一緒に登校
*** 黒田しおり視点
パタン、カチャ。
朝、家のドアを閉めて鍵をかける。
母は夜勤から帰ってきて部屋で寝ていた。
昼間寝て、起きてくるのは夕方近く。
わたしが学校から帰ると、出勤していて丁度入れ違いになる。
一軒家に二人で住んでいるけど、顔を合わせることがなくてほとんど一人だ。
寂しいなんて感情とっくに忘れてしまっていた。
来週は昼間の仕事らしいから、顔を合わせられるだろうか?
「おはよう」
唐突に声がした。
振り向くと家の前に上原くんが立っていた。
「上原くん。おはよう、どうしたの?」
わたしは突然現れた彼に驚いていた。
心臓がドキドキしてる。
「そんなに驚かなくても…えっと、何だか嫌な予感がしてさ。一緒に登校しないか?気の所為だと良いのだけど。安良坂が、鞄を取られてから妙に気になっていて…」
「彼、怪我したらしいわね。大丈夫なの?」
「怪我はポーションで治したし、今は家でのんびりしてるんじゃないかな」
「ポーション持ってたんだ…」
「アイテムボックスが使えるから、異世界の物をいくつか仕舞ってあるよ」
ポーションなんて使ったところを見られたら、大騒ぎになりそうだけど、上手く見つからずに使ったのだろう。
私は上原君の制服の裾を掴んだ。
「黒田さん?」
「せっかく一緒に登校するんだったら…手を繋ぎたいかな…なーんてね。やっぱゴメン今の無しで」
思わず言っちゃった。
顔が熱くなってきちゃったわ。
「うん?いいけど」
彼が右手をスッと差し出してきた。
「あ、ありがと」
嬉しい!
今のわたし顔が変じゃないかしら。
嬉しすぎてニマニマ笑ってると思う。
「へへー。わたしたち、カップルに見えたりしてね」
「か、カップル?」
上原くんが動揺して顔が真っ赤になっているわ。
思っていたよりも純朴なのかしら。
「今まで彼女くらい居たでしょ?」
「いや…俺モテたことないから」
「そんな事ないと思うのだけど?」
「く、黒田さんこそ、彼氏とかいるんじゃないのか」
「いないわよ。好きな人はいるけどね」
「そうなのか?黒田さんは美人だから意外…だな」
えっ?上原くんわたしの事、そんな風に思ってくれていたんだ。
「あ、ほら、早く行かないと学校遅刻しちゃうわ!急ぎましょ?」
わたしは彼の横顔をチラっと見つめていた。
***
「この鞄…どうしようか」
オレは公園で、学生から鞄を盗んでしまった。
念のため持ち物を見たかっただけなんだけど。
彼の記憶の中にオレの記憶はない。
キレイに消えているはずだ。
記憶消去能力、数分程度の記憶しか消せなくてあまり使えない能力だけど。
超能力というやつだろうか?
読心術と、魔法の力が認識できる。
相手が魔法を使わないと感知できないのが難点だけど。
「とりあえず学校の近くに置いておくか。学生だろうし」
誰かが見つけて彼に届けてくれるかもしれない。
魔法を使える人は他にも居るらしい。
時間がかかりそうだけど、一人一人あたるしかない。
異世界では、怪我を治す魔法薬など不思議な物があるらしい。
彼女の病気を治すには「エリクサー」頼みだ。
異世界から戻ってきた人なら、持っていても不思議ではないと思う。
とはいっても、そんな薬あるのか疑わしいのだけど。
因みに回復ポーションは実際にあるらしい。(主に怪我を治す薬らしいけど)
膠原病という難病。
現代の科学では治せないと言われている。
病状を遅らせる事しか出来ないらしい。
まだ、18歳なのに。
どのくらいまで生きられるのだろうか。
「お見舞い行かないと」
オレの幼馴染の少女。
見舞いに行く事しか出来ない。
*
「礼くん。今日も来てくれたんだ」
ピンク色のパジャマ姿で笑顔を見せる陽菜。
幼馴染の羽鳥陽菜は地元の総合病院に入院している。
何もない真っ白な病室。
同室には他に三人の患者が入院している。
病院は辛気臭くて昔から大嫌いだった。
色白の肌が、益々白くなっている気がする。
普段着がパジャマ姿なのも慣れてしまっていた。
「お家の方は大丈夫なの?」
「家はもう関係ないよ。と言うか帰りたくないし」
オレの家は神之内組、いわゆる暴力団組織だ。
子供の頃はよく分からなかったのだが、今は正直離れたい。
長男だからか次の跡継ぎとして思われているらしく。
若い頃はやんちゃもしたけどな。
今は実家を離れて、普通の会社で働きながら一人暮らしをしている。
「そっか。無理しないでね」
「それ、逆にオレのセリフだから。病気を治してまた一緒に出掛けような」
ささやかな夢。
元気な陽菜とデートしたい。
今は外出する事すら出来ない。
病原菌への抵抗力が極端に落ちてしまっていて、風邪を引いただけでも重症化するらしい。
病院から出る事も出来ないのだ。
「また来るよ」
「うん。いつもありがとね」
弱々しく微笑む彼女。
オレは短時間で部屋を退出する。
長時間いると彼女の体力が持たないのだ。
「早いとこ見つけないとな」
オレは廊下で一人呟いた。
ここまで読んで頂き有難うございます。
下の☆☆☆☆☆から作品の応援お願いいたします。
面白かったら☆5つ、つまらなかったら☆1つ正直な感想で構いません。
ブックマークもいただけると嬉しいです。




