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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
パーティーの悪魔
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パーティーの悪魔(7)

魔法陣を連鎖的に発動させることで、より広い範囲に、より強い効果を出す。

見事なぐらいあっさりしたゲームに洸祈(こうき)は面白くないといった顔をした。

「ま、いいか。目的は果たせたし」

侵入者達は朝まで起きることはない。

「優しいからお小遣い程度は貰おうかな」

同情する風もなく、近くにいる人間の尻ポケットから財布を抜き取った。ご丁寧に免許証が入っている。多分、阿呆だ。

「さてさて………………え……少ない……」

これには同情して、中身を抜き取らずに財布を持ち主の顔の上に投げ落とした。これで身元が警察に知れようが、知ったことではない。

「これ以上の用はないしな。帰るか」

言ってから気付いたことがある。

「琉雨への土産……」

粉ミルクを買わなければいけない。

しかし、粉ミルクはどこに売っているのだろうか。土産物屋ではないだろう。ならば、地元のスーパーだろうか。約束した以上は粉ミルクを見付け出さないと日本には帰れない。

もう牛乳でもいいかな、腐る前に日本に持ち帰れるかな、そもそも牛乳を持って飛行機に乗れるかな、などと考えていると、欠伸をした洸祈の頬すれすれを銃弾が通った。

「なんっ!?」

全く気付かなかった。周囲に起きている人間の気配はしない。ならば、敵は更に遠くにいる。

洸祈は握っていた拳銃を背後に向けて撃つ。弾が切れるまで撃った所で、後ろを見た。

「誰もいない」

飛んできた方向から察するに、屋根の上にいるはずだったが、そこに人はいなかった。弾が当たっていれば、せめて呻き声は聞こえるはずだ。

洸祈は久し振りの緊張を全身で感じていた。

そして、拳銃とナイフを地面に捨てると、腰の刀を抜く。

「陣発動後にやってきたのか、魔法陣に耐性があったか」

今の洸祈は魔法陣の代償がかなり響いていた。

先程の魔法陣は範囲内の全ての人間を強制的に眠らせる。その代償は視力に血に体力。

特に陣紙作成で払った血はかなり失っていた。

洸祈は貧血から来る視界の歪みに歯を食い縛り、敵に弱味を見せないよう力を振り絞って立つ。

「どこの誰でも構わないから姿見せろ!って言ったって、姿出す馬鹿なんていないか……」

すると、誰もいなかったはずの屋根から体を起こす人影が現れた。影しか見えないが、屈強ではなさそうだ。

しかしまぁ、素直に姿を見せるとは有り得ない。

「危なかったぁ。流石の僕も不意討ちには腰を抜かしたよ」

服に付いた汚れを払う仕草をする。

洸祈は軽い口調の人影を睨んだ。たとえ、言葉の端々からやる気の無さが伝わってきても相手に気配を気付かせなかっただけの実力はあるはずだ。

…………あまり考えずに怒鳴ったせいで気付かなかったが、相手は日本語だ。この広い世界で日本語が使える人間に会えるとは思わなかった。

最近の悪党は多才らしい。

「それにしても、この声……いや……まさか…………」

「ねぇ、聞こえてるよ。でも、面白いからこれでいいや」

呟きが聞こえていた。澄んだ声で洸祈を笑う。

でも、馬鹿は聞こえていなかったらしい。

半分を雲で隠された月からは薄暗い光しか届かない。

人影は長さからしてライフルを構える。相手のライフルと洸祈の刀。

遠距離戦では明らかに洸祈が不利。

ならばと、洸祈は会場へ駆けた。2発撃ってきたが、着弾地点はかなり後ろ。急に下手になっていた。

相手が発砲するまで気付けなかったほどだと言うのに、銃の腕は素人並みに。頬を掠ったのはただの偶然だろうか。

それか、遊んでいるのか。


洸祈はこんこんと眠っている侵入者を踏まないように会場に入った。普段は平気だが、もう呼吸が浅くなる。

「あー、ぐらぐらする」

疼く頭を軽く叩くと、会場を見回した。

目指すは屋上。大体把握している会場内の地図を思い浮かべて、洸祈は直ぐに走った。


目的の人物は迎え撃って来るわけでもなく、逃げるわけでもなく、こちらに背を向け、ライフルで体を支えながら屋根の縁に座っていた。束ねている長い髪が風に乗る。

益々、身に覚えがあるようなシルエットだ。

洸祈は気配を殺して相手に近付き、刀を首筋に添えた。

「俺に何の用?」

相手は驚くこともなく、洸祈の手に自らの命が委ねられている状況に動じることなく返事をする。

「お遊び。んー、違うか……でも、まぁ、今はそんなところ」

似てる。しかし、明かりの一切ない屋根の上では、相手の骨格を感覚で認識するので精一杯だ。

