後編
北野監督風にサブタイ書くと
前編 KAKIーN
後編 この女、凶暴につき
・・・三ヶ月後
すっかり忘れていた魔物を呼び寄せるアイテムや経験値モンスターが現れるコインを使ったら、予定よりも遥かに早くレベル五十になれた
いや、前世の記憶が蘇ったのは最近だけど、転生して十五年だからな、色々と記憶が曖昧な部分があるんだよ
正直インベントリの整理をしている時に見付けれなければ、未だに忘れていただろう
兎に角レベル五十になったので、俺とカナは両親に引き連れられ、転職の為に教会へと訪れている
それというのも上級職になる為には、レベル五十以上と関連ステータスが満たされているのが必須条件なのだ
はっきり言って必要なステータスは覚えていないが、ステ振り直しのアイテムがあるので、満たしてなくてもこれで何とかなるだろう
……これも魔物寄せのアイテムと同時に見つけた
一応言い訳をさせてもらうならば、どちらも課金ショップにも売ってあるのだが、アイテムでステータスを上げたり調整するのは邪道だと思って、装備品とガチャチケットくらいしか見てなかったのだ
当たり前だけど、見付けた瞬間にカナに使おうとしたのだけど……断られた
これさえ使えばカナは暗殺者と言われ忌み嫌われている忍者から他の職業に就けるのに、肝心なカナが拒否したのだ!
「私は忍者になれたからブラッド様に会えたのです、それを捨てるなんてとんでもない、呪いますよ」
お前にとって職業忍者はドラ○エの重要アイテムか!と思わず叫びそうになったが、優しい笑顔の癖に、度重なる説得にも応じてくれなかったので、諦めるしかなかった
クソっ、幸せにするには職業を変えるのが手っ取り早いと思ったのに、どうすりゃいいんだよ!
ここが乙女ゲームの世界だったなら、悪役令嬢とラスボスをぶった斬ればいいだけなんだけなんだけど、残念ながらこの世界はMMOなんだよ
ボスキャラはいっぱい居るけどラスボスは居ないからクリア出来ないのだ、MMOは永遠に金を使わせる為にエンディングなんてないからな
そんな世界でカナを幸せにするってどうすりゃいいんだよ、誰か教えてくれ!
等と余所事を考えながらも職業授与の儀式を行って、俺とカナは晴れて上級職業になった
俺が剣聖で、カナは上忍だ
儀式を執り行なった神父の爺さんが目を見開いて驚いているけど、そんな事より、上忍になって感極まったカナが抱き着いて来た方が一大事だ!
「やりました、ブラッド様!私は上忍になれました!」
「お、落ち着けカナ!半径一メートル以内に入っている!抱き着かれると心臓がパンクしそうになってヤバいから、離れろ!」
「安心して下さいブラッド様、お義母様から上忍に成れたら好きにしていいとご許可を貰っています!」
「待て!好きにしていいって、まさか俺の命をか!?母さん!母さん!母さーん!」
必死になって叫ぶけど、母さんと父さんは感涙して聞いてない!
いや聞けよ!息子の命が風前の灯火なんだぞ!
そうだ神父がいた、聖職者なら殺人を見逃したりしないはずだ!
助けてくれ!と神父を見るが……やさぐれた目で、俺を蔑んでいた
「かぁーっ、最近の若いもんは教会でも平気でイチャイチャしやがる!嘆かわしい、ああーっ嘆かわしい!」
「これがイチャイチャに見えるとか、お前の目は節穴か!」
「節穴はお主じゃ!おらっさっさと出て行け、結婚式の日取りを決めるまで来るんじゃないぞ!」
「はい神父様!早目に決めてまた来ます!」
「カナ!お前結婚するのか!」
嬉しそうに言うカナに、俺は頭を殴られたような衝撃を受けた!
一目惚れした相手が、いつの間にか結婚目前だったでゴザル!誰だよ相手、ずっと一緒だったけど、そんな素振りは見せなかったよな!
一瞬で目の前が真っ暗になり、脳内で「NTR」の三文字が乱舞する、失恋ソングが奏でられる
――嫌だそんなの、どこの誰だか知らないけどカナは俺のもんだ!
