この動きを、身体が覚えている。


〈アキヒト〉「二度踏み込みだ。減衰抜きのK-LSLの踏み方──ヘルマーチの訓練、そのまま」


 口が勝手に動いていた。

 無線が一瞬だけ空く。


〈ヒロ〉『聞こえた。続けろ。読めるなら、「先」を教えろ』


 ヒロの声は淡々としていた。そういう声が、いちばん怖い。

 驚きでも詮索でもない。ただ、指揮官が要る情報だけを抜き取ってくる。


 ヘルマーチの先頭機が、白帯の境界線を視界に入れる位置まで来た。

 高架の縁ギリギリまで進む。


 砲口が持ち上がる。

 狙いは白帯じゃない。高架の中央部だ。


〈アキヒト〉「あいつら、高架を落とす気だ」


 橋ごと折れば、この区間の白帯はまとめて死ぬ。


〈ラインガード〉『高架を? ここは、高速の旧本線だぞ。ここが落とされたら、カルディアの北が全部止まる』


〈ヒロ〉『分かってる。ラインガード、B3区間を即時封鎖しろ。橋の北端と南端で列を止めて、橋の上にいる避難民を端から下げろ。これ以上、中央に人を残すな』


〈ラインガード〉『了解。B3白帯、橋上封鎖に移行! 誘導員、列を2手に分けろ。北行きは北側ランプへ、南行きはその場から引き返せ!』


 白帯の上で誘導員たちが一斉に動き出す。

 橋の北端ではまだ高架に上がりきっていない列が押し返され、坂を下って後方ハブへ戻されていく。

 南側では資源都市へ向かっていた人たちが、橋の出口へ向けて向きを変えさせられていた。


 だが、橋桁の中央付近まで来ている親子連れや荷車は、すぐには向きを変えられない。狭い白帯の上で、人と荷物がもつれ、列はその場で詰まり始めていた。


〈ブリッジ〉『依頼元はカルディアじゃないってことだ。アストレイアか、どこかの頭のいい連中さ』


 ジルの声が、かすかに笑いを含んだ。

 その笑いが本心からのものではないことは、アキヒトにも分かった。


〈ブリッジ〉『繰り返す。ヘルマーチの白帯接近を阻止。高架中央部への射線を切れ!』


 アキヒトは操縦桿を握り直した。


 ――来る。


――次回、第14話「白帯B3/崩落ライン」へ続く

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