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~キスから始まるダークファンタジー~(仮)  作者: リノ
七章 呪術選抜試験編
76/97

本心





 全ての呪力を使って発動する血界解放。これには幾つか弱点がある。幾つかって曖昧な表現にしたのは、俺自身も気づいていないものがあると考慮してだ。それらを悟られずに倒しきれるだろうか……。



 正面にいる薫子へと全速で向かい、殴りかかる。予想通りそんな一辺倒な攻撃が通る筈もなく、硬い護でガードされた。


 だが、それも狙い通り。今の俺は全身に呪力を纏った状態。つまり相手の呪術に触れてもさほど痛みも無いし、なんなら利用できる。




 護の壁をおもむろに掴み、無理やりに飛んで薫子の頭上を一回転する。簡単にいえば、背後をとってやったのだ。




 背後から拳の一撃を浴びせると、結界にぶつかるまで薫子は吹き飛んだ。


 アイツの事だからガードぐらいはしただろうが、今のは効いたはずだ。この感じなら時間切れより先にやれそうだ。




 視線の先にいる薫子は付いた汚れを手で払っている。余裕なのか、本当に汚れが気になるのか。


「パワーとスピードは格段に上がってるみたいね。でも恐れるほどじゃない」

 前者のようだ。





 その時、薫子から発が放たれる。右に避けた時、今度はそれが八つに分裂した。シンプルな呪術に高度な技を入れてくる。少し油断した――だが、まだまだ。



 強く地を蹴り、逆の左へと躱す。



「時間稼ぎがみえみえだな」

 血界解放の弱点に気づいたのかもしれないが、それに気づいていれば対策も取れる。まさに裏の裏を掻くってやつだ。



 追尾してくる発をスピードを上げて撒き、反撃へと転じる。……はずだった。



 突如として、俺の足になにかが絡み、態勢を崩すまでは。足元に縛をされたのに気づいたのが一瞬遅かった。転倒は右手でなんとか防いだが、これでは背後からの発をどうにかできない。