気が付くと自分の命の危機だという事すら忘れ、カナを抱き締めていた
突然の暴挙にカナは恥ずかしそうに驚いていたが、ここで手を緩めるほど俺の恋心は理性的ではない!
「あ、あの、ブラッド様、苦しいです」
「カナ、お前は俺の物だ!」
「っ!……はい、ブラッド様……私は始めてお会いした時からブラッド様の物です、絶対に逃しません!」
咄嗟に出た言葉が物扱いだったのに、何故かカナは喜んでいる
逃さないと言う言葉に若干の恐怖を感じたが、そんな事より今は告げるべき言葉がある!
「そして俺には、カナを幸せにしなければならない義務がある!」
「はい、私はもう幸せです!」
んな訳あるかい!二日に一回の割合でダンジョンに潜ってるんだぞ、それを幸せと言うとかバトルジャンキーかよ!
というか絶対に戦いは好きじゃないよな?毎回魔物を殺すのに罪悪感や嫌悪感を感じて……感じて……嬉々としながら魔物を狩るカナを思い出すが、あれは緊張で笑っているだけだ!俺も緊張すると笑う癖があるが、きっとカナもそうだ!
だから……何がだからなのか分からないが、「もう幸せです」というのは嘘に決まっている!
「いいや、俺はまだカナを幸せにしてない、この程度では俺は納得しない」
「それって……」
「俺の人生を全て賭けてでもカナを幸せにしてみせる!だからカナ、お前は本当の幸せを得るまで俺と共にいろ!」
父さんに幸せにするのに期限は設けないと言われたからな!
契約を悪用するようで心苦しいが、カナを他の男に取られるくらいなら、心苦しさなんていくらでも喰らわせてやるさ!
そんな俺の酷い言葉に、カナは目を潤ませると、俺の胸に顔を当てるようにコツンと預けた
「はい……私は一生ブラッド様と共に生きます……今以上の幸せを得るなんて想像も出来ませんけれど、それまでずっとお供します」
「この程度を幸せと言っている内は絶対に無理だ!死ぬまで離れられると思うなよ、俺はお前を幸せにする為に生涯を賭けるのだからな!」
「はい……グスッ……はい……」
胸の中でカナは泣き始めた
そんなカナを抱き締めながら、俺は顔面蒼白になっていく
やべー、泣かせてしまった!
いや、結婚相手がいるのに契約を盾に無理矢理反対したんだから、それは泣くか!
どうしよう、これは絶対カナに嫌わるやつだわ?嫌だー!カナに嫌われるのだけは嫌だー!でも他の男と結婚されるのは、もっと嫌だぁぁぁぁぁぁーーー!!
父さん母さん助けて!と見るんだけど、なんか更に感涙していて、お互いを「良かったわね」「これで我が家は安泰だ」と言い合ってこちらを見ようともしない!
ならば神父の爺さんは?と振り向くが
「神様、私は空気を読んで黙っていました、褒めて下さい、叩き出したいのを必死に我慢して祝福の祝詞まであげていたのですよ、偉いですよね?お願いですからご褒美に奇跡を授けて下さい、世界中のバカップルに天罰を与える奇跡を、先ずは目の前の二人に与えて下さい」
なんかブツブツ言いながら天を仰いでいた……クソっ、当てにならない!
どうする事も出来なくなった俺は、カナが落ち着くまで、その場に立ち竦む事しか出来なかった
―――
――
―
・・・半年後
二週間前に俺とカナは最上級職業のクエストをクリアした、レベルも七十五になり、もういつでも最上級職業に転職出来る状態だ
なのにこの二週間は、式典での衣装合わせや、スケジュール調整等で転職出来ずにいる
それと言うのも半年前に勝手に上級職になったのが問題視されているからだ
あの後いきなり王様に呼び出されて「前代未聞な偉業を届け出なしにするな!」とお怒りの言葉を賜った
俺は後から知った事なんだが、今まで一人しか成し得なかった上級職に、成人したてのガキが二人して成ったのだ
前もって知っていれば王国としては大々的に式典を開き宣伝もしただろうに、それすらも出来なかったと歯噛みされてしまったらしい
……もっともそれに気付いていたのに、両親とカナは気付かなかった振りをして、転職の儀式を行ったみたいだ
それというのも下手に触れ回ったら、娘の才能を見抜けず、大衆の面前で勘当を言い渡した愚かな公爵がカナを害する可能性があったからだそうだ
その話を聞いた俺が何をしたかは割愛する……ただ剣聖になった俺を止められる人間はこの国に居らず、覆面して人を抱えながらでも、一日で敵対している国へ行って戻れるくらいの身体能力と課金アイテムがあるとだけ伝えておこう
まー兎に角そんな些事より、ようやく今日最上級職業になれるのだ!
