マリア・フォン・ゴルディナー大勝利! 希望の未来へレディー・ゴー!!! 12
『ふ、ふふふふふ……』
「あら、何がおかしいんですの?」
右腕が落下した始硬・合一剣からは、未だに金属が軋む音が聞こえている。このまま他の部位もほどなく自壊を始めるだろう。
『この手は使いたくなかったが、致し方ない。悪魔を滅ぼすためには、犠牲が必要ということなのだ。大いなる犠牲が……』
何をする気か知らんが!
守護薔薇を飛行形態に変形させる。先ほどなぶり殺すと言ったな? あれは嘘だ。
即座に主砲の発射トリガーを引き、
「おくたばりあそばせ!!」
ビームが、発射されなかった。
「は?」
どうなってやがる!? 飛翔魔爪を一本失ったことで雌型マリウス・ジェネレーターも一つ減ったが、それでも主砲が発射できないほどの出力低下ではないはずだ。
直後に、身体を浮遊感が襲った。
《報告:高度低下。全マリウス・ジェネレーターの機能停止を確認》
な……!
『死ねぇ、悪魔ぁー!!!』
機体高度を維持できない中、始硬・合一剣の胸部から放たれたビームが、落下中の機体に当たった。直撃ではない。だが、無事だった飛翔魔爪、3本のうち2本が破壊された。
地上へと降下する僅かな時間、俺が空から見たものはいくつかある。
味方に合流するために俺たちから離れていた不知恐怖は、低空飛行中に浮力を失い、慣性のまま地上を削りながら墜落していた。
零式獅子、地上にいた剣撃と砲撃はそのままの体勢で動かない。
ル・ペイジヴォントの城壁に囲まれた王都は、点灯していた多数の光が次々と消えていき、夜闇に消えていった。
始硬剣・束だけは、高度が下がりこそすれ、未だ空に留まっている。
そして、守護薔薇は地上に墜落し、凄まじい衝撃が俺の身体を襲った。
―――な、何が起こったんですの!?
何がもクソもねえ! 状況から見て一つだけだ!
どうやってかは分からねえがあの野郎、周りのマリウス・ジェネレーターを強制停止させやがった!!
しかもこちらのジェネレーターが停止した後に奴は攻撃してきた。つまり、始硬・合一剣はマリウス・ジェネレーター以外の動力源か、もしくは遠隔強制停止されないタイプのマリウス・ジェネレーターを搭載しているってことだ。
最初から使わなかった理由は、おそらく、停止させたマリウス・ジェネレーターは再稼働が出来ないせいだろう。街中の光も消えていたので、停止対象の個別指定も出来ない、広範囲に影響を与えるもののようだ。
《感想:ところでマスター、ご存知ですか? 1557年、つまり今から6年後。史実において、スペインとフランスは破産しているんですよ》
よりにもよって今言うことがそれ!?
『ふ、ふふふ……。やはり貴様らが悪魔である事が証明された。ロンゴミニアドの王女よ! 貴様の機体が未だに動いていることがその動かぬ証拠!!』
《感想:ナスラー枢機卿の機体も動いているんですけれど、どうしてこの手の人間は自分だけは例外扱いするんでしょうね?》
後にしろぉー!!!
『うわっ、ちょっ! どうするんスかこれ! ウチの銃じゃあのキラキラ抜けないっスよ!!』
上空では、ビームライフルを撃ちながら始硬・合一剣を牽制する始硬剣・束の姿があった。機体が限界を迎えようとしていても、プラズマ・スキンの守りは頑強だ。始硬剣自体はビーム兵器主体の機体として設計されていることもあり、リアの持つ武装では対抗手段がない。
おっしゃバイパス繋がったぁ! 強制起動ー!!
「わたくしを、お使いなさいましー!!!」
地上に墜落していた守護薔薇が再び宙に浮かび、始硬剣・束の元へと飛んだ。
『馬鹿な! 何故まだ動ける!? 貴様の機体の心核も殺したはず!!』
「んなもん、別の動力を積んでいるからに決まっているじゃありませんの!!」
当然である。もし本体に動力がない状態で飛翔魔爪を全部射出して、その全部が破壊されたら墜落するしかないじゃねーか。まぁマリウス・ジェネレーターはサイズや形状の加工も出来ないので、本体側に搭載することが難しかった。そこでリアが作った動力を搭載したという訳だ。
ちなみにこの動力源、実は名前が無い。マリウス教ではマリウス・ジェネレーターに代わる動力の開発は大罪なのは以前にも言った通りだが、名前を付けていなければ存在しないものとして高飛びする時間稼ぎ出来るかもというせせこましい事情による。
まぁメタ的なことを言えば、原作ゲームで動力源の設定がないせいなんだけどね。
『だが、その機体の砲は使えまい!』
よく見てらっしゃる。だけどなぁ、別に守護薔薇がEN不足でも使えない訳じゃないんだよ!!
