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~キスから始まるダークファンタジー~(仮)  作者: リノ
七章 呪術選抜試験編
75/97

激闘





「何時かこんな日が来る気がしてたよ。でもまあ、考えの相違とかじゃなくて良かった。心置きなくやれる」


「よく分からないけど、最後には同意ね。下手な言い訳されたら後味が悪い」



 目の前には薫子。

 四回戦では既に十人以下まで減っている。薫子と当たるのも十分にあり得る可能性。そしてこれは、俺が超えるべき壁。




 みんなで優勝は無理だけどさ、ここで勝って俺が全員分の気持ちを持って優勝っていうなら、文句無いよな。



 場がしんと静まり返り、緊張と高揚で汗が滲んだとき、準々決勝第一試合は、先生の合図で始まった。



 技術でいえば確実に格上だ。だったら先ずは後手に回る。確実に勝つ為にそれが一番の策。一歩退き、相手の動きを窺う。ほぼ同時に、薫子の呪術が発動した。



「式神召喚――鴉」



 一枚の呪符から無数の黒鳥が飛び出す。一瞬にして俺の視界はそれでいっぱいになった。それほど呪力が籠った攻撃にはみえないし、なによりあんな大量の式神での攻撃は薫子の呪力が持たない。



 俺と薫子の大きな差はそこだ。技術の差を埋めれる圧倒的呪力量の差。もしかしたら、はったりで無駄に呪力を使わせる気なのかもしれない。だが今の俺ならそれを見抜けるんだ。



