No.40 得意
No.40 得意
【ジルニードside】
最下層に向かって道を進む。
出来る事ならば、もう少し早い段階で邂逅してしまいたかったが、ドワーフ達との予期せぬ遭遇。しかも、ワームに見つかり襲われているときた。
縄張りの中に侵入している我々は、排斥対象でしかない。
「鉱山の中に居るうちは、侵入しなければこう着状態のままだが、気紛れにこの国自体を縄張りとし始めたら被害は計り知れないな・・・」
ワームは陽の光に弱く地中で暮らしているが、陽の光が無い夜間は地上に出る事も可能だ。夜の間に国中で暴れられたら、一晩で国が壊滅する事は想像に難く無い。
数回に渡り縄張りを荒らされた事に腹を立てているのであれば、今日中にカタをつけた方が良い。
最下層の集積場手前で足を止める。
中からワームの殺気は感じられない。縄張りに侵入者の存在を把握しながら、ここ迄の進行を許したのは、来訪者を自分にとって有利な場所まで進ませる為。
最後の集積場は鉱山の設計図によると、行き止まり。つまり、上の階に上がる以外の横穴が設けられていない。
敢えてその場を選んで居るとした時に考えられる可能性としては、過去の討伐作戦に置いて自分を脅かすようなモノがここに存在しないと知っているから"逃げる"必要が無いのだ。
それは、逆に侵入者に取っては不利だ。
攻撃を避ける為の安全地帯が存在しない、ただ広い空間で巨大なワームと戦うしか無くなる。
光の魔法石を一つ掴み、集積場の入り口を潜る。まだ、殺気は無い。
一歩、二歩と進み続ける。
俺がワームの立場なら、侵入者がこの空間に入った時点で・・・
俺が魔法石を空中に投げた瞬間と同時に破壊音が響き、何が崩れる音がする。
空を舞う魔法石は魔力を発し、煌々と輝き照らされたのは落石で封鎖された入り口と、上部の空間にギチギチと収まり、こちらに殺気を飛ばす巨大なワームの姿。
「随分とご立派な体躯だな」
腰の剣をゆっくりと抜き、構える。
「その規格外の強さ、試させて貰う」
地を蹴り、未だ降りて来る気配の無いワームに先手を取る。
どの程度硬いのかを確認する為の一刀目、胴部に振り下ろしたのだが・・・
ガァンッ!!!
剣とぶつかり合ったワームの表皮は火花を散らす。さすが、希少鉱石を喰らって居るだけはある・・・軽く傷が付いた程度だ。
一撃を入れられた事でようやく戦闘態勢に入ったワームは、空中で体勢を崩すはずの俺に向かって来る。
硬い岩を砕き、鉱石を喰らう為に進化した顎と牙を携えて。
「・・・残念だったな」
風魔法を得意とする俺にとっては、空中戦こそ本領。難なくワームの頭を交わし、空に魔法陣を描き足場にする。
だが、留まるつもりも無く再びワームの胴体へと剣を打ち込む。
今度は、一撃を入れたら離脱し、再び魔法陣を足場にして方向転換。
連続してあらゆる場所に攻撃を浴びせる。
「お前にとって、有利な状況に持ち込んだつもりの様だが、俺にとっても有利な状況だ」
ワームの体で満たされた、動く余地の無い空間に留まられたら正直面倒ではある為、広い空間に誘き出す必要もあった。
だが、ワーム自身もある程度暴れられる広さは必要だった訳で、結果としてお互いに得意なフィールドでの戦闘。
「・・・大体の硬度とスピードは分かった。少しだけお前を甘く見ていた様だ・・・《スワイヴ》」
手にする剣を、マジックバッグの中の物と入れ替える魔法。
掌から消えた剣の代わりに現れたのは、金色の光を浮かべるオリハルコンの大剣。
普段は魔法を併用して戦闘を行う為、魔法の伝導率が良いミスリルや、白金を主材とした剣を使用している。先程まで使用していた物もそうだ。
反対に、オリハルコン製の剣は全く魔力を通さないが故に剣技が物を言う。
加えて、その重量が他の金属とは一線を画し、扱うにはかなりの基礎能力を必要とする為、使用者を選ぶ武器となってる。
「お前に俺を攻撃する機会をやる。全力で挑んで来い」
地中を我が物とし、好き放題している魔物だ。さぞかし俺が気に入らない事だろうと、剣を構え挑発する。
言葉の意味は分からなくとも、雰囲気で察する筈だ。
『一刻も早くこの邪魔者を排除しなければ・・・』と
すると、ワームは聞いたことの無い奇声を上げる。俺からの圧に怯んだのか、自尊心を傷付けられた怒りなのか。どちらにせよ、互いに譲る気の無い事だけは伝わった。
「───来い」
先に動いたのはワームだ、その巨大な身体を使った体当たり。全てを砕き飲み込む口は、恐ろしい程の数の歯を剥き出しにして向かって来る。
だが、こちらは動かない。ワームとの真っ向勝負を正面から受ける。
ガガァァァアン!!!!
