そして呼び戻される
さて、どっこいしょ。
ベッドに腰かけ長期戦モードですよ。
え?『皺が寄るから座るなとか言っておいて自分は!』ですって?
座り方にもコツが有るんですよ。
布団に寄り掛からないとか、シーツを引っ張らないとか。
幹部課程で覚えたでしょ。
え?習ってない?だったら今から奈良幹行ってきなさい。別に鬼の江田島でも良いよ。
……何の話でしたっけ。
「まずはこの世界の事、私が調べて回って分かった事から話しましょうか」
そうそう。同郷人なウィルヘムさんから、隠し事無しの本音トークで世界説明でした。
「ところでスズネさん……と言うか三笠さん、この世界の事はどのように説明受けてますか?」
どのように。と言っても、天龍さんから聞いた事くらいなんですけどね。
「呼び方は鈴音とかスズとか楽な方で良いですよ。説明……と言っても、10賢者って言われている『カムイ』、『導き手』が居る。色んな種族が居る。位ですかねぇ」
特に深く考えて無かったから、突っ込んで聞いてなかったですね。
後は『魔法が使える』とかですか。
「なるほど。では、補足も含めて……」
毎度おなじみウィルヘム先生のホワイトボード(魔法)が出てきました。
今回は文字がふわふわしてないっ!
「まぁ、こちらの魔法はイメージですから。プレゼン用ソフトとか思い浮かべればこうなります」
なるほど。私の業界では、何故か報告書の作成に使うアレですね。
ポスター作る時にも使ってたなぁ。
「さて、まずはこの世界の事からですが……10賢者やら『導き手』、『契約者』なんて物が居る時点でお分かりでしょう。この世界は『何故か異世界人(特に私達の世界の)が流れ着く』世界です」
あぁ……うん、確かにそれは思った。
『10賢者』ってだけでも「え?」って感じなのに、『契約者』組まで居るのは不思議だよね。
前に居た世界では、『異世界人』なんて一人か二人程度だったもの。それに、同じ世界から飛ばされてくるケースなんて無かったです。
「私も三十数年ほど放浪して他国を見て回りましたが、『契約者』は勿論の事、『導き手』も私達の世界から飛ばされて来た人が多かったです」
ジャンヌ・ダルクに山本五十六だしねぇ。どういう基準なんだろう?
歴史に残ったような人?山本提督も歴史上の偉人だしね。
「ちなみに、ノーヴは500年……じゃなかった、500エイアほど前に『カムイ』によって建てられた国ですね。初代の『導き手』は織田信長だと言われてます。二代目が山本五十六で、鈴音さんは三代目ですね」
うわぁ。これまた歴史上の偉人きたぁ。
つまりノーヴは織田信長→山本五十六→私……と、日本人ばかりの『導き手』ですか。
エイアってこの世界の『年』の単位みたいですけど、私達の世界と違って月25日の年12カ月で、一年が300日みたいなんですよね。
「私は違いますが……『歴史上の偉人』が『カムイ』になる。みたいな法則が有るのですかね」
ノーベルとかアインシュタイン、ノイマンなんかが居ても驚かないぞっ!
……居たら居たで、こっちの世界でも原爆とか作ってそうで怖いけど。
「どちらかと言えば、『最後が判らない人』とか『伝説になってる人』じゃないですかね。キール教国はイエス・キリスト、ブリターニ王国はアーサー王が建てたという記録が残ってます」
これまた凄い人たちが出てきました事。
『最後が判らない人』となると、日本だと源義経なんかも居ますね。
「そして、別に『偉人』に限らないようです。国を興した……とか、大きな事を成した人はそうですが、中世の商人や冒険家が『カムイ』として訪れた記録も有ります」
「他の世界から来た『カムイ』は居ないのですかね?流石に私達の世界だけと言う訳は無いと思うのですが」
異世界なんて星の数ほど……それ以上有るんですから、私達の世界からのみ。と言う事は無いと思いますけど。
前に居た世界で会った『異世界人』の方は、全く違う世界から来た人のようでしたし。
「それは勿論居ますね。『10賢者』とは一通り話してきましたが、今の『10賢者』の半数以上は私達の世界を知りません。全ての『カムイ』と話をする事は出来なかったので正確な所は分かりませんが、『カムイ』全体で見ても私達の世界の人間は3割程度かと思います」
さて、なんか気になる言い回しですよ。
異世界人は『カムイ』=『導き手』=『10賢者』≒10人しか居ない。では無いのですか?
