表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/27

ノーヴの(馬)車窓から4

「カルメンさん、もう出てきて大丈夫ですよ……って、聞こえないか」

荷台に積んでいてる木箱のうち、一番前に積んでいる箱を叩く。

ガコッ ガタッ ゴスッ 痛てっ!

と楽しげな音が聞こえ……。


「いてて。もう大丈夫ですか?」

箱からぴょっこりカルメンさんが出現。

バリケードが見えた時点で、身の安全の為に木箱に入ってもらってました。

見た目は普通の雑貨用箱だけど、内張りはヴィル君お墨付きの重鉄木製。

断熱性と耐久力抜群の言うなれば耐火金庫なのです。

「いきなり『ちょっと半アウア位、この箱に入ってて』って言われてびっくりしましたよ」

そう言えばそうでした。ウィルヘムさんから教えてもらってました。

この世界って(約)1時間が1アウア、(約)1分が1ミノトって言うんでしたね。

まぁ……翻訳魔法のおかげで、勝手に伝わるみたいですけど。


「急にごめんなさい。怪しげな雰囲気だったので念の為、と思ったのですが……やはり賊でした」

「俺達で捕まえておいたので大丈夫です。特に怪しい気配も無いですから、もうしばらくは大丈夫でしょう」

サラっとフォローしてくれるヴィル君、まじイケメンです。

……本読みながらじゃなければね。


<<そいえば、ヴィル君。さっきの人たち見てて思ったんだけどさ>>


<<ほい?なんでしょ?>>

やっと本から顔上げましたよこの子。

会話より魔法通信優先かっ。この現代っ子(?)め!


<<彼ら、みんな銃使ってたじゃない。でもノーヴで銃使ってる人見ないから、何でかな~?と思って>>

見た所(武装解除ついでに回収してきました)、長銃はちゃんとボルトアクションで短銃はリボルバー。

弾もちゃんと薬莢と弾頭付いた形で、私の世界と変わらない感じだと思う。

連射出来る銃じゃないのが問題なのかな?

<<私の元の世界って、剣とか弓とかじゃなくて銃が一般的だったから不思議に思ってね>>


<<あぁ、それはですね……単純に威力不足なんですよ。ヤツ等は人相手にすりゃ良いんでしょうけど、俺達は魔獣相手が多いですし>>

あ~。なるほど~。

……って納得しちゃ駄目じゃないか私。

銃より強い弓とか剣なんて……うん、この世界だとありそう。

<<そもそも、リュミみたいな近接のヤツだったら避けれるし、俺等みたいな遠隔補助だったら狙撃できますしね>>

避け……れる……だと……?

お姉さんびっくりですよ。何、その某高校生探偵(が子供になった)に出てくる格闘女子高生みたいなの。

『あ~。出来そうかも』とか思っちゃうけど、そんな無茶振り、現代人の私は許しませんよ!

<<てか、射程距離も短いし、精度も甘いですから。長銃でも100メルトル位まで近付かなきゃ使えませんよ>>

出ました。この世界の単位。ウィルヘムさんから教えて(以下略

約1mが1メルトルらしいのです。

でもそんなに有効射程短いのは不思議よね。


ピーンときました。

もしかしたらアレが無いのかな。

ワマイ君達から没収……武装解除した戦利品をガサゴソして長銃を引っ張りだします。

次に、弾倉を抜いて、薬室の弾抜き。弾抜きは大事ね。

空に向けて空撃ちして確認。遊底を引いて固定し……

銃口の中を覗いてみると。

ビンゴ!

やっぱり無い!

