隠された繋がり
関係者だろう、とは予想していたけれど。その正体は、思っていた以上に近しかった。
「あ、ね……公爵様の、お姉様??」
コクリ、とシャロットは頷く。
言われてみれば、その美しい容貌や雰囲気は血の繋がりを感じさせるほど似通っている。とは言え、さすがに成人した男女では何から何までそっくりという訳ではない。面接の日にサングラスを取った時に覚えた既視感はどちらかと言えば――
(テッドに似ていたんだわ……どうして気付かなかったのかしら?)
あの時は目を閉じていたのだから、仕方ないと言えばそうなのだけれど。サングラス越しではない、黄金の瞳が晒された今、影のように潜められていた彼女の存在感は隠しようもなかった。
「だけど、他に血縁者がいたなんて一度も……」
「それは」
シャロットが答えかけた時、向こうから数人こちらに駆け寄ってくるのが見えた。誰かが憲兵を読んだようだ。シャロットはヒビ割れたサングラスをかけ直し、前髪でサッと顔を隠して俯いた。
「人目がありますから、続きは帰ってからで」
「そ、そうね」
人が集まってくる前に、私たちはその場を退散した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「公爵様のお姉様という話だけれど……同い年なのよね?」
帰宅後、起き出してテッドの子守をしてくれていたクララに理由を話すと、眠そうに丸めていた背をシャキッとさせてすぐにお湯を沸かしてくれた。
テーブルに着き、淹れたてのお茶に口を付けながら、シャロットは頷く。
「母マーヴルが産んだのは、双子でした。ご存じの通りスティリアム王家の女は黄金眼球を次世代に残せないので、比較的処遇は甘いのですが、それでも反逆者の一族として見過ごす訳にもいかず……記録には死産とされ、存在も公にはなっていません」
パガトリー村も、元々父親のアポロ様が隠れ里として暮らしていた場所なので、引き続き娘が生きていく事を許されたのだと。
「公爵様は、貴女と会った事が?」
「いえ、こんな境遇ですから……それでも、公爵家の状況は把握しております」
二十年間、公爵家と関わりのない他人としてひっそり隠れ住んできたのに、今更引っ張り出されるこの人も不憫だ。ベアトリス様は何を思って彼女を私の下に寄越したのだろう?
「御主人様は弟に心身共に傷付けられ、周囲の勢力に狙われる身となりました。どれだけ謝罪しても、償い切れるものではありません。本来ならチャールズ本人が責任を持って貴女たちを護らなくてはならないところですが、現在身動きの取れない状況にありまして……その点、私なら派閥どころか存在すら知られていませんし、いざとなれば双方に連絡はつきます。
もっとも、ベアトリス様からの依頼以外にも、私個人が貴女たちに会いたかったからというのもあります」
どうやら私が公爵家で受けた仕打ちに思うところがあるらしい。身内として責任を感じているようだけど、律儀よね……私なら、サラが問題起こした尻拭いをさせられているのもあって、自分から代わりになるだなんて御免被りたいけど。
「どうして面接に来た時に話してくれなかったの?」
「その……御主人様はチャールズの顔も見たくないでしょうから、双子の姉だなんて絶対に受け入れてもらえないだろうと。バレて断られたらそれまでですが、一応目立たないようにガラン様が発明された認識阻害の効果を持つサングラスで対処はしていました」
シャロットが外を歩いても誰も振り向かない理由が分かった。声をかけたり触れたりなどの接触があれば認識されてしまうが、それでも黄金眼球までは気付かれない。
あと、同じ顔だからって拒絶されるかもしれないなんて、見縊らないで欲しい。息子で瓜二つのテッドの事は愛しているんだから。
「確かに今は、公爵様と距離を置きたいと思っているわ。それはこれまでの事だけじゃなくて、あの御方の事が信じられなくなっているからなの。ベアトリス様やマミーは何かの間違いだと言っているけれど、疑惑を晴らすには決定打にならなくて……
もしシャロットが公爵様の姉としてここに遣わされてきたのなら、それはきっと公爵様と同じ立場だからこそ分かる真相を、私に伝えるためだったんじゃないかしら」
ベアトリス様を通じて、シャロットも真正鷹騎士団について聞かされているだろう。彼女は隠された存在ではあるけれど、チャールズ様の双子で王家の血を引いているのであれば無関係とも言えない。
何か知っている事を、と促せば、彼女は困惑した表情で口を開いた。
「結論から言えば、真正鷹騎士団はチャールズが興した組織ではありません。もちろん、第二王子殿下も」
「じゃあ、どうしてエルシィは『チャールズ様がお喜びになる』なんて事を?」
「これは推測ですが……恐らくこの組織が立ち上がった時期は、四十年近く前」
は??
あり得ない話に、開いた口が塞がらなかった。四十年前にできた組織が、テッドを旗頭に? そんなの、エルシィはおろかチャールズ様すら生まれていない。
「御主人様は、貴女の祖母ケイコ=スノーラ様が誘拐された事件をご存じですよね」
「ええ。それがきっかけで祖母が先代ルージュ侯爵に保護され……母が生まれたと」
「その誘拐事件を起こした首謀者が、当時第一王子だった私の祖父でした」
(えっ!?)
初めて知った事実と繋がりに目を見開いてシャロットを凝視する。彼女はカップの中で揺れる液体とじっと見つめながら続けた。
「祖父が何を思い革命を起こそうとしたのか……単に担ぎ上げられただけかもしれません。派閥の中でも過激派の起こした反逆行為の責任を取らされ、一族は連座で処刑されました。密かに父を身籠っていた妾を残して」
「真正鷹騎士団は、その一派の生き残りなの? じゃあ、エルシィの言う『チャールズ様』って」
「先代陛下の王兄『チャールズ=ハイペリカム=スティリアム』の事でしょう。もっとも、当時は単に『チャールズ一派』と呼ばれていましたし、エルシィ以前に公爵家に潜伏していた形跡もなかったと聞きます。
もしテッド様が目的だったとするなら、チャールズが子を儲け、生まれるその瞬間を狙っていたのかもしれません」
チャールズ様じゃ、なかった……
途端に体の力が抜け、私は天井を仰ぐ。彼が実の息子を過激派組織の生贄にしようとしているという疑惑は、思いのほか私を打ちのめしていた。今こうやって呑気にお茶を飲んではいるけれど、チャールズ様の姉と知ってからのシャロットに対しても、緊張は少なからずあったのだ。その張りつめていた糸が、ぷっつりと切れた。
「現在、真正鷹騎士団の残党は指名手配中ですが、少なくともポーチェ男爵領内での動きは確認されていないそうです。安心しましたか?」
「とりあえずは……いえ、待って。公爵様は身動きできないって言ってたわよね。一体あの御方に何が起こったの?」
仰け反っていた姿勢を戻してテーブルの向かい側に問い質すと、シャロットはカップをソーサーに戻しながらにっこり笑った。
「チャールズは地獄に落ちました」
……え、どういう事??
恋愛小説大賞終了につき、不定期更新に戻します。




