魔物の村
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サイクロプスの洞窟の入り口付近。
日は落ちたばかりの薄暗い時刻。
カーク、ヴィーシャ、ミユを乗せた三体のアースゴーレムが、ハンマ城へ向けて出発しようとしていた。
ミユ・キ・ガトーが、突然話し始める。
「皆さん。ここでお別れです。」
「お二人の乗るゴーレムには、こうプログラミングされています。」
「お二人を城まで送る。」
「途中、危険に出会ったら、お二人を守る。」
「王によろしくお伝えください。」
ヴィーシャ魔道士が応える。
「そうですね。」
「良い機会だと思います。」
「くれぐれも、命を粗末にしませぬように。」
「カーク殿は、どうされます?」
苦笑いのカーク。
「なぜ分かった?」
ヴィーシャは、笑いながら応える。
「魔物の主から王への献上物、光帝神の黄金像を、私に持たせましたからね(笑)」
カーク。
「俺は『名誉の戦死』と言う事で頼む。」
「ラテマン家の騎士団長が脱走したんじゃ……」
「まずいからな。」
ヴィーシャ魔道士。
「わかりました。」
「他には?」
カーク。
「妻と娘にだけは、本当のことを伝えてくれ。」
ヴィーシャ。
「上手くやっておきます。」
カーク。
「ヴィーシャ。あんたは最高の相棒だったよ。」
「俺の背中を、いつでも預けれる女だった。」
大笑いのヴィーシャ魔道士。
「それは(笑)……」
「女性に対する別れの言葉じゃありませんね。」
カーク。
「すまん(笑)……」
「どうも無骨者で……」
カークの槍が一閃すると、カークの乗っていたアースゴーレムは崩れ去った。
カークはミユの乗るアースゴーレムに跳び乗る。
ミユ魔道士。
「いけません。カーク様。」
「私の我が侭で、カーク様にご迷惑はかけれません。」
大笑いのカーク。
「まだまだ子供だな。」
「ヴィーシャはとっくに分かっている。」
「これは俺の我が侭なのさ。」
「さあ、洞窟の奥まで進むぞ。」
「すぐに爾前とやらが気付いて、迎えをよこしてくれるだろう。」
*****************************
竜人との戦いにけりはついた。
鎧に残った2個の『回復の宝玉』が、フル稼働で俺の傷を治していてはくれるが……
痛い……
血液中のアドレナリン濃度が下がってくるにつれ、痛みが増してくる。
よくもまあ……
生き残ったもんだ……
俺はハジメを探して、戦いの始まった地点を目指した。
前方より凄まじい勢いで、こちらに向かって来るやつがいた。
ハジメだ。
俺は手を振って合図をした。
そう簡単にくたばる奴じゃないのは分かっていたが、こうして無事な姿を確認すると、やはりほっとする。
「ハジメ。ここだ。」
ハジメもこっちに気付いたようだ。
「古龍さん。無事でしたか?」
「あんまり無事とも言えんさ……」
そう、俺が応えようとした時、ハジメの手甲から、何か鞭のようなものが……
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一瞬の出来事だった。
古龍とハジメの距離が射程に入った瞬間、ハジメの手甲に仕込まれた自動戦闘装置が作動した。
完璧に頸動脈に決まった絞めは、12秒で人間を失神させる。
しかし実際には、この時間を短縮する絞め方もある。
締める瞬間に、頸動脈に打撃を与えるのだ。
太い血管が、心臓と脳と肺へと続いている。
ボイルの法則により、打撃の生み出した圧力は、急所を直撃する。
しかもハジメの自動攻撃装置は、ご丁寧にも、顎の先端に、擦る様な打撃を与えてから絞めに入った。
「うわぁっ!!!」
ハジメは慌てて作動スイッチを止める。
「古龍さん!!古龍さん!!」
返事は無い。
ハジメは少しの間考え……
何やら小瓶を出して、中の液体を古龍の口に含ませる。
「これで……良いはずだよなぁ……」
ハジメは古龍を置いて、もと来た道を引き返して行った。
通りすがりの妖精ハリセン。
『な……なんで奴だ……』
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俺はお花畑を歩いていた……
いい気持ちだ。
しばらく歩いて行くと、小川が見えてきた。
小川の向こうでは……
おばあちゃんだ!!!
