ぼくとゆかりさん
*** 安良坂視点
『安良坂さん。こんばんは』
『こんばんは、ゆかりさん』
ぼくはスマホで、ゆかりさんとメッセージのやり取りをしていた。
自室のベッドの上でうつ伏せで寝転がる。
夕飯を食べて、お風呂に入ってリラックスしている時間。
夜21時、この時間がぼくは好きだ。
『あの、魔法の使い方教えてくれませんか?』
「え?魔法?ああ、そっか。魔法使えるようになったんだっけ」
最近、黒田さんの事でバタバタしてたから、すっかり忘れてたよ。
ゆかりさん、女神さまに魔法が使えるようにしてもらっていたんだっけ。
『分かった。この世界だと、バレると不味いから異世界で練習しようか』
『異世界ですか』
『上原くんのお家でね。許可取ってからだけど』
上原くんと黒田さんは元の関係に戻ったようだし、もう心配いらないよね。
異世界の家を借りれるか、電話で聞いてみることにしよう。
庭で練習出来ると思うんだよね。
『ゆかりの魔法の練習か。家は自由に使っても良いぞ。空いてるんだし』
上原くんに訊いたらすんなり許可が下りた。
妹さんの事だし、断るとは思って無かったけどね。
「ありがとう。今度の週末でも行ってみるよ」
『魔法の練習は、軽くで良いからな。冒険者になるわけじゃないんだし。週末、俺たちはこっちで過ごす事にするから』
一緒に異世界に来るのかと思ったけど、来ないらしい。
何か用事があるのかな?
*
土曜の昼間、ぼくとゆかりさんは異世界に来ていた。
「てっきりお兄たちも一緒に来ると思ってた」
「何か用事があるみたいだよ?お兄さん居たほうが良かった?」
上原くんの家の庭は結構広くて、土を耕せば小さな畑も作れそうだ。
庭には雑草が生えているけど、気になるほどじゃない。
魔法の練習に丁度良い。
「先ずはぼくが、お手本を見せるね」
『水よ』
魔力が手のひらから抜けて、空間に干渉する。
詳しい仕組みはよく分からないけど、唱えるだけで魔法が発動するんだ。
一瞬で、水の塊が目の前に出現した。
「不思議…水が浮いてる」
水の塊はふよふよと浮いている。
ゆかりさんは軽く指で触れた。
「冷たい。私にも魔法使えるのかな…」
「大丈夫使えるよ。魔法はちょっとコツがいるけど、大事なのはイメージかな」
数分後。
小さな水の塊が、目の前に現れた。
「「凄い!」」
ぼくは驚いていた。
ゆかりさんは、少し教えただけで直ぐに魔法が使えるようになった。
最初は、中々魔力を引き出すのに苦労するんだけどな。
「えへへ。やったあ!」
ゆかりさんは、笑顔で嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねている。
これじゃ直ぐに他の魔法も習得できそうだな。
まあ、魔法を習得したところで元の世界で使うところはないのだけどね。
魔法がバレたら大変だし。
余程うれしかったのか、ゆかりさんはぼくに抱きついてきた。
「えっ?ちょ…」
ゆかりさんの胸がぼくの体に密着している。
ドキドキと胸が高鳴る。
嬉しいけど、離れたほうが良いかな。
ゆかりさんが、ぼくの事を好きだと勘違いしてしまいそうだ。
しばらく待っていたが、何故かゆかりさんは離れなくてくっついたままだった。
「あの…ゆかりさん?」
「安良坂さん…私の事、好き?」
「なっ…」
「私は安良坂さんの事好きだよ。もう分かってるでしょ?」
「ゆかりさん…」
上原くんに、妹さんの事は友達で…と言われていたから…ぼくは告白を、躊躇していたんだ。
いや、告白して断られるのが怖かっただけかもしれない。
「ぼくでいいの?」
「うん」
ゆかりさんは、コックリと頷く。
「ぼくは…最初から好きだったよ。初めて会った時から」
言えなかった言葉をようやく伝えられた。
「良かった」
ぼくたちはしばらくの間、抱きしめあっていた。
「くしゅん!」
ぼくは、屋外に居る事をすっかり忘れていた。
体が震えて、少し肌寒い。
不思議と、心はぽかぽかと温かいのだけど。
「私たち恋人だね。えへへ」
嬉しそうに笑うゆかりさん。
可愛いな。
上原くんにこの事がバレたら怒られるだろうか?
友達として…って言われてたし。
考え込んでいたら、ゆかりさんに声をかけられた。
顔に出てしまっていたのかもしれない。
「お兄の事は大丈夫だよ」
「だといいけど。寒いから家の中へ入ろう」
「うん」
ぼくとゆかりさんは手を繋いで家の中に入った。
異世界の気候は春のようで、少し肌寒い。
「あれ?」
「どうしたの?」
今、家の中に誰かいたような気がする。
直ぐに気配は消えたけれど。
「ううん。何でもないよ」
余分なことを言うと、面倒だよね。
ぼくは黙っていることにした。