 ここは……両腕を盾としてダメージを軽減する。呪力をまとった今の状態なら多少はましだが、割と効くもんだ。




「私の手の内をよんでるみたいな口ぶりだっただけど。そこのところはどうなのかしら」 

「うっせえな、少し甘く見てただけだ」



 立ち上がってから、何度かその場で軽いステップをする。

 大丈夫だ、まだスピードはある。身体を軽くして、緊張を解せ。絶対に勝てる。



「ここからはギアセカンドだ。調子上げてくぞ」


 容赦なく、二本の鎖が俺を捉えようと近づいてくる。少なく集約する事により、スピードと一つの動きのキレがいつもの数段上だ。


 けどやっぱり限界がある。どんなに早くて良い動きをしても、それ以上の速さを出されたらどうしようもないってもんだ。




 更に速く走り、今度は高く飛ぶ。そして飛んだ先は、結界の上。鎖との距離が取れたところで、今度こそ反撃だ。



 強く結界を蹴り、一直線に薫子へと向かう。

 それに薫子も発で応戦してくる。躱すこともできないので、腕で弾く。



 距離を詰めたところで、先ずは拳で突く。だが相手は薫子、巧く合わせて護でガードをしてきた。緻密で繊細な完璧なコントロール。一切、無駄な呪力を使わないつもりだ。



 間髪入れず、今度は蹴り。それもガードされるが、次に身体を翻しての踵落とし。その破壊力で護は破れた。反動からか、流石の薫子も膝をつく。



 勿論、そんな好機を見逃すつもりはない。最後の正拳突きだ。



 腕に護をして防ごうとしたようだが、流石にガードが薄くなり、後方へと二、三回転した。

 今のは良い音がした。いや、寧ろし過ぎだ。もしかして……。




 立ち上がった薫子の手首はぶらーんとしている。やっぱり、折れたみたいだ。さっそく治癒に入っているが、ここへの追撃をする程、俺も鬼にはなりきれない。




「流石にやりすぎたわ」

「戦闘中に同情なんて、馬鹿にしてるのかしら。今なら治癒中だし、隙もある。それに折れた腕の方は指紋のスピードも――」


「あーはいはい。別に俺は完膚なきまでに叩きのめす、ってつもりで勝ちたいわけじゃない。前にも言っただろ。守る力が欲しいだけだよ。だから気にせず治癒しろ」

 って言いつつ、殴ってるのは矛盾している気がするが……。


「後悔する事になると思うけど」



 それから数秒で薫子の治療は終わってしまった。あれじゃ、隙が本当にあったかどうか……。

 まあ万全になったところで、仕切り直しと行くか。





 先ずは薫子との距離を詰める。確実な近距離戦だ。そしてもっと確実に勝つ為に腕を封じて、呪術を使えなくする。そして降参させる。この流れだ。



 何度か攻撃を打ち込むが、薫子も慣れてきたのか先ほどよりも防御のキレが良い。

 そして数回ほどの攻防をしているうちに、一度のチャンスが来た。薫子のおろそかになった右手を抑えるチャンスが。片手を封じれば、形勢はこちらに傾く。




 手を伸ばした時だった……。


 俺の身体に異変が生じた。見えている手と本来の位置とで少しのずれが生じたのだ。おそらく、呪術の時間が迫って身体に負担がかかったせいだろう。虚空を掴んで、あえなく失敗した。



 その隙を薫子が見逃すはずがなく、俺の脇腹めがけて本気の蹴りを入れてきた。何発かの恨みがこもった蹴りだ。



 後宙へと飛ばされ、結界の足場でなんとか留まる事ができた。

 だがここからが薫子の恐ろしいところだった。




 脇目に見えたのは一枚の呪符。それは先ほどと同じ爆発するタイプと推察できた。そう、蹴った時に一緒に連れてこさせられたのだ。起爆すれば大きなダメージは避けられない。

 仮にガードをしながら距離を取るのなら、被害も最小限に抑え込める。しかしそれでは残り時間的に俺は敗北するだろう。


 つまりこの一手でこの勝敗は決まる。



 一瞬の焦りと、大きな不安がよぎった。

 

 けど――迷うのは無駄か。




 俺はそのままの勢いで、結界を蹴り込んだ。爆発を避けられるかはかけだったが、なんとか足への軽症で済んだらしい。そしてそのまま、薫子の方へと向かい、最後の攻撃を仕掛ける。



「面白い、切り返しね。でもそれだけじゃない――縛」


 両の腕からの縛は、俺の左右を鎖で完全に覆い隠した。そして鎖には多くの呪符が付けられている。ここに来て捕縛のためでなく、退路塞ぎ、反撃に使うとは。




「終わりよ、爆術!」

 ただ、この状態の長所を忘れてるぜ。


 俺は左右の鎖を蹴り、更にスピードを上げる。すると後方で爆発音が聞こえた。起爆以上の速さが出せたしい。



 後は薫子を倒すだけだ。「行くぜ、薫子」



 ――膨大な血 代価とし


 薫子から発せられる詠唱。それは確かに聞き覚えのあるものだった。


 ――強き想い 聞き入れよ


 けどその可能性は限りなくゼロに近いはずだ。だってあれは……。 


 ――神の声 通す者


 俺とお前二人で初めてできる呪術。


 ――我が名は四之宮




 だが今更に次の手はない。



 この最後の一撃。爆発が逆に速さへと変わった。止める事なんて到底、不可能だ。



「先の力 無に喫する 正就≪せいじゅ≫!」



 刹那、俺の目の前に神々しい光が出現した。それは見間違うはずもない。あの……光だ。




 俺はその光に当てられて全身の力が抜け落ちた。全ての呪力が一時的に消え去ったのだ。

 結果的に俺の攻撃は外れ、転倒しそうになったところを何とか踏みとどまる。しかし何秒立っていられるかも、もう分からない。




「驚いている様だけど、完全な形じゃなければ正就も発動出来る。今みたいに一点に集中させればね」



 縛で仕留めにかかったとみせかけて、最後の呪術に繋いでいたってわけか。恐れ入ったぜ。てことは血界解放中は、他の呪術を使えない事もばれてたってわけだ。


「こりゃ、俺の完敗か」


 そろそろ立ってるのが限界になり、傾く身体に身を預けた。



「そうでもないわよ。今ので私も呪力切れ……」


 消え薄、視界の中で、薫子が倒れ込む姿が目に入った。

 力を使い切って試合終了と同時に即倒する俺達に、どちらが勝利なんて考える余裕は無かった――。

  











