マリア・フォン・ゴルディナー大勝利! 希望の未来へレディー・ゴー!!! 9
『……機体ごと鹵獲して、操縦者は本国に連れて帰りましょう』
『え、マジで?』
レオニスから、それもしかしなくても俺らの仕事ですよね? みたいな声色で返事が来た。
『マジもマジですわよ。このパイロットはフラウの親衛隊だった男のようですから。彼女は今や天涯孤独の身。そのことを考えると、連れ帰りたいというのが本音ですわね。』
『わ~優しい~』
『でっかい貸しを作れそうですからね』
『わ~優しい~』
わ~棒読み~。
『薬物投与で思考を誘導していたようですし、ひとまずは薬の影響を抜くことが優先ですわね。グレイモリー艦長、聞こえておられるかしら?』
『ああ、何だい? 言っとくが、ウチにそいつを置くのはカンベンだぜ。万が一ってことがあるからな。騎士団の中には陸戦歩兵が乗ってる艦があるはずだから、そっちに乗せてくれや』
『分かりましたわ。そちらもありますが、本題は薬物投与についてです。元傭兵団として各地を転戦されておられたのでしたら、これらについて聞いたことはありませんか?』
ちなみに俺は聞いたことがないし、そんな設定を作ったりもしていない。某超有名作品だと、強化人間っていうのは結構出てきたりもするのだが。
『……その話、艦に戻ってからにしようや』
このパターン、またマリウス教絡みなんだろうなぁ……。
『分かりましたわ。ではレオニス様がた、ユリウス様のことはよろしく頼みますわね』
『了解っと……。その話、後で俺らにも共有たのんますわ』
レオニスたちが『暴れんなよ、暴れんな……』『三人に勝てるわけがないですよ』などと言いながら、ライトスタッフを掴んで運んでいく。今グレイに通信をつなぐと『貴方のことが好きだったんですよ……』とささやいているかも知れない。あいつだけ嫁と二人乗りだしな。
その様子を見ていると、再び通信機から艦長の声が聞こえてきた。
『そうだ姫さま、一個言い忘れてたわ』
『あら、なんですの?』
『そのデカブツ、艦には入らねえんで甲板に載せてくれや』
傲慢雪鷺は獅子タイプの専用運用試験艦であり、獅子タイプは全高約8メートルである。対して、この守護薔薇は全高14メートル。変形したら高さは半分以下になるものの、今度は長さが人型形態の全高と大差ない。撃墜された薔薇獅子の分スペースが空くといえど、載せられるはずがないのは当然だ。
……そう言えば、薔薇獅子、壊れちまったな。
《感想:提供した2号機がどこかに保管されているはずです。色を塗り替えて利用するか、あるいはマスター用の壱式獅子を用意しないといけませんね》
そういうこと言ってんじゃないよ。もっとこう、長年戦いを共にした相棒が失われた寂寥感とかさぁ!
《感想:対話型インターフェース相手に期待し過ぎでは?》
こ、こういう時に限ってロボットAIみたいな返答しやがって……!