王城に作られたとんでもなく豪華な祭壇に、俺とカナは純白のタキシードと純白のドレスで並び立っている……王侯貴族のマナーなのだろうか、転職の儀式なのにまるで結婚式の花嫁と花婿だ
最も、王侯貴族の転職の儀式でも今日ほどではないだろうけどな……なにせ、この日の為に課金ショップやSR確定ガチャで大量の大精霊や天使を召喚して、カナに派手なエフェクトが付くバフを掛けてもらっているのだからな!
もちろん上空や大地にも大精霊や天使が舞い、綺麗なエフェクトの魔法やスキルを使いまくいながら祝福させている
ふっふっふっ、これだけ幻想的な雰囲気なのだ、きっとカナは幸せを感じているだろう!
いや大変だったんだぞ!前もって王城の式典運営者と話し合って、どんな魔法を使ったら一番綺麗に見えるか話し合ったんだからな!予行演習も両手の指では数え切れないくらいしたのだ!
……そう、ここまでやったなら、きっとカナは幸せをを感じてくれるはずだ
半年前に俺はカナの結婚を無理矢理反故にしてしまった……それをずっと気に病んでいたから
あの時は一時の劣情であんな事を言ってしまったけど、惚れた女の幸せを台無しにするなんて、俺は最低の人間だと後悔したのだ
だから今日をもってカナを開放する為に、俺は式典を利用する事にした
ハハッ、自分を物扱いするような男から逃れられるんだ、きっとカナも喜ぶだろう
そんな自暴自棄な想いを胸に秘め、俺とカナは腕を組んで祭壇へと進む
後ろには王族や偉そうな貴族が大勢見守っていて、他国の王族や貴族も居るそうだが、俺には住む世界が違うのでどうでもいい存在だ
むしろカナの父親(生きていた)が憎々しげな顔で参列して事に驚いた、もっとも父さんと母さんが警戒しているので馬鹿な真似はしないだろう……カナに何かしようとしたら、刺客諸共死なすけどな!
祭壇へと辿り着くと、剣聖になった時に居た神父の爺さんが優しい笑顔で出迎えてくれた
……なんだろう、今更ながらすっごく嫌な予感がして来た!
「それでは、今より転職の儀式を執り行います、両者、手を宝玉へと重ねなさい」
言われるままに祭壇に設置されている宝玉に手を置くと、その上にカナが手を重ねた……なんで!
いやちょっと待って欲しい!転職って二人一編には出来なかったはずだよな!
混乱する俺を他所に儀式は続く
「サーカナよ、汝は最上級職業である忍者マスターに転職する事を望むや」
「はい、望みます」
「レイ伯爵家ブラッドよ、汝は最上級職業である剣神に転職する事を望むや」
「は、はい、望みます!」
なんか俺の知っている転職の儀式と違うけど、もしかして式典だから特別な演出なんだろうか?
混乱しながらも承諾の言葉を告げると、俺とカナが重ねている宝玉から眩い光が放たれた
同時に職業が剣神になったのを感じる……ゲームとは違う方法でも転職出来るんだ、すげー!
