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森の奥の白い家の魔女  作者: プーマン
3/3

【転】魔女と僕の物語

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


カチャカチャと。


「ーーんんっ」


微かに聞こえてくる、食器の擦れ合うような音で僕は目を覚ました。


同時に、パンの焼けたいい匂いが鼻腔をくすぐる。


あれ、誰かご飯作っているのかな……?


ぼーっとする頭を振りながら起き上がり、周りを見渡すと、見知らぬ部屋のベッドで眠っていたことに気が付いた。


けっして華美な装飾はないけど、小綺麗にまとめられた調度品から、この部屋の住人のセンスが窺える。


ここはーー



「おーい、入ってもいいかい? というか入るね」


「ーーッ!」


僕の思考を遮るように、部屋のドアが不意に開かれる。

ソレの姿を見た瞬間、一気に意識が覚醒した。


入ってきたのは、この家の主。

僕が殺そうとしていた災厄の象徴。



「近寄るな、魔女ッ!!」


「おや、起きていたのかい。調子はーーうん、良さそうだね」


ニコニコと笑って話しかけてくるソレは、僕が殺し損ねた魔女に違いなかった。


その赤い瞳はどこか愉しげで、気を失う前に見せた陰りはない。


陶器のような白い肌に、腰まである銀色の髪を煌めかせるソレは人間離れした美貌をしている。


「まったく、昨日は驚かされたよ。何年振りかの来客が目の前で火ダルマになるなんてね」


「このっ、バカにするなーー」


「一応処置はしたつもりだけどね。せっかくの可愛い顔に火傷が残らないか心配だったよ」


「え、あ……」


と、ようやく自分の身体の状態に気が付いた。


全身が火に包まれたというのに、痛みが全くない。

それどころか、見える範囲に火傷の跡一つ残っていないのだ。


「……貴様、なんのつもりだ?」


「なんのつもりのないさ。それより君はーー」


「……っ」


出来る限り凄んだ顔でソレを睨みつけると、ソレは僕の眼前まで顔を寄せてきた。


やはり恐ろしく整っているその顔を、僕も負けじと睨み続ける。


そしてーー


「えい!」


「いたいっ?!」


パチンと。

今まで味わった事のない威力のデコピンをされた。



「え、え??」


「え? じゃないだろう。君は言葉遣いがなっていないな。目上を敬えとは言わないが、流石に貴様呼ばわりは感心しない。まだ若いんだ、今のうちに矯正しておかないと困るのは自分だよ?」


「ご、ごめんなさい……?」


その上、けっこう本気で説教されて僕は混乱してしまったいたのだろう、思わず素直に謝ってしまっていた。


そんな僕の様子を見て、なにが楽しいのかフフンと鼻を鳴らすと、彼女は上機嫌そうに答える。


「うん、分かればいいんだ。ところでお腹は空いているかな? 君の分も朝食を作ってあるんだ、多少無理にでも食べてくれると嬉しいな」


「は、はい」


着いておいで、と言いながら部屋を出て行く彼女を追って、未だ混乱している僕も部屋から出た。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



昨日見つけられなかった2階への階段は、そもそも存在しておらず、短距離転移陣とかいう冗談みたいな高等魔法陣を用いて1階に降りた。



居間のテーブルの上には、サンドウィッチや野菜スープ、サラダにミルクが2人分並べられている。


昨日どころか、ここしばらくまともな食事を取っていない僕の目に、これらはとてつもないご馳走に映った。


だが、ここは敵地。それも災厄の魔女の家である。


彼女の出す物を口に入れるなど言語道断だ。



「ふん、こんな物誰が食べるものか」


「いいから席に着きなさい。食事前に説教されたくはないだろう?」


「お前に命令されるいわれはない」


「……怒るよ?」


そう言いながらスッと右手でデコピンの形を作ったのを見て、僕も速やかに彼女の対面に座る。


「そうやって素直にしている分には可愛いのだけれどね。それじゃ食べようか、いただきます」


「……いただきます」


やれやれと肩をすくめて笑う彼女に合わせて、僕も食事の挨拶をしてフォークを手に取り、サラダから食べ始める。


「そのドレッシングは私の自信作なんだ。美味しいかな?」


……美味しい。

お母さんの好きだったドレッシングに似ている


誰かとこうして食事を取るのはいつぶりだろうか。


考えるまでもない、両親が死んだあの日以来だ。


「ううっ……ぐすっ」


「わ、困ったな。急にどうしたんだい? 怒ったり泣いたり忙しい子だね」


「うる、さい! お前が母さんを、お母さん達を……僕は、僕が、お前を殺さないとダメだったのに……!」


最悪だ。

よりによって仇の前で泣いてしまうなんて。


止まれ止まれと思っても一度決壊した瞼は、防波堤の役割をしてくれない。


「すまないね。君の状況はおおよそ察していたけれど、少し話をしたかったんだ」


涙が止まらない僕の背中を、いつのまにか後ろに来ていた彼女が抱きしめる。


「街での災いごとは私にも責任の一端がある、否定はしないさ。ただね、私にも言い分はあるのだよ。一度くらい誰かに愚痴を吐いてもバチは当たらないだろう?」


「どうだい? つまらない話しだけれど、良ければ聞いてくれないだろうか」


その声が酷く優しかったのと、背中の彼女が悲しいくらい暖かったから


「ふ……ふん、聞いてやる」


思わずそう答えてしまっていた。

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