飛行中にパーツの一部をパージする。具体的には胴体の背面部とサイドスカート。胴体背面から隠されていたトリガーとグリップが展開し、割れたサイドスカートの中からはエネルギーチューブが解放された。始硬剣・束がビームライフルを投げ捨ててチューブを掴み、自機の腰に接続する。
『な……! 何故そのような機能が!!』
「合体攻撃用の機能を用意しておくのは、設計者兼操縦者の嗜みですわぁー!!!」
始硬剣・束がグリップを握り、サイドスカートを取り付けていた部分をフォアグリップ代わりに保持した。
モニターに映るのは壊れかけの始硬・合一剣。懲りずにプラズマ・スキンを展開したまま、胸部の星状のパーツを起こし銃砲を成形していた。そこへと照準が近付いていく。
が、次の瞬間、凄まじい勢いで始硬・合一剣がモニターの外へと消えていった。敵機が高速で移動したわけではない。これは、
「ちょっとアリス、リア! ズレていきますわよ!?」
『天竺葵のジェネレーターもやられてるんです! 電気もそっちに送ってるから、こっちは飛ぶだけで精一杯ですよ!』
『しょうがないっス! センパイが重過ぎるんスよ!!』
「ちょっと、訂正なさいまし! 重いのはわたくしではなくて守護薔薇の方ですわよ!!」
地上に降りる? いや、無理だ。そんなことをしている間に敵に攻撃されるだろう。
とりあえず、取り付けたままだった飛翔魔爪を全て外した。どうせ残していたとしても、主砲へのチャージが終わらない限り使い物にならない。うち1本は完全に破壊されていて、2本はどちらも半分も残っていない。無事な1本と合わせて大体2本分。3割くらいは軽くなるはずだ。ワイヤーにつながったままの飛翔魔爪が地上へと落下していく。
モニターに再び始硬・合一剣の姿が映った。が、照準は細かく震え、定まるには至らない。
《報告:主砲、エネルギーチャージ完了を確認》
始硬・合一剣の胸部に赤い光が集まっていく。
『ぎょわー! 早くするっス早く撃つっス早く早く早くゥー!』
「アリスゥー!!」
『こんのぉー! 根性いれろぉー!!!』
《報告:照準、ロック》
『撃つっスー!!』
『消えよ、悪魔どもぉーーー!!!』
お互いの主砲の発射寸前、地に落ちた飛翔魔爪が起き上がり、ビームを始硬・合一剣に向けて発射した。主砲のチャージが終わったので、こちらも使えるようになったのだ。だが、狙いは敵機ではない。飛翔魔爪のビームでは、プラズマ・スキンは貫けないことは分かっている。
放たれたビームは、始硬・合一剣の左足が踏みしめる地面へと吸い込まれ、
「発射ァーーー!!!」
右腕を失い、左側に偏った重心。左足の下に突如として生まれた空間。合一剣の主砲は僅かに狙いが逸れ、始硬剣・束の頭部だけを溶かし、
『ぐっ、おおおおおおお!?』
俺たちの合体攻撃は、始硬・合一剣に直撃した。
『耐えよ使徒よ! 悪魔を滅ぼすため! 悪竜の国を滅するため! 我はこのような場所で朽ちる訳にはいかんのだ!!』
「しつっこいんですわよぉー!!!」
最後の飛翔魔爪が、飛んだ。プラズマを纏った物質同士は、プラズマによる防護では防げない。そしてプラズマは、ビームを弾く性質を持つ。
故に、飛翔魔爪は何の抵抗も受けることなく始硬・合一剣の正面、絶賛発射中の主砲へと深々と突き刺さり、
『馬鹿な、こんな……っ! ひ、光が、光が逆流して……!? ギャアアアアアアアッ!!』
俺たちや地上にいる2機の騎乗士を吹き飛ばすほどの、大爆発を巻き起こした。
●
4ヶ月が過ぎた。
今だから言えるが、一番命の危険を感じたのは一番最後の大爆発だったと正直思う。報告によるとあの爆発で、ル・ペイジヴォント王都の約3割が消失したらしい。よく生きてたな俺ら。いやホントに。
ル・ペイジヴォントは、結局放置することになった。というのも、ル・ペイジヴォント全土の都市型ジェネレーターが全て停止してしまったせいだ。支配する旨みがないどころか、再建するのにリントヴルムの国庫が溶けてしまう。
そういや、ドライコインが何か言ってたな。史実では数年後にフランス……ル・ペイジヴォントの元ネタになった国が破産するって。この世界もそこら辺をなぞってるんかね?
