#27 勃起!!!!!!!!!!!
のっけから様子のおかしいサブタイトルですみません。今回でおはなしも折り返し。この冗談みたいな流れから、九月ごろまでにがっつりラブコメに入らせていただきます。
窓際で雀がちちちと囀り、カーテンの隙間より漏れる陽光が、新しい朝の訪れを否応無しに告げてくる。
柔い布団をはね退けて、鏡に向かうこの瞬間。一日の中で最もきらいなひととき。
「朝、か……」いつものように"クローゼット"に向かい、胸にパットを押し付けて、身体の弛みを指の腹で均し、『マスク』を被る。
「ああ、あぁ、ああ」
極端な高音から低音まで。声の調子に異常ナシ。いつもの朝。いつものカワ。いつものワタシ。
「んん?」
その、筈だったのだけど。ちょっと待って。形だけのブラを纏い、お気に入りのショーツを穿いたのに、何故だが妙にしっくりこない。
「おかしいな。いつもぴったりなのに」
なんでかなと人差し指で内側をなぞり、クロッチの辺りへと行き着く。おかしいのは下着の方じゃない。だったら何さ。視線を下腹部に向けてゆき……。
「あれ?」いつもなだらか、見慣れたそれにフシギな膨らみ。排尿の時以外は『内側』に潜み主張することの無い部分が、テントを張ったみたいに立ち上がっている。
カワの中に何か挟み込んだのかな。両の指で股を『開き』、異物を出さんと、そう、出さないと……。
「えっ」
何、この、何?
ちょっと待って。
待って待って待って。
な、あ、あ、あ、あ、あアァアアあああっっつっ!?
※ ※ ※
「辰巳高に在学の皆々様、この度は私・明灯かがりに一票を投じて下さってありがとうございました。再び生徒会長になったからには、今以上に生徒生活向上に務めて参りますゆえ、尚一層の応援をお願い申し上げます」
「おねがいし、まーす」
「お願いします」
梅雨の湿っぽろい雰囲気を引きずって、暦の上じゃそろそろ七月。暑苦しい制服もワイシャツ一枚となり、こちらもようやくクールビズ。二週間後に控えた期末試験の事を考え、うんざりとした気持ちで溜息を吐く今日この頃。
数日前に開票された次期生徒会長選挙は、ここに居る明灯かがりが他に一ケタの差を付けて大勝利。当人は自身の志が他に響いたとご満悦だが、実際のところはドッペルさんを抱き込んだが故の勝利。元来の生真面目さはカウントされていないことに気付いているのだろうか。
(あっ、こっち向いた)ニコニコ笑顔で手を振って、家臣ふたりがそれに続く。彼女は紛れもなく”感謝”だろうが、あちらさんたちはどうだろう。興味はあるが、率先して聞く気はない。
「まあ、知ってても同じか」
当事者を離れた時点で俺には関わり合いのないことだ。会釈の後他方に目を向け、何食わぬ顔で校門をくぐる。
「待って……」
筈だった俺の肩を掴み、進行に歯止めをかける者の姿あり。生徒会役員のどちらかか? 否、艷やかな長い髪をシュシュで括った上品な子に覚えはない。
「『オヨ』」
「はあ?」
「オヨ」
そんな彼女が密やかな声でぼそっと呟く。困惑続きで目眩がしたが、ようやく自体が呑み込めてきた。
「ええと……『ルン』?」
「正解」
密やかで影の有るトーンで、女児アニメネタ引っ張られると逆に怖いな……。
「チアキ、お前学校前で何やって」
「チアキじゃない」などと世迷言で返し、「今の私は吹寄幽子。文芸部所属で貴方よりも一つ先輩」
「えらく設定盛ってきたな」この局面で必要有るかどうかは別として。
「今日は何の遊びなんだ? もうじき授業がはじまるってえのに」
「この顔が、遊んでいるように見える?」そう呟くチアキの声は、何故だか妙に震えていて。
「話したいことがあるの。ちょっと付き合って」
「待てよ。だったら休み時間でも良いじゃん。何故学校を離れなきゃならない」
「だから、授業なんてどうだっていいの」
いや、良くないだろ。期末試験が近いんだぜ。勉強しなきゃまずいでしょうが。などと言ってやるのだが、チアキが訊く耳を持つことなどなく。
「時間の無駄。黙って私について来い」
「おい、そんな強引に」
二の腕の柔いところを抓り上げられ、顔をしかめた隙にぐいと引く。こうなると重心が崩れて前のめるため、自然と向こうの歩幅にノセられる。
俺、これでも昨年まで陸上やってたのにな。見た目に惑わされた感があるが、犬めいて引っ張られるのはだいぶ恥ずい。
「頼むよ。キミしか、頼れるヒトが居ないんだ」
それでも抗わずにいるのは、背中越しに呟くこの一言があったからだ。理不尽だけど、無碍にするべきじゃないと心が俺に語りかけてくる。
たまには、ちゃんと向き合ってやんなきゃな。手の平を伝う震えをしんと感じながら、『分かったよ』と身を委ねた。
※ ※ ※
「やっと、二人きりになれたね、ヒガシくん」
「き、気味悪いこと言うなよ」
学校を背に戌亥の校舎に向かい、錠を下ろしてカーテンを閉める。
このクソ暑い中そこまでする理由は何だ。その『厚着』で熱中症喰らっても知らねーぞ。
「そろそろ本題に入ろうぜ。テスト前にヒトを拉致るだけの理由は何だ」
「そうか。そうよね。そりゃそうだ」
戸を閉めて薄暗くなったせいか、チアキの様子が何だかおかしい。否、おかしいのはいつも通りか。何と言うかこう、熱に浮かされて普通じゃないテンションしている時。そう、それ。
「ヒガシくん。キミだから、キミにしか相談できないことが、あるんだ」
「それはさっき聞いた」そういう秘密をコイツと共有することになるとはね、と感慨深くなったが。「続きを話せ、続きを」
「解ってる」とは言うが、どうにも今日は歯切れが悪い。スカートの前で組んだ手は汗でしっとり濡れていて、目の前にいる俺と目も合わせようとしない。
「自分じゃ、どうしていいか分からないんだ。これから夏でしょ、制服だって変わるでしょ。だから、ね?」
「だから、って言われても」
いまいち話が見えて来ない。続く言葉をじっと待つが、答えが出て来る気配もない。
「う、く、く、う」
それをもどかしく思っているのは向こうも同じらしい。俺と床とで何度か目線を彷徨わせた後、意を決してスカートの裾を両手で抓む。
え。ちょっと待って。スカート?