「遊びで撃ってくるな」

ゆっくりと刃を首に近付けて行く。

「意地悪しないでよ。僕みたいなか弱い子に」

相手は刀を一瞥すると、また視線を前に戻した。本当に遊び目的で行動しているから焦りがないのか。はたまた――。

「か弱いわけあるか」

貧血気味の頭に刺激を与えないように、洸祈は声のボリュームを下げる。喉が渇く。

「それにそんなんじゃ、脅しにはならないよ。君は決して人を殺さない人間だと感じる」

どうして出会って数分の奴に知ったかぶりされないといけないのか。

洸祈は言葉の不意討ちに一瞬だけ、たじろいだ。

どんなに相手を傷付けても、決して殺さない。戦いでそれは弱点となる。分かっているけれど、駄目なのだ。一線を越えてしまえば、元いた場所には戻れなくなる。洸祈はもう線を越えるわけにはいかなかった。

「そんなに動揺してたら、一瞬で立場が逆になるよ……ほら、あれとか」

あれ――それは、男がライフルを向けた先にいた。

「レイラ!?」

紛れもない。

帰ったはずのレイラだった。



「洸祈さん!洸祈さん!」

何があったのか。

怖いけど、彼を置いて帰るなんてできなかった。

何故なら、友達だから。

レイラは足元で眠る侵入者達に身を縮みこませながらも、洸祈の名を呼びながら懸命に進む。



カチッ。

よく知る音が、奇妙なぐらい洸祈の耳に響く。

「おい!」

弾をセットするその音は、レイラに向けられたライフルからだった。

止めなくてはいけない。

洸祈は刀を持たない方の手で相手の腕を掴もうとする。

「動かないで。君が掴んだら、間違って撃っちゃうかも。あ、でも、僕の腕は下手だからいいんだっけ?」

明らかに相手の口調で油断をしていた洸祈は唇を噛み締めた。

こいつを殺せば、止められる。簡単だ。刀を掴む腕に力を込めて引けばいい。

けれども、それが出来ない。

躊躇している洸祈を見ると、相手は鼻で笑ってから引き金を引いた。

「レイラ!!!!」

洸祈は男の首を切ることなく、レイラの身を案じて踵を返す。が、体の向きを変えた瞬間に強い力に引かれた。

「一瞬で立場が逆になるって言ったでしょ?」

相手は刀を握る洸祈の右手を叩くと刀を落とさせた。

「このっ」

押し倒され、肩が固いコンクリートに打ち付けられる。

「形勢逆転だね」

馬乗りになったその男は洸祈の頬を撫でた。

背筋に走る悪寒。

「はなせっ!近付くな!この変態野郎!!」

力任せに振り下ろそうとするが、体力をかなり消費したためか、思うように力が入らない。

「変態!?酷い!」

振り落とされることなくへばり付く変態野郎は、冗談のない洸祈の言葉に本気で傷付いたようだ。しくしくと擬音語が聞こえる。

「嘘泣きだろ!!」

洸祈はこんな変態野郎よりもレイラのことが心配だった。そもそも、比べるのも有り得ない。

もしもレイラに当たっていたら……当たっていなくても、恐ろしい思いをしているはずだ。

「あの!洸祈さん!」

変態野郎と取っ組み合っていると、第三者の声が遠くから聞こえた。

レイラの、だ。

洸祈が茫然としながら横を向くと、屋根へと昇る梯子からひょっこりと顔を出しているレイラがいた。

「レイラ?」

幽霊?幻聴?幻覚?

「えぇ」

レイラだ。

洸祈の体から一気に力が抜ける。

今までの状況は頭の隅に追いやられ、レイラが無事ということで一杯になる。

「撃ったよな」

力なく目の前の変態を見た。絹のような細い髪が雲から顔を出した月明かりに反射する。

「だって、撃っても当たってないからね。ボクの腕は下手だから。いやぁ、本当にさっきのはまぐれなんだよね。ゴメンって思った」

変態はライフルを見せつけるように動かした。

何なんだこいつは……いや、分かった気がする。この場にいるはずがないから、選択肢から無理矢理排除していたが、もう無視はできない。

「それに……」

「?」

ライフルを傍らに置くと、着ていたシャツの胸ポケットから髪紐を取り出して長い髪を首元で一つに纏めた。それを見計らったように月が下界を完全に照らす。

「それにさ、こうでもしないと、洸は無理するでしょ?洸の魔力は底無しだけど、それ以外は底無しじゃないよ」

「………………ちぃ」

その姿は洸祈が軍学校を去った時から変わらない。

そう。

彼は洸祈の親友――櫻千里(さくらせんり)だった。

「いや、俺はちぃのせいで無駄に体力を使ったんだ」

洸祈は呆れ半分の口調で言う。

「あれ?そうなの?」

千里はわざとらしい笑みを浮かべて返す。

「そうだよ!!」

洸祈は自由になった手で彼を引き剥がした。

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