第三十二話
うにゃうにゃ、ごろごろとベッドの上で体を捻る。
先日カトル爺に頼まれた「良い案」というのが思い浮かばないので悩んでいるところ。
そもそもの話。山を切り開き、領地を広げ収入を上げるという行為ですらそれなりの規模が必要だというのに、代わりとなる成果なんてどうしろというのか。それに何が評価される行いなのかというのがイマイチはっきりしていない。偉い人ってのは自分がわかっているからといってそれ前提で話すから困っちゃう。
のっそりと立ち上がり伸びを一つ。
一人で悩んでいても良い案が浮かんでこないので、こういった時は人に頼る。困った時のアミーちゃんだ。いつものようにトンとベッドから降りると、一度丸テーブルの下をくぐってから部屋を出る。時折なぜか無駄なルートを進みたくなるのは猫の習性か。なんとなくやってしまう。
トコトコと部屋を出て二階を捜索。途中ルアナのいる部屋の前を通る際、中をチラッとみたが今日はここにアミーはいない様子。ルアナに捕まらないうちにサッサと通り過ぎる。
彼女なぜか開放的な場所にいることが多いんだよね。高貴な方ってそうなのだろうか。我々庶民は狭いところが落ち着くというのに。あと今は猫だからというのもありそうだけれど。
ルアナのところにいなければ、だいたいはスーとルーのところにいる。行ってみると発見!
スススっと足音を殺して近寄っていく。声で呼ばないのは、ちょっとだけ驚かせようという茶目っ気だったりする。
「アンバー様なにかご用ですか?」
普通に見つかった。後ろを向いているのになぜバレタ!?
「あっ! アンバー!」
子供たちは気付いていなかったみたいで驚いてくれた。いたずら失敗に少しだけしょんぼりしていた気分が回復。やっぱりこうでなくては!
さて、気を取り直して。この部屋で何が行われているのか見てみると、双子のお着換え中だったみたいだ。スーが俺と訓練する際に身に着けている服に着替えている。しかし訓練は朝すでに終えている。何か違う目的で着替えているのだろう。
「これでよろしゅうございますね。ではセーラ頼みますよ」
アミーたちメイドたちが双子の着替えを終えるとセーラに声がかかった。ということは外に行くということ。乗馬の訓練とかだろうか?
「アンバーも一緒に行こ?」
「ミャ?」
ルーからのお誘い。外に行くこと自体は問題ないが、俺が付いて行っていい場所なのかがわからない。いつものようにアミーに視線を向けて確認すると「しばしお待ちください」と言い部屋を出て行ってしまった。
待ってる間は双子の相手。
お手玉をあげてからは気に入ってくれてるみたいで、付き添いのメイドにいつも持ち歩かせているらしく、すぐに出してもらい遊ぶことに。二人はまだ慣れてないので二つでも上手く扱えない。それをちょちょいと手伝ってやれば嬉しそうにする。まだまだ素直なお年頃。そのうち「自分で出来るから手を出さないで!」とか言い出す日が来るのかもしれないと思うと、ちょっとだけ寂しい自称兄。
そうこうしているうちにアミーは戻ってくる。「ルアナ様に確認してまいりました」と予想通り。結果は、問題ないということで同行することになった。
玄関までいくとバーマンたち男性の護衛が合流する。目的地は少し離れた場所なのか双子には馬車が用意されていた。もちろん俺は一緒に乗り込む。いつものようにお供はセーラだ。
カラカラガタガタと揺れる車内から外を眺めると、本館とは反対の方面へと進んでいることが分かった。ここで今更ながら目的地を知らないことに気付く。
ひょいと馭者との間にある小さな連絡用の扉を抜け、より外の景色が見える前方へとやって来た。目に飛び込んできたのは、生い茂る草木とエルミーナの端に位置する雄大な山々。
徐々に大きくなるそれらは、街中から見えていた時に比べ圧倒的な生命力を感じさせる。
どこまでかはわからないが、これがティトの影響によって作られていると思うと不思議な感覚になる。知人の世間での評価が実はすごかったと知った時のようなそんな感覚だろうか。わかるけど正確に認識できていない。そんなふわっとした感じ。
今俺の頭の中にいるティトは、必死にペロペロガジガジとちゅるっとしたおやつを舐めている姿。そんな姿とのギャップがおかしく思え、一人で「ミャアアァ」と鳴いていると周囲から変な目を向けられた。少し恥ずかしい。