 次に目覚めたの朝だった。窓から差し込む陽でそう判断した。多分、次の日だろう。


 この白くて寝心地がいいとは言えないベットもわりと見慣れている。俺の部屋は敷布団なので、ここは学校の保健室だ。ここで一泊決めてしまったらしい。




 起き上がって数分程ぼーっとしていると、昨日の試合の結果が気になりだした。どちらが勝ったにせよ今日が次の試合の日だ。もしかしたら棄権になるんじゃ。そんな思案が頭をもたげ、誰かに訊きに行こうと布団を払った時だ。丁度、保健室の中に天津が入ってきた。



「あ、起きてる。準決勝、勝ったんだよ薫子ちゃん」


 さも嬉しそうに天津が俺に告げる。同時にそれは俺の敗北の通知でもあった。

 やっぱり少し落ち込んでしまう。




「え、なんで落ち込んでって――そっか勝敗の結果まだだったもんね。ご、ごめん」

 申し訳なさそうに天津は両手を合わせている。



「あ、いや、気にするな。なんとなく想像はついてた。俺が先に倒れたし」

「なにネガティブな事言ってるの。水無君と薫子ちゃんの試合は引き分けだったんだよ。それで判定にまでもつれ込んで、技術点とかの少しの差で決まったんだから。そんなに落ち込む事無いよ」


 そうだったのか。

「励ましてくれるのは素直に嬉しいよ」

「わたし、本当にあの戦い感動しちゃったんだから」


 気を遣うとかじゃなくて、天津は本心からそう言ってるのだと分かる。純粋で穢れの知らないやつだ。



 俺は前の試合について回顧してから、口を開いた。

「そんな事言ったら俺も感動したよ、お前が相手の呪符を奪って書き換えたやつ」


 その時の試合の真似をして、説得力を上げてみせたつもりだったのだが、なぜか天津は顔を手で覆ってしまった。


「もう止めてよ! 思い返すと恥ずかしいんだから!」

「そうなのか? 使わせてもらいます! 的なやつ、格好良かったっと思うけどな」

「だから止めてってばー!」


 やっぱり、天津を弄るのは楽しい。




 天津は一度、手を叩いた。切り替えの合図的なものらしい。「とにかく午後からは薫子ちゃんの決勝戦があるんだから、今のうちに昼ご飯を食べて準備しなくちゃ」


 もう昼だったのか。


 ベットから出て、靴を履いてから気になったので訊いた。

「そういえば、決勝の相手って誰なんだ」



 自分以外の対戦表には目を通していなかったせいで、誰なのか見当もつかない。千夜も棄権した今、誰かいるだろうか。



 天津は息を呑んでから、答えた。

「久我正宗先輩だよ」










 昼食も食べ終わり、試合開始の十分前には会場に着席した。それも最前席となれば儲けものだ。

 周りには多くの学生と、呪術関係者でひしめき合っている。年に一度の祭典でスカウトの場となれば、必然の光景なのかもしれない。どこもかしこも人材供給には必死なのだろう。



