第1話 深夜二時に駅前のコンビニでサンタクロースを見た
「おお、レアキャラはっけん」
私の前に酔っ払いが来て、にへらにへらと表情筋を緩ませて右手を振った。足元は覚束なく、いや、この酔っ払い、歩き方のバランスがおかしいし、右足が裸足だ。十二月も終わりそうなこの時期に地面に直に足つけて歩いてたのか?
そう考えると逆に膝下まであるコートをしっかり着込んでいるのが不思議に思えてきた。
「ゲッ」
「今ゲッて言った?」
「そうすね、言いました」
ごまかしても仕方ないので私は認める。先輩はいつもピンと姿勢良く立っているのでわかる背の高さを隠すように腰を曲げている。
「なんでそんなこと言うの」
「知り合いに見られたくなかったんで」
「え~いいじゃんかわいいよ~」
「そうすか」
「私が褒めてるんだから喜んで~」
「私がかわいいかどうかは私が決めるんで、大丈夫す」
「自分もってる感じでいいね~」
「そう言われるの込みで嫌なんすよね」
「わかったよ。私は君をかわいいと思った。個人の感想です」
「それならいいす」
「そんでなにしてんの」
先輩が私の頬に顔を近づける。
私は背が低いので、傾いた先輩でも上から被さるようになっている。
「見てわかんないすか、バイトっすよ」
「そうじゃなくて、なんで今日なの~」
「時給いいんで」
「そっか~」
「先輩こそどうしたんすか、こんな時間に」
「飲み~」
それはわかる。メチャクチャ酒臭いし。
「デートじゃなかったんすか」
「それは終わった」
クリスマスイブのデートが終電後に終わりとかあるんだ。
「それでどうしたんすか」
「なんかムカついたから打ち切ってきた」
「そうすか」
「どこがムカついたとか聞かないの?」
「興味ないす」
「さとり世代だ」
「二歳差に世代間ギャップとかあるんすか。それとも理由を言いたいんすか?」
「別に~」
「さとり世代っすね」
「うん」
ゆらゆらしながら彼女は私の横に置かれていたパイプイスに腰を掛けた。
「私の休憩用のイスなんすけど」
「今休憩中?」
「勤務中す」
「じゃあいいじゃん」
「よくはないし、店長に見つかったら怒られるす」
「ちょっとだけ」
「怒られたら酔っ払いの知らない人にするす」
「それでいいよ。でもえらいね」
「なんすか?」
「イブにバイトなんて」
「お金があるに越したことないんで」
「それがえらいって言うんだよ、学生なんだから適当に遊ぼうよ」
「うち、貧乏なんで。弟が二人いるし、奨学金もマックスで借りてるんでお金ほしいんすよね。実家帰るだけで結構飛ぶんで」
「北海道だっけ?」
「そうす。先輩はここ地元すよね」
「うん一応ね~」
「一応?」
「親いないから、実家ないし」
「あ……」
「まあ、私は親の残したお金とかあるからね。ふらふらとしているってわけ」
「そうすか。知らなかったす」
「不幸自慢でご飯食べれるわけでもないしね」
先輩はイスに座ったまま、頬杖をついて正面を向いていた。なんか気まずいな。
「ねえ」
先輩がこちらを見上げた。イスに座っていればさすがに私より低い位置に顔がある。先輩、悔しいけど顔はいいんだよな。それに独特な会話のペースで男女関係なくたらし込むのがうまい、私を含めて。
「なんすか」
「サンタクロースっていつまで信じてた?」
「幼稚園まですかね」
「早熟」
「割と早い段階で親のネタばらしあったんで。ほしいおもちゃが買えなかったからって。先輩は?」
「私はね、まだ信じてるんだ」
「はい?」
「サンタクロースは、存在する」
ゆっくりと、私を真剣な目で、だめだこれ目が据わっちゃってるわ。適当にいなしておこう。
「あれすか、サンタクロース協会的なやつの話すか?」
「違うよ、サンタクロースは、現象として確かに存在している」
「なんすかそれ」
「サンタクロースがいてほしいという子供たちの気持ち、それを叶えてあげようという大人たちの気持ち、それらがあり、実際にプレゼントの移動が行われている。だから、サンタクロースは、その現象としては存在している」
「わけわかんないすね」
正直に私が言うと、先輩はハハハと笑った。
「そう、わけがわかんないの、でもそう考えると、一番通りがいい。人間の心と同じだよ。あるとみなせば、それで合理的な説明ができれば、それは存在すると言える。それとも、人間に心なんてないっていう立場?」
「そうは言ってないすけど」
「うん、よろしい」
また沈黙。
「サンタクロースは何を対価にプレゼントを引き出していると思う?」
「親の金じゃないすか?」
「それはそうなんだけど、いい子にしていたからってプレゼントがもらえるのっておかしくない?」
「おかしくないすけど」
「いいや、おかしい、等価交換の原則が成り立っていない」
「ゲームかアニメの話すか? それとも贈与論の話すか?」
「私に親がいないって言ったじゃん」
「はい」
「二人ともろくでもなくてさ、縛り付けてばっかりでさ、大学行くこと自体反対でさ、私はいっそのこといなくなっちゃえって思っていたんだよね」
「……はい」
「そしたらさ、クリスマスイブに事故って死んじゃったの」
「え……」
「それで、私は一人きりになって、保険金も入って、大学にも行けるようになった。これってクリスマスプレゼントじゃない?」
「それは……」
「これって、私が『いい子』だったからかな、それとも『悪い子』だったからかな」
「ええと」
「くだらない話しちゃったね、酔っ払いの言うことだよ、忘れて」
無理でしょ。
「バイト何時まで?」
「……六時す」
「あと四時間か、じゃあいったん家で軽く寝てくる」
「戻ってくる気すか?」
「そのケーキ、一個残しておいてよ」
先輩は立ち上がって本来の身長で私を見下ろし机の半額クリスマスケーキを指す。
「一緒にクリスマスパーティしよう。私の家近所だから」
「……いいすよ」
先輩が私の頭をポンポンと叩く。
「そのサンタコスのままでね」
「それは絶対に嫌す」




