35話 やっぱり男は顔らしい
ドゴ! ドゴ!
なんかさ、さっきから椅子、蹴られてます。
ドゴ!
ほら、また。もちろん蹴っているのは清隆。こいつ、クラス違うくせに、休み時間になるたびに俺のクラスに来て、後ろの席の奴押しのけてすわって、俺の椅子、下から蹴り上げてます。
ドゴ!
いや、痛くはないんだけどさ、やめてくんない? 落ち着けないんですけど。落ち着いてノートが写せないんですけど。なんで邪魔するんだよ、こいつは。言いたいことがあるならはっきり言えよ。
……いや、言わなくていい
うん、わかってる。言いたいことはわかってる。ま、多分清隆なりに我慢してるんだよな、言いたいことを。で、言う代わりに椅子を蹴ってるわけなんだけど、出来たら蹴るのもやめてくれない? もうさ、俺、クラスの女子にずっと睨まれっぱなしなんですけど。すっげぇ怖くてさ、クラスの男子まで俺のこと避けてるんですけど。
このまま虐められたらどうしてくれる?
いや、もう今の状態でも十分に村八分っぽいんですけど。頼めばノートは貸してくれたけどさ、お前が教室に入ってきた瞬間、なんかさ、教室の温度が3℃くらい下がるんだけど。ちょっと肌寒いんだけど。
学校サボって母さんの会社行って、すぐ戻って登校したのはいいんだけど、清隆の奴、ずっとこんな調子。もう勘弁してくれよ。お前さ、小学生じゃないんだから物に当たるのやめろよ。
俺に当たるのもやめてくれ
俺が学校をサボったことを先生や母さんが怒るならわかるんだけど、なんでお前が怒るわけ? 俺さ、そこんとこがすっげぇわからないんだけど。すっげぇ疑問なんだけど。しかも、代わりじゃないけど、先生も母さんも全然怒らないんだよね。
なんで???
登校した学校は3時間目の最中で、そっから授業に参加。1時間目、2時間目、3時間目のノートをクラスの奴に借りて写してたんだけど、俺の教室にやってきた清隆がずっとこの調子でさ。もうなんなのか、俺にもさっぱり。兄貴の俺にわかんないんだ、クラスの奴になんて絶対理解出来ないよな、清隆の行動なんて。なんかみんな、遠巻きに俺たち兄弟を見てやんの。
俺たちは動物園のパンダか?
チャイムが鳴るたびにやってきて、後ろの席にすわって椅子蹴って、チャイムが鳴ると自分の教室に戻る。すると教室の温度が3℃くらい上がって、ちょっと蒸す。
女子の睨みは変わらないんだけど、男子は元に戻る。そんで俺に 「清隆と喧嘩でもしてるのか?」 とか、最近遅刻や居眠りが多いことを心配してくれる。いやぁ友情っていいよなぁ。さっきまで知らん顔されてたけど。
「お前が来るとさ、俺、クラスの女子に睨まれんの。
だから来るな」
晩飯の時、とうとう清隆に言ってやった。そうしたら、どうしてか母さんが大笑い初めて、清隆はすげぇ胡乱そうに眉間にしわ寄せやんの。なに、その反応。俺、なんかおかしなこと言った?
「お前、馬鹿?」
言っとくけど、お前の方が成績悪いから。俺、総合で学年10番に入ってるから。これでも一応、優等生だから。
「雅孝、ちょっと鏡見てきたら?」
それこそ清隆と並んで鏡に映ってこいと、母さん、腹抱えてやがる。ちょっと、なんか口からこぼれてますよ。汚いから、口に物入れて大口開けるなよ。飲み込んでから笑えよ。ちょっと母さん、聞いてる?
「同じ顔つけてなに言ってやがる、このボケ」
「雅孝は天然だから」
なに、2人して言いたい放題言ってくれてんの。そりゃ清隆と俺は似てますよ。母親は違っても、父親は同じなんだから。それがどうしたってのさ。
「俺らが揃うと、女子のいいおかずになるんだと」
そう清隆の彼女の恵子ちゃんが言っていたらしいんだけど、おかずって何?
「マサの方が成績いいし、性格いいし。
その分敷居が高いんだってさ」
一応って何、清隆。ひょっとして僻んでる? なんかすげえぇ面白くなさそうなんだけど、なんで? 敷居が高いってどういう意味だよ? あ、ほら、また足蹴る。食卓の下で足蹴るなよ、痛いって。飯くらい静かに食わせろよ。
「どっちのスマホ?
鳴ってるわよ」
リビングに置きっ放しになってる携帯電話は俺のだ。仕方なく箸置いて立ってみたら、雪緒だ。こんな時間になんの用かと思ったら……
お父さんから連絡があって、今から店で会いたいって
つづく……いよいよ真相解明かっ?
だったらいいんだけど、それよりおかずって何? 誰か教えてくんない? それって美味しいの?