 薄い防御壁を張り、か弱い式神の攻撃を防ぐ。



 その時、式神のせいで薫子の姿が視界から消えた事に気づいた。

 単なる小細工じゃなくて――揺動か。




 式神の背後から、強力な呪力を拳に籠めた薫子が姿を現す。今から避けたのでは間に合わない。不本意だが、更に多くの呪力を籠めて……。



 一瞬の判断ではコントロールが難しく、広範囲な防御壁になってしまい、守りきる事はできたが無駄に呪力を消費してしまった。これでは元も子もない。




 意外にもあっさりと薫子は後方へと、距離をとった。


「つまらないわね、なんて億劫な戦い方なのかしら」冷たい表情で薫子は挑発の言葉を口にする。



 それに乗るのは相手の思うつぼ。ただこのまま言われるだけも腹が立つ。それに――。


「お前の戦法を観察してただけだよ。安心しろ、小細工なんかなしでもぶっ倒してやるから」

「観察なんて達観した物言いの割に、随分と慌てていたようだけど」

「口が減らないお嬢さんだ」


 ただやっぱり、派手に戦った方が俺らしいし、ストレスも溜まらない。溜飲が下がった気分だ。


 ――縛。



 薫子に向かって二本の大きな鎖が迫る。未だに並列処理はどうも苦手で、これくらいが限界だ。ただ、捕まえる自信はある。


 発と護で無駄なく華麗に躱されているが、焦りはしない。


 鎖が薫子の右横を抜けたところで、大きな鎖からもう一本の小さな鎖が分裂して薫子の右手を捕まえた。

 言うなれば、木を隠すなら森戦法だ。




 この程度の捕縛では直ぐに薫子は切り抜けるだろう。腕に大きな呪力を籠めて、いっきに距離を詰める。


 だから素早くぶん殴る。

 これなら幾ら薫子でも無傷では済まないはずだ。




 その時、彼女が不敵な笑みを浮かべた。


 まさか、なにか抜け目があったのだろうか。注意深く観察していたし、隙なんかなかったはずだ。だったらこの笑みはブラフ……。いや、薫子に限ってそんな事が――。




 次の瞬間、俺の一本とは比べ物にならない量の鎖が、フィールドのあちこちから飛び出した。罠型の呪術。




 俺の拳は薫子に当たる直前で制止せざるを得なくなった。

 気づいた時には薫子は指紋を終わらせていて、目の前で大きな爆発が起きた。 










 大きな歓声が上がる。二人の戦いに観客席も盛り上がりをみせている。


 ただその中でも天津明だけは悩まされていた。良太郎と薫子。どちらを応援すべきか。周りのクラスメートはノリで良いと言ってくれたが、それだけではどうも納得できない。



 こういう時に限って、優柔不断が発動してしまった。

 でもどちらも応援しないというのも薄情過ぎる。天津は更に頭を悩ませた。



「二人とも随分、腕を上げたね。指導者として嬉しいばかりだよ」


 背後から優しいトーンの声がした。瞬時にその声の主が誰か識別し、コンマの速さで天津は振り返る。


「じ、仁先生……!」 

 嬉しさと緊張で声が上ずってしまう。



 目の前には相変わらずぼさぼさの髪に、気の抜けた顔をした仁が立っていた。


「久しぶりだね。最近はマントラの方がばたばたしてて中々、顔を出せなかったからね。でも二人の試合には来られて良かったよ」


 微妙な感じ、針で軽く刺されたような。そんな感覚が天津を襲う。



 わたしの試合には来てくれなかったのに……。嫉妬なのかな? これって。

 なぜか顔が熱くなり始める。



「天津さん? 大丈夫かい、顔が紅いけど。熱でもあるんじゃない?」

「な、なんでもありません。わたしの事なんてどうでもいいですから」


 あ、思わずきつい口調になってしまった。仁先生に落ち度はないのに。いつもちゃんとお仕事を頑張ってるだけなのに。



「そんな悲観的にならないで。僕は君の事もちゃんと見てるよ」


 キュン―――。


 たった一言で嫉妬心も苛立ちも全部まとめて消えてしまうのだから、卑怯な話だ。

 でも悪い気はしない。寧ろ心地よい気分。


 頭をパンクさせ、無心で天津はその場に立ち続けた。


「さて、ここからが正念場だよ」











さっきのはわりと効いた。防御も間に合わなかったし、一発口からぶちまけた。やっぱ模擬戦でもシビアだな、こっちの世界は。女子相手にこのざまだから辛い。



 手で血を拭ったとき、素早く追撃がくるのに気づき、間一髪でよろめきながらも回避した。


 まだ呪力はわりと温存してあるが、さてどう攻めたものか。簡単に隙を与えてくれる相手でもないし、知略ってのを練らないとな。



 とはいえ先ずは牽制。



 指紋をして、強力な発を打ち込む。がやはりというべきだろうか。あっさりと躱されてしまう。



「血糖値が下がって頭が悪くなったなんて言わないわよね? さすがに今の攻撃には呆れた」

「これからお前は驚嘆する事になる。だから安心しろ」


「それは楽しみね」

 笑みも浮かべず、薫子は流し目をする。




 ここまでは圧倒的な俺の劣勢。技術や戦術で勝てないなら他のものを利用しろ。そうだ、フィールドの特性。フィールドソースだ。


 このフィールドは結界で覆われている。特徴は外部の干渉を遮断、呪術の反発。


 後者が重要だ。前の試合、千代と朝陽の時には強すぎる呪術によって破損しかけたが、逆に弱すぎれば反射する。そして俺の予想があっていれば……。



 ぶっつけ本番で試すのはあまりにもリスクが大きいが、しゃあなしだ。



 発の微調整。それもかなり極限まで弱める。これくらいなら俺でも可能だ。すると発は小さな丸形へと形成を変化させた。それを幾つか生成する、少し時間がかかるが、薫子も警戒して近づいてはこない。



 更に生成を続けると、俺の周りには数十個の呪力の塊ができた。幾つかは地面にも展開されている結界に反発され、バウンドしている。


 期待通りだ。




「そんな小粒を造ってなにをするつもり」

「見てのお楽しみだよ」


 もうちょっと作っておきたいが流石にこれ以上は時間をくれないだろうな。だとすりゃ、時間稼ぎだ。


「こんな戦いは無益ってか、寧ろ世界には有害なのかもしれない。でも俺はそれでも勝ちたい」

「なにを急に」


「俺をこっちの世界に引き込んだ。俺に守る力を与えてくれるきっかけを作ってくれた薫子に。一番に認めてほしいんだ」


 そこで生成は完了した。気づけば無数の呪力体が周りに存在している。


「さて、ここからがショータイムだ」


 中から一つを蹴り飛ばす。相手に向かってる間に更にもう一つ。それはかなりのスピードで薫子にせまったが、首を少し傾けるだけで躱されてしまう。そして二つ目も腕に弾かれてあっさりと。



「どんなショーかと思ったらまるで子供騙のよう――」 


 その時、最初に蹴り背後の結界に反発した呪力体が、無防備な薫子の背中に命中した。


「作戦成功」












 なるほど。許容内の呪力なら反発する。結界の特性を利用した作戦って事ね。それも会話中に百個近く生成している。これを攻略するのは少し、骨が折れそう。


 と分析を終えたところで、薫子は注意深く良太郎の観察を始める。



 そうしている間にまた、呪力体が蹴られせまってくる。とはいえ命中率はさほどよくない。ただ問題なのは、反発によりそれがどんどん増えているという事だ。



 同時に二つが近づいたところで、繊細な呪力コントロールで極限まで消費を減らしてそれを弾く。

 確実に量を減らしていくしかない。




 大技で決めようにも大きいのはリスク。動きがよめなければ確実性は薄い。

 ならば攻略法を見つけるほかない。




 次々に飛んでくる呪力体を走りながら避け、目の前に来たものを手で弾く。それは薫子の巧みなコントロールで良太郎の方へ向かう。



 しかし、良太郎がリフティングしていた一つが呪力体に弾かれてしまう。


 辺りを見回せば、気づかぬうちに無数の呪力体が飛び回っていた。これだけあれば、発動者に当たる可能性も大きい。ただそれ考慮しなくて済むのは豊富な呪力量が成せる技か。



 四個以上同時に迫って来ても、同時に消し去る事ができる。だが一つの予期せぬアクシデントが起きた。空中で呪力体どうしが反発し、薫子の額にクリーンヒットしたのだ。これには護も間に合わず、尻餅をついてしまう。



