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No.35 暗雲


No.35 暗雲





“鍛造が止まっている”つまり、鍛造を生業とする街で、主力事業が正常に行えていないと言う事だ。



「・・・何か国の方針が変わったのか?」


「そうじゃねぇ、完全に俺達の問題であんまり他国に厄介になる訳にもいかねぇから、対外的に公にはなってねぇが・・・・・・・・・採掘自体が出来ねぇ状況だ。従って鍛造関係も言わずもがな」


「何があった?」


「それは・・・・・・・・・」


「アナタ、もう数ヶ月も事態は変わっていなのよ。いい加減ギルドの力を借りるべきだって声もかなり聞くわ。事情を話してみるべきよ」



モーゼさんの様子を見かねて、ラナさんが手をそっと包み込み背中を押す。



「・・・・・・ああ、そうだな・・・どちらにしろ俺達は現状が変わるのを待ち続けるだけなんだ・・・・・・お前達に話して、少しでも事情を汲んでくれるとありがたい」



一拍置いて話し始めるモーゼさん。私達は今この国が置かれている危機的状況を知る事となる。



「───なるほどな・・・」



全てを聞き終わった後にヴィクターさんが相槌を打つ。教えて貰えた状況はこうだ。



ドルガニルの街の下を起点に、山全体に鉱山が存在している為、多方向に掘削用のトンネルが張り巡らされている。

浅い層には鉄や炭。深い層まで潜るとミスリルの様な希少金属も採れるそうで、日々鉱山従事者が作業を行っていた。


状況が一変したのは、半年前。



長らく魔物とは無縁の土地であったが、いつの日かトンネル内に"巨大なワーム"が棲み付いた。


通常のワームは鉱山の様に堅い土地を好まず、もっと低い土地に棲んでいるそうだが、この巨大ワームは堅い岩肌を物ともせず、持ち前の大きな口と歯で鉱石を食い荒らしその身を肥やしている。


因みに、ワームが何かと聞いたら、教えて貰った特徴的に恐らくミミズに相当する魔物だと分かった。


前世でミミズと言えば、土の中で腐葉土を食べているイメージだったが、この世界では石を食べるみたいだ。



そのミミズが採掘用のトンネルに偶々辿り着き、居座ってしまった。

それもそうだ、繋がっているトンネルを移動すれば自身が道を切り拓く手間も掛からず、美味しい餌にありつけるのだから。



当然、トンネルを縄張りと位置付けてしまえば、坑夫が鉱山に踏み入れれば敵と見なし襲い掛かる。

隙を見て採掘しようものなら、壁の振動で場所を探し当てられてしまう。


危険と隣り合わせの現状を打開するべく、戦闘を得意とする腕っ節の良いドワーフを集めて、討伐隊を組んで投入して見たが、まるで歯が立たない。


運良く死者はまだ出ていないそうだが、重症で数日生死を彷徨う事例もあって、この作戦は中止。


国の上層部が出した結論は『ワームがこの地に飽き、他所へ移り住むのを待つ』だそうで・・・


長い年月を生きるドワーフ達にとって、ほんの数年ワームが飽きる迄待つ。と言う持久戦を是とした事も作戦としてはアリだと思う。



だが、引き換えに住民の生活は一変している。特に人族のラナさんにとっては、半年はそこそこ経っている。我々人の寿命は長くても100年前後だ。その内の半年は案外長い。



「国が拓かれたとは言え、自国の問題を自国で解決出来ないのは面目が立たないと言うのが、上層部の考えだ。良くも悪くも頭が硬いのさ・・・」


「一応ね、造り置いてある武器や防具を売って日々の生活はやって行けているの・・・ただ、やっぱり生き甲斐にしている仕事が出来ないって、想像以上に見ていて辛いの・・・」


「逆に酒屋は朝晩問わず、大繁盛してるがな!やる事が無くなって酒に溺れてるんだ。このままじゃぁ皆んな腐っちまう・・・」



何とか出来ねぇもんかと思っちゃあ居るが、上層部が重い腰を上げてギルドなんかに嘆願しない事には・・・・・・そう吐き出す言葉は、重く苦しげだ。



「ま、そう言う訳だ・・・ミスリルは鉱石が手元に無い上に、掘りにも行けねぇ。仮に運良く在庫があっても、鍛造用の火を起こすのに必要な大量の炭石も無いから、打ってやる事も出来ねぇのさ・・・わざわざこんな所迄来て貰ったのに、悪いな・・・」



今のドルガニルの置かれた状況を知ってしまった以上、無理なお願いは出来ない。

どうするのが正解か、ヴィクターさんの表情を伺おうと顔を向けた。



「───つまり、その巨大ワームを他国に頼らず、内々的に駆除を行えば、滞っている全ての問題は片付くのだろう?」


「・・・そうだな、アレさえ居なくなれば皆仕事に戻れる」


「なら話は早い。トンネルの入り口まで案内してくれ」


言うが早いか、椅子を下げて立ち上がるヴィクターさん。


「ま、待ってくれ・・・それはどう言う事だ?」


「・・・?邪魔者を駆除して来る」


「えっ?!」


「話を来ていたか?他国やギルドに頼るのはお偉いさんが良しとしねぇ!お前さんが運良く倒せたとしても、ギルドに何の利益も無い上、借りを作る事になる!」



そうだ、今の話の流れ的に私達ギルドの人間が手を出してしまったら、ドルガニルの面子が丸潰れだ。

それは、良いのだろうか?



「・・・俺は、剣を手に入れに来ただけの、いち個人だ。ドルガニルに初めて来た事に浮かれた人間が"観光がてら歩いていたら、偶々トンネル内に迷い込んでしまった"だけの話だ。そしたら、運悪く魔物と出くわしてしまい、身を守る為に討伐した・・・で、良いだろう?」


「───は・・・・・・?」



何て無茶苦茶な話を提案して来るのだろう。

いや、提案じゃ無くこれは、今から行う内容を予め話しているだけだ。

こんな、とんでも理論と言うか、法の隙を付くみたいな手段はありなのだろうか?



「もし、詰め寄られたら"そうとは知らなかった"とでも言えば良い・・・当然ギルドにも正式な報告はしない。俺個人に降り掛かった災難を排除しただけの事だ」



数日前に、例のクローベアの商人がカレンさんから"ギルドを通さない依頼はダメだ"とお説教をされた話をヴィクターさんから聞いた。


これは、それに該当しないのだろうか?と思わないでも無いが、依頼も無く報酬も発生しないのならば、余り気にする事でも無いのかもしれない。



「わっはははははは!!!!!」



1人でウダウダと、勝手にしなくても良い心配をしていたが、真横からの弾ける様な笑い声にビクリと肩が跳ねる。



「お前さん、随分肝が座ってるじゃねぇか!!気に入った!!そう言う話なら案内してやる!!!」


「え!?良いんですか!?」


「おうよ!但し、これから先に起こることは、あくまで偶々・・・でな」



モーゼさんとヴィクターさんがニヤリと笑う。



普段は冷静沈着で、危険を冒す破天荒さは一見すると分からないが、段々と好戦的で効率重視のタイプだと・・・だがしかし、向こうみずな自信家と言う訳でも無く、自分の実力が伴った上でのヴィクターさんのスタイルなんだと分かる。


これほどまでに自身を達観出来る様になるには、どれ程の場数と期間を要するのか・・・




かくして【ギルドにもドルガニルにも悟られずに巨大ワームを駆除しよう大作戦】が水面下で始まったのだった。






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