密かに驚いていると、神父の爺さんが喜びに満ちた声で宣言した
「おお、天にまします我らが神よ、この日この時、新たなる極致へと至った者らが現れました!忍者マスターになったサーカナと、剣神になったブラッド・レイに祝福を与えたもう!」
神父の言葉に応えるかのように、宝玉から放たれた光は柱となって天空へと昇り、俺とカナの手を空と絆ぐ
大精霊と天使が光の柱を囲むように宙を舞い、祝福の歌を奏で始める
次第に光の柱を囲むように降り注ぐのは幾本もの眩いヤコブの梯子、空の切れ間から幾すじもの光が指し、輝く光のカーテンを形作った
余りにも幻想的な光景に言葉を失った
これを見る前だって大精霊や天使が様々な魔法を使い会場を盛り上げていたのに……この光景の前では、安っぽいイミテーションにしか思えない
放心状態で恍惚と眺めている俺に、神父は問う
「汝ブラッドよ、お主は生涯サーカナを妻として、永遠の愛を誓うや」
「あ、ああ……誓う、俺はカナさえ居ればいい…カナを幸せに出来るならなんだってする」
「良かろう、ならば汝にはサブ職業として、愛妻家を与える、末永く爆発するがよい」
なんか取り返しがつかない事を言った気もするが、そんな事はどうでもいい
この瞬間をカナと一緒に見れた事を、俺は神に感謝する…………って待て!今のは流石にどうでもよくない
驚いて意識を現実へと戻すと、儀式は続いていた
「汝サーカナよ、お主は生涯ブラッドを夫として、永遠の愛を誓うや」
「はい、誓います……例え私の想いが届かなくとも、彼の愛を一身に受け、幸せを噛み締めてみせます」
「良かろう、ならば汝にはサブ職業として、新妻を与える……永久に変わらぬバカップルで、せいぜい周りを煽るがよい」
「ありがとうございます神父様」
……また何か重大な宣言をされた気がするが……気の所為だよな?
俺はカナを物扱いするクズ野郎だ、そんな俺にカナが永遠の愛を誓うはずがない
これは俺の願望が聞かせている幻聴だろう、あり得ない、俺のような厳つい顔で剣を振るうしか能がない男に、カナのような美少女が愛を誓うなんて、あり得ない
だけど嬉しそうに微笑むカナは、幻には見えない……
恐る恐るという感じで、俺は遠回しに確認する事にした
「カナ……自意識過剰かも知れないけど、これってまるで結婚式みたいだな」
まさにヘタレを極めたような言い分に、カナはさも可笑しそうに笑う
「うふふ、何を仰っているのですか、これは転職の儀式ですよ」
そしてアッサリと否定されて、俺のハートはブレイク!
「そ、そうか……そうだよな!俺なんかがカナと結婚出来るはずがないからな!」
「そうですよ、本当に馬鹿なお人です……私は転職して、ブラッド様のお嫁さんになっただけです」
「え?」
「そしてブラッド様は、私の旦那様に転職しました」
「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「神聖な儀式で叫ぶでない、バカップルのバカ担当!」
神父の爺さんに怒鳴られたけど、それどころじゃない!
どうやら俺は知らぬ間にカナと結婚していたみたいだ、いやそれは昇天しそうな程に嬉しいのだが、問題はカナの態度だ
なんか坦々と言っているのだが、暗黒微笑していて凄く不気味なのだ!
主導権を取り返さないといけない!
これは本能が訴えている特大の警鐘だ!元々の計画を打ち明けてでも、カナを正気に戻さなければ、俺の人生がなんかヤバい!
「いやちょっと待ってくれ、俺は今日カナを解放しようと思ってたんだ!ちゃんとカナが好きな人と結婚出来るようにしようとしてたのに、何やってるんだよ!」
「あら、私はちゃんと好きな人と結婚出来ましたよ」
「いや、したのは俺とだろ!…………え、まさか」
「何処かの鈍過ぎる鈍感男には、これくらい強引な手段でないと分かって貰えませんでしたからね、聞こえましたか鈍感な、ブラッド様」
ため息混じりに言われたけど……カナは俺を好きだったのか
えっと……それが本当なら天国に行けるくらい嬉しいんだけど
今の腹黒ラスボスみたいな雰囲気で言われても、信じられないんだよ!
だから俺は現実逃避した
「まぁ、それはあり得ないから、これは俺の願望が見せている夢だな」
「……夢だと思うなら目を閉じてみて下さい、次に開けた時に目覚めるかもしれませんよ」
なるほど、夢の中で目を閉じたら、夢から覚めるかも知れないもんな……って、覚めるか!
と、セルフ突っ込みで油断した俺に、カナは素早く両手で印を結ぶと忍術を使った!
「『忍法影縛りの術』」
「な、何を!」
俺の影から無数の黒い腕が伸びて足を掴むと、途端に身体が硬直して動けなくなる
これは上忍のスキルの一つだ、魔法抵抗が高ければレジスト出来るが、剣神は脳筋職業だ、剣で魔法を切り裂く事は出来ても身体の自由を奪われたらどうしようもない!