あの大爆発の後だが、後方に残していた部隊に無事回収された。幸運にも、そこまではマリウス・ジェネレーターの強制停止効果は届かなかったらしい。
そうそう、傲慢雪鷺や騎士団旗艦は墜落してしまったが、乗員は無事だ。軍艦には万が一ジェネレーターが異常停止した場合に備えて、巨大な蓄電器を搭載している。というか構成材の一部が蓄電器になっている。緊急時にはその電力を使って不時着出来るのだ。
あの蓄電器、もっと性能が良ければ人型ロボットに乗せて動力源に使えるんだが……。そうすればジェネレーターの強制停止なんて食らっても屁でもなかったんだけど、まぁ、ないものねだりだな……。次は超高性能バッテリーの研究を優先するかなー。
そんなことをアリスやリアと話しながら、機体の修理をしつつ守護薔薇の改善点を洗い出しつつ、なんてことをしていたら、あっという間に4ヶ月が経過した。
●
俺たちは今、学生服ではなく、さりとて作業着でもない。鮮やかなドレスを見に纏っている。8月末の戦いから約4ヶ月。つまり今日は12月24日のクリスマスイヴであり、終業式のパーティであり、マリア・フォン・ゴルディナーにおけるターニングポイント。
覚えているだろうか。『騎乗士の胸に抱きしめて』において、2年生のクリスマスイブとは、マリア・フォン・ゴルディナーが、婚約者リギア・リントヴルムに婚約破棄されて、国外追放と言う破滅を迎える日だ。
ふ、ふふふ……! 勝ったっ! 俺は運命に打ち勝った!! リギアとは既に婚約式を執り行い、アリスをキャバリエとして仲間に引き入れ、そして俺はグリプスやル・ペイジヴォントとの戦争における英雄的存在! この状況からの婚約破棄で国外追放はありえんやろ~~~。
リギアやアリスと共にパーティ会場を抜け出して、バルコニーでワイングラスを傾けながらそう思う。これは勝利の美酒だ。中身はぶどうジュースだけど。原作ゲームが日本で発売した一般向け作品なので、コンプライアンス的理由でこの国でも20歳未満はアルコールが飲めないのだ。
史実のヨーロッパだと未成年でも酒をガブガブ飲んでたはずだけど、こんなところまで原作ゲームの設定を再現しなくてよくない? 史実通りに酒飲めるようになっててよくない???
「またマリア様が『これがぶどうジュースじゃなくてワインだったらなぁ』って顔をしてますね。そんなに美味しいものなんですか?」
「いえ、アリス。飲んだことがないので飲んでみたい。そんな理由ですわ」
「俺は飲んだことがあるが、喉や鼻に通る感じと言うか、なんで大人はあんなもんを美味そうに飲むのか分からんって味だったな」
「ジュースと違って甘くないらしいっスね。ウチは甘い方がいいっス」
そうやって4人で歓談していると、
「……マ~リ~ア~さ~ま~!」
遠くから大声で俺の名を呼びながら、こんな時でもいつもの修道服姿のニオスが駆け寄ってきた。
「どうしたんですの、ニオスさん。こんな日に、そんな風に取り乱すものではありませんわよ」
「ぜっ……、はっ……、こっ、これ……」
息も絶え絶えになりながらニオスが差し出した手紙を受け取る。封蝋印は真円と欠円の二重円。マリウス教を示す印だ。すでに封は開かれている。4人で顔を突き付けながら中身を読むと、
「……マリアとヴィネリア王女に対して、未認可動力源作成の疑いでコティン=カミィンまで出頭しろ、と書かれているな」
「これ、行ったらマズイっスよね?」
「マズいも何も行ったが最期、絶対に有罪確定の魔女裁判だと思うよ」
おっま、いつかは来るだろうと思ってたけど、よりにもよってこの日に来るとかさぁ!?
腹の底から長ーい溜め息を吐き出し、
「アリスとニオスさんは、いつもの人たちを集めてきていただけますか。リア、貴女はカヴァスの三人を呼んできてちょうだいな」
二つ返事で3人が走り去った。バルコニーには、俺とリギアだけが残される。
「……案外、落ち着いているな」
「いつかは仕掛けてくるだろうとは思っていましたから。そういうリギア様こそ、意外と落ち着いておられますわね。婚約者に魔女の疑いありと教会から正式な知らせが届いたというのに」
「なに、俺はマリウス教よりもマリアの方を信じているからな。それにお前のことだ。既に対応策は考えてるんだろう?」
「そうですわね。ですが、そのためには一つだけ、まだ必要なものが足りておりませんの」
ワイングラスを置き、リギアを正面から見る。
「リギア様。……いえ、今はこう呼びましょう。『デルタ・レムナント』、と」
デルタ。それはリギアの本来の名前。本物のリギアは既に死に、その死を隠蔽するため、当時瓜二つだったデルタを替え玉にしたことで失われた名。
「デルタ。貴方には二つの選択肢があります。一つは、地位を守り、名誉を守り、権力を守る代わりに、その名とわたくしを失うというもの。もう一つは、地位を捨て、名誉を捨て、権力をも捨てる代わりに、自由と名を取り戻し……」
そこまで言って、俺は言葉を止めた。
「いえ、違いますわね。わたくしが貴方に言いたいことは、こんなことではありませんわ」
デルタがどちらを選ぶかは、俺には予想が付く。リギアエンドを知っているからだ。だが、俺はそれらよりも、もっと優先して選んで欲しいものがあるのだ。
左手を持ち上げる。手の甲を上に、下から手を取られるのを待つように。
「……もう一度だけ、わたくしを選んでいただけますか?」
その薬指には、赤い宝石が輝いていた。
次回で最終回です




