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おとぎ話のむだ話  作者: 高野聖泉
桃にまつわるエトセトラ
4/12

控訴します!

「『しかし、流れてくる桃は多く、お婆さんはどれを持ち帰れば良いのか迷ってしまったので、「甘い桃はこっちゃ来い、苦い桃はあっちゃ行け」と言うと、大きくて美味しそうな桃がお婆さんに寄ってきました。』」


「待った!」


「橋里、今更なのだけれども、あまりその台詞を多用しないでくれるかしら。何だか、裁判を逆転させるのが趣味なやたら指を突きつけてくる弁護士と法廷で対峙している気分になるから」


「ん?」


「何でもないわ。で、分かっているつもりだけれど、何が不満かしら」


「よって来ない!」


「端折り過ぎよ。でも、ま、確かに声をかけて美味しい桃が寄って来るなんて、奇妙な話ではあるわね」


「超能力じゃね!?」


「或いは寄って来た桃の方に超常の力があったか、だけれど。ま、桃の中に子供を宿していたことからみると、後者の方が説得力があるわね」


「でもなー、リアリティーがないよなー」


「貴方、本当にリアリティーが好きね。意味も虚覚えなのに」


「どうしよっか?」


「超能力を登場させたくないのならば、ここはお婆さんの選定眼が優れていて、それをもって甘そうな桃を見極めた、ということにするのが妥当じゃないかしら」


「せんてーガンって?」


「多分、貴方の考えているようなピストルの類じゃないわ。物の良し悪しを見極める力、と、言ったところかしらね」


「おおっ、なんかよくわかんねえけどカッケー!」


「貴方の感性は小学校二年生ね。じゃ、このお婆さんがそんな選定眼を持っている理由は、物語に無理が出ないように私が後付けしておくわ」


「やっぱりよくわかんねえけどよろしく!」


「ええ。じゃ、続けるわよ」


「ああ!」


「『お婆さんはその桃を抱えて家へと帰りました。しばらくすると薪を背負ったお爺さんも帰って来たので、さっそくお婆さんは持ち帰った桃をまな板にのせて切ろうとしました。すると、突然桃が割れ、中から可愛らしい男の子が出てきたので、二人はびっくりしてしまいました。』」


「異議あり!」


「ああ、最近格闘技も身につけてアメリカの英雄達と闘う例の弁護士に、さっきよりもむしろ近付いてしまったわ」


「ん?」


「何でもないわ。で、因みに、『桃を切ったら中にいる桃太郎まで真っ二つではないか』という貴方が先程言った懸念を解消する為に、切る前に桃が自然と割れるパターンを採用してみたのだけれど、それを踏まえてなお不満があるのかしら」


「ある!」


「そ。ま、例の如くある程度予想出来ているのだけれども、何が不満なのかしら」


「おじいさんとおばあさんだけじゃなくて桃太郎も絶対おどろいただろ!」


「おおっと、完全に予想外の返答に、お爺さんお婆さん桃太郎だけじゃく私も驚いた」


「じゃあ俺も!」


「別に乗っかって来なくていいから。いや、それにしても、たったこれだけの会話で他人を、それも貴方のような愉快脳の持ち主の思考を予測出来るように振る舞ってしまった私は、なんて愚かだったのかしら。傲慢であったことを素直に認めるしかないわね」


「反省しろよ」


「黙りなさい」


「はい!」


「でもまさか、吃驚したのは何も老夫婦に限った話ではない、なんていう指摘が来るとは思ってもみなかったわ。私はてっきり、『桃から子供が出て来るのはおかしい』という桃太郎の物語の根本的な部分に対して不満を表すと思って身構えていたから」


「あ、そう言えば桃から子どもはうまれないじゃん!」


「ああ、私はなんて浅はかなのかしら。今のは完全に私の墓穴、藪蛇だわ。いやでも、桃太郎という物語に苦言を呈そうとしている人間が、まさか、桃から子供が産まれたことに対してノーマークだなんて、誰が予想出来たというのかしら。いや、誰にも出来はしないわ」


「あれ、どしたの?アリカさん」


「何でもないわ。糾弾と弁護と反省を独りでこなしただけよ。もう自分の中で一区切りついたから、貴方は気にしないで頂戴」


「わかった!」


「で、橋里、一応改めて確認するのだけれど、驚いた人数云々を除外して、何が不満なのかしら」


「桃から赤ちゃんがうまれるのは変だろ!」


「ま、そうね。で、貴方はどうしたいのかしら。と、言ったところで、桃から子供が産まれなかったとするならば、もう選択肢は一つしかないのだけれど」


「んーと、川で桃といっしょに拾ったとか」


「本当に貴方は私の想定を易々と超越するわね。そして、だとするならば、お婆さんは桃なんかにかまけていないで、拾った子供にもう少し興味を向けてあげるべきじゃないかしら」


「きっとよっぽど桃が好きだったんだろうな」


「桃のついでに拾われたその子供もいい迷惑よ。で、橋里、本当にそれでいいのかしら。それでは最早桃太郎ではないのだけれども。色々な意味で」


「じゃあどうすればいっかな?」


「一応、私が想定していたのは、先ほど少し触れたのだけれど、桃を食べて若返った老夫婦の間に子供が出来た、というパターンね」


「桃で人は若返らない」


「突然真面目な顔で世界の真理を述べる学者のように言わないでくれるかしら。貴方の言うことは尤もなのだけれど、ただ、桃から子供を登場させたくないのなら、必然的にこのパターンを採用することになるわよ」


「それでも人は若返らない」


「女子中学生に痴漢と間違われてしまった青年がその濡れ衣を晴らそうと奔走する映画のタイトル風に言うのもやめなさい。でも、そうね。確かに、貴方の言うリアリティーでなくとも、常識的に考えて、桃を食べて若返るのは、やはりおかしな話だわ」


「じゃあ、もういっそのこと、おじいさんもおばあさんも若返んなかったけど、子どもはできたってことにすればいんじゃね?」


「無自覚だろうとは思うのだけれども、貴方、今日一番の残酷を口にしたわよ」


「え、なんで?」


「童話に老年出産の苦労なんて重苦しい話を載せるものじゃない、という話よ」


「よくわからんけど、とりあえずこれで解決だな!」


「聞きなさい。ああ、無自覚な悪意ほど恐ろしいものはないわね。今日嫌という程に思い知ったわ」


「続きたのむ!」


 映画「それでもボクはやってない」は名作です。


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