俺は子供の頃から、おばあちゃんが大好きだった。
「おばあちゃーーん。」
俺は叫ぶと、おばあちゃんの方へ走り始めた。
いきなり何処からか飛んできたのか、二振りの剣が俺の目の前の地面に突き刺さり、俺の行く手を阻んだ。
長剣と豪剣だ。
どうやら、俺を先に進めてくれるつもりはないらしい。
すると、おばあちゃんの姿は、黒いドレスの女性に変わった。
美しい女性だった。
いや、美しいことは美しいが、そんな人間じみた感覚ではなく、なんと言うか、間違いなく、彼女は人間ではなかった。
どっかで会ったことがあるな。
おかしい?
悪いが、俺は一度でも会った女性なら、忘れるはずが無いのだが。
彼女の姿はどんどん大きくなり、ふわっと浮くと、俺の方へ飛んで来た。
黒いナイトドレスに、ラメがきらきら光って美しかった。
彼女は俺の頭上を飛んでいく。
その時気付いた。
ラメだと思った輝きの一つ一つが星だった。
星雲もある。
黒いドレスは宇宙空間のように思えた。
俺は我知らず、彼女の後を追った。
彼女を追いかけて行くと、知った顔に出会った。
サライだ。
俺はすぐさま彼女に駆け寄ろうとした。
しかし、彼女は戦っていた。
それは黄金の光を纏った神獣だった。姿は眩しすぎてハッキリとは見えない。
俺は彼女を助けるため右手を上げて長剣を呼ぶ。
先ほど地面に刺さっていた長剣が、俺の右手に飛んで来た。
その時、黄金の神獣に襲いかかる白い影があった。
それは白い虎だった。
虎が飛びかかった瞬間、神獣の姿もはっきりと見えた。
黄金の獅子だった。
とにかくサライを助けなければ。
そう思う俺の前に、先ほどの黒いドレスの美女が立ちふさがった。
彼女のドレスがどんどん大きくなり、俺は吸い込まれて行く……
思った通り、それは夜空だった。
それとも宇宙?
俺は上も下も分からなくなり、気が遠くなって……
気がつくと、俺は倒れていた。
あれ!!!!
ここは……
どこ???
そうだ、竜人と戦って……
少し落ちたのかな?
とにかく……
竜人との戦いにけりはついた。
鎧に残った2個の『回復の宝玉』が、フル稼働で俺の傷を治していてはくれるが……
痛い……
血液中のアドレナリン濃度が下がってくるにつれ、痛みが増してくる。
よくもまあ……
生き残ったもんだ……
俺はハジメを探して、戦いの始まった地点を目指した。
前方より凄まじい勢いで、こちらに向かって来るやつがいた。
ハジメだ。
俺は手を振って合図をした。
そう簡単にくたばる奴じゃないのは分かっていたが、こうして無事な姿を確認すると、やはりほっとする。
「ハジメ。ここだ。」
ハジメもこっちに気付いたようだ。
「古龍さん。無事でしたか?」
「あんまり無事とも言えんさ……」
そう答えようとした時……
あれ?
何も起きない?
ここで何かが起こるはず……
・・・・・
この感じ……?
デジャビュってやつ???
とにかく俺は答えた。
「あんまり無事とも言えんさ……」
「竜人は?」とハジメ。
「なんとか倒した。」
ハジメが心配そうに聞いてきた。
「なんか、顔色が悪いようですが……」
「大丈夫ですか?」
けっこういい奴だったんだ。
「いや……」
「竜人との戦いで、だいぶ高いところから落っこちたからな……」
「とにかく、決着はついた。」
「ハジメが小刀に仕込んでおいてくれた力のおかげだ。」
「しかし、鎧の宝玉のほとんどが飛んでしまった。」
「修理は効くかな?」
笑いながら応えるハジメ。
「ここまで傷んでいますと……」
「「新しく買った方が安くつく。」」
二人はハモった。
そして大笑い。
俺たちは、ハジメが魔界へ来る時に使ったというドアに向かって、歩き始めた。
俺は尋ねた。
「行き先は魔物の村なんだろ?」
ハジメ。
「ええ。ドーチと言う名前の村ですが、この辺りじゃ他に村も無いので、ただ単に村と呼ばれていますね。」
俺。
「なんでそんなに詳しいんだ?」
ハジメ。
「『宿屋 兼 酒場』みたいな店がありまして、そこのママさんに聞きました。」
俺。
「サイクロプスの?」
ハジメ。
「いえ。見た目は人間でしたよ。凄い美人さんです。」
「って言うか、村は人間サイズの魔物と巨人サイズの魔物が仲良く暮らしてるようです。」
「巨人サイズが間違って人間サイズを踏んづけないように、居住区は別れているようですね。」
