2話 あんたらいったい誰なんだ?
嫌な予感はしてたんだよな。だって前の話、タイトルに 1話 ってあるからさ、普通に考えて 2話 とか続くもんじゃん。
これが 前編 とかだったら次は 後編 で、今回で終わりってことになるんだろうけれど、見たら 2話 になってるじゃん。
勘弁してくれよぉ~
だから言ってるじゃん。俺は別に清隆のことも僻んじゃいないって。そりゃ節操のない親父のことは恨んでるけど、恨み言を言おうにももう死んじゃってるんじゃ話にならない。仏壇の前で文句タラタラ言ったって意味ねぇし。肝心の親父は聞いちゃいないんだから。
耳ないしな
え? 前話のあらすじ? そんなの自分で前の話を読めばいいじゃん。面倒臭ぇよ。なんで俺がそんな面倒なことをしなくちゃいけないのさ? そんなの親父にさせればいいじゃん。親父が全ての元凶なんだから。
……あ、死んでるか……
その親父を訪ねて刑事が家にやってきたのは、俺が寝坊をして2時間目から登校。しかも時間割を間違えるという小学生みたいなことをした日の夕方。
ひょっとしたら昼間にも来たかもしれないけれど、俺と弟の清隆は学校だし、母さんは仕事だ。誰もいなかったから、出直してきたのかもしれない。
ま、誰もいなかったからわからないけどさ
訪ねてきた刑事は2人。割と若くて、でも30歳は過ぎてるっぽい。よくTVで視る刑事ドラマみたいに、玄関を開けて対応した俺に黒い手帳をみせてくれた。後学のためにもっとよく見ておこうとしたけれど、こいつら、もったいぶってさっさとしまいやがった。
くそっ!
いや、問題はそこじゃない。そもそも後学ってなによ、俺?
偽造でもするのか?
学校から帰ってすぐだったから、俺は制服のまま。ネクタイの結び目を外したところだったから、仕事から疲れて帰ってきたサラリーマンみたいな格好をしていたけれど、2人の刑事も同じような感じだった。
「川端と言います」
「森崎です」
2人の刑事は少し早口に自己紹介する。だが俺は人の顔と名前を覚えるのがあまり得意じゃない。おまけに相手は警察だ。今後、お世話にならないためにも覚えないでおこうと思う。
そんな俺の決意もよそに、2人の刑事は質問を続ける。
「こちら、穂川周平さんのお宅ですね?」
確かにうちは 「穂川」 だ。
だがその名前を聞くのが久しぶりすぎて、すぐには誰のことか思い出せなかった。親の名前を忘れるなんてとんだ親不孝者だといわれそうだが、思い出せなかったのだから仕方がない。
そう、穂川周平は親父の名前である。あんなクソ親父の名前なんて、思い出せなくても俺の日常に全く支障はない。はっきりいって俺の人生に、親父の名前は必要ないのである。必要ないから忘れていた、それだけのことだろう。
それにしても妙なことを訊くな
そんなことを思っている俺に、刑事は質問を続ける。川端と名乗ったほうの刑事だ。
「君の名前は?」
「穂川雅孝です」
なんで答えなきゃならないのかわからないけれど、とりあえず答えておく。それこそTVでよく視るみたいに 「公務執行妨害」 とかで逮捕されちゃたまらないし。
されないか、たぶん……
それにようやく名乗れた。前回は全く俺の名前出なかったし、出せなかったし。
清隆は登場すらしなかったのに、名前だけちゃんと出てさ……いや、僻んでないよ! 俺は全く僻んでないから!
「穂川周平さんの息子さんですね? 弟さん?」
「兄です」
なんだよ、警察のくせにその程度のことも知らないのか? ちゃんと調べてから来いよとか思ったけれど、とりあえず答えておく。やっぱり 「公務執行妨害」 は怖い。
逮捕されるのは嫌だ
「そうですか」
「あの、なんの用ですか?」
出来ればすぐにでも帰ってもらいたい。なんか用があってきたと思うから、ようが終わるまで帰ってくれなさそうだけど、このドア、閉めてもいいですかぁ~?
いや、やっぱり 「公務執行妨害」 は怖い。だから訊いてみたのだが、訊かなければよかったと後悔する。後で悔いると書いて 「後悔」 だもんな。先に出来ないのが一番悔しい。
いや、俺が訊かなくてもいずれ向こうから言ってきたはずだけれど、だから自分から訊いてしまったことが一番悔しい。
「穂川周平さんにちょっとお伺いしたいことがあるんですが、今、どちらに?」
こいつら、真顔でなに言ってるんだ?
いや、もちろんそんなこと、間違っても声に出して言ったりはしない。だって 「公務執行妨害」 は怖いから。
いい加減、俺もしつこいな……
でも怖いものは怖いのだから仕方がない。だから代わりに思いっきり間の抜けた顔をしてしまった。不可抗力だ。普段の俺はこんな顔はしない。
たぶん……
でも刑事の質問はあまりにも奇妙で、俺には到底理解出来なかったのだ。だから間の抜けた顔をして黙っていると、刑事は質問を繰り返してくる。
「お父さんは今、どこにいますか?」
空を指さす、それが俺がとっさにとった行動だ。もちろん親父は雲の上、つまり天国にいるって意味だったんだけれど、刑事には上手く伝わらなかったらしい。
あの親父が天国だと?
地獄の間違いだと気づいた俺は、地面を指さすべきだったとすぐに思ったけれど、それでも刑事には伝わらなかったに違いない。
なにを思ったのか、2人の刑事は玄関のドアを大きく開くと、俺を押しのけるようにして家の中に入ってきたのである。
「ちょっとっ?」
驚いた俺は振り返るけれど、2人は靴を脱ぐのももどかしげに家の中に入ると、すぐ前にある階段を駆け上がる。つまり俺が上を指さしたのを見て、2階に親父がいると勘違いしたわけだ。
なんでそうなるわけっ?
ちょっと誰か止めて! あの人たち、勝手に人ん家に入ってるんですけど!
ちょっとあんたたち、なに勝手に入ってんのっ? 警察呼ぶぞ!
って、あの人たち、警察じゃん
つづく……だよな。
さすがにここで終わられちゃ俺も困る。いや、終わってもいいかも。ってか終わってくれーっ!