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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
パーティーの悪魔
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思い

場所と日が変わってリーンノース邸。

洸祈(こうき)千里(せんり)に襲われそうになった後、レイラの好意で二人はリーンノース邸の客室に案内された。

日頃の疲れが溜まっていたため洸祈はふかふかのベッドですぐに寝てしまった。

千里はというとレイラに悪いと洸祈と同じ部屋にしようとしたが、洸祈の凄まじい反対によって違う部屋があてがわれた。


仕事の依頼が安定せず、細々と暮らしているため洸祈は久し振りの御馳走を腹一杯食べ、その後、千里と一緒に客間に集まった。

そして今、レイラは二人のために紅茶を淹れてくれている。

「で、何でちぃはここに来たんだ?」

小型のガラステーブルを挟んで両サイドのソファーに、洸祈は普通に腰掛けて千里は肘掛けを枕にして寝転んでいた。

「何でって、気分?」

千里は言葉の端を上げておどけた風に返す。

「気分なんかで俺の仕事先で会うかってんだ。学校はどうしたんだ?休みってわけじゃないんだろ」

「学校?休みかな」

千里はどこか浮わついた声で答え、手近にあったクッションを持ち上げてそこに顔を埋めた。

「いや、ないだろ。今の時期軍学校では演習をひっきりなしにやってんだぞ」

「僕、長期休暇もらってんだ~」

クッションの下でもごもごと言う。

「何で?」

洸祈は千里の注意を惹くために近くにあったクッションを投げつけた。そのクッションは彼の脚にぶつかるとそのまま乗っかった。

「……ん~」

洸祈の気持ちが通じたのか千里はクッションから顔を覗かせたが、その視線は洸祈ではなく落ち着きのある薄いベージュの天井を向いていた。そして、少し考えるように間を開けるとゆっくりと口を開いた。

「……さっきの話ウソ」

「は?」

「だから、さっきの話は嘘だって」

「はぁ?」

突拍子もない発言に立ち上がった洸祈の方を向くと千里は唇の両端を軽く上げる。

「洸と一緒」

って…

「…退学!?」

「そー」

正解した洸祈になのか千里はクッションを胸に抱いてぱちぱちと拍手した。

「退学って何で!?」

「質問多すぎ」

逸らした。と言うより、答えたくないという意思を洸祈ハッキリと発していた。

親友なりの意思表示だ。

千里は脚に乗っているクッションを器用に手元に持ってくるとそれを洸祈に投げた。

強い衝撃がくる。

それが意思の強さを表しているようで口をつぐむ。

そして、千里は洸祈に背を向けるようにもう一つのクッションを抱いて体の向きを変えた。

何も言わない。

怒ったか?

洸祈は普段怒りを見せない千里に明らかに行動で怒りを示されたことに後ろめたさを感じた。


「紅茶入りましたよ」

静かになった客間にレイラは盆に乗せたティーカップとクッキーの入った小皿を持って現れた。

「どうしたの?」

千里の様子に違和感を感じて洸祈を心配そうに見る。

「気にしないで下さい」

「気にするわよ」

素っ気なく返されたレイラはティーカップを並べながら眉を少し曲げて口を閉じた。

並べ終わるとレイラは洸祈の隣に腰を降ろし、自分のティーカップを持ち上げ紅茶を少し口に含む。

「あいつが話をわざと逸らしたのに気づいていたのに俺はあいつが触れて欲しくないことを訊いてしまったんから…」

しばらくして、レイラの視線を避けるように顔の向きを変えて喋りだした。

「どうして?」

「どうしてって…」

顔を逸らす洸祈にはレイラがこちらを見て離さないのが伝わってくる。

「何で訊いたの?」

言葉を変えてレイラは再び質問をした。

「…」

霞んでいる答えをレイラは知っているようで洸祈がゆっくりと変えた顔の向きを戻すとそこには天井を見上げるレイラの姿があった。

「久し振りだったからじゃないの?」

レイラも想うところがあるようだ。

久し振り…その言葉が霞んでいた答えを晴らした。

そして、たどたどしく洸祈はそれを口にした。

「…懐かしかった。もう会うことはないと思ってたから…でも会えて…全然変わってなくて。昔に戻りたくて、今までのちぃを知りたくて、沢山話をしたかった…ちぃに忘れて欲しくなくて…」


子供だ。どんなに大人びていても二十歳に満たない子供なのだから。

レイラには少しずつ話す姿も、俯きかげんな頭も、その全てが微笑ましくて仕方がなかった。

「クスッ」

男の子はどうしてこうも思いを伝えるのが下手なのだろうか。

レイラは垂れる洸祈の頭を元気づけるようにぽんぽんと軽く叩いた。

「そう言えばいいじゃない。素直に言えばいいじゃない。そしたら、相手は分かってくれる。そうでしょ?千里さん」

レイラに突然話を振られてふて寝していたはずの千里の背中がびくついた。

長い沈黙がその場を包む。

「………………………あ~、もう。負け、ボクのま~け」

千里は体の向きを変えると、顔をぽけっとした洸祈の顔に向けた。

「僕、洸の熱烈な告白にかんどーしちゃった」

意地悪い千里の目。洸祈の顔が一つ一つの単語の意味を理解して赤くなる。

「っ!!!寝てるふりしてたのか!てめー」

「やだなぁ。ふりだなんて。寝てるなんて誰にも分かんないし言ってないから」

最もらしい千里の言い分に洸祈は言葉とやる気を失う。

そして自然と上がった肩が下がる。

「ちぃといると疲れる」

洸祈は溜め息混じりに言った。

「ちぃってのを止めてくれなきゃ」

「矢駄ね。だって、お前が言ったんだろあの日…」

「…」

と、洸祈は千里にクッションを強く投げつけられたので受け止めるといつの間に立っていたのか回し蹴りを喰らった。

「うるさい。僕はそんなの知らない!」

頬が紅い。

そんな二人をレイラは微笑んで眺める。

和んだ空気が暖かい。

が、

そのままでは終わらなかった。

「ったぁ!?ちぃ!」

「洸のバカ!」

「バカって言う奴がバカなんだ!」

「事実だからしょうがないだろー!」

「バカじゃねー!」

「ああ!!僕をぶったな!」

「お前が先にやってきたんだろ!」

「これでも喰らえ!」

「銃は反則だ!」

千里は腰に挿していた拳銃を取りだし、洸祈は腰を落として戦闘体勢に入った…………………

さすがにレイラの口元が歪む。

「洸のばぁぁぁぁぁか!!!」

「ちぃのばぁぁぁぁぁか!!!」

そして、ただの低レベルの餓鬼の喧嘩と化す。


「二人とも私の家で暴れない!!!!!」

レイラがキレた。

わーきゃー騒ぐ二人は拳という名の鉄槌を喰らった。



『……………』


その後約二時間、二人はレイラに叱られた。

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