ちなみに、篠原琳太郎は味より見た目がいい
東京戦略リーダーシップ学園では、「初日」でさえ終わりの味がすることがある。破滅的な終わりが、間違いなく俺に向かってきていた。それが運命で、それが俺のひどい運の悪さだった。
それでも俺はネクタイを締め直し、避けようのないものに向かって歩き続けた。そうしたいと心の底から思っていたし、そうする義務もあった。むしろ一歩でも後ずさるほうが、とんでもなく無責任だ。
はっきり言えば、それは臆病者のすることだ。
さらにはっきり言えば、俺は夜のタキシードを着ていなかった。厨房にもいなかった。この手が焦りを甘く制御されたものへと変えられる、あの狭い世界にはいなかった。忠実な執事としての務めからも、心はずっと遠いところにあった。本当のところ、俺は自分の運に言い返してやりたかった。迫りくる自分の終わりに見せつけてやりたかった。壁際に追い詰めて蹂躙し、うまくいけば、書き換えてやりたかった。
ここで俺の手にあるのは、自分自身と、この醜い出来事の連鎖と、それを追い越してやろうという頑固な願いだけだった。すでに負けた生徒のような歩き方を拒むことで、結末を変えてやるという願い。
だから俺は、大股の一歩を、もう一歩の先へと運び続けた。
俺の制服は、校内のどの同級生のものとも同じように揺れていた。だが、見なくても誰にでもわかる。誰が跡取りとしてそれを着ていて、誰が仮の通行証として着ているのか。
校門は、ひとつの主張をするのに十分な高さがあった。建築としての主張であり、思想としての主張でもある。「お前の人生はここ、富裕エリートの上層にある。恥ずかしいものは何ひとつ持ち込むな!」鉄細工は古い紋章の縁のように渦を巻き、石柱は光るまで磨き上げられていた。
春の東京は、桜の若葉とぬるいコンクリートの、希望に満ちた匂いを運んでくる。そして俺たちの学園は、それを開け放したショーケースのように招き入れていた。
入学式に備えて、報道各社の中継車が何台も連なって並んでいた。
俺の名前は篠原琳太郎。
そう、この苗字には意味がある。なぜならこの学園が絶対に譲らないたったひとつの入学条件は、成績に加えて――所有、だったからだ。
本人か、その家族が事業を営んでいること。
背後に会社の名前がなければ入れない。事業が潰れれば、ここには残れない。未来の重役と、政治家と、寄生虫を生み出す企業版カースト制度。それを動かしているのは明快な理念だ。利益は価値であり、損失は腐敗である。
要するに、ここでは優越こそが称えられる。
だからこの春も、新しい学期、新しい授業、新しい顔ぶれ、新しい物語、そして新しい競り落とされ方を運んできた。
三年生のフロアへ上がると、割り当てられた三年C組はもう騒がしかった。人脈づくりの騒がしさ――大人のふりを練習する子どもたちの立てる音――とは少し違う、十代らしい騒がしさだ。今日をめぐる興奮のせいで、なおさらだった。
教室に入ると、多くの頭がこちらを向いた。俺という人間の取るに足らなさは、この見た目のせいで忘れ去られる。
俺は窓際の席に着いた。透明になるために設計された位置だ。教師に怪しまれない程度には近く、誰かの話題にならない程度には遠い。
「琳太郎くん」
頭が追いつくより先に、背筋がこわばった。その声は、ここにあるはずのないものだった。
振り向くと、二つ隣の席に佐藤結衣が来ていた。まるで最初からここにいたかのように。会えずにいた年月が、ただの長いロード画面にすぎなかったかのように。
髪の色は子どもの頃の記憶と同じだった。けれど、男子とカメラが好むように整えられていた。制服をすっきりと着こなし、その気負いのなさが、学園の磨き上げへの執着を馬鹿らしく見せていた。
彼女の笑顔は、許可も取らずに踏み込んでくる。
「おはよ」彼女は明るく言葉にした。「ん? それが再会の顔なの、琳太郎くん? 少しは私に会いたかった? それとも、その甘さはニュースのカメラ用に取っておいてるの?」
「……おはよう」
結衣が小さく舌打ちした。俺はまたしても、透明でいるための試験に落ちたらしい。「うわ、相変わらず言葉数ケチってるね」