その言い方だと、『10賢者』の他に『カムイ』が居るように聞こえますが。
「まぁ、考えてる通りです。『10賢者』と『導き手』はほぼ同意ですが、『カムイ』はまた別ですので。そこに『契約者』まで混じったので……この50年で異世界人比率は大分上がりましたね。……すぐ下がりましたが」
今まで聞いた事を整理してみよう。
『10賢者』は、『導き手』達の事を指す言葉で、文字通り10人の異世界人の事を指す。
『導き手』は、国に所属する『カムイ』の事を指す。
『カムイ』は、『異世界から来た人』の総称である。但し、『契約者』は除く。
それぞれの言葉の意味が正しいと考えると、『国に所属していない異世界人』が居る。と言う事になるんじゃないかな?
「直接的に聞きます。大体で構いませんが、この世界に『カムイ』は何人くらい居るのですか?」
「流石、鈴音さんは聡い方ですね。『カムイ』自体は……私の知る限りでは100人前後居るようです」
一気に10倍!?
何、その求人率。『導き手』ってそんなに人気職種だったの!?
「多くは人里離れた地で隠匿生活を送っています。冒険者の身分を望んだ方も多いですね」
ファンタジー小説で良く有る『隠居した賢者』と言う立ち位置ですか。
でも……『カムイ』は他の世界の知識を持っているんだから、この世界にとっても有用だと思うけど、そうやって隠れ住む事も出来るんだ。
「隠匿生活を送っている『カムイ』の大半は、この世界より文明レベルの低い世界から来たみたいです。冒険者をしている方は似た世界から来た人が多いようです」
あ、そうか。『異世界人』と言っても、全員が『この世界に無い知識や技術』を持っているとは限らないのか。
この世界より遅れている世界は勿論、同じ程度の技術力・文明力の世界から来た人は有用な知識を持っているとは限らない。
逆に、私達の世界よりだいぶ進んだ世界から来た人なんかも、その知識や技術を発揮できるとは限らない。
もし私が最先端技術しか知らない人だったら、その技術を使おうにも土台となる技術や道具がないから発揮できないしね。
線路と貨車は有ったけど、機関車なんかが無かった理由もそこにあるのかな。
「今、『10賢者』として活動している人達は、『私達の世界』又は同程度の世界から来た人。と言う事ですね」
今まで私の見た所では、この世界は産業革命前後の文明じゃないかと思っています。
魔法なんかで大分進んでいる所も有りますが、基本的にはその時代の技術で実現できる範囲の知識や技術じゃないと役に立たない。
魔法ばかりが発達している理由の一つとして、私やウィルヘムさんみたいに『元の世界の技術』を魔法で再現してる……って辺りからかも。
「これは私の推測ですが、『この世界に』……いえ、『所属する国に画期的な技術革新又は文明革新を起こす人』が『導き手』として認められる。という事ではないですか?」
いくら『異世界人』と言っても、過去や同時代の知識しか持っていない人を優遇する理由は無い。
実現できないほど高度な技術や知識を持っている人も然り。……まぁ、この世界の人にとっては『何を言っているのか分からない』なレベルだと思うけど。
ウィルヘムさんがチラっと言っていた「『導き手』の着任を承認」という言葉も、この辺に関係してくるんじゃないのかな。
「いやはや、鈴音さんは話が早くて助かります。今からそこを説明しようと思っていたのですが……どうやら、結論に辿り着いたようですね」
推測が当たった……のかな?
答え合わせをしてもらわないと、どこまで私の推測が合ってるのか分からないんだけど。
「鈴音さんの推測の通りです。『この世界で実現可能』で、『自国に利益が有る』ような知識を持つ『カムイ』が『導き手』になる。という事です」
ん?しれっと『技術』を抜いてませんか?