「ママさんに聞いた話ですけど。」
俺。
「待て待て……話が見えん。」
ハジメ。
「いえね、改造サイクロプスで断崖を登っていたらリンリンと言う名前の神族に出会いまして、二人で魔物の村を見つけて潜入捜査をしてたんです。」
「で、うろうろしている内に酒場を見つけて、そこのママさんが嵯峨萕って言う美人さんで。」
「でも、副村長だって言ってたから、魔人でしょうね。」
「で、リンリンとママさんが良い感じで話し始めちゃったんで、ちょっと店の周りでも一回りしようと思って表に出ると、岩壁にドアがあったんですよ。」
「そのドアに、『このドア開けるべからず。この先魔界。村長。』って書いてあったので、鍵くらいは掛かっているかなと思ってノブを回したら、簡単に開いて。」
「で、しばらく歩いていたら古龍さんと出会ったんです。」
俺。
「……」
「で、戻ったらどうする?」
「俺は王虎には会いたくないぞ。また何処かに転送されてはかなわん。」
ハジメ。
「取り敢えず酒場に行きましょう。」
「副村長の嵯峨萕さんに相談すれば、何とかなるでしょう。」
「リンリンも回収する必要が有りますし。」
俺。
「分かった。」
二人はドアを目指した。
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レッド、アヤ、サライ、ナニワ、マリオ、ケイ、リンリンの7人は、村の宿屋へとチェックインした。
村長である爾前の秘書として、アウスが何から何まで世話をしてくれた。
村の家は、北側に大きな家、南側に小さな家と、分けて建てられている。
アウスの説明によれば、サイクロプスなどの大きな種族と、普通の大きさの種族に、分けてあるそうだ。
そうしないと、うっかり踏んづけられて、死人が出ても困るからだそうだ。
宿屋の一階には、『酒場 兼 食堂』になっている部分があった。
外からも入れるので、宿泊客でなくても、酒場や食堂として利用できる。
よくある造りだった。
酒場の名前は『片目のジャック』と言った。
宿屋の女将が、ママさんを兼任している。
ママさんの名前は、嵯峨萕と言う。
なかなかの美人だ。
リンリンの顔を見ると、すかさず挨拶をしてきた。
嵯峨薺。
「あら、リンリンさん。」
「また、いらしてくれたのですか?」
リンリンとハジメは、ここで一杯やったのだろう。
リンリン。
「先ほどは、お世話になりました。」
嵯峨薺。
「それとレッドさん。始めまして。」
レッド。
「???」
嵯峨薺。
「あなたがお持ちになっている金色のプレート、村で買い取らせてくださいな。」
レッド。
「話が見えないな。」
嵯峨薺。
「そのプレートは、暗号なんです。」
「そして、どうしても『偶然』、私の手に渡る必要があった。」
「そう言えば、盗賊マスターのレッド・クイックナイフ・バスチェンさんには、おおよその事情がお分かりかと。」
レッド。
「……」
「分かった。そんな恐ろしい物、言い値で引き渡す。」
村には、普通サイズの酒場は、この一軒しかない。
サイクロプス用の酒場は、村役場の一部を、夕方より酒場として使っているそうだ。
宿は、大部屋を二つ、男性用と女性用で頼んだ。
女将は個室でも構わないと言ったが、みな、色々と話したいことが多いので、そうしてもらった。
先ずは夕食をとなり、夕食の用意が出来るまで、男性用の部屋に集まった。
夕食を待って、今日の出来事を色々と話していると、女将が二人のお客を部屋へと連れて来た。
カークとミユ魔道士だった。
さらに十分後には、古龍とハジメも部屋に通された。
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ハジメに案内されて、村の酒場に着いた。
美しい女性が迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。」
「こちらのお店の女将をやらしてもらっております、嵯峨萕と申します。」
「ハジメさん。それに古龍さんですね。」
「既に皆さま、おそろいですよ。」
「夕食の準備が整うまで、お部屋でおくつろぎいただいております。」
「今からご案内いたしますね。」
俺とハジメは、女将の案内で、みんなが居るという大部屋に通された。
ナニワ。
「古龍さん!」