突然の暴挙に驚いていると、カナは自身の唇を小さくペロッと舐め、妖艶な笑みを浮かべながら俺の胸に手を当てて顔を近付けて来た
「さあ目を閉じて下さい、誓いのキスをしましょう、うふふふふふふふ、王子様の眠りを覚ますのは、いつだって私の役割なんですから」
怖っ!
そこは百歩譲って、王女か魔女の役割りって言えよ!いつだって私の役割りって、マッチポンプも真っ青だわ!
ヤバいヤバいヤバい!カナの顔が近付いて来てるけど、ここでカナ主導でキスされたら、一生逆らえなくなりそうで本能が悲鳴をあげている!
現状でさえ、クラスメイトの女子と連絡事項の会話をする事すら許してもらえない所か、他の女性を見ただけで「無作法です!」と忍法でお仕置きされるのだ
行きつけの店の店員がいつの間にか男性だけになっていたり、家のメイドが俺に近付かなくなったのを不思議に感じていたけれど
それが全て、俺に惚れていたカナの仕業だったとしたら合点がいく……ほら、カナってほんの少しだけど、言葉の端々が黒いから
ぶっちゃけカナに嫉妬されるのはご褒美でしかないけれど、完全に主導権を取られたら、絶対に嫉妬されない生活を強要されそうで怖い!
例えを言うならば、ちょっと他の女性を見ただけで刺されたり、他人に目移りしないように監禁されたりしそうで困る
それはそれで愛されている証明だから悪い気はしないのだけど、監禁なんかされたらカナと旅行や遊びにも行けなくなる
そんなインドアオンリーな青春なんて嫌だ、だから、なんとかして自由を取り戻して主導権を奪わなければいかない!
でもどうすればいい?剣士系列のスキルは剣を用いたものばかりなのに、今日は式典だったので帯剣すらしてない
せめて剣さえあれば、影を消し去る光を……そうだ光の剣だ!さっき剣神になれたばかりだから忘れていたけど、剣神のスキルに光の剣がある!
目を閉じたカナの唇が俺の唇に触れそうになった瞬間、俺は両手に光の剣を作り出し、足元の影を消し去った!
身体の自由を奪っていた影の手がなくなると共に、バックステップで距離を取りながら、インベントリからアイテムを取り出しカナへと使用する
たちまちカナの身体に青い鎖が巻き付き、その動きを封じた
「こ、これは封印の聖鎖!」
「スキルと行動を封じる鎖だ、いくら忍者マスターのカナでも抜け出せないだろ」
一息ついて歩み寄ると、カナは泣きそうな顔をしていた
「そんなに、私とキスするのは嫌なんですか」
「そんな訳あるか!」
「うぐっ!」
戯けた事を言い始めたカナを鎖ごと抱き寄せ、その唇を強引に奪ってやる!
突然の出来事に目を見開いたカナだが、俺が唇を離さないのを察して、ゆっくりと目を閉じる
同時に俺も目を閉じて、カナの背中がのけ反るくらいに貪り、丹念にじっくりと味わってやった
唇を離すと、カナは毒気が抜かれたかのような呆けた顔をしていた
そんな彼女の鎖を解除して、片手に抱き締め言い放つ
「カナ、これが俺の気持ちだ!俺はお前を拒んだのではない、お前の全ては俺の物だと教え込む為に術を破ったのだ!」
「ブラッド様!」ゾクゾクゾクゾク
なんか恍惚な顔をしているのを見て少し怯むが、ここで立ち止まる訳にはいかない
これからのカナと歩む人生を、少しでも良くする為には、彼女のヤン……チャを抑止しなければならないからだ!
……一瞬ヤンデレと言いそうになったが、彼女は病んでなんかいない、人よりちょっと独占欲が強いだけなんだ
そんなちょっと標準より重い愛を俺は受け止める為に、光の闘気や強化系スキルを使い全力全開でカナと向き合う!
光の柱の前で、闘気を纏った俺は周囲の地面や祭壇を細かく砕きながら上空へと舞い上げる
バチバチと紫電が俺の身体を駆け巡り、スーパーな野菜人と言っても過言ではない
――これが今の俺に出来る全力の本気だ!
未だに俺を見詰めて恍惚な表情をしているカナへと、その本気をぶつけてやる!