「技術だけなら『導き手』にする必要は有りません。適当に叙階や役職を与えて使えば良いだけです。現に、そういう『カムイ』も多いですよ」
ある意味ウィルヘムさんもその扱いなのかな。
単に魔法の知識がある。という事かもしれないけど、魔法学院長って要職を任されてるんだし。
「それは、ウィルヘムさん自らの経験からの言葉ですかね?」
「まぁ、ノーヴは特殊だと思って下さい。そもそも私は『異世界人では無い』という建前なんですから。三公組や伊予は薄々感づいていそうですけど」
いくら魔法の達人と言っていても、今まで無かった形式の魔法を使えばそうなるよね。
この宙に浮くプレゼン資料だって、ウィルヘムさん以外が使ってる所は見た事がないもん。
三公組(そう言えば銀狼さんって魔法使ってる所見ないなぁ……)なら、この世界の魔法は使いこなせるはずなのにね。
「ノーヴが特殊と言った事の説明を兼ねて、ノーヴの事について話しましょうか」
……この戦闘民族、今更特殊と言われてもねぇ。
純粋な意味での『一般人』が居ない不思議集団なんだし、『これがノーヴでは普通だよ』って言われれば納得しますよ。
「どうやら、ノーヴはV.F.L.Oのプレイヤータウンだったみたいです」
プレイヤータウン。私達の世界で一般的?には、ネットゲームにおいてプレイヤーが集まる町の事を指します。
某モンスターを狩るゲームの村とか集会所みたいな感じですね。
ん?でも、ノーヴは500エイアくらい前の建国では?
V.F.L.Oの『契約者』組が来たのは50年くらい前、年とエイアの誤差を考えても60エイアしか前じゃない。
プレイヤータウンがノーヴになるには、ちょっと時代が違う気がしますが。
「さっきの話が正しければ、計算が合わない気がしますけど?」
「あぁ、私達が来た13.2の頃じゃないですよ。β時点のプレイヤータウンです」
ん?あぁ……そう言えば、βと制式版の間でゲーム内時間に大きな隔たり有ったしその位になるのかな?
「私はV.F.L.Oを正式版から始めたので良く分かりませんが、βの頃はMAPが違ったと聞きます。『契約者』の中にβプレイヤーが居たので聞いてみた所、βの頃の初期エリアに似ている風景だと聞いています」
確かにβから正式版になる時、大規模なMAP改変も有ったし……。
「元々、プレイヤーによる自治が有り、NPCとしてこちらの世界の人が居た。そこに初代の『導き手』の織田信長が現れ、街を、そして国を興した。と考えています」
これまた、少しばかり突拍子もない話じゃないですかねぇ。
確かに、ノーヴの人が規格外なのは分かりますが、いくらなんでもV.F.L.Oと関連付けるのは早すぎないかと。
「因みに、建国時代の遺物としてV.F.L.Oのβ時代に有ったアイテムが残ってます。効果は消失し、単なる『遺物』でしか無いようですが……」
消耗品とか素材、収集品が残っているらしい。
ゲーム内としての効果は無くなり、意味の無い品として多くは廃棄されて……らしいですけど。
ん?実物を見てみれば分かるんじゃないかって?
