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No.42 きっかけは苦い記憶


No.42 きっかけは苦い記憶






────その瞬間、前世の苦い記憶が蘇った。



あれは社会人になる前、私がまだ就活生だった頃・・・とある企業の集団面接の時の事だ。


『今、君達の目の前にはブレーキの掛からないトロッコが向かって来て居る。後方には2つに分かれたレール。レールの先には動けない1人の人間、もう片方にも同様に動けない5人の人間。彼らを動かして、レールの外に運び出す時間的猶予は無い』


『そんな君の横にはトロッコの進行方向を変える為のレバーが存在する。そのレバーを操作すればトロッコの行き先を変える事が出来る。さぁ、君達はどちらを犠牲にする選択をするかな?順番に1人ずつ意見を聞こうと思うから今から5分で考えて』



後になって知ったが、有名な質問だったそうで、正解など無くその状況で、どの様な考えで選択をするのかを見定める為の物。


その前提が無かった私は、悲しくも返答する順番がトップバッターで他の就活生の意見を参考にする事も出来ず、この質問に馬鹿正直に答えてしまった。



「私がその場でトロッコを抑えれば、後方の誰にも犠牲者を出さずに済みます。エンドラインであるレバーを引く必要がありません」


『そ、それは・・・うーん、でもそのトロッコが君の抑えられるレベルのスピードでは無かった場合は?』


「・・・そうですね・・・その場合は、私がギリギリまで前方に出て、早い段階でアプローチします。私の体でスピードが弱まるかもしれませんし、万が一私の体がトロッコとレールに巻き込まれれば、トロッコが止まるかも知れませんので、最悪後ろの誰にも犠牲を出さずに助ける事が出来るかと思います」



私のせいで誰かを失う事に罪悪感を覚えるくらいなら、私自身で先に出来る事をしたい。例え自分が被害を被ろうとも。


そんなニュアンスで堂々と答えたのだが、結果としてその場にいた面接官と就活生全員をドン引きさせてしまった。当然、面接も無事落ちた。


この自己犠牲思考が故に、その後就職した会社は見事にブラック企業だったと言う話で。

いや、まぁそれは良いのだ。



その時の質問と、今の状況が似通っている様な気がしたのだ。


助けなければならない存在が、後方に2つ。

前方には迫り来る敵、その間に立って居る私。


きっとあの面接では私の意見は間違いだったのだと思う。けれど、同じ状況に身を置いた今なら分かる。



「あの時の答えは、間違って無い」



私は結局、自己犠牲型なのだ。他人が辛い思いや、苦しんでいる姿を見て見ぬふりは出来ない。例え自分が火の粉を被ろうとも!!!



両手を広げワームに真っ向から勝負を挑む。と言っても私に出来る事は、私自身が壁になってワームを止める。ただそれだけ。



初めの頃に出くわした大きな鹿の時とは、比べ物にならない衝撃が身体に襲い掛かる。

踏み締める両足は、ワームの重みと衝撃でビキビキと地面に沈んで行く。


「くっ・・・!!」


抱え込む両手もギシギシと軋む。

私の防御力はこのワームよりも上なのだろうか?このまま抑え込めるのだろうか。


衝撃波でギルドに借りた制服は、耐え切れずに所々千切れ始めて来た。



良く見ると手や腕が擦り切れ、顔に血が飛んで来ている。

限界なのだろうか?こんな物なのか、私の力は?グランさんやヴィクターさんにかけてもらった期待をここで失って良いのだろうか?


「冗談っ・・・!!!」


────まだ、まだ出力を出せる筈だ!!!


だって、剣を・・・ミスリルを砕いたんだ。あり得ないと言われたけど、確かにあの時あの瞬間にそれ程の力を出せた。


「うぐっ・・・」


腕の力で押さえ込んでいたが、徐々にワームの口が眼前に迫って、上顎の歯が左肩にゆっくりと食い込み始めた。

恐らくワームの顎の力を持ってすれば、この歯は私の身体を通る。噛み砕かれる!!


顔を歪め、額に脂汗が滲む。腕の力はもう限界点を迎えそうだったそんな時、ワームの向こうに、下層から駆け上がって来てくれたであろうヴィクターさんの姿が見えた。


一瞬の安堵・・・だが直ぐに、助けて貰えると縋った気持ちを恥じた。


助けて貰うって何だ、私はトロッコに挟まれれも後方のために、ここで止め切るんじゃ無かったのか?


一人前の冒険者になって、貰った物を返すのでは無いのか!?


掛けて貰った期待と親切を・・・恩を仇で返して、それで「ありがとうございました、助かりました」とでも言うのか?

いつまで?ずっと?強くなる迄?



"いつまでも新人気分でいて貰っても困るんだよね"



「新人、でも私は、戦える筈だっ!!」



心臓が大きく脈を打つのを感じる。心の中にボゥ・・・と何かが点る感覚。

思い返せば、あのヴィクターさんの剣を砕いた時もこんな感覚だっただろうか?ヤケクソでもどうにかしてやろうって・・・


そう振り絞る様、瞬間的に力を込めた時だった。ふと、ある言葉が浮かんだ。それはかつて、前世のテレビでよく見たあの・・・



「フャイト───・・・でぇ・・・」


心の燈が燃える、腕に、全身に力が巡る。


「いっぱぁぁぁぁつつつっ!!!!!」



叫んだ瞬間、先程までの疲労感と消耗感が消え去り、寧ろ更なるパワーが漲って来た。

限界を迎えそうだった両腕は再びワームを押し返す。



「───新人舐めんなぁぁぁぁぁぁ!!!!」



溢れんばかりのありったけの力を込め、巨体を上空へと投げ飛ばした。

ワームはその勢いのまま、天井の岩肌に打ち付けられて、ドパァンッ!!!と豪快な音を立てて破裂した。


後からヴィクターさんに聞いたのだが「ワームはあり得ないスピードで投げ飛ばされていたぞ」と言っていた。



降り注ぐワームの緑色の体液を全身に浴び、ヴィクターさんの方を見ると、突然の事に驚き固まっている。そんな中、私は朦朧とする意識で「すみません、素材無くなっちいました」と申し訳なさそうに笑った。





────そこからの記憶は無いが、僅かに誰かに抱えられ、揺られている感覚がした気がする。






.

2日連続で6話分アップしました!


ネトコン14の締切日が本日でしたので、区切りの良い所迄、アップしたかった事と、タイトルにあるエナドリ系バフの意味を回収しておきたかった事もあり、急遽の更新でした。



この作品の方向性と言いますか、タイトル部分のやりたかった所が42話で、ようやく出す事が出来ました!



バフの正体、つまりは、そう言う事になります。


ギャグかと聞かれれば、ギャグです(*'ω'*)



物語の本筋は真面目王道(?)ファンタジーとして行きたいと思っております。

今後ともよろしくお願いします。

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