「無事だったんですか?」
マリオ。
「無茶苦茶心配しましたよ!!」
「無事だったんですね!」
俺。
「何度か死にかけたが、何とか生きてる。」
「お前たちも無事で何よりだ。」
ナニワ。
「僕たちも何度か死にかけましたよ。」
マリオ。
「虎と出会った時は、覚悟を決めましたよ。」
古龍。
「そっちの人は?」
初対面のリンリンとケイを、レッドとハジメが紹介した。
レッド。
「古龍さん。例のプレートは売りました。詳しい事情は後で話します。」
俺。
「分かった。レッドがそうすべきと判断したなら文句はないよ。」
「後で事情だけ聞かせてくれ。」
ハジメに紹介されたリンリンと言う男は、一言で言うなら好漢ってとこか。
しかし俺が注目したのはケイの方だ。
見間違う筈もない。
スーツだ。
地球のスーツを着ていた。
かなりよれよれになってはいたが。
俺。
「ケイさんって、地球の……いえ、日本の方ですか?」
ケイ。
「あ、どうも。これ、名刺っす。」
「それと、こいつはプニョ吉。ゼリーボールだけど、俺の子分っす。」
プニョ吉。
「ピィ〜!」
俺。
「……」
『キャラが濃いなあ……』
全員にとって、あまりに濃すぎる一日だった。
違う時間軸にいた俺にとっては、数日だったが。
全員が、それぞれ質問をし合ったが、すぐには理解が追いつかない。
出撃したのは今朝の7時。
理解が追いつく訳がない。
まだ全員が状況の輪郭も掴めていない内に、食事の案内が来た。
全員で食事をしながらも、話は止まらない。
特に突然現れた、リンリンとケイ。
女将とアウスが、世話を焼いてくれた。
アウス。
「皆さま、色々とお話も尽きないでしょうが、今夜はドーチ村自慢の温泉をお楽しみくださいませ。」
「明日、村長より、色々とお話が有りますので、皆さまからの質問は、その時に受付たいと思います。」
「温泉は基本は混浴なのですが、今夜は皆さまにお使いいただきます。」
「女性の皆さまには、本日はサイクロプス用の温泉を特別に開放いたします。」
「小さな湖くらいあるから、気持ち良いよー☆」
「男性の皆さまは、普通サイズの温泉をお使いください。」
食事を終え、男性陣、女性陣、それぞれの部屋に向かう。
リンリン。
「俺、少し散歩してきます。」
そう言うとリンリンと呼ばれる青年は、一人宿の外へと向かった。
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リンリン。
「もうこんな時間か……」
星を眺めながら、林の方へ向かう。
宿から陰になっている所へ行き、足を止めた。
「これだけしか連れてこれなかったが、安らかに眠ってくれよ。」
リンリンが懐から取り出したのは、サイクロボットの肉体の一部だった。
小さな肉片を、大きな樹の下に埋める。
枝を探してきて、その上に半円の形に組み上げた。
紙に愛染明王の梵字である『ウーム』を書き、その中に入れ火を付ける。
「……オン・マカラギャ・バゾロウシュニシャ・バサラトバ・ジャク・ウン・バク……」
幾度か真言を口にし、ゆっくり目を開ける。
煙に乗って、サイクロプスの魂も、風に流されて行った。
「生まれ変わろうなんて気張らなくて良いから、ゆっくり休めよ……」
『死んだ者の肉体を操る術なんて、どこにでも、どんな教派にもある。』
『しかし、それは寝掛かった者を、無理矢理起こすのと同じことだ。』
『何でそんなことも、気づかないんかなぁ。』
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部屋に戻って、俺はみんなに尋ねた。
「俺はすぐに温泉に行くが、みんなはどうする?」
ナニワ。
「ご一緒します。」
マリオ。
「僕も。」
カーク。
「俺も行くぞ。」
レッド。
「私も。どうせ分かることだから先に言っておくが、私の背中には隠し彫りがある。」
「体温が上がると白く浮き出すが、他言はしないで欲しい。」
ハジメ。
「リンリンさんが来たら行きます。先に行っていてください。」
俺。
「あれ?」
「ケイは?」
レッド。
「さっきプニョ吉と一緒に先に出かけてたな。」
俺。
「じゃ、皆んなで行くか。」
宿屋から温泉場へは、渡り廊下を通って行く造りになっていた。