●
「……マリウス教だ」
傲慢雪鷺に戻り、環境に上がった俺たちに対し、艦長はそう言った。先の質問、薬物強化に関する噂についてだ。
「最近はどうなってるか知らん。俺たちも10年以上外には出てない訳だしな。いや、それ以上に昔の話になる。知ってるか? マリウス・ジェネレーターがそう呼ばれるようになったのは、結構最近の話なんだ。昔は……、確か、『マリウス・レヴ』と呼ばれていたらしい。50年か60年くらいは前のことになる。俺の爺さんから聞いた話だからな。そん時に聞いたんだが、ゴーレムを動かせないが、どうしても動かせるようにならなきゃならん連中にな、マリウス教は神の祝福ってやつを与えてやるんだそうだ。そうすると、そいつは機体を動かせるようにはなるが、神様に影響されて、頭が変になるらしい」
「神の祝福とやらが薬物投与のことだとしたら、筋は通っておりますわね」
「証拠も何もねえ噂話だぞ。それも50年以上も昔の。俺の爺さんも、その爺さんから聞いたって言ってたしな」
「蛇の道は蛇と言いますが、ニオスさんにそれとなく調べてきてもらうのは、流石に危険が過ぎますわね」
「マリア様を危険視している一派がいますし、ニオスちゃんがマリア様派だというのはもう知られているでしょう。深入りさせると処分されそうですね」
「やっぱり、アリスもそう思いまして?」
「……まぁ、これからル・ペイジヴォントの王都を制圧するんだ。その時に何かしら情報が見つかるかもしれない。これ以上のことを考えるのは、それからでいいんじゃないか?」
「リギア様の言う通りですわね」
「ところでマリア、その手に持っているものは? 手紙?」
「ええ、守護薔薇のコクピットに入れてありましたの。あれをここまで飛ばした人からのものではないかと思いますが」
読む間も無かったので、そのまま持ってきたのだ。とりあえずこの場で開封する。
「……リリーナさんの字ですわね。ええっと、何々?」
中身を読むと、俺が帰国するが、戦場に直行するかもしれないからとガンさんが予想して、死蔵していた巨大ミサイルに守護薔薇を乗せて発射する準備を進めていると書かれていた。流石だよガンさん、読み通りだ。
他には、リリーナとカタリナ、加えてターレンも息災であると書かれている。……で、ターレンって誰だっけ?
《返答:ヴュルテンベルク辺境伯の息子ですよ。あの二人が面倒を見ると一緒に連れて行った》
あー、そうだったそうだった。いたなそんなショタっ子。
それと、都市型と水陸両用型の壱式獅子用装甲の試験運用は無事に終わったことが書かれており、
「……追伸。試験運用中に、ドラゴンのような影を見たとの報告が数回ありました。……ドラゴン?」
「なんだそりゃ?」
「わたくしが聞きたいですわよ。と、もう一枚ありますわね。これは、報告書?」
ドラゴンに関する報告、それらだけを抽出したもののようだ。加えて、報告があった日に報告者、それと報告者と同道した隊員のリストも書かれている。
「目撃者は複数人。目撃のみで交戦無しに痕跡も無し。ついでにレーダーに感も無し、と。部隊の全員が見ているわけではなく、そのうちの一人、無いし二人程度。期間は複数ですが、目撃したのは都市型を試験した方に限られるようですわね」
「試験場所はネルランド領とクリスタリア領だったか。となると、コティン=カミィンとは近いな」
この二つは、俺たちの世界の地図で言うところのイタリア、その半島以外の部分に該当する。そしてコティン=カミィンは、この世界におけるイタリアの首都だ。要するにローマ。
「……マリウス教の新兵器でしょうか」
つまり、新兵器によるテコ入れ……!
「バルドル鋼は人型以外だとまともに動かなくなるぞ。わざわざ竜の形を作るのは難しいんじゃないか?」
「でもマリアセンパイと作った守護薔薇はタコ型にもなるっスよ」
「た、タコ……!? いえ、あれは決してタコ型などではないですわよ?」
確かに赤くて多数の腕があるが、決してタコ型ではない。もっと、こう、形容し辛い何かというか。
《感想:表現が悪化していませんか?》
「まぁ何でもいいじゃないっスか。要は人の形をしていなくても、動かす手段はもうあるんスよ」
「……それもそう、か。ヴィネリア王女の作った設計図が流出していることだし、マリウス教もその技術を手に入れている可能性は高い」