頭の中には千通りの返事が浮かんだ。取り返しのつかない損害をもたらすものもいくつか含まれていた。だから、いちばん安全なものを選んだ。「久しぶり」
結衣の笑みが、ひと鼓動のあいだだけ和らいだ。「うん」と彼女はつぶやいた。「久しぶりだね」
だがその温かさはすぐに戻ってきて、彼女は物理的な距離を詰めることに決めたらしかった。
「それより、見て」彼女はスマホをこちらに傾けた。画面には学園のアプリが映っていて、『入学確定』の文字が賞のリボンのように押されている。秘密のランクも一緒に。「もっと近くに来て。ちゃんと見てほしいの。言ったでしょ。受かったって」
「……聞いてた」俺はどうにか答えた。「週末より前に」
「んー? 誰から?」
「インターネット」
それを聞いて、彼女の笑みはさらに広がった。「そのとおり! 私の影響力はれっきとしたビジネスなんだから。デジタル起業家条項。この学園は洗練とお金が大好きでしょ? で、私はその両方を持ってくるってわけ」
彼女が口にしなかったこと――そして俺が心から尊敬していたこと――は、彼女がスマホ一台と、生き延びるのに十分なほど鋭い人柄だけで、貧困から這い上がってきたということだった。
そして今、俺の幼い初恋の相手である結衣が、ここにいる。
日本に帰ってきて、俺の軌道に戻ってきた。
それだけで、どんなラブコメでも物語が動き出すきっかけになるはずだった。
「篠原先輩!」藤城琴音が教室に飛び込んできた。先週、結衣がうちのショコラトリーに現れたときよりも唐突に。琴音はうるさくて陽気で、だからこそ自動的に怪しい。「おっはよーっ!」
彼女にとって、「三年生のフロア」と「あたしが行っていい場所」のあいだに境界の違いはない。艶やかな爪には星のアクセントが散っていた。「あたしってば、罪を犯しても許されちゃうくらい甘いんだから」と主張する、小さくて攻撃的な飾りだ。
三年生の何人かが大笑いした。二年生が三年生の教室に入ってくるなんて、金を賭けて挑まれたか、さもなければよほどの大馬鹿かのどちらかだ。
俺の知る限り、琴音は賭けなどしていない。そして俺は、彼女を完全な馬鹿だとも思っていなかった。
彼女はまるで打ち合わせ済みだったかのように満面の笑みを浮かべた。俺は動かなかった。
それでも琴音は跳ねるようにやってきて、俺の前の席に腰を下ろした。
結衣は縄張り意識の混じった好奇心で、椅子の背にもたれた。俺の料理チャンネルのコメント欄がおかしな方向へ流れたときに、俺がしがちな顔だ。
「琴音さん」俺は平板に呼んだ。
「え、待って、あたしの名前覚えてんの? ロマンチックすぎん? てか先輩、『無口クール』キャラ浮気してない? ガチで三文字が限界だと思ってたんだけど」
「なぜここに?」
琴音は考えるふりをして、指を唇に当てた。「んー。会いたかったから?」と、ポーズを決めて言う。
「ありえない」
「だよね」彼女は俺の理屈に敬意を払うように頷いた。「てか、挨拶しに来ただけ。あと、一応リマインドしとこっかなって……」スマホが武器のように彼女の手に現れた。「……先輩、まだあたしに借りあるからね」
結衣が面白がるように尋ねた。「二人とも知り合いなの?」
琴音の目が、ただでドラマを差し出されたかのように輝いた。「え、普通に知り合いだけど? 先輩とあたし、付き合い長いし。そう……先輩があたしに襲いかかったときから」
「指一本触れていない」
「だよね〜」琴音は間髪入れずにさえずった。「じゃあ、昨日の夜のは?」
「絶対にありえない」
「はいはい、もっと必死に否定して? かわよ。でもさ、あたしたち、けっこうバチバチだったくない?」と彼女は訂正し、証拠を綴じ込むように、手入れの行き届いた爪でスマホの画面をこつこつと叩いた。「フォルダにまるっと残ってるし」
結衣の目が大きく見開かれた。どちらの現実を信じればいいのか決めかねて、その奥には呆然とした怒りが揺れていた。
「琳太郎くん」結衣が割って入った。見かけだけは軽やかに。「この子、何の話をしてるの?」
「事情が複雑なんだ」と俺は言った。
琴音が手を叩いた。「はい、認めた〜」
「そういう意味じゃない」
「そういう意味にしか聞こえないよ! すっかり変わっちゃって、幻滅した!」
