1
やめて……!
お願いだから、もうやめて!
どうしてこんな事するの?私が何をしたって言うの!
ーなんだ、お前のその髪の色は。俺たちロマリア人はみんな、淡い金髪なんだぞ!
ーそうだ、そうだ。そのどす黒い髪の色、お前の母親が野蛮なトゥダール国の奴らと浮気して生んだ子供なんだろ!
違う、そうじゃない。何度そう答えても、彼らはひどい言葉を止めてくれなかった。
-顔をやれば、ばれちまうからな。
彼らは口元に笑みを浮かべながら、誰にも見つからないような場所を選び、私のお腹の上を何度も何度も蹴りつけた。
声も出せず、私はただ黙って耐えるしかなかった。
涙が頬をつたう。
もういや、だれか助けてっ……!
「ローザ。そろそろ起きなさい、遅れるぞ」
それはローザの父親カジン・ナビの声。ローザはベッドの上から、扉の向こうから覗き込んでいる父親を見返した。
「どうした?悪い夢でも見たのか?」
「……ううん、なんでもない」
ローザは小さく頭を振った。
「なら、いいが。そろそろコーシュ将軍が街に入られる時間だ。ニキヤと約束してるんだろ?早く用意をしなさい」
そう言って部屋を後にする父親を見送ると、ローザは小さく溜息をつき、横にある水おけで顔を洗った。ひんやり冷たい水が汗ばんだ頬に心地いい。
「……ひどい顔……」
水おけの上にある鏡に映っている自分。幼いころいじめの理由となっていた黒ずんだ金色の髪は、18歳を迎えた現在では色素も若干薄くなり、それほど人目を引くものではなくなっている。もちろん、今ではいじめを受ける事もない。
でも。
それでも。
幼い頃に受けたあの凄惨な記憶は、時々こうやって夢となってローザを苦しめる。
「ダメね。いい加減に忘れなきゃ」
今の自分には何よりも大切な存在がいる。
いじめられている私の為に、たった一人で立ち向かってくれたニキヤ。
ニキヤがいればそれだけでいい。他には何も望まない。
それでよかったはずなのに。
この日、ロマリア王国の若き英雄コーシュ将軍が隣国との戦に大勝利を収め、マムルワ王家の夏の宮殿青星宮への凱旋行進を行ったこの日を境に。
一介の町医者の娘に過ぎなかったローザ
ローザの親友であり、ロマリアでも屈指の舞姫と称されるニキヤ
ロマリア王国の若き英雄将軍コーシュ・シセイ
彼らの運命が大きく動き出すこととなる。




