17話 誰が誰を殺したのか？
誰が誰を殺したのか？ 誰のお父さんが誰のお母さんを殺したって？ この手紙の差出人 「雪緒」 のお父さんが 「雪緒」 のお母さんを殺したのではないか？ 書かれていた内容を普通に読めばそうなるんだけど、いや、そうとしか読めないんだけど、なんでそんな手紙を、この 「雪緒」 って子はうちのポストに入れたんだよ？ これじゃまるでうちの親父が 「雪緒」 の父親みたいじゃないか。
……そうなのか？
まさか清隆に続いて2人目の隠し子？ そうなのか、親父？ 答えろよ……なんて仏壇に訊いたって、絶対に答えはない。当たり前だよな、死んでるんだから。
そう、死んでるんだよ
状況から推測するとだな、この 「雪緒」 って子はおそらく、例のスナックの殺されたママの子供。自分の母親の死体を発見したっていう娘だ。確か変態……じゃなくて、刑事がそんなことを言っていたはず。被害者は店の2階で子供と2人で住んでたって。
せ、その母親を殺した可能性を疑われているのが 「穂川周平」、つまり俺の親父。で、この手紙で 「雪緒」 は父親である 「穂川周平」 に母親を殺したのは本当かって訊いているわけだ。
隠し子決定！
……え？ そうなのっ?! いや、そうじゃない、そうじゃない。だって絶対不動の事実があるじゃん。親父は死んでるんだよ。これ、絶対不動だから。どうやったって動かせないから。それこそどんなに清隆が暴れても動かないから、壊せないから。
ここ、肝心だから
ただ 「雪緒」 が親父の隠し子かどうかはわからない。親父が死んだのは9年前。あの子はどう見ても中学生以上だから、9年前には生まれていたはず。つまり親父が父親って可能性は十二分にある。清隆っていう前科もあるしな。
でも殺人犯ではあり得ない。それは100％間違いない。だって死んでるんだよ。9年も前に死んだ人間が、どうやったら数日前に人を殺せるんだよ。
親父は死んでいなかった？
本当は生きていて 「雪緒」 の母親を殺した？ いや、それはあり得ない。間違いなく親父は死んでいる。俺はちゃんと親父の死体を見たし、死に顔も見た。
病院の薄暗い霊安室で、棺桶みたいに硬いベッドの上に寝てて、顔に白い布が掛けられていた。霊安室には窓がなくて、焚いた線香の煙が充満しててちょっと煙たくて、空気がひんやりしてた。そこで親父は間違いなく死んでいた。あれは間違いなく親父だった。
どうして死んだ親父に人が殺せるんだよ？
「なにやってるんだ？」
不意に掛けられた声に我に返り、驚いて顔を上げると清隆だ。
ヤバい！
俺は慌てて、でもさりげなく畳の上に転がっていた紙を拾う。怒りにまかせて丸め、仏壇に投げつけた問題の手紙だ。
「いや、ちょっと……」
なんでこう、俺ってアドリブが利かないんだろう。これが清隆なら、もっと上手く誤魔化せるんだろうけど、こういう時、どうにも俺は機転が利かない。
「泣きそうな顔して、なに言ってやがる」
「んな顔してるか」
ひょっとしたら清隆のいうとおり、そんな顔をしていたのかもしれない。でもここは否定しておかないとお兄ちゃんの面子が……
あ、鳥肌
「なんか用か？」
学校から帰ってきたばかりらしい清隆は、俺と同じ制服を着たまま、肩には鞄を提げている。
「用っていうか、変なオッサンがいたけど、お前の知り合いかと思って」
ちょっと清隆君、どういう意味？ それ、どういう意味かな？ なんで変なオッサンだと俺に知り合いになるわけ？ ってか、それ、誰? うちに用でもあんの？
「なんか態度も変だったし、とりあえず睨んだら逃げてったけど」
だからさ、誰彼かまわず睨むのはやめなさいってお兄ちゃん、何度も言ってるでしょ。お前に睨まれりゃ、誰でも逃げ出すの。逃げないのは母さんか、お前の彼女くらいなもんなんだよ。
俺だって逃げる！
清隆の話じゃ、そいつはどこをどう見ても不審なオッサンで……人を見かけで判断するのはちょっとどうかと思うんだけど、帽子を目深に被ってサングラスを掛けて、明らかに顔を隠してますって感じでマスクまでしていたらしい。そんでもって電柱の影に隠れてうちの様子を見ていたとか。
また電柱の影ですか
ひょっとしたら殺人事件の、かなり重要な参考人である 「穂川周平」 のことを探りに来た週刊誌とかの記者かもしれないってのが清隆の意見だけど、あえて俺も反対はしない。反対する理由もないし、心当たりもないしな。
でもちょっと気をつけないと
被害者のママが親父の愛人だったかもしれないなんて、格好の週刊誌ネタじゃないか。そんなことを書かれたら、清隆だって学校でなにを言われるかわかったもんじゃない。
ま、黙って言わしておくような奴じゃないけど、そんな性格じゃないけど。でもきっと傷ついたりするんだろうし。
なにより、これ以上清隆が暴れたら俺の命が危うい！
2階に上がって自分に部屋に戻った俺は、念のため、窓を少し開けて外の様子を確かめてみる。夕暮れ近い見慣れた町が、ちょっといつも違って見えたのは俺の気のせいだろうか？
つづく……誰、このオッサン？ 新キャラ続々登場なんですけど。
それにしても清隆の奴、変態を片っ端から俺の友達にしないように！ この物語はフィクションですから、間違えないように！ 俺の友達じゃないですから！