<<なるほどね~。ライフリング彫ってないんだ>>

私は職業柄、少しばかり銃の仕組みは叩き込まれ……覚えましたが、今時の銃って銃身(筒の部分)の内側にらせん状の溝が彫ってある物なのです。

理由は、撃った時に弾が上手く螺旋状に回転するように。

弾が螺旋状に回転すると、空気抵抗の関係から真っ直ぐ、遠くに飛びやすくなるんですよ。


<<なんスか?その『らいふりんぐ』って>>

ヴィル君も短銃手にして銃口を覗き始めた。

ダメよ。ちゃんと弾抜きしてから見ないと。

って言うか、リボルバーなら弾倉解放しないと光入らないから見えないよ。


<<これも私の世界の知識なんだけどね、銃身に溝を彫るんだよ。弾が回転しながら飛ぶようにすることで安定性が増すから、射程とか精度が上がるんだよ>>

ごめん。詳しい事は知らないんだ。

『んじゃ作れ!』って言われても、作り方とかどんな感じに彫るかは……。

<<詳しい作り方は知らないからアドバイス出来ないから、そんな感じの物が有るよ~。位でしか無いんだけどね>>


<<なるほど。弾を回転させる。溝を付けるだけなら工作魔法で何とかできるとして……スズネさんありがとう!俺、帰ったら試作品作ってみる!>>

おっと。ヴィル君のメカヲタク魂に火を付けてしまったかな。

圧力がどーの、耐久がどーのとブツブツ言い始めちゃった。

良く考えなくても、ライフル銃の製法なんて伝えたらマズかったかなぁ。

まぁ良いか。魔法の方が強そうだし。

<<お礼に、上手くいった試作品をプレゼントしますよ。たぶんスズネさん、元の世界で使った事有るんでしょう?>>

え、えぇ……まぁ、それなりに……。

頑張ったけど射撃1級、取れなかったな~。と遠い目。



カラコロと馬車を走らせながら、銀狼さんに魔法通信。

『とりあえず仕留めたよー』という報告と、後はちょっとしたお願いを。

<<分かった、良いだろう。その件は準備しておいてやるし、海上警備は増やしておく>>

よしっ。手筈は整えた。


この島国ノーヴにワマイ君達がどこからともなく侵入してきた。ってことは、『空を飛んできた』か『海を渡ってきた』のどちらかです。

空を飛ぶのは流石に竜の人しか無理だと思うので、海を渡ってきたと推測できます。

泳いで来るには……ちょっとばかり遠いので、たぶん船で来たんじゃないかと思う訳です。

近海は漁師の皆さん、遠洋は玄武さんの部隊の人にお願いして見回っているけど、どこからか抜けてきたんじゃないのかな。

彼らの荷物(馬車とか)の量、そして外洋を渡ってきた事を考えると、遠洋能力の有る中・大型船としか考えられない。

そんな船を海岸沿いに隠しておく事はほぼ不可能。いくら人が少ない場所でも、漁師の皆さんが漁場を回ってると見つかるだろうしね。

なので、この近くの海域に停泊もしくは回航しながら待っているんじゃないかな。

付近をパトロールしてもらって再接岸させなければ、追加のお客さん来ないように出来る。

と、考えました。これが作戦なのです。


え?もう一つ頼んだ『その件』は何なのかって?

それは……まだ秘密ですよ。うふふ。


「おや、そちらの銃は弊社の製品ですね」

持ったままの長銃に目を向けるカルメンさん。

あれ?ヴィラード商会って魔道具メーカーじゃなかったでした?

銃とか武器も取り扱っているのかな?

「その刻印は82式撃発部。キール教皇庁向けリリースの品だったと記憶してますが、どちらから入手されました?」

撃発部(銃の機関部の事)がヴィラード商会品ですか。手広くやってるものですねぇ。


「先ほどの『賊』の方々の持ち物でした。法的に|対処(返り討ち)した際にお預かりした物ですね」


<<疑問っぽいので補足しておきます。スズネさんの世界はどうなのか分かりませんが、この世界の銃は魔法技術で弾を撃ち出すので魔道具の一種になるんですよ>>

さんきゅー。ヴィル君。

そんなに不思議そうな顔してたのかな。私……。

<<製品の機能説明とかでも良く見る表情ですから。ちょっとした事で『疑問に感じている』と分かるようになってしまいました>>

どこの世界でも技術畑の人は苦労するんだねぇ。

製品って事はヴィル君の本業は職人さんなのかな。聞いてなかったけど……。


「制式装備品を持っているとは、手ごわい賊だったのでしょうね……。私は隠れているだけしか出来なくて申し訳ないです」

いえ。おとぼけ三人衆でした!

そっか、カルメンさんは彼らの正体知らないから、盗賊が制式品を鹵獲して使ってた。と思ってるのね。


「ノーヴの民にとっては取るに足らない相手だったぜ。俺達を甘く見過ぎるな」

おぉっ。ヴィル君ナイスフォローっ。

私が『サクっと倒したよー』と言っちゃうと変だもんね。(見習いだし)

「それはともかく、ちゃっちゃと進む。スズネさん、今日の行程はミルム廃坑ですから。着かないと休めませんよ」

あらま、藪蛇でした。

日が暮れる前に着くかなぁ……。



―――

空に夕日が覆われ始めた頃、なんとか見えてきました。

ミルムの外れ……と言うには少し離れすぎた所にある廃墟群。

地図とか書類でしか見た事は無かったけど、人手不足で採掘中断した鉱山跡地らしい。

元々ミルム村はこの鉱山の街として出来た街で、今のミルム村は鉱山で算出した鉱石を加工する職人の街だったとか。

「やっと見えてきましたよ。暗くなる前で良かった~」


「直接宿に向かいますか。テブクロ、クツシタ、『止まり木』まで向かってくれ」

「「ヒヒィ~ン」」

『承知した!』と言わんばかりに嘶いて、歩みを速める二人(匹)。

言葉分かってくれるなんて、やっぱり可愛くて賢いなぁ。

……ところで、何で廃墟に宿が?


