悪夢
ライバルは徹底的に潰す。
ロイもベルンストも当然のことをしたのだ。
「まさか、私がムクレヘルム王の求婚を受けると思われたのですか?」
呆れたようにメリーアンジュが3人を見る。
「国の事とは別件だ。」
足を組み片手を顎に添えてベルンストの態度はふてぶてしい。
間違いなく王子様である。
「すでに妃がいるのに、図々しい」
ロイはアンジュにプチフルールを盛った皿を差し出してくる。
「アンジュに見惚れたというのだろうが、他国の王だからと我慢することはないからね」
ウィンクして笑顔を見せるロイも王子様のようである。
ムクレヘルム国内の処理は、簡単にはいかないだろう。メリーアンジュを拐ったことにより、国内だけでの処理はできなくなっている。
アーレンゼル達をリビングに残し、メリーアンジュは寝室に入った。
令嬢にとって、今日一日は怒涛の如くだ、疲れ果てるのも無理はない。
「きゃあああ!」
深夜まで打ち合わせをしていたアーレンゼル達がメリーアンジュの悲鳴で寝室に駆け付ける。
ベッドの片隅で縮こまり身体を震わせているメリーアンジュがいた。
「どうした? 眠れないのか?」
アーレンゼルが問いかけるとメリーアンジュが顔を向ける。
寝室に灯りがともり、ベッドの横には装飾をあしらわれたサイドテーブル、窓際にはティーテーブルと2脚の椅子がうかびあがる。
「夢を・・、夢なのでしょうか?」
どんな夢だい? と問うかわりに、アーレンゼルがベッドの端に腰かける。
ベルンストとロイは、窓際から椅子を持ってきてベッドサイドに置いて座った。
「祭壇に縛られて、血を取られるの。
私には弱い魔力しかないから逃げれなくって。腕から滴る自分の血を眺めているの」
「そんな事は絶対にさせない!」
ベルンストとロイがメリーアンジュのベッド脇に立つ。
「怖くて、わけがわからなくって。どこかもわからない、男達は不気味で。
逃げる事しか考えられなかった。」
それは、夢のなかの事なのか、昼間の出来事なのか。
「薄暗闇の中で触ったのは、まだ温かい死体で、触った手には血が・・」
広げた両手の平に、メリーアンジュの視線が固定されている。
昼間の事だ、と3人は理解する。
興奮が収まってきて、理解してくると恐怖が沸き起こったのかもしれない。
「逃げる場所などなくって、生け贄って言われて。でも、言いなりになんて絶対になるものかって、諦めたくなかった」
アーレンゼルがそっとメリーアンジュを抱き締めた。
「よく、頑張ったね。私達を呼べたね」
うんうん、と首を振りながら、
「お兄様とベルンストとロイしか思い浮かばなかった」
メリーアンジュがアーレンゼルの腕の中からベルンストとロイを窺い見る。
「来てくれてありがとう。 助けてくれてありがとう」
「アンジュ!」
感動して抱きつこうとしたロイが、アーレンゼルにベッドから叩き落とされる。
「アンジュ」
呼び掛けるのは、ベッドサイドの椅子に座るベルンストだ。
「その夢は正夢になるかもしれない」
「とんでもない事を言うな!」
ロイがベルンストに掴みかかる。
「そんな事させないが、そうなる可能性があると言う事だ。
アンジュは自分で使える魔力は弱いくせに、他人には膨大な魔力を与えるというのが、私達を呼ぶことで立証された。
欲しがる人間がいると言うことだ。 それは、ユークレナ結社だ。
それが女神と呼ぶものなのだろう」
椅子の肘あてに腕をのせ、顔の前で両手の指を組ませているベルンスト。
「アンジュ、そんなことにはさせない。気にするな。絶対に守るから」
ロイがメリーアンジュを安心させようとするが、ベルンストは現実を突きつける。
メリーアンジュはアーレンゼルを押しやり、3人に身体を向けた。
「すごく怖い。でも、隠れるなんてイヤ。
私はマドラス公爵令嬢メリーアンジュですもの」
「アンジュ、そこは隠れようよ。公爵令嬢ならばこそ守られてよ」
溜息をつきながら、アーレンゼルが言う。震えが止まらないくせに。
「絶対に私を守りなさい」
自分の能力を理解しているというのだろうか。メリーアンジュは他力本願のようだ。
可愛く、私を守って、と言えないメリーアンジュ。
同じ意味なのに・・・・・・




