メリーアンジュの交渉
夜遅くになって、ベルンストはメリーアンジュの部屋に来た。
「護身用に?」
眉を寄せて確認してくるベルンスト。
「そう、小さな剣が欲しいの」
「ダメだ、持つことで危険が増す」
ベルンストが説明を始める。
「一つ目、剣を持つことで、アンジュに気のゆるみが出る。
二つ目、もしそうなった時に、犯人がアンジュが剣を持っていると知ったら逆上する可能性がある。
三つ目、アンジュが自分でうっかり傷つけるかもしれない」
三つ目は失礼な、刃物なんだから気を付けて扱うのに。
「お兄様は?
こんなに長くお兄様に会わないのも久しぶりだわ。ロイも」
話題を変えようと振った話が、ベルンストの気に障ったらしい。
メリーアンジュの手首を掴んだベルンストが、自分の方へ引き寄せると、倒れこむような形でベルンストに抱きしめられた。
「ロイには会わせない」
私の為にも、ロイの為にも。
「アンジュは私のものだ。結婚式が終わるまで誰にも渡さない」
強く抱きしめられる。
「ベルンスト?」
「やっとだ、やっと婚約できたのだ。絶対に守る、ユークレナからも、ロイからも」
それで閉じ込めたのですか、メリーアンジュはベルンストを睨む。
そっとベルンストの頬にメリーアンジュの手が触れる。
「アンジュ」
メリーアンジュの手にベルンストの手が重ねられる。
「馬鹿ね、ベルンスト」
にっこり微笑むメリーアンジュがベルンストの頬をひねる。
「婚約を受け入れた私が、ロイの手を取るはずないでしょ。
見くびらないでくださる?」
威圧的な態度は美しい顔がよく似合う。
「そこは、嬉しいと言うところだろ」
つねられた頬を抑えながら、ベルンストがニヤリと笑う。
「2度とあんな目に合いたくないけれど、これでは監禁だわ」
メリーアンジュが身体に回されているベルンストの手をほどこうとする。
「その通りだ。監禁しているつもりだ。ここが一番防御が強い」
当然だ、とベルンストが腕をほどかれまいと力をいれる。
「だ・か・ら、生きている限り狙われるなんて嫌よ。
協力するから、そうそうに潰して、安心して暮らしたい」
ずっと監禁生活なんて無理すぎるわ。
「却下」
ベルンストの顔は笑っているが、目は冷めている。
「永遠に監禁するつもりだ、私は心が狭く心配性でね」
「しかも、姑息な手を使ってくるわ」
メリーアンジュがベルンストに負けじと冷笑を浮かべる。
「褒めてくれてるってことかな?
手段は選ばない」
「まさか!
でも大事にしてくれているのは知っているわ」
メリーアンジュの言葉に、ベルンストが溜息をもらす。
「アンジュが消えたと報告を受けたときは、心臓を握られたようだった。
あんなことは2度とさせない」
ベルンストがメリーアンジュの髪に指を絡める。
メリーアンジュはそれを横目に見ながら、好きにさせている。
「わかった、飾り細工の小さなナイフを用意しよう」
ベルンストが折れた。
「追い詰められたユークレナ結社は、油断できない。
完全に潰してやる、それまでの間だ」
昼間、神父の調査報告が届いた。
ユークレナ結社との接点はみつけられなかった。
父の言う通り、母の違う兄かもしれない。
自身の魔力の暴発により、母親を亡くしたとあった。
賊に襲われた母親を助けようとして、魔力が暴走したのだ。庶民の育ちでは、制御を教える者がいなかったのだろう。
そのまま、教会に引き取られ、神学校に入ったと報告があった。
ユークレナ結社との繋がりがない、などとありえるのか?
アイサイム伯爵令嬢の足取りは、ずいぶん分かってきている。
考えることはたくさんあり、簡単に答えは出ない。
ベルンストは、メリーアンジュを見ているが、頭の中では調査報告を思い出していた。
メリーアンジュを守ることは、国を守ることに繋がるのだ。
「まかせて。必ず逃げ切るから、絶対に私を守るのよ」
ベルンストから視線をそらさず、メリーアンジュがクスクス笑う。




