4話 たまには褒められたっていいじゃない
「えーと、家事はどの程度できますか?」
「掃除と洗濯くらいなら……」
「いつも野宿してますのである程度はできると思います! 肉焼いたりとか!」
「剣術なら誰にも負けません!」
「相手の意識を一瞬で刈り取ることができます」
「なら、書類仕事とかは?」
「できますできます! 何か書くぐらいなら」
「書類仕事ですか? 日記なら良く書きますな」
駄目だこいつら。本当にギルドを通してきた人材なのか? だとしたら抗議したいぞ。こいつら戦闘ばっかでまったくもって職員の仕事とかできないじゃないか。
てか家事がどんくらいできるかって質問で相手の意識を刈り取ることができるって答えた奴、会話って知ってる?
そんでもってただ元気なだけの奴も居るし。う~ん、普通に考えたらこいつ等全員落としてもいいんだけど……。
「……か、家事なら家でお手伝いをさせていただいておりましたので基本的な事は全部できます。書類仕事も、今までソロ探索者としてこなしてまいりましたので大体の事は対応できるかと思います」
何かアイリンだけ滅茶苦茶良いんだよな。前みたいに突っかかってくることもなければ謎にシュンとしたまま淡々と答えてくる内容も全部スペック高いし。
まあ私情を挟むつもりはないけど、最初絡まれたのもあって苦手なタイプだし僕の事を尊敬してるってのでやりにくいしで落そうかなとか思ってたのにもうこいつを取るしかないくらいにそれはもう一番まともだ。
ギルドでは一番狂ってるように見えたのに何だかんだ僕は探索者達の非常識さを見誤っていたみたいだ。
「……オッケー。じゃあこれくらいで質問は終わりにするよ」
「え? 探索者としての実績とかは聞かれないのですか?」
「うん? あー、そこらへんは別に良いかな~。だってあくまで探索者ハウスの職員募集だし」
僕が質問を終えようとすると意外そうに候補者の一人からそんな質問がくる。といっても職員にそこまでの戦闘力は求めてないしな~。あーでもなんか探索者ハウスの職員って探索者達からしたら門下生になるみたいな意図があるって言ってたし一応聞いとくか。
「じゃあ経歴を聞いても?」
「はい! 私は今まで……」
「俺は……」
「私は……」
うーん、別に全部この書類に書かれてあることだしな~。これって本当に聞く意味あるのかな? てか自慢話をずっと聞かされてるみたいでしんどい。
そんで僕自身強くもないからその実績がどれだけ凄い事なのかも分からないし判断のしようもない。ああ、ヨシュカの奴が居れば……いやあいつはやっぱいいや。
すぐ戦いたがるし却って長くなって疲労が溜まりそう。
「私の実績は龍を単独で討伐したことです。あ、でもでもレアン様の方がもっとすごいと思いますけど。後は銀狼の巣を単独で制覇したこともあります。いや、分かってるんです。レアン様にとってはそんなことは些事だとは分かっているんですけども」
そして自慢ばかりをしてくる探索者達とは対照的にアイリンは何故か自信なさげに結構すごそうな実績を卑屈な姿勢のまま質問に答えてくる。
なんかもうキャラ崩壊しちゃってるし僕のファンらしいっていうのも踏まえて可哀そうになってきちゃった。どうしようか?
もう終わりにしようかと思ってたけど、ちょっと次の質問で見てみようかな。
「じゃあ君達は『聖魔双剣』の金魚の糞である僕の事をどう思ってる?」
その瞬間、候補者たちの顔に感情が表れる。驚き、失望、あるいは納得といった種々の感情を具に観察していく。
「え、えっと金魚の糞ではないと思います。ですがあまり戦っておられる姿というものを拝見したことがありませんのでその」
「確かに『聖魔双剣』であるヨシュカ様と比較するとあれかもしれませんが、探索者としての力はすごくある方だと思っていて……」
よしよし、思ってた反応と同じだな。答えづらいよな? 答えづらいように質問したわけだし。でもその答えづらいっていう時点でもう既に僕の中で一つの解答は出ている。
趣旨とは違うけど職員としての募集ならこの場にいる人はこの質問がなくとも全員不合格な訳だし。アイリンも仕事ができるというよりかは自分の事は自分でこなせるって感じだから職員としては他に向いている人は居るだろう。
ただ彼女の反応を見たいがためにこの質問をしてみた。世に稀に見る存在である僕推しの彼女の反応を見たいがために。
「アイリンは? あの時みたいに答えてくれていいよ」
「え!? あ、えっとその、戦闘能力は皆無だと思っています。ですが場を見る能力は人一倍優れているのではないかと思います」
「そうかな? 僕は戦闘能力もないし場を見る能力もない。ただ悪運が強くて今まで生き残れてきただけだよ」
「違います! そんなことはありません! レアン様が探索者達を率いる場合のレイド戦ではただの一人も死者は出たことがありません! それはヨシュカ様も唸るほどの慧眼をお持ちだからかと!」
ふへへへへへへへへへ。普段褒められることないから良い気分じゃないかコレ。僕の運が良いだけなのにそれをここまで語れるなんてやっぱこの子、僕のファンじゃないか。
いや~信じがたい話ではあったけどまさか本当に僕のファンが存在していたとはな~。僕の顔すら知らなかったから若干怪しかったけど、これで確定したじゃないか。
期待を高められると今後生きづらくはなるけど、期待されなさすぎるのも精神的に辛めではあるから時折摂取しなくてはならんな。うん。
「うん。何かいい気分だからこれで終わりにするよ。じゃあね」
そう言うと僕はブザーを鳴らしてウルさんを呼ぶのであった。
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