気付いた恋心
メリーアンジュは、揺れる馬車の中でベルンストとロイの顔が見れなかった。
「おい、どうなっているんだ?」
チラチラ、ベルンストとロイを見るメリーアンジュの頬は赤い。
「やっと、私達を男として認識したか?」
「今さらだな」
向かいの席でベルンストとロイは、あからさまなメリーアンジュの視線を受けて苦笑いをする。
兄の友人枠、兄同然、結婚するのはボランティアだ、とまで言っていたメリーアンジュの様子が、今朝からおかしい。
キルフェに向かう馬車の中で、ベルンスト達の会話が聞こえないはずがない。
意識しちゃったわよ、バカ。
メリーアンジュは、怒涛の1日に疲れはて、ふと思ったのだ。
兄達は執務中だった、きっと途中のままの仕事が残されているに違いない。それよりも自分を大事にしてくれる。
助けに来てくれて嬉しかった。
顔を見た時は、涙が溢れそうだった。
捕まれた髪が自由になった時、広い肩に庇われた時、そして悪夢に震えていた時。
カッコイイと気付いてしまったのだ。
二人より年下のムクレヘルム王が結婚しているのだ。
メリーアンジュではない誰かと結婚する可能性がある、と思うと嫌だった。
兄のアーレンゼルとは違う眼差し。
心臓が跳ねてしまった。
今まで、普通にしていた言葉がでない。
おはよう、さえ俯むいて小さな声でしか言えなかった。
どちらも好きだから、選びたくなかったのかもしれない。
選ばない一人を作りたくなかった。
兄だったら選ばなくてすむ、そう思ってしまったのかもしれない。
でも、意識してしまったら、兄には戻れない。
メリーアンジュの横で、アーレンゼルが悲壮感漂わせて座っていた。
一生側にいると思っていた妹がおかしい。
答えはわかっているが、認めたくない。
ワガママで高慢なのに、どこか抜けていて、優しいのに表現がヘタな妹。
女性として美しい容姿にアンバランスな性格。
この可愛い妹が、嫁にいくかもしれない。
アーレンゼルの顔色をからかうようにロイが言う。
「アーレンゼル、一緒に嫁にくるなどと言うなよ」
ハハハハ、と笑い声が響く中、アーレンゼルは答えない。
「婚約期間は5年だ」
やっと口を開けば、これだ。
「ありえないだろう、子供じゃないのだから」
軽口を言うロイも頭の中は真剣だ。
ベルンストと自分、どちらかしか選ばれない。メリーアンジュが自分達を意識した今、短期決戦になる。
ベルンストもわかっているのだろうが、言葉にはしない。
じっとメリーアンジュを見ている。
その視線を受けて、メリーアンジュに落ち着きないのが、ロイには腹立たしい。
「まずは、メリーアンジュの警備の強化だ」
話を変えようとしているアーレンゼルだが、メリーアンジュに伝えようと昨夜話していたのだ。
今回のことは、庭のテラスのお茶会でなく、防護魔法が張り巡らされている屋敷の中だったら違っていただろう。
「しばらくは、外出禁止だ」
メリーアンジュが否と言うはずがなく、頷いている。
二度とあんな目に遭うのは避けたい。
「大丈夫だよ、マドラス公爵家には転位魔方陣があるから、すぐに会いにいけるからね」
魔力の弱いメリーアンジュには使えないが、ロイやベルンスト、アーレンゼルなら問題なく使える。
「街の美味しいお菓子をお土産にするから、楽しみにしておいで」
何かとメリーアンジュに声をかけるロイ。
「それと、魔力の強い侍女を護衛を兼ねてつけよう」
ロイの心使いもむなしく、アーレンゼルが話を続ける。
厳重な防御魔法をかけられた馬車は、二日かけてキルフェ王国王宮に向かう。
メリーアンジュの意識してます、という視線は王宮に着くまで続いた。