 そんな中で席を確保できたのは、予め予約というか、花見でいう陣取り的な事をしてくれていた天津のおかげだ。


 感謝、感謝。



 それにしたって、久我先輩の事はすっかり忘れていた。あんだけ目立つ人なのになんでだろう。まあ、強敵になる事は間違いないが。



 ふとある事を思い出し、辺りを見回す。

「そういや、朝陽は? こんな晴れ舞台に来ないわけないよな、催し大好きのアイツが」

「まだ本家での治療が終わってないらしくて、抜け出せないんじゃないかな」と、天津は答えた。


「複雑な家庭事情だもんな。しょうがないか」

「ビデオでも撮って、後で見せてあげよっか」

 すると携帯を横に構えて、ボタンを押した。

 録画機能まであるとは。最近の機械はハイテクだな。あんな小さな物体のどこにそんな力があるのか……。



 気が削がれてるうちに、試合は始まった。



 素早い二人の攻防は、遠目からでも認識に苦労した。撮影をしている天津にはもっと大変なのだろう。右往左往している。



「あー、消えた。もう、全然カメラに入らないよ」


 さながら、娘の運動会の撮影に来るお母さんだ。



 派手な技をふんだんに使ってくる久我先輩に対して、温存しながらギリギリを戦う薫子。対照的な二人だ。



 久我先輩は観客に魅せる戦いをしているのが分かる。偶にウィンクを決めてくるからだ。それを理解したのか、薫子は少しムキになり始めている。



 それにしたって、あまりに怒った表情だから、挑発でもされているのかもしれない。どんな事を言われてるかは容易に想像が付くが。



 それから白熱する二人の戦いは、久我先輩得意の火竜≪サラマンダー≫が決まり、決着がついた。

 観客席からは大きな拍手と声援が送られた。誰もが決勝に相応しい試合に満足した様子だった。




 決勝敗退の二位入賞。十分過ぎるファイトだったぜ、薫子。

 隣で撮影していた天津は咽び泣いている。本当におかんだ。




 マイクを持った先生が観客に向けて言う。「これにて呪術選抜試験、本戦は終了です。閉会式に移りますので、生徒一同は第一体育館まで移動してください」



「だってさ、面倒だけどアイツの入賞される姿を拝みに行くか」

 ハンカチを渡してから腰砕けしている天津を立たせる。


 移動の波が静まってから、俺と天津は移動し、体育館に入った。その為、後ろの方で埋もれる形となってしまったが、背伸びをすれば壇上も見える。天津もギリセーフだろう。



 その時、禍々しいオーラを纏った人物が壇上に上がった。貫禄と、あの巨大な呪力。何度見ても気迫負けしてしまう。――百瀬聡士学園長だ。



 マイクの前に立つと、低く落ち付いた声で喋り始める。


「烏枢沙摩高校創設以来、こんなにも多くの呪術士が参加し、こんなにも盛況だったのは初めての事。もう一度、参加者たちに拍手を送る」



 学園長が手を叩くと、それにならって生徒達も大きく拍手をした。

 さすがは学園長。なんの根拠もなく取りあえず、そう思っていたのだが、間違いだった。



「私がまだ十代の頃には――」


 十分経過……。


「今では地球温暖化と騒がれているが――」


 三十分経過……。


「とまあ、長い話をしては嫌われてしまうから、この辺にする」


 いや、十分長ったらしく話したよ。それに途中、関係ない世界情勢とか話してただろ。全く、調子が狂う爺さんだ。




「それでは入賞者達から、最後に言葉を貰う。」


 すると脇から、一位から四位までの試験優秀者が姿を現す。そして四位から順番にマイクを渡され、一分間ほどのスピーチをする。


 それからついに我らが、薫子の番だ。



「四之宮薫子と言います。今まで隠していましたが」


 いきなりの先制パンチだ。

 明らかに周りの生徒達が動揺している。


「水無さんじゃなかったの?」

「四之宮って事はマントラ家系の次期当主って事?」

「今まで騙してたって事かよ」



 おいおい、明らかに失策だろ。周りがヒートアップしちゃってるぞ。言ったってなにもメリットなんかないだろ。隠しているのがここに通える一つの条件でもあったのに。



「隠していたのは信頼していなかったから。勿論、この学校の人を」


 次に何を言うかと思えば火に油。俺達と一年間いて、友達との接し方をなにも学んで来なかったのかよ。



「でもこの学校に通うようになってから沢山の技術を身に着けて、今日、このような結果で終わる事ができました」



 薫子の発言に野次が飛ぶ。

「結局、嫌みが言いたかったのかよ!」

「自分は才能もあって、貴族様で私達とは違うってか」



 こうなるのは当然だ。挑発行為と取られてもおかしくない。最後の最後でなんて事をしてくれるんだ。もう……。


 しかし、慌てる俺とは裏腹に、薫子は落ち着いた声で続けた。


「才能なんてありません。元から呪力は無いし、自分より凄い人ばかりみてきた。でも、そんなのはどうでもいいんです。それ以上に才能の無かった事が、この学校で学んで克服できたから」



