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『影人』に転生したら勇者に成り変わっちゃった件について  作者: パル猫
前章~影とし生ける者~
1/9

~影とし生ける者~

これは『影人』転生の前章となります。

1話目なので続きもどうぞ!

(暗殺者)』…。いつの時代も存在し、時には罪のない人物を時には時の権力者を表舞台から排除する。それが『()』に生きる者の宿命であり『()』に住むものにしか成せないことでもある。






「シエンよ。これが最後の任務じゃ。一族郎党自害せよ。」


 その言葉がシエンの心に刺さる。しかしこれは始めにこの任務を受けた時から分かっていたことでもある。

 強い者…いや強過ぎる者はいつの時代もその存在を疎まれる。そしてその強過ぎる者の存在を消すのも『(暗殺者)』の役目である。


「はっ!王の勅命承りました!」


 我々『影人(ゲンガー)』の存在を誰にも悟られることなく一族を逃がす(暗殺する)

 そしてシエンは懐から出した短刀で自分の首を狩る、すると首から下が黒く染まり溶ける。そして王の前に残ったのは先程までシエンと名乗った男の首のみだった。





 ――悠久の森・王国特殊極秘直轄領区域ゲーテ村――


 "悠久の森"…人型の種族が存在する大陸、ユーリウス大陸の最東端に存在する森で別名"精霊の森"とも呼ばれている。そしてその森の中で結界に守られた村。


「今日は快晴じゃのう。」


 古い平屋の縁側で後ろで手を組むおじいさんがそう呟くと小さく風が吹く。

 すると空中から急に手紙が落ちてくる。それをさも分かっていたかのように手に取る、そして一瞥すると家の近くで薪を切っている紫髪の男に声を掛ける。


「シエン。お主に手紙が届いておるぞ。」


「ありがとう親父殿。」


 そう言って受けとる手紙は豪華な装飾で飾られたもので押印がまだ固まり切ってないのを見ると高速で飛ぶ鳥の魔物でも使ったのだろう。そして封を切ってその内容を読む。


「親父殿…。今回の仕事(暗殺)が最後の仕事になるやもしれない。」


「………そうか…。しかしのうそれが『(我々)』の仕事じゃ。『(暗殺)』こそが『影人(我々)』の存在意義なのじゃから。」



 次の日、村人全員を族長の家の前に集める。シエンは次期族長として今回の『仕事(暗殺)』を皆に伝えなければならない。それこそが『影人(一族)』の掟でもある。


 1つ 我々の存在は誰にも悟られてはならない


 1つ 『仕事(暗殺)』の内容は皆で共有すること


 1つ 『仕事(暗殺)』に失敗は許されない


 この3つは何があっても破ってはならない村の掟であり、この総勢20名の小さな村を守り繁栄させ続ける為の掟である。


「皆、よく集まってくれた。今回の『仕事(暗殺)』の件で集まって貰った。」


 村の皆は黙ってシエンの話を聞く。そして村の皆全員がこの『仕事(暗殺)』が最後の仕事となることを察する。今回の対象はそれほどの大物である。

 そして掟でもあるように失敗は許されない。その対象の牙がこちらに向くことだけは何としてもさけなければならない。


「…………では皆。よろしく頼む。"影に懸けて(アヴァンシーヴァ)"」


「「「"影に懸けて(アヴァンシーヴァ)"!」」」


 自分達『影人』が"影に懸けて"と誓うのは『影』に生きる『影人』がその命、存在、そして自分達が持つ全てに懸けて事を成す事を示す。

 そして掛け声と共に『影人(村人)』全員が散らばる。情報を共有するのはこれが理由なのだ、全員で加担して失敗する確率を確実にゼロに近付ける。それが自分たち『影人』の『仕事(暗殺)』のやり方である。


「シエン様。本当に良かったのですか?今回の対象は我々『影人』が危機的状況に陥るかもしれないですよ?たとえ貴方でも勝てる保証などないでしょう?」


「もし私が………………いや、失敗はしない。それが掟だ。」


 そうシエンは呟くと影に溶けるように消えていった。



 ――シルフォード王国・冒険者ギルド――


 ガランと音を立てる扉を開けて中に入るフードを深く被る青年。そして慣れているような感じで窓口へと行く。


「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ!本日はどのようなご用件でしょうか?」


「ん?…あぁ、いつもの人じゃないのか…。済まない、ギルド長を呼んでもらえるか?」


「えっ…その…ギルド長ですか…?ど、とのようなご用件で…?」


 シルフォード王国の冒険者ギルドのギルド長と言えばこの世界に存在する全ての冒険者ギルドのギルド長の上に立つ人物でギルドマスターとも呼ばれる人物である、そんな人物に得体のしれない人物がくれば口ごもるのも仕方ないことでもある。