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女性部屋をノックする音が。
サライが「どうぞ。」と応えると、アウスが飛び込んできた。
アウス。
「女将さんが、『温泉の準備が出来ました。』って。」
「早く行こ☆」
宿屋に隣接する温泉の入浴場へは、渡り廊下で繋がっている。
馬鹿でかい脱衣場の片隅に、人間サイズのテーブルが用意されており、タオル、石鹸、バスタオル、などのお風呂道具と、今夜使う簡易な着替えが用意されていた。
アウス。
「皆さんのお洋服は、この籠に入れてくださいね。」
「今晩中に洗濯して、明日の朝にはお部屋に届けます。」
「今夜は宿で用意した服で過ごしてくださいね。」
アウスはさっさと裸になると、浴室の方へと走って行った。
同じサイズの友達が嬉しいのか、テンションが高い。
浴場はアウスの言った通り、小さな湖ほどもある露天風呂で、周りには簡単な柵があるだけだ。
光苔があちこちに群生していて、それなりの明るさは確保されていた。
エルフは総じて美しいが、アウスも美しい少年だった。
子供らしい元気さで、温泉に飛び込んだ。
「ねぇ、……」
「早くおいでよ。」
「気持ちいいよ☆」
アヤはアウスを追おうとしたが、サライが何やらやっているのに気づいた。
アヤ。
「サライさん。何をしてるんですか?」
サライ。
「いや、習い性でな。」
「丸腰と言うのは、落ち着かん。」
サライは糸とナイフを数本用意した。
長い髪を纏めあげ、そこにも2本のナイフを隠す。
アヤ、サライ、ミユ、それにアウスの4人は、小さな湖ほどもある温泉に浸かった。
サライ。
「う〜〜ん……」
「疲れが取れるな。」
アウスは、泳いだり、アヤにお湯をかけたり。
******************************
「……でけぇ風呂!」
「ピィ〜!」
ケイとプニョ吉は、渡り廊下を通らず、外から温泉へと向かった。
少しは村の風景を見ようと思ったからだ。
温泉はすぐに見つかった。
小さな湖ほどもあった。
ケイは柵を乗り越え近道した。
少しでも早く、温泉に浸かりたかったのだろう。
ケイはプニョ吉を頭の上に乗せて入った。
『日本人の心やねぇ……』
『ん?何か人影が?』
『先客か?』
『裸の付き合い〜♫』
そのまま近づいて行こうとした瞬間、いきなり目の前に水中から人影が。
「うわ、びびった。」
「ピィ〜」
ダークエルフの少年、アウス。だった。
アウス。
「ケイさん?でしたよね?何してんの?」
ケイ。
「?????」
「いや、温泉に入ってるだけだけど……」
アウス。
「……」
「お兄さん、人の話を聞かない方でしょ?」
ケイ。
「????」
アウス。
「大きい方は女性用だって言ったじゃん。」
ケイは小声で。
「マジ?」
アウス。
「うん。」
ケイ。
「どうしよう?」
アウス。
「入って来た所から戻るしか無いけど、体を拭くバスタオルとかも無いでしょ?」
ケイ。
「無い……なんも考えて無かった……」
アウス。
「しょうがないなぁ。」
「僕がお兄さんの分の着替えとタオルを持って来てあげるから、しばらくここにいて。」
ケイ。
「分かった。」
アウス。
「それと、くれぐれも、ここから近づいちゃダメだよ。」
「さっきサライさんが糸を張っていたから、スパッ……だよ。」
ケイ。
「スパッ……かぁ……」
アウス。
「助けてあげる代わりに、プニョ吉を借りるね☆」
アウスはサッとプニョ吉を奪うと、女性たちの方へ戻って行った。
「あ、おい。」
ケイは女性陣の方を見るが、湯煙でよく見えない。
『いかん、いかん。俺とあろう者が、覗きとかダメだな。」
しかし、女性たちの声は聞こえてくる。
アウス。
「プニョ吉、ゲットしたよ。」
アヤ。
「あ、あたしにその子、抱っこさせて。」
「可愛い……」
サライ。
「確かアヤは、まだ17才だったな。」
アヤ。
「サライさんて、凄くスタイルが良いんですね!」
サライ。
「そうか?自分では気にしたことがないからな。アヤにミユも、見目麗しいぞ。」
『気のせいなのか?何か妙な気配を感じるが?アヤやミユを怖がらせる必要もあるまい。糸を張ってあるから、大抵のことは平気だと思うが……』
アヤ。
「ありがと。ねぇ、サライさん。ちょっと胸触ってみてもいい?」
ケイは驚愕した!
聞こえてくる会話の内容!!
