【2】森の奥にはナニがある?
僕、シロイ・アクリルの人生は齢12にして、終わった。
この街には邪悪な魔女がいる。
残酷で醜悪なソレのせいで、僕の両親は死んだ。
ちょっと前のことだ。
3人で夕食を食べた帰り、鍵を開けて家に入った途端、潜んでいた『誰か』に父と母が刺し殺された。
家の鍵は、僕ら家族か、近くに住む伯父夫婦しか持っておらず、叔父夫婦も何も知らないと言っている。
そして、大人たちは魔女の仕業だと言った。
そうか。
あの時、一瞬見えた『誰か』の顔が伯父さんそっくりだったのは、魔女の魔法のせいだったんだね。
僕を引き取ってくれた優しい叔父夫婦は、死んだ両親の遺産で沢山あった借金を返済し、僕の家も売りに出した。
それから僕に『魔女の呪いで家に置いてあげられない』と言って、少しのお金と古くて買手のつかなかった粗末な小屋をくれたっきり、疎遠になった。
たまに顔を合わせると、バツの悪そうな顔をして、そそくさと僕から離れていく。
ーーズルイな。おじさん達だけが幸せで、僕はずっと不幸なままだ。
こんな嫌なことを考えてしまうのも、魔女のせいなのだろう。
「あ、そうだ」
今日も1人、小屋の隙間風に震えていると、とてもいい考えが浮かんできた。
僕には何もない。
誰もいない。
失うものはない。
ーーそうだ、僕が魔女を殺そう。
居場所は知っている、森の奥の白い家だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
深夜。
魔女の森に接するこの街の外れには、街灯一つなく、手に持った松明だけが唯一の光源だ。
この松明は、僕を魔女の家まで導く灯火であるとともに、魔女を殺すための却火。
魔女を殺す方法の一つとして、身動きを封じて炎で焼き続けることも有効だと授業で言っていた。
首から下げたこの瓶には、全財産をはたいて買った燃料が入っている。
簡単だ。魔女を見つけたら直ぐ、僕の体に燃料をかける。そして、僕の体に松明の火を移し、燃え上がった体で魔女にしがみつく。
あとは意識の続く限り、魔女を離さなければいいだけだ。
「ここが森……」
近づくだけで禍を招くというこの森。学校ではそう習っていたけれど、いざ目の前にすると思ったより何も感じない
一歩、森の中に踏み出してみる。
虫の音や動物の鳴き声も聞こえない静寂に包まれた空間。松明を持っていても足下が覚束ない。
でも、それだけだった。
入るだけで呪われるというこの森は、今の僕にはむしろ居心地がいいくらいだ。
そう感じる僕は、すでに呪われてしまっているのかも知れない。
でもあと少しだ、別に死んだっていい。
魔女の白い家に辿り着くまで生きていれば問題はないんだ。
「……行こう」
そうして、一歩、二歩と、どんどん森の奥に進んでいく。
おかしな話だけど、久しぶりに生きている実感がある気がする。
1人になって以来、初めて目標をもって動いているからだろうか。
それともーー。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
頭の中で何度も殺し方をイメージしながら森の奥に進んでいくと、急に開けた場所に出た。
《森の奥の白い家》
ーーここだ。
月明かりに照らされたその家を見て、ようやく目的地に着いたのだと分かった。
思っていたよりもずっと綺麗なその2階建ての家は、明かりが落とされていた。
ーーなにも聞こえない。
近寄ってしばらく聞き耳を立ててみたけど、魔女は眠っているのか何の物音もしない。
試しに玄関の扉に手をかけると、ギイと小さな音を立てて開いた。
ーーよし、やろう。
ここに至っても、僕の決心が鈍る事はなかった。
手に持った松明をギュッと握りしめて、靴のまま静かに家の中に入っていく。
ーーここが魔女の家?
魔女の家の中は拍子抜けするほど普通だった。
玄関を入ってすぐに居間が広がっており、その奥にキッチンという造り。
居間には小さな机と椅子、小物を並べた棚などが置かれていて、見かけは魔女然としていない。
1階を見て回ったけど、肝心の魔女の姿はない。
2階が寝室なのだろうか、寝ているなら好都合だ。
そんなことを考えながら、部屋を一瞥した。
「やあ。お客さんかな?」
先ほど無人だった椅子誰かが腰を掛けている。
「こんな所に来るなんて困った子だね。森に入っては行けないと教わっているのだろう?」
「ーーッ」
魔女だ。魔女がいた。
僕の理解がようやく現実に追いつく。
そして、僕は、
「ーーっ!!」
繰り返しイメージしていた動きを取ることが出来た。燃料を頭から被り、松明の火を移す。
予定どおり、直ぐに全身に火が回った。
がーー。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――――っ!!」
「キミ?!なにをしている!!」
こんな間抜けな話はない。
愚かな僕は全身を焼かれるということがどんな事なのか、ロクに理解していなかった。
あつい。
ちがう、あついじゃない。
からだが、こわれていく。
息を吸うと、喉の奥までひりひりして、
目をあけると、視界が赤くゆれてた。
「やだ……いたい……」
ちいさな声しか、もう出ない。
それでもぼくはまじょの、まじょにむかって、あるきたい、でも、立ってるのか、たおれてるのかも、わからなくなって——
「……たす、け……」
その言葉が、最後まで言えなかった。
「--------!!」
あれまじよが、なにかボクに……




