夜空の約束
「思っていたより薬草採取って地味なのね。意外と大変だわ」
俺たちの手は泥だらけになっていた。
薬草を麻袋に入れて、近くの井戸で手を洗う。
手袋を用意すれば良かったな。
「そりゃそうだろう。でも楽しかったんだろ?」
「うん。とっても!ありがとね」
しおりは上機嫌だ。
彼女は鑑定魔法を使わずに、薬草を見つけ出していた。
普通に凄いと思ってしまう。
草は、どれも同じ形に見えてしまって見分けがつかないからな。
細長くて、先端がとがっている草。
ふんわりとレモンのいい香りが漂う。
気付け薬に使われる薬草らしい。
俺たちは、冒険者ギルドへ採った薬草を持って行った。
十束ほど持っていって銀貨一枚。
割と一般的な草だったようで、安い買取価格だったようだ。
「新しい事をするって楽しいのね!」
俺たちは冒険者ギルドを出て、家に向かって歩いていた。
しおりは普段より、テンションが高めで声が上ずっている。
元気そうに振舞っている様に見えた。
「しおり、もしかして無理してないか?」
俺は彼女の顔を覗き込んだ。
「そう見える?」
「いつもクールだから変に思った」
しおりは、近くにあったベンチに座った。
「あはっ、バレちゃったか。「わたし何しているんだろう」って急に不安になっちゃってね…わたしが、落ち込んでいたら貴方は心配するでしょ?」
「辛かったら無理しなくていいのに」
彼女に、変に気を遣わせてしまったようだ。
いつの間にか日が沈みかけていて、夕日が赤く染まっている。
時間は穏やかに流れていく。
俺はしおりの隣に座った。
「赤い太陽はこの世界でも同じなのね…」
夕日でしおりの横顔が赤く染まる。
「夜の月も同じだったかな?…そういえば俺、最初にしおりと夜空を飛んだんだっけ。元の世界の事だけど」
俺は、しおりと出会った頃を思い出していた。
遠い昔の出来事のような気がするが、まだ数ヶ月前の事だ。
出会ってすぐの頃。
「夜、空を飛ぶのが好きらしくて、しおりに年中誘われたな。よく夜に出かけるので、妹にも文句を言われてな」
「へえー。そうなんだ。そんな事があったのね。
わたし、夜空飛んでみたいわ。きっと気持ち良いのでしょうね。ゆう、是非お願いしても良いかしら」
少しは元気になったみたいで、彼女の瞳がキラキラ輝いていた。
急に覗き込まれて、ドキリとする。
「今日は元の世界に帰った方が良いな。しおりの母親も心配しているだろうし。
近いうちに一緒に夜空を飛ぶか」
「うん!」
俺たちはまた夜空を飛ぶ約束をした。
*
空を見上げると青空が広がっていて、鳥が校舎の上でクルクル旋回していた。
「彼女、まだ記憶が戻らないのかい?」
昼休み俺は、学校の屋上でのんびり寝転がっていた。
安良坂が話しかけてくる。
「ああ…」
こればかりはどうしようもない。
俺は空を眺めた。
「どうしようもないんだ」
「辛くない?」
「嫌われていないから、まだ大丈夫」
「嫌われてって、何かしたの?」
俺は顔をそむけた。
抱きついたり、キスしようとしたり。
よく考えたら色々アウトなんじゃないか。
「上原くん、したんだ…全くしょうがないなぁ」
「し、仕方ないだろ。俺は彼女が好きなんだから。気持ちが抑えきれなかったんだよ」
約束してから、一週間が経っていた。
そろそろ一緒に夜空を飛んでも良いか。
俺はしおりと二人きりで夜空を飛ぶつもりでいた。
「夜空を飛ぶんだって?黒田さんから聞いたよ。二人きりで何をするかなぁ」
「何もしないぞ」
前と同じことをすれば記憶が戻るかもしれない。
俺は、一縷の望みをかけていた。
「記憶が戻るかもしれないし、戻らないかもしれない」
ただ、彼女が楽しみにしているから望みを叶えてあげたいのだ。
笑顔でいてほしいから。
「安良坂、まさか付いてくるつもりか?」
「流石に夜、二人きりじゃ危ないでしょ?」
「頼むからほっといてくれよ」
二人きりのデートを邪魔しないでほしい。