「見たまんまっしょ」琴音は満足げに、喉を鳴らすように言った。「てことで先輩、今週勉強見てよ。ちゃんとしたやつね」
琴音は、アインシュタインを蘇らせて家庭教師にできるくらいの財力を持つアイドルだ。泣かれるよりは楽だからと、教師たちが前もって許してしまうタイプの女の子。なのにこうしてまた、俺を資源のように引き入れようとしている。
普通の人間なら、ここで理由を尋ねるところだ。だが普通の人間は後輩に脅迫されたりしないし、俺と彼女の関係は普通とはほど遠かった。
「考えておく」
琴音は勝ったとばかりに高笑いした。「おけ。てかさ、先輩いつもより『お行儀いい岩』モード強くない? え、もしかしてそれって……」
「私たちに迷惑かけないでくれる?」結衣の唇がひくついた。「ほんとに鬱陶しい」
琴音は髪をかき上げた。「それ、めっちゃ言われる〜。あ、先輩の彼女さんにまだ名乗ってなかった。藤城琴音でーす」
「知ってる。よろしくね。佐藤結衣です」
「え、佐藤っちもあたしのこと知ってたの? この学園、便利すぎん? 有名人の顔、秒でわかるし。あの節約生活の、節約系インフルエンサーっしょ? 先輩も一回か二回、名前出してたし」
「ううん、『先輩』はきっと私のこと、何回も話してるはずだよ」
結衣――奇跡の帰還。
琴音――きらめく脅威。
俺――食べ物にされまいとする、板挟みの人間。
琴音が身をこわばらせた。演者がカメラの存在を感じ取るように、見られていることに不意に気づいたのだ。
西園寺和佳美が、そこに加わっていた。
「琴音っち」和佳美はその名を宙に浮かべるように、柔らかな声で言った。
「わ、和佳美先輩! ペットみたいに『琴音っち』って呼ばないでくださいっ!」
和佳美はかすかに微笑んだ。「よく似合っているわ。明るくて、騒がしくて。怖いときには噛みつくところも。さあ、ご自分の教室へお戻りになって」
「先輩っ」と彼女は声を上げた。
俺の肩が反射的にこわばるのがわかった。
「西園寺さん」と俺は応じた。
琴音が蛍光ネオンで、結衣が家庭の暖炉なら、和佳美は月光だった。冷たく、静かで、危険なほど正確。その美しい微笑みを向けられると、危険な契約書にサインしてしまったような気分になる――そういう少女だった。
「お疲れのようね」と彼女は言った。「長いこと料理をしていた人みたい」
琴音の視線がぱっと俺に向いた。結衣がわずかに身を固くした。
胃がすとんと落ちた。
和佳美は俺を責めているわけではない。その口調は澄んでいた。だがそれは、彼女の絶対的な天才ぶりを示す種類の澄み方だった。和佳美は何でも知っている。知らないことさえも。
「昨夜は遅くまで手伝いをしていたので」俺は完全に平静を装って申し立てた。「ショコラトリーで」
「ふうん」和佳美は何かを後のために仕舞い込むように、思案げに喉を鳴らした。「そう。いずれにせよ、予鈴の前にご自分の教室へ戻ったほうが賢明よ」と、彼女は俺たちの後輩に忠告した。「集会はあと一分で始まるわ。今走れば、間に合うかもしれなくてよ」
彼女は現れたときと同じくらい滑らかに去っていき、あとには冷えた空気が残った。
琴音が息を吐いた。「マジなんなの、あれ」と彼女はつぶやいた。「和佳美先輩、なんであんなんなの? なんか……シルクでできた人間嘘発見器じゃん。えぐ」
「西園寺財閥の最高傑作ね」結衣が静かに言った。「すごい。あの人、副会長なんでしょ? この学園って、本当にとんでもない……」
「人の秘密とか魂とか味見するので有名、の間違いでしょ。まあいいや。てか、一分って言った!?」
俺は何も言わなかった。チャイムが鳴った。まるで学園が、注目を握っているのは自分だと誰にも忘れさせまいとしているかのように。
「ついに来た!」同級生たちが、熱のこもった歓声を混ぜ合わせた。
椅子が床をこすり、生徒たちが跳ねるように立ち上がった。会話と噂話が、学校じゅうでそのあとを追った。
「既読スルーとかナシね、先輩」琴音が早口で言った。「したら、有名にしてあげるから」慌ただしく教室を滑り出ていきながら、彼女は甘い笑顔で結衣に手を振った。「佐藤っち、会えてうれし〜! またしゃべろ! この人、話しにくすぎん?」
「今の」結衣が静かに尋ねた。「誰」
「彼女は……間違いだ」と俺は言った。