「カナ、改めて誓うぞ!俺はお前を絶対に幸せにしてやる、だから黙って付いて来い!カナが最高の幸せを感じるまで、絶対に離してやらないからな!」
俺の気合全開な告白に吹き飛ぶ式場!どこか遠くで聞こえる阿鼻叫喚
だけどカナは暴風のような告白を春風の如く受け止めて、俺の胸に抱き付いた
「はい、ブラッド様、私はこれ以上の幸せなんて想像すら出来ませんけど、その日が来るまで……その日が来たとしても、絶対に永遠にだろうと死んでも離しません」
「フンッ、この程度で幸せを感じているなら一生カナは俺の物だ、絶対に手放さないから覚悟しろ!」
「はい……私は一生ブラッド様と共にあります……ぐすっ……邪魔する全てを排除してでも、私はブラッド様と共にいます」
感極まったカナを抱き締め、俺は幸せを噛み締める
参列者の王族や貴族が吹き飛んでいるのには、そこそこ前から気が付いていたけど、どうでもいい
気合いが入った告白で式場は半分クレーターみたいになっているが、そんなの知るか!
俺は最強の愛を手に入れたんだ!
そんな俺に文句がある奴はレベルを上げた物理で相手してやるよ!それだけの課金をしたんだ、無課金勢なんかに茶々入れられてたまるか!
今も未来も最高な日々にするんだ、それを台無しになんかさせねーよ!一昨日来やがれ!俺の幸せを邪魔する奴も、俺の視界で不快な事をする奴にも容赦なんかしねーからな!
周辺国の王族まで来た式典を滅茶苦茶にしたのを棚に上げ、俺はカナへと再度キスをした
それを見守るのは三人だけ、剣王夫婦と祭壇の影に隠れて結界を張っていた神父のみだ
ボロボロになった神父は、這いつくばりながら天を仰いだ
「このバカップル前回の儀式と同じ様な事を言いながら、神聖な儀式を滅茶苦茶にしよった……ああ神よ、お願いですから天罰を、このバカップルに最大級の天罰をお与え下さい!!」
カナがキスをしたまま指先だけで苦無を神父に投げて、その口を閉じさせた
まったく頼もしい嫁さんだ、神父の爺さんの顔スレスレだったからちょっとビクっとしたけど、傷付けてないなら無問題だ
この爺さんにはまだ世話にならければいけないからな、レベル百でシークレット職業に転職するんだから
そう、せっかく俺だけチートを授かったんだ、やれる事をやり尽くすに使うに決まってるだろ!
課金DLCで妖精王国や天界とかにも行けるようになるし、カナと一緒にこの世界を楽しみまくってやる!
俺はカナから唇を離して微笑みかける
「カナ愛してるぞ、二人でこの世界を遊び尽くそう」
「はい、ブラッド様!ドラゴンに戦いを挑んで、負けたら私達の騎竜になりなさい、とか言ってみたいです」
「いいなそれ、どうせならアイスドラゴンにするぞ、夏場の冷房代わりにもなりそうだからな」
「素晴らしいアイデアですブラッド様!なら冬用にファイヤードラゴンも必要ですね」
神父の爺さんが小声で(破滅じゃ、世界の終わりじゃ)と言っているが、誰がそんな勿体ない事をするか!
俺もカナもこの世界を楽しむだけで、壊す気なんかねーよ!
学園だってまだ二年以上通えるんだ、遊び足りない
ドラゴンに乗って登校とかしてみたいし、学園祭で大天使と大悪魔を召喚してネコミミ喫茶とかやらせてみたい、語尾に「にゃん」を付けながら涙ながらに接客する大天使と大悪魔、きっとウケる
ああ楽しみだな、俺とカナはやっとチュートリアルが終わったばかりだ
これから始まる冒険を思うと、期待でどうにかなりそうだ!
「さあ行くぞカナ、先ずは天界で天空城を手に入れて新居にしよう」
「はいブラッド様、どこまでもお供します!」
嬉しそうに俺の腕に抱き着くカナを連れて、俺は歩き出した
ゲームは始まったばかりだ、やれる事は大量にある、やりたい事もいっぱいある……だってこのMMORPGの世界には、終わりなんてないのだから
課金アバターで新しいキャラも作れそう