 目を開けると、良太郎の薄ら笑いが目についた。


 怒りが募る。



「久々に腸が煮えくり返りそうだわ」

「おいおい、怖い事言うなよ。感情表現がグロテスク過ぎて伝わらねえ……」



 冷や汗を掻いているところを見ると、尋常でない事は伝わっているらしい。

 だからといって攻撃の手を緩めるつもりはないようだ。呪力体がまたも薫子に迫ってくる。



 逆に反撃を恐れての牽制という可能性が無きにしろあらずだが。

 それに踏まえ、良太郎は縛でこちらの動きを制限しにかかってくる。ただでは到底捕まるはずのない鈍くて一辺倒な動かし方だが、今は違う。周りの攻撃を避けつつとなれば話は別。


 だからといって捕まったりなんてしないけど。



 大きく飛び上がり、発で反撃をする。ここならば呪力体も早々、上がってきたりはしない。



 薫子の早く鋭い発は、良太郎の横をかすめた。どうやら油断していたらしく、反応が鈍い。

 あっぶね、と小さな良太郎の声が漏れる。



「勝負には油断は禁物よ」

「忠告ありがとよ、けどそっくりお返しするぜ。着地点注意だ」


 その言葉で反射的に薫子の視線は床へと向けられる。先には鎖が螺旋状に待ち構えていた。


 確かに空中ならば移動は制限される。しかし予測できない範囲の攻撃ではない。発で右に横移動し、難なく躱す。



 今度はその地点に呪力体が蹴り込まれる。


 しかしそれも――。更に右に移動し躱す。問題ない程度の追撃。だが本当にこれだけなのだろうか。

 良太郎に目線を向けると……彼は笑っていた。そして口角が動く。




「ちゃんと前見た方がいいぞ。今度は結界に付き行き止まり注意」


 刹那、はっとして前に目を向けると、体が結界に衝突した。呪力が乱れ、体の感覚が麻痺する。



 初めて薫子に確実な隙が生じた。



 その瞬間を良太郎が見逃すはずがなく、今日一番の発が撃ち込まれた。結界内は大きな音が響き、大きく揺れた。



 段々と良太郎が戦いを優位に進めていく、しかし転機が来た。薫子の攻略の一手を起こしたのだ。



 向かってきた呪力体を弾き、緻密なコントロールで良太郎へと飛ばす。それを躱していたせいで、良太郎の注意が一瞬、削がれたのだ。たった一枚の呪符の発見を遅れた事が、大きな問題となる。



 知識の浅い良太郎は一見しただけで呪符の効力が分からず、前方を護でガードした。


 ――呪爆。



 薫子のその一言で効力を知った。それは前の試合で柿崎が使っていた爆発術。一年近く共にいてそんな技を使っていた覚えはない。この前からの数日間で覚えたという事だろうか……。



 大きな爆発が起きたが、護に破損は無い。しかし爆風と煙で薫子の姿を見失ってしまった。

 と同時に、良太郎の背に悪寒が奔る。



 薫子の指が当たっている。それは呪術の直接発動を意味した。数本の鎖が良太郎の両腕をガッチリと捕縛した。



「これでチェックね」

 淡々と冷静な声で薫子が告げる。



「けどまだ不十分、指紋もできないくらいに……」


 指の間にも鎖を絡めさせ、正真正銘、呪術の発動ができなくなってしまった。これにより呪術のコントロールが乱れたのか、呪力体は全て消え去ってしまった。




「降参してくれるとありがたいのだけど。早くしないと痛い目みるわよ」


 その瞬間、誰もが予想だにしなかった現象が起きた。薫子の縛が破壊され、拘束が解かれたのだ。

 思わず冷や汗を掻いた薫子は、一定の距離を保つように遠ざかる。





 良太郎は安心しきった顔で大きなため息を吐く。そんな彼の感情とは真逆に、体からは呪力が満ち溢れている。


「時間差での発動にはヒヤヒヤしたが助かった。――血界解放」



 それは良太郎の最後の切り札。呪力を放出する事によって、身体能力を極限まで高める特別呪術。呪力量の多い彼だからできる発想に飛んだものだ。



「捉えられる直前に発動していたのね」

「御名答。んじゃ、最終ラウンドとしゃれこもうぜ」

 







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