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それぞれのきっかけ

「美咲、美咲、どうして……!」


 母さんが来た。

 母さんは、眠ってるふりをしている私の側でぼろぼろと涙をこぼす。


 あーあ、まためんどくさいことになった。


「全部あの女のせいよね、美咲……! あの女が美咲を苦しめた、あの女のせいで美咲は不良の道に進んだ……! 絶対に許さないわ……」


 あの女、とは蒼葉さんのことだろう。

 違うのにな。

 蒼葉さんは私を守ってくれた。

 そして、拳の使い道を誤るなと教えてくれたんだよ。


 私が不良になったのは、私のせいだったんだよ。


 母さんは優しい。

 でもたまに過保護なところがあった。

 それは私が蒼葉さんの命を狙ったバイクに、命を奪われそうになった事件が起こってからだ。

 仕方ないのかもしれないが、私はそんな母さんを少しめんどくさく思っていた。


 私だって、もう高校生なのだから。

 普通の高校生を目指していたのは、お母さんを安心させるためということも理由の一つにあったのだ。


「美咲、大人しくしているのよ。美咲を苦しめるものは、全部私が取り除いてあげる」


 でも、この様子じゃ……当分は外に出れないかもしれない。


 そう考えていると、個室の外がやけに騒がしくなってきた。

 時間は、午後二時過ぎを指していた。

 子どもが騒いでいるのだろうか。


「待ってて、美咲。今から静かにさせてくるわ」


 そう言って、母さんは病室から出ていった。

 理由がなんであれ、母さんが病室から出て行ってくれるとなんだか気が楽だ。

 私は体を起こして、伸びをする。


「よくここに来れたわね、あなた!」


 突然怒鳴り声が聞こえて、体が震え上がる。

 間違いなく、今のは母さんの声だ。


「美咲のお母さん、取り敢えず美咲に会わせてくれませんか?」

「いいえ。美咲は絶対に安静にしてなきゃいけないの。今すぐに帰りなさい!」


 あれ?

 今の声は……佳奈?


「あなたは特に! 村雨 蒼葉の息子ね? 私の娘をこんなことにさせたのもあなたなのね!?」


 ドンッ、と何かがぶつかる音がした。


 村雨 蒼葉の息子……?


 じゃあ、そこにいるのは……


「私の娘は普通の高校生になるって言ってたのよ! それなのに昔のことを掘り返して、美咲をあんな風にするなんて! 親子揃って」

「母さん!」


 勢いよく扉を開けて、母さんの続きの言葉を遮る。

 扉の前には佳奈と村雨がいた。


「美咲!」

「篠原……」

「母さん、私は蒼葉さんのことをそんな風に思ってない。あの人は命の恩人なんだ。そして、ここにいる蒼葉さんの息子、村雨 裕翔は私の友達」

「お、おい! 勝手に友達だなんて……」

「なんですって!?」


 母さんは信じられない、という表情を浮かべる。村雨も何か言いたそうにしているが、佳奈が彼の口を塞いでいた。


「私、今でもちょっぴり不良なんだよ。やっぱやめられなかった。でもさ……前みたいに苦しくはないんだよ。むしろ今回のことは、過去を思い出せてよかったと思ってる」

「美咲……」

「村雨、佳奈。ちょっと話そう」


 二人を手招きして、病室に迎え入れようとする。

 すると、佳奈が突然病室の前で足を止めた。


「私は美咲のお母さんと喋ってくる。二人でたくさん話して!」


 そう言って、ビシッ!と勢いよく病室の扉を閉められた。


「気遣わせたかな?」

「いや、さっき美咲の親と喋りたいとは言ってたんだ。ちょっとだけ、こっちにも気遣ってはいるだろうがな」


 そう言うと、村雨は病室にある椅子に座る。


「……私がいなきゃ、蒼葉さんは死んでいなかった。蒼葉さんはバイクをかわしてた。あの人が死んだのは、間違いなく私のせいだ」


 そう、下を向いて話す。


「恨んでるか、私のこと」


 そう言うと、村雨は首を横に振った。


「いいや。俺は母さんのことを知りたかっただけだ。風神にいた母さんを知ってる人と、話してみたかった」

「それだけ?」

「ああ、本当にそれだけだった。それだけで行動しちまうくらい、俺と母さんが関わった時間は少なかったんだ」

「そうか」


 それを聞いて少し安心する。

 でも、私はまだ顔を上げられなかった。


「それに……すまねぇ。お前をこんなことにさせたのは、俺のせいだ」

「何謝ってんだよ。私のこと、友達じゃないって嫌ったくせに」

「……」


 茶化しながらそう言うと、村雨は黙り込んでしまった。

 案外、気にしていたのだろうか。

 そう思っていると、村雨は再び口を開いた。


「お前は、どうして喧嘩を始めた」

「私は……そうだな」


 ゆっくりと記憶を引き出していく。

 急がずに、パニックにならないように。

 それでも、頭の中に血を流す蒼葉さんの記憶が浮かび上がる。

 途端に、吐き気や胃痛が襲う。


「うっ……!」

「大丈夫か? 無理はしなくていい」

「……いいや、私だって乗り越えなきゃいけないのは分かってる。頑張ってみるよ」


 ゆっくりと、深呼吸してみる。

 おずおずと村雨が背中に手を当ててくれた。

 それがなんだか暖かくて、安心した。


「蒼葉さんが亡くなってから、私は自暴自棄になっていった。ついでに、中学の周りの奴らがみんなそういう喧嘩っ早い奴でな。環境に流されたんだよ」


 入院してしばらくすると、身体的に楽になった。

 蒼葉さんとの記憶も飛んで、私には何もなくなった。

 何をすればいいかも分からなくて、取り敢えず言われたことや自分ができることをやろうとした。


「そんな中、私の前に現れたのが……神崎 いのり」


 自暴自棄でフラフラとしていた私を、いのりが引き取った。

 意思のない私を、命令で動かし続けた。

 でもその関係は誰にも知られず、いのりは私に全てのヘイトを背負うよう仕向けていた。

 気づけば、周りには敵ばかり。

 私の命令に従う部下たちは私を恐れ、ひどく怯えていた。それどころか、私にいつか叛逆してやろうと殺意に塗れた奴も中にはいた。


 そんな中、段々と自分の意志ややりたいことを取り戻していった私は、「普通の高校生になりたい」という意志のもと、この学校に通い始めた。


「……と、いうことだ」

「苦労したな」

「まぁ、な。でも、それはお前も一緒だろ?」

「どうかな」


 そう言ってはぐらかす村雨に、顔を近づけて睨みつける。


「次はお前の番なんだぞ」

「あー、分かった。分かったから顔を離せ」

「ふっ、意気地なしめ」


 私の睨みに怯えたのか、彼は私から目を背けてそう答えた。

 私がふふんと鼻を鳴らすと、すごく怖い目で睨まれた。大変殺意がこもってらっしゃる。


「俺が喧嘩を始めたのは、母さんのことを知りたかったからだ。それは母さんに喧嘩を教えてもらっていた女がいると聞いて、そいつを探すためでもあった」

「え?」


「……俺は、お前に会いたかったんだ」


「んにゃ!?」

 真っ直ぐで真面目な瞳でそう言われると、顔に熱がこもっていくのが分かった。

 照れている私を見て、村雨はぶわっと顔を赤くさせた。


「いや、そういう意味じゃなくてだな……」


 彼はそう言って頭を掻く。

 一呼吸置いて、話は戻された。




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