 体育館に沈黙が訪れる。



「それは人と接する事。誰かと親しくなるのが苦手で、ずっと避けてきました。でも水無君や、明さん、朝陽君に会ってから多くを学んで、息苦しいだけだった人と共有する世界が、楽になりました。気づけばD組のみんなや、A組で競い合った人達にもそれが広がった」



 大きく息を吐いてから、もう一度、薫子はマイクに向かった。



「だからここにいるみんなを信用する事に決めました。隠し事をするのは息が詰まるから。なのでこれからは、四之宮薫子として学校で生きて行きます。この場を借りて、伝えられた事に感謝申し上げます」

 

深くお辞儀をしたところで、俺は大きく手を叩いた。それから隣の天津も。段々と他の生徒へと繋がっていく。


 その拍手は疎らだったけど、きっと薫子の言葉は誰かの心には響いたはずだ。少なくとも俺の心には……。



 キーーーン。


 マイクによくある割れ音だ。思わず顔をしかめる。良い気分だったのに。




 マイクを持った久我先輩は、大きな声で言った。


「薫子ちゃんのスピーチは本当にBeautifulだったよ。みんな、口下手な彼女を勘違いしないであげてね」


 あの人なりに薫子の味方をしたのかもしれない。それにしたって軽薄なテンションだが。


「それじゃあ、大トリはこの俺、学園のプリンス久我正宗だよ! さあ先ずは皆で踊ろう!」 


 踊るか。






 そんなわけで、呪術選抜試験は閉会となった。長い一年の締めくくりだったようで、思い返すと短かったような気もする。


 けど本当に大事なのはなにをしたかじゃなくて、なにが変わったのか。だと俺は思う。一年の停滞なんて良くある話だ。それが何度も変化して、何度も成長をした。これはかけがえのない時間だと、客観的にも言っていいのでは無いだろうか。



 大切な時はきっと、どんなに変わって原型が消えても、概念として根底にあり続けるのかもしれない。そうであると、信じたい。










あれから三日、通常に学校が始まった。休みの土日に壁の奥からの連絡があったが、光茂さんも薫子の通学を許可してくれたらしい。名前を明かしても、OKと判断がでたのは、どちらかといえば小枝子さんの発言力が強いのかもしれない。



 その代価として、隣を歩く薫子の背後に護衛の術士が二倍に増えてしまったが。あー、本当に煩わしい。



 ここは格好つけて、「俺が守ってやる」とかくさい台詞を言ってもセーフなんじゃないか。そんな考えが過った。



「変な目で見ないでくれる。もしかして私を狙う敵方」


 その瞬間、背後の術士の目が光る。

「いや、ちげえよ! 落ち着け」

 こいつ等、ノリ良すぎるだろ。



 それからいつも通りの通学路を歩き、いつもとは違った様子の学校へと入った。みんな疲れが残っているのか、少しテンションが低い。



「おはよー、夫婦」

「おー、しのっちじゃん」

 そんな感じの挨拶も板についてきた。適当に挨拶とツッコミを返すと、着席する。


 偶々だが隣が天津だった。「おはよう二人共。相変わらず、仲睦まじいねぇ」


「お前も仁先生とのいけない恋愛、頑張れよ」

 冷ややかにいってやると、案の定慌てた反応をみせてくれた。


「それは反則! それにいけないとか言わないでよ、せめて禁断の恋に――」




 そういえば……。「まだ朝陽は治療中か?」 


「男のくせに身体が弱いのね」追い打ちのように薫子が言う。

「どうなんだろうね。まだ来てないのは確かだけど」 



 そこで扉が開き、同時にチャイムが鳴った。相変わらず時間だけは完璧に守る仁先生の登場だ。


 今日はいつもより気怠さが緩和され、いや寧ろ、シャキッとした調子で歩いてきた。久しぶりのホームルームだから張り切っているのかもしれない。お茶目なところも持ち合わせている。



 教壇の前に立つと、仁先生は低い声で静かに告げた。

「いきなりだけど……。六車朝陽君が、六車家本家の治療室で亡くなった――」

 












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