そんな昔のアイテム、見た目なんて覚えてませんよ。ただでさえ、V.F.L.Oは素材アイテム多すぎて大変だったのに……。
「NPC雇用システムでプレイヤーと共に行動してた人や、NPC結婚システムでプレイヤーと触れ合ってた人が多かったようです。なので、国と言ってもプレイヤーギルド的な国になったようです」
そう言えば有ったねぇ。NPC雇用とかNPC結婚のシステム。
ログアウト中のプレイヤーはNPCとして行動する。ってシステムも有ったし。
ノーヴは『国』と言うか、『仲間』って感じだよね~。と思ってたけど、元がギルドのイメージだったんだね。
「念のために聞いておきますが……他の国は違うんですよね?」
私の記憶が正しければ、β時代の初期街は一か所だったはず。
……『他のゲームのプレイヤータウンです』とか言われたらどうしようもないけど。
「他の国は、大抵が『カムイ』が立国した国ですね。宗教的だったり、強権的だったり、武力支配だったり……と様々ですが」
まぁ、『導き手』として名を馳せた『カムイ』って元々そういう人達だろうしね。
『導き手』が織田信長だったり、山本五十六だったりしたノーヴは恵まれてるのかな。
信長って、暴君のイメージ有るけど時代に合わない名君だった。って研究も有るみたいだし、
山本提督は日米開戦に強く反対した戦略眼の有る凄い指揮官だったって聞くね。
「さて、話を聞くうちに……私は何をやっても手詰まりな気がしてきました。そもそも、今の時代の『導き手』って何すればいいんでしょ?」
政治のやり方なんて私には分からないし、軍備拡張と言っても先輩方が規格外の戦術家。
それじゃあ宗教(全く知りませんが)!と思えば、その道の専門家が既に居ました。
英雄も専門家が既に他国で着任済。さて、何が残ってるんでしょ。
「いっそのこと、同人誌でも書き始めますかね。デフォ化なら少しは描けるので」
日常系4コマを流行らせるとかどうよっ!
「あー……実は壁サーの『ねこみみにみみずく』さんが既に……」
にゃんと!?
大分前の方ですが、祭典に参加しなくなったと思ったらこんな所に。
「正直言うと、私も今更何の専門家が必要なのか分かりません。私達の世界と同等、魔法が使える分野はそれ以上に発展していますし」
魔法かぁ。上手く応用すれば、ほぼ万能だからねぇ。
空間転移なんて、魔法だからこそ出来る物な気がするよね。
「しいて言うなら、既に魔法で実現している物の機械化、科学技術化でしょうか。それを行う必要性は無いような気もしますが」
空を飛ぶために飛行機/ヘリコプターとか、陸の移動に車とか……ですか。
確かに便利にはなるんでしょうけど、一から開発するだけの知識持ってないです。
「う~ん……。着任早々にクビになる未来しか視えない」
クビになったら細々と小料理屋でもやろうっと。
お酒ちびちび飲みながらおつまみを作って……みたいに。
「まぁ、『導き手』に求められるのは新技術や知識だけじゃないですから。私達、異世界人の意見を言っていけば問題ないと思いますよ」
こればっかりは、実際にやってみないと分からないのかな。
私もこっちの世界来てから驚かされることばっかりだけど、こんな私も『導き手』として活動すれば何か分かるかもしれないんだし。
どうしても駄目ならクビにしてもらってのんびり隠居生活も良いよね!
「何が出来るか分かりませんが、私を評価してもらった結果の拝命であれば頑張るしかないですよね」
なるようになれ!ですよ。
私の仕事なんて役者不足で着任するのが日常。あの頃に戻ったと思って精一杯頑張ります。
……うん。作戦班時代は考えないでおこう。アレは色々おかしい人しか居なかった。
「他に何か聞いておきたい事は有りますか?今なら私のスキルレベルや通り名まで答えちゃいますよ」
き、聞きたいけど……それは後にしとこう。話し始めると夜になりそうな気がする。
この世界の事、と言っても私が知ってるこの世界と言えば回りの人とか書類上の事だけ。
今の所、これ以上聞いておきたい事は無いけれど、『今の知識』では特に無いってだけなんだろうね。
「今のところは特に無いです。V.F.L.O時代の話は、またゆっくり出来る時に話しましょう」
御茶とかお菓子持って魔術師棟に押しかけても良いしね。
むしろ、朝に押しかけて行って叩き起すべきかな。『起きて仕事しろやー!』と。
「では……『連れて帰ってきて』との事なので、さっそくアッヅへ帰りましょう。転移魔法の使用許可出ていますから、詰め所の空間転移室に行きましょうか」
ちょ、ちょっと待って、私の『のんびりショッピング』計画は!?
あ、ヴィル君と改良してた銃は出発前に無事完成しました。
ちぇっ……『銃取りにノーヴ行ってくるね!』って遊びに来ようと思ったのに……。
ノーヴを堪能することなく呼び戻されました。
ちなみに、シーツに皺の寄りにくい座り方って本当ですよ。
そこを気にせず、同期のベッドに腰掛けると物凄く怒られます。




