3話 面接初日だっていいじゃない
チッチッチッチ……。
時計が針を進める音が聞こえる。沈黙に包まれた部屋の中で一人、僕は机の上で手を組み、来るべき時を待っていた。
「そろそろか?」
僕がそう言い放ったのとほぼ同時くらいに呼び鈴の音が聞こえる。窓からのぞくとそこにはギルド職員の女性が外で立っているのが見える。
そう、実は今日は我らが探索者ハウスの職員募集の面接日なのである。何故か僕達は特別待遇でギルドの人が応募してくれた探索者たちを数人ずつ連れてきてくれるらしい。ギルマス曰く、人が多すぎるのだとか。
いや~、全く参ったね~。十人くらい来てくれたら嬉しいなとか思ってたんだけど、まさかね~。
「113人って……多すぎない?」
目の前に積みあがっている書類を傍目に玄関へと向かう。そうして扉を開き、ギルド職員の女性を中へと招き入れる。
「探索者のレアンです。今日はよろしくお願いします」
「ギルドから参りました! ウルと申します! 最強パーティの『ワールド・シーカー』様の頼みですから! ドンと私めに任せてください!」
なんか元気そうな子が来たね~。ま、仕事さえやってくれたら何でもいいんだけど。
「他の職員が順番にギルドから連れてまいりますので、私めがそれを玄関で引き継ぎ、面接部屋へと連れてくる手筈となっております。面接部屋まで案内していただいてもよろしいでしょうか?」
「了解です」
そう言われるより先に僕はウルという元気溌剌なギルド職員を2階にある僕の部屋まで案内しようと歩を進める。面接部屋は当然僕の部屋だ。それ以外の部屋はほとんど何もないし必然とどこで面接するのかは限られていた。
「ほわ~。すごく広い探索者ハウスですね~。こんな広いの見たことないです~」
「ウチのメンバーがデカい訓練場が探索者ハウスに欲しいって要望がありましたのでそれに合わせて建設してたらこんな事になりまして」
まあお金だけは常にダンジョンに潜りに行くヨシュカのお陰でかなりあるしってことでウルさんが言うようにかなり大きい探索者ハウスを建てた。多分部屋数で言ったらそこら辺の貴族の屋敷なんかよりも多いかも?
だからどれだけ職員を雇っても大丈夫って思ってたけど流石に113人は無理だからこうして面倒な面接を行わなければならなくなったって訳さ。はあ、今から憂鬱だ。
「ほえ~。王都のそれもど真ん中にこんな大きな探索者ハウスを建てられるなんていったいどれだけ稼いだらそんなことが……」
「どれくらいでしょう? 忘れちゃいましたね~。ざっと100億ルーベルくらいですかね?」
「ひゃ、100億!? 貴族でもそんなに持ってませんよ……」
「大袈裟ですね~。流石に貴族だったら100億くらい持ってるでしょう」
なんか内装とか部屋とかをこだわって逐一料金が増えていったから正確な合計額は覚えてないから分からないけど、多分その桁数だった気はする。
そうしてウルさんを連れて階段を上り、右に曲がる。階段に向かって右の一番奥の部屋が僕の部屋、そして左の一番奥の部屋がヨシュカの部屋になっている。
意味はないけど、一番広くできるのが角部屋だからそんな感じになった。ま、離れてるお陰でダンジョン帰りで夜遅くなるヨシュカの物音で起きなくて済むから満足してる。
「ここが今日の面接部屋です」
「うわ~。天井高いですね! すごい解放感です~」
なんかこの子、観光にでもしにきた? にっこにこで僕のベッドにダイブしてるんだけど。
うんてかそれに関しては本当に何で?
「はっ! すみません! つい大きな部屋を目の前にして興奮してしまいました!」
「ははっ……ま、元気なのは良い事ですし。取りあえずこの部屋に誘導していただくとありがたいです」
「了解しました! それでは私めは玄関の方へ戻ります! 面接が終わった場合や何かご要望がある場合に都度、このブザーを押していただくと助かります! では失礼いたします!」
そうしてウルさんは手のひらサイズのボタンみたいなものを渡して玄関の方へと戻っていく。
動作確認も兼ねて試しに押してみよっかな。
ポチッとな。
「はい! 何か御用でしょうか!」
「あ、ごめん。ちょっと動作確認をしてて」
「そうでしたか! では私めは玄関の方に戻っておきますね!」
ブザーを押したら途轍もない速さでウルさんが戻ってきた。これ面白いな。面接で暇になったらこれでウルさんを呼ぼう。
悪魔的な考えを抱きながら書類に目をやる。
この書類は今日、面接する探索者達の素性が書かれている。一応、ギルド側が精査してくれた上で113枚もあるらしい。驚きだよね。
取りあえず面接する前に目を通しておくか。確か面接する順番にしてくれてるらしいから上から見ていこう。
今日までに目を通しておけって? ごめん、僕は宿題を締め切り当日にやる人なんだ。そんなことは不可能なのさ。
「なになに? 最初の人はこの十人か」
十人ずつ面接を行うことになってるんだけど……上から順番にレベル4の探索者、レベル3の探索者……お、探索者じゃない人もいるじゃん。
ふむふむ、それにしてもギルド側が選定してるだけあってプロフィール欄が豪華だ。
そうしてさらっと一枚ずつ見ていき、10人目の書類を見た時、ピタリと手が止まる。
見たことのある名前が書かれてあったからだ。確かこの名前は探索者ギルドに行ったときに絡まれたあの……。
「失礼します! 最初の十人、連れて参りました!」
僕が10人目の書類を見ていたその時であった。ウルさんが十人の応募者を部屋へと連れてくる。
そしてその中の一人が僕の顔を見て驚愕している様子を見せる。
「あ、アンタは!」
やっぱりあの女の子だったか。ま、面接官らしく挨拶でもしておこうかな。
「どうも皆様初めまして。僕が『世界の探究者』のリーダーを務めてる、レアン・オルブライトだ。今日はよろしくね」
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