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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
パーティーの悪魔
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お客様(2)

「パーティー?」

「そう、そこで私の用心棒をお願いしたいの」

「何故?普通は専属の護衛か何かがいるのではないですか」

一般的な貴族のイメージだ。

「今、みんな休暇でいないの」

「一人も!?」

「ほら、クリスマスは家族で過ごすものでしょ」

「それはそうですが」

だからといって、全ての使用人を帰すとは。優しいと言うべきだろうか。

「では、何故うちに?わざわざ日本に来て依頼しなくても」

「日本が好きなのが一つ。もう一つは私の友人の母親が貴方に仕事を依頼したことがあるんですよ。覚えてないかしら、ディール・カーラー婦人」

カーラー、レイラと同じ英国貴族だ。

青年は身に覚えのない名前に首を傾げた。と、そこでコーヒーを持ってきた琉雨(るう)が声をあげた。

「ルー、知ってます!ディールさん。用心棒を貸し出すって表に書いてあるのに、ここら辺の観光案内頼んできましたー」

「あー、先月来たあの人。有名じゃない場所の案内してって言ってきたんだよな」

「隠れた穴場を知りたいって言っていた変わった人です」

青年と琉雨、二人で盛り上がる。

「婦人、貴方のエスコートは天下一品だったってべた褒めしていたの」

「それで旦那様にパーティーでの用心棒を頼むんですね。さすが旦那様、千里(せんり)さんという美少年さんが近くにいるだけのことはありますねー」

「その発言誤解を生むだろうが」

にやにやと笑みを浮かべる琉雨の頭を青年は人差し指で小突く。琉雨はくすぐったそうに首を竦めた。

「依頼、受けてくれるかしら?依頼料は弾むわ」

青年と琉雨がピクリと体を震わせた。

そして一言。

「その依頼、受けましょう」





「ではリーンノースさん、パーティーに出席している間、貴女の護衛をしていればいいのですね」

「はい。貴方には私の従兄アレックス・エドガーとしてパーティーに出てもらうわ。彼は寡黙な人だから喋らなくても大丈夫。私は貴方をアレックスと呼ぶから、私のことはレイラと呼んで」

既に考えていた台詞を一気に喋り終える。

「分かりました」

「では後日、ヴァーケンド交差点で会いましょう」

「えぇ」

レイラは軽く会釈をするとシンプルな黒のソファーから立ち上がった。と、ふと気付いたことがあった。

「そうでした」

立ち上がるとレイラは店長を振り返る。

「私、貴方のお名前を伺ってませんわ」

「あぁ、そういえば名乗ってませんね」

そう言うと店長は自らの椅子から立ち上がり、黒のTシャツにパーカー、ジーンズというラフな格好で頭を下げた。

「俺は崇弥洸祈(たかやこうき)と言います。よろしくお願いしますね」

頭をあげるとにっこりと笑った。



外まで送りますと先導した洸祈はドアを開けた。

「どうぞ」

「有り難う」

レイラは暖かな空気に別れを告げて外に出た。

「あの…その」

ずっと気になっていたことがある。

「どうしました?」

薄着のまま、洸祈も外に出てくる。

寒いという素振りは見せないが、寒いはずだ。冬でも暖かい英国と違ってここ日本は寒い。口ごもっていたら洸祈は中に入れない。否、中断して中に入ることはしないだろう。

「彼女のこと…」

琉雨(るう)はこの場にいない。店内でレイラに出したコーヒーのカップの片付けをしている。

「あいつは何かと目立つんで今回は留守番になりますが?」

「そうじゃなくて…」

言いたいことを伝えるには言葉が少ない。

レイラは息を詰めるとどうにか言った。

「琉雨さんのこと余り叱らないでくれますか?」

「………………」

目を丸くして洸祈はレイラを見る。

「し、失礼でしたよね。人様の家庭に口出しは………やだ」

そう言ってから自分はかなり失礼なんだと実感する。

反射的に口を抑え、恥ずかしくなって挨拶もそこそこに背中を向けて歩き出そうとした。

「あ~、待って」

レイラの腕を洸祈は掴んだ。

「あいつには…琉雨には……感謝しているんです」

洸祈が下を向いて表情を隠す。

「寝ていた俺を起こしてくれて感謝しているんです。内緒ってか意地ってか…その…俺一人だったら貴女の訪問に気付かずに暮れまで寝てただろうし、コーヒーを出して持て成すことにも気付かなかった。店は琉雨のお陰でいつも綺麗だし、食事も色んなの作ってくれて。数品しか作れない俺とは大違い」

顔を上げた洸祈は恥じたように笑う。

「ごめんなさい」

レイラは頭を下げた。

「………何で俺に謝るんですか?」

洸祈は口をつぐむと真面目な顔をした。

「お二方は信頼し合っている。お二人を見ていれば分かることでした」

「は?」

洸祈の口がアの形で固まる。

と、

『旦那様~。いつまで外にいるんですかー?風邪引いちゃいますよ』

琉雨の声がドアの硝子越しに聞こえた。

洸祈の背がドアのガラスから見える琉雨の視界を塞いでいるため、レイラがまだ帰っていないことに気付いていない。


クスリ。

レイラが堪えきれずに笑った。琉雨に気付かれないように微かな声で笑う。

『旦那様ー?だーんーなーさーまー?』

「琉雨さんが呼んでますよ。洸祈さん、それじゃあ」

「はい」

次は口がいの形で固まる。レイラはお辞儀をすると帰路についた

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