10:見知らぬ地で~Gotta knock a little harder~
スライムは深く白い霧に包まれた場所で目を覚ました。
……ここはどこだろう?
確か、自分は勇者と戦っていたはずではなかっただろうか?
少ししてから我に返ると、彼はぷるぷると白い体を震わせて考え込んだ。
よくよく周囲を確認してみれば、自分の体は本来の白くて小さい、つまりは普通のスライムに戻っているではないか。
……ますますわからない。
スライムらしい低い知能で考えこんでいると、霧の奥から何かがこちらに向かって跳ねてきた。
大きさは自分と同じぐらい。
まるでスライムみたいな跳ね方だ。
そしてどうやら一匹ではないらしい。
一、二、三……、沢山いる。
スライムの知能では四つ以上を数えるのは難しかったが、とにかく数えきれないぐらい沢山だ。
自分が最後のスライムとなったことを忘れていなかった彼は、警戒して身構えた。
もしかしたら敵かもしれない。
今の自分に戦えるだろうか?
いや、戦うだけだ。
自分は最後のスライム。
恥じるような死は選べない。
ぷるぷると体を震わせて戦闘態勢を整えたスライム。
だが霧を抜けてきた影の正体を理解した時、彼は心底驚いた。
……スライムだった。
やってきたのは、彼を残して絶滅したはずの純白のスライム達だった。
数えきれないほどのスライム達がこちらに向かってやってくるではないか。
彼は予想していなかった事態に困惑して、動きを止めた。
……どうしたらいいのかわからない。
そんな間に、彼は押し寄せるスライム達に囲まれてしまった。
白い体をボヨンボヨンと弾ませて、再開を喜ぶように次々と彼に体当たりをする他のスライム達。
そんな彼らと触れ合いながら、彼もまた改めて体をぷるぷると振るわせた。
この感情はなんだろうか?
感動?
歓喜?
予想していなかった事態と感情に遭遇した彼はやがて、他のスライム達と一緒になって跳ね回り始めた。
スライムの知能は低い。
だから彼は先程までの勇者との戦いのことなど、すっかり忘れてしまった。
そうだ。
仲間の仇を討つのだと意気込んでいたことなど、彼はもう完全に忘れてしまっていた。
探していた仲間が見つかった。
もうどこにもいないと思っていた仲間が見つかった。
……彼にはもう、それで十分だった。