結衣の目が細くなった。「それ、何の答えにもなってない」
「それは、俺が……間違いだからだ」その言葉は唇の上でしおれた。自分の耳にだけ届くつもりの言葉だったが、それがあまりに真実めいて響くのが嫌だった。集会が、それを証明しようとしていた。
東京戦略リーダーシップ学園の、公開処刑の時間だ。
講堂は三年生、二年生、一年生で埋まっていった。学園が丹念に選び抜いた生態系のすべてが、株主総会のように列をなして詰め込まれている。
副学園長と、うちの会長である立花虎が壇上に上がり、卓越性について語った。リーダーシップについて。レガシーについて。「グローバル対応力」について。
虎は、全校生徒という名の剣闘場を見渡して微笑んだ。
「それではここで、我が学園の価値観をあらためて確認しましょう」
事業ステータス:一学期開始
リストがフラッシュ暗算のような速さで流れはじめ、名前と数字が並走しながら轟音のように過ぎていく。社名。ブランド名。家族経営の事業。利益の推移。売上の傾向。戦略指標。
最初の赤い印が現れたところで、それはぴたりと止まった。
獲物が決まると同時に、ざわめきが講堂を波のように伝わった。
どこか前のほうにいる和佳美は、振り返らなかった。振り返る必要などないのだ。彼女のような人間は、ナイフがどこに刺さったかを確かめたりしない。音でわかるのだから。
制服の海の中で、琴音もこちらを見ているのがわかった。たぶん、笑顔を取り繕うのに苦労しながら。
隣で、結衣の呼吸が変わった。
篠原琳太郎(三年)/分野:ホスピタリティ/事業:シノハラ・ショコラ/ステータス:レッド
俺の家族。
俺の名前が、完全な落伍者だという公開の判決にまで貶められていた。
虎は話し続け、短い落伍者のリストも流れ続けた。学園につまはじきにされているのは俺だけではなかった。だが今年、レッドに落ちた生徒は俺ひとりだった。
朝のニュースは、即座にうちの家族を報じた。俺自身も含めて、誰かがまだ現実から目を背けていたとしても、その記事は否定しようのない証拠としてそれを確定させた。うちの家族の未来は、もう終わっている。
東京戦略リーダーシップ学園――事業を営む家の子どもたちが集まるこのエリート高校兼大学には、いくつかの決まりがある。毎学期の始まりに、学園は失敗した家業を公に晒し上げる。そして三年生の始まりに、俺の首は断頭台に載せられたのだ。
即退学ではなく、生徒には烙印が押される。欠席がちで成績不振の生徒が次のテストで満点を取らなければ留年になるのと同じように、烙印を押された生徒は期限内に家業を立て直さなければ、学園を退学させられる。
赤、黄、青のネックレスが、追放された生徒たちの服装規定に加わる。粗利の回復のために、段階ひとつにつき一か月の猶予が与えられる。
赤の烙印を押された俺に残されたのは一か月。だが今は四月、学年の始まりだ。ゴールデンウィークまで――登校日にしてわずか十六日――に立て直さなければ、俺の甘酸っぱい高校生活も、評判も、家族の経済的な未来も終わる。
たとえ青のネックレスで三か月の猶予を与えられたとしても、世間の目に与えるダメージは三つのグループすべてで同じだった。学園に追放されたその瞬間から、世間の目は俺たちに注がれ、このネックレスをつけた者は最底辺の中の最底辺になる。
人間だから、俺たちは過ちを犯す。取り返しのつかないこともする。それでも、できる限り前を向いて進み続けてきた。ただ今は、入学式をめぐる同級生たちのざわめきの中で、それが俺には難しく思えた。
美しくて、汚らしくて、汁の漏れたゴミ袋……。望もうと望むまいと、三年C組の連中は四月が終わるまで、教室で俺を味わわなければならない。そして、この見た目にふさわしい美味しいペストリーに自分を変えるか、さもなければ腐るか――それは俺次第だった。
学園はランキングとスコアが大好きだ。だが、この数字には歴史がある。
そして俺の数字は、誰かが俺を傷みものだと決めつける一週間前から始まっていた。
いや、去年から始まっていたと言ったほうがいいかもしれない。一年生だった琴音さんが、烙印を押された同級生たちをいじめるのを、俺が止めたあのときから。