「にぶちんヒガシ。ワタシにこんなことさせるなよ」
「や、ややや」そんなことしてるのはオマエだろーが変態チアキ。ジャンパースカートの裾をゆっくりと捲り、紺のハイソックスが。その上に乗っかる形の良い太ももが。扇情的な藍色のレースショーツが、順を追って顕となってゆく。
「セイ! セイセイセイ!! ナニコレハニトラ!? 密室だぞ? ヒト誘い込んで何する気?!」
落ち着け北西東。こいつはオトコ。既製の生皮をすっぽりと被り、可憐な少女のフリをする愉快犯。そこに映る下着も健康的な太ももも、全部カワで覆ったニセモノなんだ。
落ち着け。平静だ。平セイを保つのだ。欲情するな。奴に乗せられるな。深呼吸で気持ちを整えろ。奴はオトコ。男、漢、漢娘……。
(待てよ)
気を鎮め、無心にスカートを広げるチアキを前に、俺の脳裏を疑問が過る。そもそも何故セルフスカートめくり? 新たな強請り? 自己顕示? 今更そんなことして、奴にどんな得がある。
瞬きと共に再度深呼吸。まじまじ視るも、奴はショーツを顕に動かない。
「ああ、もう……うざってえ……」
いつか何処かで聞いたような台詞を吐き、チアキの手が困惑する俺の右手を掴む。あの強引さで引き寄せられた到達点は――。
「うぉおい、ちょっと待て! 待って!!」
自分で、自分の触れたものが信じられない。
伸びたその手は薄紫のショーツに押し付けられ、五指で股間をぎゅうと握っている。
えっ、ナニコレ。何ナノコレ。への字を逆さにしたような谷を下り、指を滑るレーヨンの感覚が心地良い。
じゃない。そうじゃない。俺は何を、というかコイツは何やらかしてるんだよッ。これ完全に現行犯じゃん。録画映像はねつ造だけど、こっちは直に触っちゃったじゃん。高揚や興奮を感じる間もなく、自分のしたことに怯えている俺が居る。
「これで……解ったでしょ」
「うん?」ごめん。ナニのことだかサッパリですチアキさん。
「鈍い奴だな。握ってんだろ。押し付けてんだろ」
震える声が熱を帯び、カワ越しの頬は熟れた林檎みたいに真っ赤に染まってて。や、そりゃあ当たり前でしょうが。恋人だって滅多に触らぬ場所に手ェ持ってって……。
あ、れ、え?
何となく、この違和感に答えが見えてきた。同時に、高揚こそすれ、歓喜に湧かない理由も説明がつく。
オトナな下着に形の良い太もも。だけどそこに包まれているのは『谷』じゃない。ぷくっと膨らみ、袋詰めされたがんもどきに触れた時みたいなこの感じは。
この、感じは。
「今朝からずっとこうなんだ。だから、手をかざして、目立たないようにするしかなくて」
お互い、認識の齟齬を起こしていたらしい。生まれてこの方十六年。男に産まれ、ここまで生きてりゃ必ずどこかでぶつかる展開。
だからこそ、選択肢から漏れていたのだ。そんなことで悩む奴いるもんか。あり得ないだろって言葉で直ぐ済む話。
「つまりってェと、これは……!」
整理しよう。
こいつはチアキ。外見をカワで覆っているが、中身はしっかり男なわけで。となれば当然、在るべきモノがそこにツイてるわけで。
「ヒガシくん。ワタシさ、その……初めてなんだ」
先っぽに血液が並々と注がれ、アーチを描いて勃ち上がるオトコ特有の生理現象。
「ぼ、ぼぼぼ、勃起が……か?」
「うん」
女性モノ下着にテントを作り、固まったまま動かないこれが、初めて!?
えっ、ああ、えええっ!?!?!?