「知り合いだ。」


「す、すみません。それだけではお呼びすることはで、出来ません。」


 この対応からすると最近入った娘なのだろう。仕方ないギルドカードを出すことにするか…あまり出したくはないが…。

 ギルドカードを出そうと懐に手を突っ込もうとしたとき。


「おいっ!この娘が怖がってっんだろ!?てめぇなにもんだ外に出……」


 そう半ギレしながらフード付きマントの男に掴みかかろうとした金髪の冒険者は次の瞬間には床に仰向けで延びていた。やったことは簡単だ掴もうとしてきた金髪の男の手を避けて頭掴み柔術の応用で投げて後頭部を床にぶつけて気絶させただけだ。

 しかしこの一連の動きを目で追えたものはこの場には居ないだろう、大体の者にはマントがなびいた後に金髪の男が延びていたとしか認識出来なかっただろう。

 今の音に気づいたのか奥の扉を開けて銀色の髪をした短髪のエルフが出てくる。


「お?まさか…」


「きゃぁぁぁあっ!?ぎ、ギルドマスター!た、大変ですっ!」


 先程まで対応してくれていた受付嬢は床に延びている金髪を見て悲鳴を上げてギルドマスターへと助けを求める。

 ギルドマスターはこんな日常茶飯事よりもフード付きマントの男の方が気になるようで。


「ようジーン。」


「シエンか!久しいな!」


「は?あっ、え?」


 助けを求めたギルドマスターは受付嬢をガン無視して男と話すのを見て周りにいる野次馬(冒険者)達は目を点にする。当の助けを求めた受付嬢も唖然とする。


「シエン…まさか…《紫炎》のシエンか!?」


 一人の冒険者が気付いたかのように叫ぶ。

 《紫炎》のシエン、この世界に数える程しかいないSランク冒険者で魔導師ギルドのSランク冒険者、《六華》の《赤》の称号を持つ人物である。


「し、シエン…マジかバロの野郎消し炭にならなくて良かったな…」


「し、シエン様、こっちでバカの処分はしておきますのでご、ご容赦を…!」


 Sランク冒険者と言えばその発言力は候爵貴族以上と言われる。そんな人物に喧嘩を売ったとあれば首が飛ぶだけでは済まない、物理的に…。


「大丈夫だ、気にしていない。だが次はない。」


「「「はっ!サーイッエッサーっ!」」」


「お、おう…」


 一子乱れぬ敬礼を見せる冒険者達に半歩下がり少し怖じ気づくシエン。一人二人ならまだしも10数人にされると少し怖いと言うものだ。


「お、おう?シエンお前やべぇな…。今度の戦争の指揮官やらねぇか?」


「絶対に嫌だな。」


 戦争など録な事がない。それにシエンとして本気を見せるわけにはいかない『影人(シエン)』がばれてしまう可能性があるためだ。


「それより急に来たのには理由があるんだろ?」


「あぁ結婚することになったんでな。報告にな。」


 この報告には嘘はない。友人に結婚の報告と同時にSランク冒険者の引退というのも報告しに来ただけだ。


「は、はぁっ!?ちょっ、ちょっと待て!誰とだ!勇者か!?」


 魔導師ギルドの《六華》と言えば勇者の護衛をしたりと色々と接点がある。それに今代の勇者は女性である。


「違う。《氷姫》だ。」


「マジかぁ…Sランク冒険者同士か。ってことは引退するんだな。魔導師ギルドが荒れるな。」


「だろうな。それより心配があるが…。」


「《流砂》か…お前にゾッコンだもんな…。」


「……」


 そうである、《流砂》はシエンの弟子であり《六華》の《黄》の称号を持つ人物である。シエンにベッタリなこと以外は普通の女の子だ。シエンにあげるクッキーに媚薬を入れたりなどしなければ普通に可愛いのだが…。


「まぁ《流砂》に見つかる前にずらかるさ。マリウスへの報告は頼んだ。」


「あぁ幸せにな。兄貴への対応は任せろ。……というか早く行った方がいいぞ、《氷姫》と言えば冒険者の中でも人気だったからなお前が負けるとは思わないが夜道には気を付けろよ。」


 自分達の周りには《氷姫》が結婚するという現実に耐えられない冒険者達が泣き崩れていた。アイドル的存在だった人物が結婚して引退するといった感じだろうか。


「あぁ、この後王にも結婚の報告をしないといけないんでな、早々に退場するとするよ。」


 そう言って冒険者ギルドの出口へと歩き出す。


「そうだシエン!お前達の子供が出来たら教えてくれよな!俺が鍛えてやるぜ!」


 シエンは一瞬立ち止まり右手を上げてヒラヒラさせながらそのまま歩き出す。そしてシエンはそのまま冒険者ギルドの外へと歩いていく。


「…また会えるよな……シエン……。」


 ジーンはその背中を少しだけ寂しそうに見つめながらそう呟いく。


「ごるわぁてめぇらっ!何床に伏せてやがる!そんな暇があったら魔物でも狩ってこいっ!」


「くそっマジかっ!いつものギルマスに戻りやがった!」


「さっきまでのシリアス感は何だったんだよ!いつものギルマスじゃねぇか!」


「野郎共逃げるぞっ!」


「「「おうっ!」」」


 そして一風変わった風が吹いた冒険者ギルドも次の瞬間にはいつものようにギルドマスターの声が響く。

 そこにはいつもの変わらない日常が続いている。

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