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偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜  作者: 夏野みず


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4/12

社会的な抹殺の準備

 ユリエの母親に接触した後、私とユリエの関係は表面上、何事もなかったかのように平穏になった。私に会う時、ユリエの顔にはいつも以上の笑顔が張り付いていたが、その目の奥に恐怖の色が宿っているのを、私は見逃さなかった。彼女は、私の脅しを受け入れたのだ。


 ユースケは、相変わらず遅く帰ってくる。しかし、ユリエの母親に脅しをかけた後、彼のスマホの通知は明らかに減っていた。彼ら二人の間には、緊張が走っているに違いない。復讐は、順調に進んでいる。


 私の次のターゲットは、ユースケだ。彼には、人生の全てを失ってもらう。


 彼が建築現場で働く鳶職人であることは知っている。彼の会社は、地域密着型で、小さな工務店の下請けを主に行っていた。その会社の信頼こそが、ユースケという労働者の価値そのものだ。


 私は、彼の作業着から抜き取ったボイスレコーダーのデータを、慎重に編集した。二人が密会し、私への不満や、将来の計画を語り合う部分。特に、ユースケが「アイナには悪いけど」と情け容赦なく私を切り捨てる音声は、何度も繰り返し聞いた。この憎しみが、私の原動力だ。


 この音声データに加え、ユリエとのLINEのスクリーンショット。そして、彼が残業を偽り、仕事中に密会していたという事実を裏付ける、彼のシフト表や現場の記録を、匿名で彼の会社の上層部に送りつける。


 まず、私はユースケの会社のホームページから、代表取締役の氏名と、会社の住所を調べた。


 私は、一切の感情を込めず、一通の手紙を書いた。


『貴社の社員であるユースケ氏の、就業時間中の著しい職務怠慢、及び不適切な行動について、証拠を添えてご報告いたします』


 手紙には、彼が顧客の個人情報にアクセスできる職務にありながら、その立場を私的な不倫のために利用していた可能性についても、匂わせる文章を加えた。彼は鳶職人だが、現場の工程管理や、業者とのやり取りで、一部の機密情報に触れることはあるはずだ。不倫そのものよりも、会社の信用を失墜させる「職務怠慢」として、問題を大きくする。


 私は、この手紙と証拠データを、USBメモリに保存した。そして、彼にバレないよう、自宅から遠く離れたポストから、会社の代表取締役宛に、内容証明郵便で発送した。


 これで、ユースケの社会的な地位は、数日のうちに崩壊するだろう。


 次に、私の人生の再構築、つまり離婚の準備だ。


 私は、このアパートを出ていくための資金を計算した。私と彼が結婚してから、私のパート代もすべて貯金に回し、生活費を切り詰めてきた。そのおかげで、わずかだが貯金はあった。


 私は、地元の無料法律相談所を訪ね、弁護士と面談した。


「慰謝料の請求については、証拠がこれだけ揃っていれば、問題なく進められます。ただし、ユースケさんが素直に支払いに応じるかどうかですね」


 弁護士は、私の用意した証拠一式を見て、感心したように言った。


「彼には、職場を失ってもらうつもりです」


 私が淡々と言うと、弁護士は少し目を見開いたが、すぐに表情を戻した。


「それは、当事者間の問題ですので。ですが、収入源を失えば、分割での支払いになる可能性が高いです」


 私は構わないと思った。彼が一生、私に対する負債を背負い続けることが、私にとって最大の慰謝料だ。


「離婚届は、私の方で用意し、記入しておきます。あとは、彼にサインさせるだけです」


 弁護士は、私の決意の固さに、何も言わなかった。


 アパートに帰ると、ユースケはまだ帰宅していなかった。私は、離婚届を取り出し、自分の名前を書き入れた。手が震えることもなく、冷静に。この紙切れ一枚で、私の人生は、あの人から切り離されるのだ。


 その夜、ユースケはいつもより早い時間、九時に帰ってきた。


「ただいま。今日は早く終わったんだ」


 彼の顔は、なぜか不安げだった。


「あら、珍しいわね」


 私は、彼の目の前で、コーヒーを淹れた。いつも通り、何も知らない妻を演じながら。


「なんだか、会社で変な噂が流れてるみたいなんだ」


 彼が、ぼそりと言った。


「何かしら」


「いや、何か知らないけど、上層部が、社員のプライベートな問題で、ガタガタ騒いでるみたいでさ。何か、不祥事でもあったのかね」


 私は、淹れたてのコーヒーを、彼の前に置いた。


「さあ。私には関係ない話だわ」


 そう。もう、あなたと、あなたの問題は、この私には関係のないことよ。


 私は、心の中で微笑んだ。私の仕掛けた爆弾が、もうすぐ彼の中で炸裂する。


「おやすみ、ユースケ」


 私は、冷たいキスを彼の頬に残し、ベッドに入った。夫は、コーヒーカップを手に、一人、リビングで所在なげに座っていた。


 断罪の時は、近い。彼は、まだ何も知らない。私の手のひらの上で、踊っていることさえも。

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