<<ヴィル君、ここって廃坑だって聞いたけど、廃墟になってるわけじゃないの?>>

手綱は握るだけ……と、言うかテブクロちゃん、クツシタちゃんが勝手に歩いて行ってくれてるので手綱を持つ必要も無いんじゃなかろうか。


<<あぁ、廃坑になって大多数の住民は今のミルム村に移住しましたけど、冒険者相手の宿や雑貨屋は残ってるんですよ。坑道跡がちょうど良いダンジョンになってしまったので>>

埋めなさい。そんな危ないトコ。

<<まだ採掘している時、土木魔法や結界魔法でガッチガチに補強したせいで、入口塞ぐ事も出来なくなりましてね。まぁ、子供達の良い遊び場所ですよ>>

そんな危ない場所で遊ばない!

<<今はギルドの中等研修とか、駆け出し冒険者の修練の場になってますね。たまに、脱出困難になった冒険者を村の子供達が助けに行ったりしてます>>

……あぁ、小さい頃から別格なのね。

なんという英才教育。


<<ノーヴの皆がどうして凄いのか、理由が分かった気がする……>>

生まれた時から剣を持ってる。とか言われても信じますよ。

規格外過ぎて私の理解の範疇外。

<<でも危ないから、子供達だけで入らないように指導しなきゃダメだよ>>


<<今の子は入って無いみたいですよ>>

それなら良かった。

<<山に巣食ってる野良飛竜の巣の方が楽しいみたいですしね>>

さよか……。

もう私はこの国の人の事心配するの辞めて良いかな。

ちなみに、飛竜ってワイルドボアなんかより上で、『噂を聞いたら逃げましょう。あなたが冒険者なら、国際ギルド所属のランカーを呼びましょう』なレベルらしいです。



「ヒヒィ~ン」

「ブルル~」

っと、ヴィル君と話しているうちに宿屋さん?の裏手に着いてました。

『着いたけど、どーすんの?』と言いたげにこちらを振り返るクツシタちゃん。

テブクロちゃんは厩舎に顔を向けて『早く休みたいよー』と言いたげな表情。

「いや~。旧ミルム街の『止まり木』さんは、料理が美味しいのでお気に入りの宿なんですよ」

カルメンさんも降りてった!自由だなお前らっ!


「えーっと……私、どうした方が良いの?」

カルメンさんの積荷もあるし、このまま置いておくわけにも……。

まずは馬車を曳いてくれた二人(匹)を厩舎に?


「任せて大丈夫ですよ。ほらリュミ、着いたぞ。起きろ」


「にゃ~?あ、ヴィルだにゃ~」

駄目だこりゃ。寝ぼけてる。

「スズネっちも居るにゃ~」

このまま馬車において行くべきか。


「俺はコイツ引き吊って部屋まで行くんで、スズネさんは管理引き継いだら食堂に居てください。そろそろ晩飯の時間ですし」

引き吊って……とは言ったけど、ヴィル君やっぱり優しいね。

リュミちゃん抱えて(お姫様抱っこでした)、馬車を降りて宿屋へ。



私も宿の人に馬車を頼んじゃいます。

宿の人って言っても、見覚えのある(この間まで事務手続きやってたアルケインさんでした)人なんですが。

「いやぁ、お久しぶりです。正確に言うと三日ぶりでしたか」

ちょうど勤務交代のシーズンだったのですね。

ミルム行きの護衛に出る前日から『あれ、居ないな~』と思ってたら、こんな所で会うとは。

ノーヴは広いようで狭いのですね。

……そりゃぁ国土自体が四国位の大きさだもんね。国としては確かに狭いさ。

「後はこちらで受け持ちますから、中で休んでください」

お言葉に甘えます。



確かに料理は美味しかったです。

和風な味付けで、お酒も焼酎みたいなお酒。

昔、この辺に来た異世界人が教えてくれた料理なんだとか。

もしかしたら日本の人だったのかもねぇ。その異世界人は。


流石にお刺身なんかは無かったけど(山沿いだしね)、お腹一杯食べさせてもらいました。

お酒も……進みすぎました。


部屋に戻って、ベッドにダイブ!

……ぐぅ。。。

スズネさん銃を語る。

偉そうに長銃(猟銃を思い浮かべてください)を持って話してますが、スズネは幹部自衛官だったので拳銃しか扱ってません。


「某アニメみたいに横撃ちしたら怒られた覚えが有るよ」

スズネの居た空の部隊だと片手保持で半身姿勢。銃はちゃんと立てるように矯正されます。

両手保持で撃つくらいは良いけど、横にして撃ったりすると鬼軍曹からブン殴られます。(安全上の理由)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