剣と牙がぶつかる。
攻撃を浴びせた表皮と違い、ワームの巨大な全身を乗せた体当たりの衝撃が剣の持ち手に伝わって来る。
並の冒険者ならこの攻撃で、吹き飛ばされるか衝撃に全身の骨を砕かれるだろう。そのくらいに凄まじい物だ。
正面から受け止める力の向きを変えるべく重心をズラし、ワームからの圧力を逃すと、芯を外れた事で力が逸れ俺の右横へとワームの頭が滑り込む。
勢いそのまま全身が横滑りし、岩壁まで一気に激突した。
「今度は俺の番だな。───いや、最後の攻撃になるか」
大剣を水平に構え、風魔法の応用で全身に魔力を巡らせる。
この大剣自体には魔力は流れないが、俺自身に流す事で、筋力を超える威力が出せる。
更に、剣の表面に魔力を沿わせる事で、流れ込まない魔力が反発起こす。それを利用して更に攻撃の威力を上げる。
魔力透過の低い武器にはこの技が適役だ。
"烈風の激成"俺はそう呼んでいる。
剣聖の“技”は受け継ぐ物では無い。なぜならどの魔力が発現するか分からないからだ。
剣の才能は受け継ぐが、生かすも殺すも成り手次第。研鑽を積み、頂きに辿り着けた者が
個の能力として技が発動し、扱える様になる。
剣の表面を逃げ場の無くなった風が圧縮され、キュルキュルと音を立てる。
「避けるなよ?」
岩壁に打ちつけた体を起こし切るのに、手間取るワームを見据えそう呟く。
こちらの殺気に、焦ったのだろう。その場で逃げようともがき始めた。
「残念だったな、唯一の逃げ道はさっきお前が塞いだ」
地を蹴り、高度まで跳躍する。
「この剣技、お前の表皮で試させて貰うぞ。"重積する首断ち"」
落下の重みを乗せ、斬り込む。"あえて1番硬い場所に"
この技は、圧縮された魔力が剣の表面で繰り返し反発し、一撃を入れた時点で段階的に加速する。
「お前は何段階まで耐えられる?」
1段階、2段階、と斬り込まれた箇所に一撃、更に一撃と剣撃が入る────
ワームの表皮は、メキメキと音を立てて斬り込まれ続け、4段階目が入る前に、頭部と胴部は真っ二つに分かれた。
「・・・ワイバーンよりは早く堕ちたな」
大剣を振り、ワームの血を払う。
以前ワイバーンを倒した時は、5段階目で首が堕ちた。
希少鉱石を喰らう変異体のワームでも、ワイバーンの表皮に比べたら可愛い物だ。
さてと、素材は後で回収するとして、先に集積場へと戻ろうとした瞬間だった。
突然の殺気と、大きな魔物の叫び声がビリビリと上の階から響いた。
その気配は、今倒したワームと近い物で・・・
「まさかっ・・・!!」
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