『スタイルがいいんだ……見目麗しいんだ……』
『プニョ吉と少年は、あっち側で楽しそうにはしゃいでいる……」
『羨ましい……』
サライ。
「触るのはかまわんが、職業上、急に触られると、反射的に怪我をさせてしまうかも知れん。」
「だから心の準備をさせてくれ。」
アヤ。
「心の準備って(笑)」
サライ。
「よし、出来た。触ってくれ。」
アヤ。
「うん。」
ケイ
『ブクブクブク……』
アウスがプニョ吉を抱えて。
「ねぇ、あそこに小さな滝があるでしょ?」
「シャワーの代わりになってるから、髪を洗ったりするのに都合がいいんだ。」
「僕、プニョ吉と行ってるね☆」
女性たちも続き、プニョ吉を使って体を洗ったり、楽しそうだ。
アウスは温泉の中から、可愛らしい魔物を捕まえてきて、女性陣に渡す。
アウス。
「この温泉のご当地キャラのニャン魚だよ。」
「床が濡れてれば、遊んでも大丈夫。」
それは、上半身が猫で、下半身が魚の魔物だった。
シャワー代わりに使える小さな滝、プニョ吉、ニャン魚。
女性陣が楽しんでいる隙にアウスは行動に移った。
一人脱衣場に戻り、ケイの分のタオルと着替えを籠に入れ、こっそりケイの所へ。
ケイ。
「ブクブク……」
アウス。
「お兄さん、何してんの?」
ケイ。
「いや、何でもない……」
アウス。
「自分で元来た場所まで戻れる?」
ケイ。
「うん。」
アウス。
「じゃ、この籠を持って、なるべく静かにね。」
「多分、サライさんにはバレてる。」
ケイ。
「マジで?」
アウス。
「お兄さんに悪意があったら、ちょん切られていたと思うよ。」
ケイ。
「わっ分かった……すぐ戻る。」
アウス。
「プニョ吉は貸しといてね。」
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俺たちは渡り廊下を渡り、普通サイズの温泉の脱衣所に入った。
レッド。
「おかしいな?」
「ケイとプニョ吉が先に入っているはずなんだが。」
「まさか、隣に覗きに行っているわけじゃないよな。」
カーク。
「そこまで馬鹿ではないだろう。」
「なんせ、カラミティ・サライが居る。」
「ちょん切られるぞ(笑)」
俺は注意書きに気がついた。
俺。
「おい。注意書きがある。」
「読んでおいてくれ。」
【お客様各位へ】
当温泉には、『ニャン魚』が生息しております。
サイクロプスの皮膚に付いた寄生虫を食べてくれる益獣です。
性格は温和で、お客様を襲うようなことはありません。
姿は、上半身が猫で、下半身が魚です。
洗い場のように床が濡れていれば、活動可能です。
当温泉のアイドルですので、いじめないでください。
いろんなタイプ(三毛やらペルシャやら)がいて、とっても可愛い☆
ナニワ。
「へぇ〜。」
マリオ。
「流石に魔物の村ですね。」
俺。
「ところでレッド。隠し彫りだが、やはり地球で掘られた物なのか?」
レッド。
「ええ。これも、古龍さんとナニワさんに見てもらえば、何か手掛かりが掴めるかも知れません。」
「ケイにも見て貰いたかったのですが、またの機会で良いでしょう。」
俺。
「俺たちのことも呼び捨てで構わんよ。」
「俺たちに粘着するって宣言してるんだし、今更だ。」
カーク。
「俺のこともカークで構わん。ラテマン騎士団長は名誉の戦死をなされた。」
「あれだけの死闘をお互いに生き延びたんだ。俺もレッドと呼ばせてもらうぞ。」
「レッド・クイックナイフ・バスチェン。」
30分ほど温泉を楽しんだあと、酒場で一杯だけ飲んだ。
ハジメとリンリンとケイは合流しなかった。
まあ、特に団体行動していたわけでも無いし。
部屋に帰えると、ケイが爆睡していた。
まあ、良い性格をしてると思う。
こっちでも生き延びれるタイプだな。
俺たちも直ぐに寝た。
それから30分くらいたった時、ハジメとリンリンが帰って来た。
一瞬、目が覚めたが、二人がベッドに入るのを確認して、俺は再び眠りの世界へ。
魔界で見た夢は、何だったのだろう?
一瞬だけ思い出したが、直ぐに眠りの世界へ落ちていった。