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金魚鉢の中から  作者: 睦月 葵
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路上の車窓から

 私が無類の生き物好きであることは、もう幾度も述べて来た。だからといって、人間が嫌いなわけではない。特に、子供は好きだ。


 過去には、「子供の世話はもういいや」と思っていたこともある。小学校を卒業する頃の事だ。小学生だった六年間は、父親の会社の社宅住まいで、同じ社宅に居る世帯の多くは、両親とほぼ同じ世代の御夫婦だった。つまり、子供達もほぼ同じ世代ということである。

 私は、体の弱い弟を連れて歩かなければならない事が多かった為、「ではついでに」とばかりに親たちに任され、下の世代の兄弟姉妹達も付いて来ていた。私が六年生の時の構成員は、五年生の女子二人・男子一人、四年生の男子一人、三年生の女子一人、二年生男子が三人(弟含む)、未就学の女子一人の大所帯である。小学六年生にとって、この人数の子守が如何に大変だったか……。何しろ、小学校が一緒、小学校行事が一緒、住所で区分けされる子供会も一緒と、三六五日中、三〇〇日はこの状態だったのだ。「幼稚園か小学校の先生になりたい」と言っていた筈の私が、小学校を卒業する頃には「子供の世話はもういいや」と思ってしまっても、全く以って仕方のない事だった。

 けれども、本来の子供好きが消えて無くなったわけではなく、中学・高校と年の離れた子供と接する機会があまりないインターバルを経て、何時の間にか無事に復旧した。

 その後は、身内の子でもそうではなくても、かまえるチャンスは逃さず接してきた為、結婚も出産もしていない身でありながら、新生児を片手で受け取ってあやし、「十人ぐらいポンポン産んで、育てていそうな貫禄」とまで言われるようになった次第だ。


 そんな私なので、運転中だからといって近くにいる子供をかまわないかというと、勿論そんなことはない。


 二十歳前後から四十代半ばまで、私は中型二輪を生活の足にしていた。加えてツーリング・ライダーだった為、かなり遠い距離でもひょこひょこと愛バイクで出掛けていた。ちょっとしたロング・ツーリングに出た時、あるいは仕事関係で街中を走っている時に、とある国道のバイパスで遠足のバスと並走したり、幼稚園バスの近くになったりすることがある。

 そんな時に、乗車している子供達と目が合ったりした日には、必ずサービスを欠かさない。長距離を走る為のフル装備で、更にフルフェイスヘルメットを被っている私が、男なのか女なのか子供の目には判らないだろう。けれども、子供達はとにかく乗り物が好きなので、Vサインを出したり、手を振ったりすると、それはもう大はしゃぎの大騒ぎだ。ある時など、通園バスに乗っている一人の子とそれをしていると、その子がバスの中で何かを言ったらしく、私から見えない所に乗っていた子供達が私の居る側に鈴なりになり、「何事か?」と見に来た引率の先生に視線で怒られたこともあった(先生、ごめんなさい)。


 その私が、運転する物がバイクからタクシーに変わったからといって、やる事に変わりはなかった。

 ご家族で乗車された子供と話すのは勿論、車中から子供達にアッピールすることも欠かさない。

信号待ちで停車している時に、同じく信号待ちをしている歩行者のお子さん(保護者付き)と目が合えば、手を振ったり変顔をしたりもする。自家用車の後部座席に乗っているお子さんとだって、ボディ・ランゲージでコミュニケーションもする。

 一方で、車内でのコミュニケーションが出来るかどうかは、それを親御さんが許容してくれるかどうかに掛かっている。

 他の項で語ったキングコブラ好きの少年の話や、ゾウさんとキリンさんの凄さの違いの出題を出したお子さんの親御さんは、かなり寛容な方々で、子供達が好奇心満々に話すのを笑いながら聞いていた。

 未就学児や小学校低学年の子供達だと、乗っている物が一般的なタクシーでも喜んでくれるので、「タクシーには秘密があって、普通の車にはない装備があるんだよ」なんて話でも、喜んで聞いているものだ。

 逆に、お子さんがタクシードライバーと話すのを望ましく思っていない親御さんもそれなりに居て、お子さんが私の話に乗ってくると、「お前(お子さんの方)は話すな」と制止されることもある。ある時は、幼稚園児の女の子と、その時に流行っていた『雪だるまを作ろう~』で始まる歌を一緒に歌っていると、「ちょっと静かにして」と怒られたこともある。

 お子さんがどういうふうに育つかが、大人の態度一つに掛かっていると感じる瞬間だ。


 そして、最近の小学生の教育傾向なのだろうが、営業所の前を掃除などしていると、通学途中の小学生達が、「おはようございます」と挨拶をしてくれるのだ。

 挨拶は勿論大切だし、子供を狙った犯罪の防犯的な意味でも、声掛けは有効だと考える。まあ、それとは関係なしに、「おう、おはよう。いってらっしゃい。頑張って来いよ」と答えてしまうのは、私の性分ではあるのだが。

 その一方で、親御さんが心を閉ざし、一緒にいるお子さんよりもスマホの画面に夢中になり、他者との交流を好まない───というのは、どうなんだろう?───と思ってはしまう。


 勿論、これらのことに正解はない。

 大人も子供も、それぞれに考えて自分の答えを出しましょう───というお話。

 

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