「こちらも詳しい話は追々にしましょうか。目撃者からの話を直接聞きたいですし、もしかしたらニオスさんが何か掴んでいるかも知れません」
「ところで姫さまよ、あの機体、守護薔薇っつったか。ありゃすげえ性能だな。次はあれを広めるつもりかい?」
甲板でひし形、つまり高速移動形態でワイヤーにより固定された機体を見ながら、艦長がそう言った。
「あ、あー……。それは、いえ、……難しいですわねぇ」
「なんだ、その歯切れの悪さ」
言葉を言い渋る俺に代わり、アリスが答えてくれた。
「実はですね、あの機体、とんでもない欠陥機なんですよ」
「欠陥機ぃ?」
「……ええ、アリスの言う通りです。守護薔薇は巨大過ぎて、そのままだと自重で自壊します」
「……言われてみりゃその通りだな。壱式獅子のデカさでギリギリって話だったか。んじゃ何かい? あそこにあるのはそのうち崩れちまうのかい?」
「いえ、あの状態でしたら、下の方にあるアームが上のアームを支えているので耐えられますわ。アームを開くと長くは持ちませんが」
「人型の時はフライハイト鋼を使って、関節部にかかる負担を減らしてるんスよ。ただ、そんな滅茶苦茶な運用、普通の人間には無理っス」
「あたしやリギア様でも無理ですねぇ。現状、まともに動かせるのはマリア様だけです」
加えてドライコインに全力でサポートして貰う必要もある。
「なるほど。そんじゃあ新しく艦を作り直す必要はなさそうで安心だな」
「継続戦闘能力にも問題を抱えていますわ。先ほどのような戦い方は、一度オーバーホールを挟まないと出来ませんわね」
後継機乗換回のボーナスブーストも無くなったしな……。
通信を受信したブザー音が聞こえた。
「だんちょぉー、騎士団から連絡ですぅー。戦後処理に艦隊の半分を置いてくんでぇー、一緒に敵王都に向かってくれってぇー」
「了解したと向こうに伝えろ。それとここでは艦長って呼べ! ……っつうわけだ。お前らは全員騎乗待機! いいな?」
●
その後、俺は不知恐怖のサブシートに座っていた。リギアの操縦によって、内蔵式カタパルトデッキから外に出る。俺を守護薔薇に運ぶためだ。地上に碇泊しているならともかく、空に浮かんだ状態で甲板を歩くのは、強風一つで艦から落下しかねない。
変形状態の守護薔薇を上から見下ろしながら、俺はリギアに話しかける。
「リギア様。先ほどは後にすると言いましたが、例のドラゴンについて、一つ気になることがありますの」
「なんだ、やはり何か心当たりがあるのか?」
「やはりって何ですの……。単に、もしかしたら兵器などではなく、本物なのではないかと思っただけですわよ」
「伝説上の生き物だぞ。……いや、建国神話のことを話しているのか」
「ええ。かつて、ローマ帝国の侵略を退けた守護竜リントヴルム。もしそれが本当のことだとしたら……」
「じゃあ、なんで今回は攻撃してこなかったんだ? 今回も前回も、縄張りに入ったのは同じだろ?」
「そもそも1000年以上も前の話なので、同じドラゴンではないのではないですか?」
「言われてみるとその通りだな。いや、だがしかし、やはり実在するか疑わしい生き物だぞ」
「まぁ、そこがネックですわよねぇ。探して回るにしても、祖国の森はどれもこれも広大ですし」
いやマジでドチャクソ広いからね、ドイツの森。樹海しかねえのかって感じ。
「……案外、海の向こうまで行って見つける方が早いかも知れませんわね」
「別の土地で見つけたって何にもならんだろ」
「あ~、ほら、鳴き声でおびき寄せるとか!」
「……警戒して出てこなくなりそうだな。住んでる場所が違うなら、鳴き声なんかも違うだろうし」
「ですわねぇ……」
不知恐怖が甲板に着艦し、コクピットハッチが開いた。
「本物かも知れないという部分も含めて、今回のことが終わってから取り組むことにしよう。気を付けて乗り込めよ」
「そうですわね。うっかり足を滑らせたら、尻もち程度ではすみませんわ」
守護薔薇に足をかけながら、小さくつぶやいた。
「いやはや全く、しばらくは休む暇がありませんわねぇ」
小さな声で言ったのだが、どうやらリギアには聞こえていたらしい。
「……物理的に隔離されない限り、お前は休みでも機械いじりしてるだろ」
いやはや、全くその通りである。




